【第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国】第十一話 嫌がらせ開始
カスパル。ディアス。サンドラ。デイトリッヒ組が出発して、一日半後にセバスが出発した。
セバスは、朝方に領都に到着した。
ヤスは、神殿のリビングでマルスから報告を受けていた。
カスパルも心配では有ったが同乗者が居るので無理はしないだろうと思っていた。セバスは、夜の長距離は初めてで、本人は大丈夫だと言っていたが心配になってしまったのだ。
マルスは、地図を表示してカスパルとセバスが運転する車両の現在位置を表示していた。
マルスにしても、ヤス以外の長距離の運転で、神殿の領域外に出ているので、データの収集を行っている。マルスが欲しかったデータは、ヤス以外が運転しているときの魔力量に関しては必須で欲しかったデータだ。所謂”燃費”がどの程度なのか、気になっている。アーティファクトの修復機能の調査も合わせて行われている。
ヤスが運転している時なら、停止状態になった時点で修復が開始されるが、従業員であるカスパルが運転している時や、眷属であるセバスが運転している時で差が出るのか調べたいと思っているのだ。
燃費や修復機能の効果次第で、今後の計画が変わってきてしまう。
王都程度なら問題にならないで欲しいというのがマルスの考えだ。
『マスター。関所の作成に移る前に、個体名セバス・セバスチャンから連絡が入っています』
「セバスが?何か問題でも?」
『いえ、個体名サンドラと合流しまして、個体名クラウス・フォン・デリウス=レッチュと合流しました。個体名クラウス・フォン・デリウス=レッチュがマスターに相談があるそうです』
「長いな。クラウスを辺境伯と呼称してくれ、だれだったか忘れそうだ」
『了』
「相談だな。魔通信機で受けるのか?」
『否。ディアナからの通信は、エミリアで送受信出来ます。また、リビングの端末でも可能です』
「わかった。リビングで受けよう」
『マスター。着替えをお願いします』
「着替え?」
『はい。ディアナのナビからの通信です。お互いの様子が映る仕組みです』
「わかった。着替えてくる。セバスを待たせておいてくれ」
『了』
ヤスは部屋に戻って、着替えてきた。
神殿に居る時のユニフォームになっている服装だが、気に入っている。作務衣を来てきた。若干、マルスやメイドが呆れていたがヤスは気にしないで、リビングの指定席に座った。今日のメイド(セカンド)に果実水を持ってくるように頼んだ。
ヤスの中で、ジュースは果実にハチミツや砂糖で甘みを付けた飲み物で、果実水は果実の絞り汁を水や炭酸で割った物や果実をつけ込んだ水を指している。拘っているわけではなく、なんとなく区別しているだけだ。
「マスター。今日は、いいモモがありましたので、桃水にしました」
「セカンドか・・・。ありがとう」
ヤスが、天然水で作れば、”ヒューヒュー”と言い出すだろうとしょうもないことを考えていた時に、マルスはセバスの準備を確認していた。
『マスター。問題がなければ、個体名セバスに繋げます』
「頼む」
ディスプレイが暗転して、4分割された。
モニタの左上にセバスとサンドラと辺境伯が映し出される。右上には、先方に映されているヤスの様子が映っている。左下は、ヤスが確認している神殿の様子で、右下はディアスの様子が表示されている。
『旦那様』
「セバス。辺境伯とサンドラとは無事合流できたのだな」
『はい。旦那様。もうしわけありません。レッチュ辺境伯様から、塩と砂糖と胡椒の値段に関しての取り決めをしたいと相談されました』
「値段?必要なのか?」
『神殿の主殿。クラウスだ。儂のことは、クラウスと呼んで欲しい』
「わかりました。私のことは、ヤスとお呼びください。それで、クラウス様。値段とは?王家に献上するので、値段は必要ないと教わりましたが?」
『サンドラにも確認しました。ヤス殿。王家に献上するときに、大まかな値段を付けて、”こんな価値がある物を持ってきました”というのが一般的なのです』
「そうなのですか・・・。そうか、それが無いと、見てみないと、普通の塩や砂糖とわからなくて・・・」
『そうです。サンドラから言われて、実物を見て納得しましたが、見るまではわからないので、値段で黙らせるしか無いのです』
「そうですか・・・。クラウス様ならいくらで買ってくれますか?」
