【第九章 ユーラット】第一話 移動?

 

野営を無事に乗り越えて、移動を開始した。

移動は順調だ。
先頭は、馬車と途中で見つけた馬を積んだトラックを走らせる。

これは、ルーサの提案だ。
王国内を移動しているとしても、バスやモンキーやFITは珍しい。トラックなら、神殿が行っている物流支援で、王国中を駈け廻っているので、見たことがある者が多い。警戒はされるが、周知されているので、襲われたり、停められたり、物騒な目に合う可能性が減らせる。

リーゼとカイルとイチカは、モンキーで行ったり来たりを繰り返している。
何が楽しいのか・・・。

でも・・・。まぁ解らなくもない。

リーゼのモンキーはパワーが違うから、加速が違う。
最高速は、カイルとイチカも負けては居ない。テクニックは、イチカが一番かな?カイルは、ブレーキまではいいけど、ブレーキの立ち上がりで遅れる。度胸はあるけど、まだブレーキをうまく使えていない。
舗装されていない場所だから、体重が軽いと思われるイチカの方が滑らさないで、グリップを維持した状態で、しっかりとした軌道を描いている。リーゼは、パワーを少しだけ持て余しているように見える。もう少しだけアクセルワークを丁寧にすれば、滑らないで乗れるだろう。

3人は、森の中を走り抜けて、街道に飛び出してくる。ナビに情報が映っているので、ぶつかることはないが、注意は必要だ。イチカは、停まれそうな速度まで減速をしているのでいいが、リーゼとカイルは速度域が高い。

『マスター。個体名ルーサが通話を求めています』

「繋いでくれ」

『了』

ルーサ?
珍しい。ナビには、問題は映っていない。
バスの中で、何か問題が発生したか?
出発前の打ち合わせでも、何も言ってこなかった。

『旦那!』

「どうした?」

慌てている感じはしない。

『いくつか確認したいことができた』

ルーサが確認とは珍しい。乗り込む時に、いろいろ確認をしていたが、確認を忘れたのか?
乗っている連中は、遮音結界で音を遮断しているのだろう。会話が知られても困らない。

「確認?」

『馬車と馬だけど、どこに運ぶ?神殿は、無理だぞ?』

姫様たちの事ではなく、前を走っているトラックの荷物か?
神殿に運ぶつもりで居たけど、無理なのか?

「無理?」

『無理ではないが、今、アーティファクトを操作している奴は、ランクが低くて、神殿への道を封鎖しなきゃ無理だ。それは、しないほうがいいだろう?』

そうか、ローンロットが拠点だと言っていた。
確かに、ローンロットは、集積場から集積場に荷物を運ぶのが主な役目で、細かい切り返しや運転が必要のない場所が多い。

「そうだな。それなら、ユーラットには持っていけるよな?」

運転の技術が未熟な者は、狭い街道を通らないように指示している。
ナビにも、表示させないようにしている。

ナビが自由に設定できるのは、楽だ。FITのようにコンパクトカーの場合には、王都の中でも大丈夫だが、トラクターでは無理だ。ハーフトラクターになってしまうと、貴族が使う馬車と同じ程度の幅が必要になる。
ユーラットから神殿に繋がる道は、山道だ。いろは坂ほどではないが、トラックで通るには技術が必要だ。

ユーラットの裏門には、馬車の停留所が作ってある

『あぁ大丈夫だ。ユーラットの裏門でいいか?』

ユーラットまでなら、ランクが低い者でも入っていける。

「そうだな。あそこなら、イワンを派遣すれば、直せるだろう?」

『そうだな』

「ルーサは、神殿まで頼む」

『え?』

「なんだ、お前もユーラットで帰るつもりだったのか?」

『旦那?』

「ダメだ。たまには、神殿に顔を出せ」

『わかった。はぁ・・・。そうだ、ヴェストとエアハルトを呼んでいいか?』

「そうだな。近況の報告を受けたい。呼んでおいてくれるか?」

『わかった』

道連れができたと思ってルーサが喜ぶ。
お偉いさんの子息が居るような会議は、俺も出たくないが、出なければならない。それに、報告は受けているが、面と向かって話を聞かないと解らないことも多い。ごまかしているとは思わないが、報告の漏れはどうしても出てしまう。

