【第十章 エルフの里】第二十一話 誰?
逃げ出すのか?
男は、俺に土なのか?石なのか?わからない物を投げつけてきた。結界に阻まれているが、気分のいい物ではない。
石?に、気を取られたすきに、背を向けて逃げ出す。逃げられないのに、ご苦労なことだ。
聞こえるかどうかの声量で、マルスに指示を出す。
「(ファイアーウォール)」
逃げる男の前方に炎の壁が出現する。横に逃げようとしても、同じように、炎の壁ができる。
戦闘を終えた、ガルーダが俺の肩に降りて来る。
『マルス。戦闘不能にした者を確保してくれ』
『了』
戦闘不能になっていた、46人の足元に魔法陣が浮かび上がる、意味などないが、動けない者に取っては、恐怖を覚えるだろう。多少でも動ける者は、逃げようとするが、魔法陣からは逃げられない。
「”陣”が重なると、どうなるか、俺にも解らないぞ」
多少大きめの声で、注意喚起をする。
単純に、”面白そう”以上の意味はないが、俺の声が聞こえたのか、動ける者たちは、他人の魔法陣に重ならないように動き始める。
「30を数えたら、”陣”が発動する。それまでに、お前たちが、俺を襲った言い訳を聞こうか?誰が責任を取るべきなのか、教えてくれ、その言い訳次第では、貴様たちの処遇を考慮する」
”考慮”すると言っただけなのに、すごいな。
今まで、死にそうだった者まで、必死に、炎の壁に囲まれて居る男が悪いと言い出した。
男の名前は、アンドリュー。家名は、残念ならがフォークではなかった。醜悪な表情から、きっと、士官学校を首席で卒業したのだろう。士官学校があるのか知らないけど、俺を襲う時の作戦会議もきっと「高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する」とか言っていたのだろう。大量の、人員を導入すれば、勝てると踏んだのだろう。実際に、フォーク准将・・・。違った、アンドリューが掴んでいた情報では、俺たちは3人+アーティファクトだけだ。アーティファクトを10人程度で押さえると言っていることから、多く見積もって20人。残りは、自分を除いて、26名。3人に対して、8倍の戦力だ。眷属を頭数に入れても、6名だから、戦力で言えば、4倍だ。負けることなど考えているわけがない。
他愛もないことを考えながら、30までのカウントアップを行う。
『マルス!』
30を数えた時に、魔法陣は今まで以上に光り輝いて、捕えている者たちを、ピットに落とした。
何か、喚いていたが、俺には関係がない。”考慮した”が、対応を変えるほどではなかっただけだ。
「さて、アンドリュー殿?貴殿には、選択肢を与えよう」
「なっなにを・・・。俺に何かあれば」「あぁそういうのは別にいい。エルフ族の長老は、貴様を切り捨てる」
「そんなことは」「あぁだから、貴殿の言葉は必要ない」
剣で、耳の先端を切り飛ばす。
喚いているが、剣を目の寸前に翳す。あと、数センチ突き出せば、目に突き刺さる。先端恐怖症の人間なら、恐怖だろう。
「黙れ」
「・・・」
「ここで死ぬか、神殿で死ぬか、男娼になるか、選ばせてやる」
「貴様!俺は、皇国の」「何度も言わせるなよ。恥ずかしい」
反対側の耳の先端を切り飛ばす。
これは、ラフネスに聞いた事だが、エルフの罪人は耳の先端を切り落とされるようだ。屈辱で、男の顔が歪む。
エルフたちは、同性愛は禁忌とされている。男娼など、許されることではない。しかし、この世界は同性愛に寛容な世界だ。そのため、エルフは他の種族を毛嫌いしている。そのエルフが、醜悪な性癖を持つ男に抱かれる。リーゼを奪って犯すとまで言った奴には似合いの仕打ちだろう。
「どうする?」
「おすすめは、男娼だな。男の相手をして、稼いでくれ。それで、賠償額を支払ってくれるのが、俺としては嬉しい。殺しても、銅貨1枚の価値にもならない」
「なっ!なにを!」
「賠償だよ。俺を襲ったのだから、当然だろう。お前が指示を出したと言っている46名分だ。貴様自身は、銅貨1枚程度の価値だが、他の46名は一人、金貨5000枚だ。合計で、金貨230,000枚と銅貨1枚だ」
