【第十章 エルフの里】第七話 森の村
砦の門が閉まる寸前に、ヤスたちは到着した。
貰い受けた許可書では、門が閉まっていても通過はできるのだが、ヤスが特例を行使したくないと言って、アクセルを踏み込む力を強めたのだ。
「ふぅなんとか間に合ったな」
「うん。どうする?砦で休むの?」
「俺としては、砦で休むのは避けたい」
「??」
「砦の責任者が、俺に会いたいとか言っていたからな。先を急ぐ用事があると伝えているから、砦でちんたらしていたくない」
「あぁ・・・。そう言えば、守備隊の人が言っていたね」
ヤスと言うよりも、アーティファクトを欲しがっているように感じた。
特に、砦という場所柄、伝令の速度は早ければ早いほどいいのだろう。
砦と言われている場所だが、ヤスの感覚では小さな町程度の大きさはある。そのまま、国境を示すように壁が築かれている。ヤスの眷属たちなら乗り越えられそうな高さしかない壁だが、この辺りに出現する魔物には十分な効果が期待できる。多分、国境は魔物の驚異よりも、軍隊を想定しているのだろう。
砦には、国境を守る兵だけではなく、兵士の家族や兵士相手の店が出ていて賑わっている。
「リーゼも、いいのか?砦の方が休めると思うぞ?」
「ううん。僕も、砦はちょっと・・・」
リーゼは、ヤスとは違う理由で、砦の町で休むのは避けたかった。
簡単に言えば、”エルフ”という種族だと思われるのが嫌なのだ。リーゼは、自分がハーフエルフだと思っている。エルフにも人族にもなれない半端者だと考えているのだ。それだけではなく、半端者なのに見た目が完全にエルフなので、エルフ族だと思われてしまうのを気にしている。
今までは、感じたことがなかったのだが、神殿に多様な人が入ってくるようになって、リーゼを”エルフ”の姫君だと勝手に考える者も出てくる。
それだけなら良かったのだが、”バカ”はどこにでも現れる。リーゼも、神殿の中だけで過ごしているわけではない。ときには、トーアフートドルフやローンロットに出向くことがある。その時に、大商人を自称する者や貴族から強引な誘いを受けることがある。
ファーストが対処して問題にはならなかったが、リーゼがハーフエルフとわかると悪態をつく者が続いて、それからリーゼは人前に出るのが怖くなってしまった。
「俺と一緒だな。それなら、砦を抜けて、適当な場所を見つけてテントで休むか?」
「うん!今日は、僕が料理をするよ!」
「・・・。そうか、頼む」
今日の食事を、ヤスが諦めた瞬間だ。
リーゼは、料理ができると豪語していたが、実際には自分が食べる場合には問題なくできるようになってきた。
しかし、できるようになってから、なぜか一工夫を入れてしまう。この一工夫が曲者で、食べられるのだが、味が微妙な物になってしまう。
テントでの就寝も、眷属が守っている上に、マルスが監視している。その上、アーティファクトで結界を展開しているので、安全は保証されている状態だ。
砦を抜けてからは、街道を外れた場所を走り続けた。
バッケスホーフ国内でなくなったこともあるが、王国から出た途端に街道の道が悪くなった。馬車の轍があるだけなら良いが、岩が置かれていたり、不自然な水たまりが有ったり、道に罠が仕掛けられている場所さえもあった。
マルスが発見して、避けられたが、それから、マルスの提案で街道を外れて走ることになった。
幸いなことに、草原はそれほど悪路ではなかった。標準装備のFITでも十分に走ることが出来た。速度は落とす必要があったが、街道を行くよりもショートカットができるようにマルスがナビを行った。
5日後に、予定よりも1日半ほど遅れたが、ヤスとリーゼは、エルフの里に繋がる”森の村”が見える位置まで到達できた。
「リーゼ?」
「ヤス・・・。僕・・・」
「拒否されたら、帰ればいい。リーゼは、リーゼだ」
「うん。ありがとう」
FITを降りて、モンキーに乗り換える。FITは、マルスが偽装を施して見つけにくい状態にしてくれる。俺とリーゼは、モンキーで”森の村”に向かった。
門番が武器を携えて出てきた。
モンキーでも走行音がしている。この世界にない音なので、”新種”の魔物が現れたと思われたようだ。
リーゼを見つけて、武器からは手を離さなかったが、構えは解いてくれた。
