【第六章 神殿と辺境伯】幕間 ユーラットの冒険者?

 

 ユーラットにも少ないが冒険者が存在する。
 イザークたちとは違いユーラットに住んでいるわけではない。

 それではどうしているのかと言えば、大半はロブアンの宿屋を借りの住処にしている。ある程度の人数が揃っている冒険者パーティーは民家を借りて住んだりしている。

 冒険者たちは、魔の森を主戦場にしているのだが一部は海に向けて出ていく者も存在する。
 そして冒険者は男性だけの職業ではない。女性だけのパーティーも存在している。

 女性パーティーは実力が劣っていなくても1段下に見られる傾向が強い。

「アリシャ。それで今日はどうするの?」

「うーん。テレーゼはどうしたいの?」

「私?ナターリエがリーダーでしょ?決めてよ!」

 女性だけのパーティーが今日の方針をギルドで話している。この風景は数日前から変わらないのだ。

「ナターリエさん。魔の森はどうでしたか?」

 あと数日で神殿に行くことが決まっているドーリスがリーダーであるナターリエに声をかける。3人の女性パーティーは昨日魔の森から帰ってきたのを”優秀”なギルド職員は知っていたのだ。

「・・・」

「すみません。リーダーはドーリスさんのことがまだ怖いようなので・・・」

「はぁ・・・。まぁいいですよ。アリシャさん。テレーゼさん。魔の森の様子はどうでしたか?」

 ドーリスに睨まれる形で3人の女性は黙ってしまったのだが、名指しされて自分たちが感じたことを話し始めた。

 一通りの報告を聞いたドーリスがこめかみを押さえながら説明したテレーゼを見る。テレーゼは、短髪の女性で髪の毛は緑色だ。美醜で言えば可愛い部類だろう。

「テレーゼさんの説明で間違いないですか?」

 ドーリスが、アリシャから目線を外して、リーダーであるナターリエを見た。
 ナターリエは、長めの青い髪の毛で目線を隠しているが、ドーリスの問いかけにうなずいて肯定の意を表した。

「はぁナターリエさんも相変わらずですね。それで、アリシャさん何か追加があるのですか?」

 最後の一人のアリシャをドーリスが見る。
 アリシャは、長髪で腰まで髪の毛がある。先端部分で縛っているのでまとまっているイメージがある。エルフの血が少しだけ入っていると本人は言っている。最年長だが、他の二人と同じ10代後半に見える。黄色い髪の毛が印象的な美人さんだ。

「ドーリスさん。テレーゼの説明に間違いは無いのですが、”なぜ”を教えてもらっていません。それに、ギルドからの質問ということは・・・」

「えぇ報告をまとめてもらえれば報酬が出ます。どうしますか?」

「もちろん!」

 一番しっかりしているアリシャがドーリスの話に飛びつく。アリシャは報告書を作るのが苦手だがリーダーであるナターリエが得意なのだ。

「それは良かった。今の話をまとめていただくだけで大丈夫です」

「はぁ・・・。わかりました」

「すぐにお願いしますね」

「え?」

「””です。必要な情報なのです」

 ドーリスの異論を認めない言葉に三人は黙って頷くだけしかできなかった。

 それから3時間後にまとめられた報告書を持ってアリシャがドーリスを訪ねた。

「ありがとう。それで報酬だけど、大銀貨3枚を受け取るか武器防具や魔道具にするのか決めて」

「え?」「は?」「武器!」

 最後のセリフは誰が言ったセリフなのかは別にしてドーリスから提示されたのは望外普段の10倍な報酬を手に入れるか、普段なら入手が困難な武器と防具と魔道具を入手するか選択する事ができる。
 3人はお互いの顔を見ながら武器と防具と魔道具を選択することに決めた。リーダーがいち早く武器だと逝ってしまったことも影響している。