「ふざけるな!貴様。俺を誰だと!」
「知らないよ。襲撃者で、敗者で、男娼になるしか生き残れない。醜悪で、無礼で、無様で、無能なエルフだろう?」
「くっ。クッククク。俺にそんな事をして、皇国を敵に回すのか?」
「別にいいぞ、皇国だろうと、共和国だろうと、帝国だろうと、敵対するのなら、容赦する必要はない。必ず潰す」
「なっ。そんなことが」
「できる。簡単なことだ。お前が、どれほどか知らないが、俺とアーティファクトで敵対した者たちを殺せばいい。簡単なことだ。皇国がどうとか、その前に、お前は自分の心配をしていろよ。殺してもいいけど、俺には銅貨の一枚も入らなきからな。奴隷にして、男娼にする。同じ奴隷の相手をさせてやるよ。毎日、毎日。汚い場所で働いた男どもを満足させてやるのだな」
「そんな事をして、皇国が黙っていないぞ!」
「そうだな。でも、皇国が、お前を助けに来るまでに、必要な時間は、一日ではないだろう?1年か2年か?それまで、お前は男たちの相手をし続ける。楽しいだろうな。そのうち快楽に変わるかもしれないな」
『マルス!』
『是。捕縛の魔法陣を展開します』
フォーク准将・・・。じゃなくて、アンドリューの足元に魔法陣が現れる。何か、喚いているが無視する。
「しばらくの安穏を楽しんでくれ!」
「貴様!」
「ふぅ・・・。リーゼ。ラフネス。終わったよ」
後ろから、二人が心配そうな表情で見ているのには気が付いていた。
振り向いて、大丈夫だと告げる。
「それで、ラフネス。フォーク・・・。じゃなかった。アンドリューが、何か、皇国とか言っていたけど、何か繋がりがあるのか?」
「はい。皇国から、姫君の腰入れが・・・」
「ん?それは、無条件か?」
「え?」
「例えばだけど、リーゼの持つ権利を、アンドリューが得たら・・・。とか、条件が付いているのではないのか?」
「いえ・・・。そういう話は、聞いていません」
「まぁいい。そうだ。ラフネス。こんなに、多くの愚か者が居るとは思っていなくて・・・。悪いけど、2日ほど、里に行くのを延期したいが、大丈夫か?」
「それは・・・。大丈夫ですが?」
「悪いな。捕えたやつらの輸送を行っておきたい」
「輸送?」
「神殿から、迎えが来る手はずになっている」
「わかりました。私は、長老に連絡を入れておきます」
「頼む」
ラフネスが、俺たちから離れて、結界の中に入っていく、連絡は結界の中で行いようだ。
別に付いて行ってもよかったが、何か企んでいるとしても、潰せばいい。それに、これだけの戦力差を見せつけられたら、敵対行動が無意味だと考えてくれるだろう。
「ねぇヤス?」
「ん?」
「誰が、来るの?」
「あぁセバスが手配をしてくれている」
「へぇ誰がくるの?でも、誰が運転していても、アーティファクトを使っているのなら、盗賊に襲われても大丈夫だね」
リーゼは話を聞いていない様で、しっかりと聞いている。そのうえで、質問しても大丈夫な事を判断している。男娼の話なども聞いていたのに、質問をしてこない。”興味がないだけ”なのかもしれないが、関係がない事や、微妙な話には首を突っ込んでこない。
「あぁ多分、今日中には到着する」
「え?早くない?」
「ノンストップで飛ばしているようだ」
「へぇ誰だろう?」
「大型だからな。人選は限られていると思うぞ?」
「そうだよね」
リーゼがFITに戻った。
ラフネスが結界から戻ってくるのが見えたからだ。
一度、宿に戻ることにした。長老も、こんなに早くとは思っていなかったようだ。
2日後、改めて結界の通過を行う事にきまった。
それから、捕えた者は約定通りに、俺のすきにしてよいようだ。長老には、賠償金を払うのなら解放すると連絡をしておいた。勝手にしてくれという返事が貰えたようだ。反対派閥だろうが、俺が交渉している長老から言質が取れたので、問題はない。
『マスター。あと、3,872秒後に、トラックが到着します』
『わかった。近くで待機を命じてくれ』
『了』
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