姫様たちの情報共有も必要だ。
問題が発生するのが解っている状況で、無視しておくわけにはいかない。

カイルが思っていた以上に大人だったのは驚いた。どちらかというと、イチカの方が警戒していたけど、あれは女としての警戒に見える。カイルが、姫様に行くことはないと思うから大丈夫だとは思うが・・・。カイルがイチカに惚れているのは態度を見れば、すぐに解るが、イチカが解らない。カイルを憎んでは居ないし、好意を抱いているようには見えるが、家族としての親愛に思える。

「ルーサ?」

『あぁ旦那。神殿に、皆を集める』

「頼む。それから、報酬は、イワンに渡したウィスキーでいいな」

『お!もちろんだ!部下にも飲ませたい。3本はダメか?』

「そうだな。1本は、俺が出す物で、あと4本をイワンたちが作っている物でどうだ?」

『十分だ。イワンのオヤジは、自分たちで飲むのに手一杯だと言っていたけど、大丈夫なのか?』

「大丈夫だ。半分は、俺が巻き上げる契約になっている」

『ははは。それは、イワンのオヤジは、血の涙を流していないか?』

「大丈夫だ。次の酒精を渡している。新しい、作り方と一緒だ」

『おい!旦那。俺たちには!』

「わかった。わかった。同じものを渡す。そうか・・・。アシュリなら、違う酒精の方がいいかもしれないな。アシュリで酒精を作ってみるか?」

『いいのか?』

「あぁ人も増えてきているのだろう?酒精が無いと暴れる愚か者がいるらしいからな、実際に、できるまで1-2年は必要だろうけど、買うよりもいいだろう?」

『それは、そうだが、酒精の作り方なんて、旦那は知っているのか?』

「大丈夫だ。次いでに、トーアヴァルデやウェッジヴァイクでも作るか?各地の特色がでて面白いかもしれないな」

『ローンロットは?』

「森の中にある集落なら許可を出すが、ローンロットで消費するのならダメだ」

『え?』

「ローンロットは、集積所だ。そこで、酒精を振舞ったら、動かない連中が出る。積み荷として持ってきた物を飲むのならいいが、生産している物を飲むのはダメだ」

『言われてみれば、あそこは、アーティファクトが大量にあるから、ダメだな』

「あぁ」

『旦那。あと、少しで休憩所だ。どうする?』

「予定通りに休憩をする」

『わかった』

目的としていた休憩所に到着する。
荷物の集積場にもなっている場所で、簡単に食事ができる施設も作られている。

何か、姫騎士が文句を言ってきたが、姫様を呼んで対処をお願いした。食事が必要なければ食べなければいい。俺たちは疲れた身体を癒すために、1時間程度の休憩が必要だ。
軽くマッサージをしてくれる場所が併設されていたので、背中を解してもらった。ルーサは全身コースだ。

「さて、行くか!」

「ヤス様?」

「オリビア。どうした?」

「はい。神殿には、どの位に到着なのでしょうか?」

「そうだな。問題が発生しなければ、夕方には到着するぞ」

「・・・。そうですか・・・。そこまで・・・。一つだけ教えてください」

「なんだ?」

「リーゼ様たちが乗っている馬のようなアーティファクトは、私でも乗れるのですか?」

「神殿の住民と認められたら、可能だな。あのアーティファクトは、バイクというのだけど、見た目以上に難しいぞ?」

「はい。楽しそうなので・・・。お城では、外にも出るのにも・・・。自分で、動かして移動できる物なんて・・・」

「そうだな。オリビア。ヒルダが呼んでいるぞ。俺が睨まれて・・・。怖い。怖い」

オリビアは、もうしわけなさそうな表情で頭を下げて、ルーサが運転するバスに移動した。

「ヤス?」

「どうした?」

「ううん。あのね。僕、オリビアと仲良くなりたい」

「ん?そうなのか?」

「うん」

もしかしたら、リーゼは何かを感じているのかもしれない。
そして、オリビアだけなら、案外早く神殿の住民として認められるかもしれない。ダメそうなのは、ヒルダだな。あとは、ヒルダに無理矢理に付き合わされる可能性がある。ルルカとアイシャはダメかな?メルリダとルカリダは、考え方が柔軟だし、ルーサへの接し方を見ると認められるかは微妙だけど、住民としては受け入れられるだろう。

多分、リーゼが連れまわせば、すぐに皆が”しょうがない”と思うかもしれないな。

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