「そう・・・。わかった。付いてきて」

 ドーリスが三人を先導して倉庫に移動する。
 倉庫には、ヤスが領都から運んできた武器や防具や魔道具がおかれていた。どれも一級品だ。

「この中から好きな物を持っていっていいわよ。一人3点までね。決まったら報告をお願いね。それから、これから他のチームも来る可能性があるから早い者勝ちだからね」

 それだけ言ってドーリスは3人を倉庫に残してギルドに戻っていった。

 残された3人は目の前に置いてある夥しい武器や防具や魔道具を眺めるしかできなかった。

「カスパル!どう考える?」

「ダーホス殿。考えるのは、あなた達の仕事です」

 ギルドの責任者であるダーホスに尋ねられたがカスパルは冷たく突き放すことしかできない。
 実際に、カスパルにしても報告は聞いていた。ユーラットを出る前にイザークから注意を受けていた。

「そうだな。もう少し付き合ってくれ、石壁がどこまで続いているのか確認する必要がある」

「わかりました。報告では、関所狭まっている場所まで続いているということです、食料はギリギリですけど、それでも行きますか?」

「水の心配はなさそうだからな。少し無理をすれば大丈夫だろう?」

「わかりました。調査に必要だと思っていた日数を移動に使えば大丈夫でしょう」

 カスパルもユーラットの安全を考えれば必要なことだとわかっている。
 そのためなら多少の無理でも通すつもりで居たのだ。

 そんな話を神殿の境界に作られた広場でしていた。
 もちろん、エントたちが話を聞きつけてすぐにマルスに伝わった。マルスは、ヤスに確認するまでもなく支援することを決めた。神殿の領域には足を踏み入れていないのでマルスでも状況を確認することができない。飲水は提供しているので、セバスからエントたちに命令を出すことで、果物を提供することにしたのだ。神殿の内部に住むことが決まった魔物たちへの提供と合わせて実験の意味もある。

 ユーラットから出ていたスタンピードの調査隊は報告された通りに魔物の死骸を見つける。見ることができた魔物の死骸の数は多くなかったが、報告の通りの場所に有ったことやスライムの数からかなりの死骸が有ったことが想像できた。

 魔物の確認が終わったので調査隊は本来ならユーラットに戻ったほうがいいのだが、石壁が気になってしまっているのだ。スタンピードの調査だけならすでに終了している。石壁が存在していることも報告通りなので改めて調査する必要はない。石壁は、街道から離れた場所に作られている。

 そのためにユーラットから調査に出たダーホスたちは領都からユーラットに向かって出発したサンドラたちとすれ違うことがなかった。すれ違っていれば状況が変わっていたかもしれない。

「それでどうした?」

「はい。予定通りに致しました」

「それで?」

 奥に座る若い男がイライラを極限まで高めたような声で前に立つ男にぶつける。

 男は頭を下げながら言葉を繋げる。

「ご命令の通りに、指定された森に放置してきました」

「ならばなぜ!」

 若い男は激昂して頭を下げる男を叱責する。

「私では判断できません。法国からの提案が間違っていたのでは・・・」

 苦し紛れに言ったセリフだったのだが、若い男は目の前の男が言った言葉を聞いて考え込んでしまった。

「駒はまだあるのか?」

「はい。先日のものよりも劣りますが、総魔力では上回っています。ハーフの女ですが法国からの提案の数値は越えております」

「そうか、もう一度だけチャンスをやる!今度こそ、王国の急所を噛み砕け!」

「はっ」

 男が立っていた場所を若い男が見つめている。

(俺は、こんな辺境で終わる男ではない。無能どもにもわかりやすい手柄を立てて中央に返り咲く!俺は何も間違っていない!)

 若い男は黙って自分の手元にある魔通信機を眺める。
 そして立ち上がって戸棚に魔通信機を戻す。ただそれだけの行為を何度も何度も繰り返し行った。

 そして、数字を押して指が覚えてしまった番号へとコールした。
 コールが続くが相手が出ることはなかった。そして、若い男は自分がしていることの虚しさをごまかすために乱暴に机を叩いた。
 手の痛みで心の痛みを隠そうとしているかのように、何度も何度も机を叩いていた。

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