『儂か?儂なら、塩は金貨3枚。砂糖は金貨2枚。胡椒は金貨10枚。だな』
「そうですか・・・」
ヤスは、正直その程度なら問題はないと思った。全部での値段と勘違いした。討伐ポイントと硬貨の変換効率を考えると、それでも黒字になるからだ。
『ヤスさん。勘違いされているようですので、補足します』
「ん?サンドラ。どういうことだ?」
『今、辺境伯が告げた金貨の枚数は、ヤスさんがセバス殿に持たせた全部ではありません。壺での買い取り枚数です』
「は?壺?あの壺は、1キロ程度だろう?」
『ヤスさん。間違いありません。辺境伯が告げた枚数は、最低の取引額だと考えてください』
「わかった。辺境伯、王家にはその値段を告げてくれ」
『よろしいのですか?もっと上でもいいのですよ?』
「別にいいぞ?上にしたほうがいいのか?」
『辺境伯。説明が足りません。ヤスさん。この塩と砂糖と胡椒は、今後も神殿から売られるのですか?』
「サンドラも作業を手伝ってくれたから解るだろう?あの作業をやりたいか?」
『御免被りますが、それこそ、孤児院の子供とかに作業を點せればいいのでは?』
「それも考えたけどな。まぁいい。数は出せないけど、今後も欲しければ売るけど、売り先は・・・。辺境伯と王家だけだな。上限を決めて売るのなら問題は発生しないよな?」
『ありがとうございます』『お父様!ヤスさん。あの・・・。ですね。今後、売る場合の値段は、王家に献上している場合には、献上した時の金額と決まってしまいます』
サンドラの辺境伯を呼ぶときの呼び名が安定しない。
立場の問題もあるが、ヤスが想定にない無茶を言い出して、パニックになりかけているのだ。
「へぇ・・・。サンドラ。クラウス様。王家に献上した金額を下回っての販売は許されるのですか?」
『え?下回る?問題はありません・・・』
「だったら、先程の金額で問題ないです。王家や辺境伯は、神殿から買った物を転売するのですよね?」
『儂は・・・』『ヤスさん。そうです。功労のあった家臣や慰問した先で配ったりもしますが、欲しいと言ってきた貴族に高値で売る場合がほとんどです』
『サンドラ!』『クラウス様。私は、神殿の主であるヤスさんの代理です。当然、立場は、神殿側です。お間違えないようにお願いします』
「わかった。わかった。サンドラも、クラウス様も、喧嘩しないでくれ。塩と砂糖と胡椒の値段は、クラウス様が言った値段で問題はない。ただ、次に王家やクラウス様が購入されるときの金額は、壺一個あたり。塩は銀貨2枚。砂糖は銀貨1枚。胡椒は銀貨5枚だ。それ以上は必要ない」
『え?ヤス殿。もう一度頼む』
「壺一個あたり。塩は銀貨2枚。砂糖は銀貨1枚。胡椒は銀貨5枚だ」
『ヤスさん!それでは!』
「サンドラ。問題はない。その代わり、クラウス様。神殿まで必ず誰かが取りに来てください。あと、ユーラットを神殿の入り口として正式に認めてください。もう一つ、関所に村をつくります。関所の村とユーラットに必ず一泊するとお約束をいただけるのでしたら、私が存命の間はお売りすると約束します」
『マスターは、寿命が曖昧です。未来永劫という意味になります』
マルスが、セバスとヤスにだけ聞こえるように念話で説明をするが、狙いはそこではない。
物流が発展していないこの世界に物の流れを作ろうとしているのだ。車の普及は無理だと思っているが、馬車にオイルダンパーを付けたり、サスペンションを付けたり、魔道具で回転をアシストする程度なら可能ではないかと思っている。ドワーフたちに技術提供すれば作ってくれて、それを見た王都や領都から来た者たちが欲しがったら売ったり、提供したり、それこそ何かと交換してもいい。そうやって物だけではなく、技術を回していけばいい考えたのだ。
『ヤス殿。いや、ヤス様。承知した。国王にヤス様の気持ちをしかと伝える』
ヤスが考えたのは、単純に値段が高いとおもっただけだ。
辺境伯が考えたのは、ヤスが王家に”貸し”を作るための値段設定をしたのだと思ったのだ。無理して値段を下げているのだと考えたのだ、サンドラも同じ様に考えた。
そして、辺境伯とサンドラは、ヤスが貸しを使って、ユーラットや新しく作る村に利益を還元しろと言っていると思ったのだ。
微妙に違っているが、皆が得をしたと思っているので、マルスは何も言わずに黙って聞いていたのだった。
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