「失礼。貴殿たちは?」
エルフの男性が、俺に話しかけてくる。
リーゼが俺の後ろに隠れてしまったから、全面にいる俺に話しかけたのだろう。
「バッケスホーフ王国のレッチュヴェルトにあった宿屋三月兎のラナ殿からの依頼で、書簡をエルフの里に届けに来た」
「なるほど、貴殿と・・・。後ろの女性は、エルフ族ですか?」
思い出して、ギルドの証を提示する。リーゼも懐から、証を取り出す。
最初から提示しておけばよかった。ギルドの証には、依頼を受けた場合に、依頼の内容が記述される仕組みになっている。
「リーゼ。書簡を借りるぞ?」
「うん」
リーゼがアイテムボックスからラナの書簡を取り出して、門番に見せる。
門番が、書簡の裏に書かれたラナのサインと、アフネスのサインを見て目つきが変わる。
少しだけ確認したいから、預からせて欲しいと言ってきたので、目の前で作業をしてくれるのなら問題はないと許可を出した。
門番が何やら、部下らしき人物に指示を出している。
「遅くなりました。ヤス殿。リーゼ様。ギルドの証をお返しいたします」
リーゼを”様”と呼んだ状況から、悪い方向には転ばないはずだ。
「あぁ」
リーゼも証を受け取る。そして、俺の後ろに隠れる。人見知りではないだろうに・・・。
「私は、ラッセルと言います。エルフの里で、守衛の隊長に任命されております」
「ん?エルフの里?里は、森の中にあると聞いていたのだが?」
「そうでした。ヤス殿は、神殿の主でしたね。おっしゃるとおり、里は森の中にありますが、一般的には、この村を”エルフの里”と呼んでいます」
さらっと、俺が神殿の主と認識していることを告げてくる辺り、なにかしらの情報を握っているのだろう。
友好的になっていることから、問題はないと思いたい。
「そうか・・・。里を隠す意味があるのか?」
「そうです。しかし、里にも幻惑が掛けられているので、”森の里”を経由しないと到達できません」
隊長のラッセルが指示を出していた部下がノートパソコン程度の魔道具を持って戻ってきた。
渡している書簡を魔道具の上に置いた。
なにやら魔道具を動かしている。
「ありがとうございます」
確認が終了したのだろう。ラッセルが書簡をリーゼに返した。
「リーゼ様。ヤス殿。もうしわけありませんが、エルフの里で、暫くお待ちいただけないでしょうか?」
「どういうことだ?」
「そうですね。ご説明いたします」
門に入って、書簡を渡して終わりだと考えていたが・・・。面倒な自体になりそうだ。
ラッセルの説明は、脈絡も、説明も飛び飛びになっていてよくわからなかった。
わかったことは、”里”から迎えが来るから、待っていて欲しいということだ。これを聞き出すのに、5分もかかってしまった。
「俺たちはどうしたらいい?里には、泊まる場所は無いだろう?」
里を見回すと、宿屋らしき物は存在しない。民家らしき物だけだ。
「空き家をお使いください。それから、ヤス殿はアーティファクトで来られていると思うのですが、里でお預かりします」
俺のことも短時間に調べたのだろう。
ギルドの支部があるようには見えないが、連絡手段は有るのだろう。
「うーん」
たしかに、外に置きっぱなしにするよりは、安心はできる。
しかし、ここにいるエルフたちを信頼するかと言われたら、”否”だ。リーゼに”様”を付けていることから、悪い扱いはしないだろうが・・・。
リーゼを見てみるが、俺の後ろに隠れるだけで、あてにはできそうにない。
「ねぇヤス。まずは、空き家を見せてもらおうよ。それで、ダメそうなら、アーティファクトとテントで休めばいいよ」
リーゼからまともな提案がされた。言われるまで、FITをどうするのかしか考えていなかったが、休める状態でなかった場合の対応を考える必要もある。
ラッセルに案内された空き家は、十分なスペースがあったが、すぐに休めるような状態ではなかった。FITも持ってきて、馬車置き場に待機させる。連れてはいけない眷属たちも空き家で待っていてもらうことに決まった。
俺たちが、空き家での生活に慣れ始めた5日後に、”エルフの里”から使者が到着した。
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