【第四章 スライムとギルド】第五十二話 今後の話(4)

 

真子と茜嬢と人に戻ったライが席を立って、ソファーに向う。
これからする話は、確かに、真子に聞かせないほうがいい話だ。

貴子嬢は、少しだけ不思議そうな表情をしてから、俺と円香を見て、何かを納得した。

高校生だと聞いていたが、人の顔色を見て育ったのだろうか?
違うな。家族から愛情を注がれて育ったが、家族が奪われて、汚い大人の世界に叩きこまれた。真子や茜や円香と方向性は違うが、同じなのだろう。

話を終えても、貴子嬢は変わらなかった。

は?
眷属?俺たち?

メリットは解る。
デメリットは・・・。ない。貴子嬢に、情報が流れることを止められないことくらいか?
それも、デメリットと考えるほどではない。

そもそも、貴子嬢が本気で敵対したら、人類は何も出来ないだろう。気が付かない間に滅ぼされていても驚かない。そのあとは、動物と魔物だけの楽園が出来上がるのか?
地球のことを考えれば、それも一つの選択肢なのだろう。
出来れば、その時に、真子も連れて行って欲しい。

「孔明さん」

貴子嬢が、何かを聞きたいようだ。

「ん?」

「真子さんが、私と一緒に”住みたい”と言っていますがどうしますか?」

真子が?
それも、いいかもしれない。

「貴子嬢の邪魔にならなければ、真子を近くに置いて欲しい」

「わかりました。円香さん。真子さんが、茜さんも一緒に住んで欲しいと言っていますが?」

「ん?茜の好きにすればいい。別に、ギルドの寮に住む必要はない」

「わかりました。多分ですが、茜さんから、別邸がギルドの支部にするという話が出るかもしれません」

真子の安全を考えれば、貴子嬢や茜嬢と一緒にいた方がいい。
それに、貴子嬢の別邸なら、襲撃が来ても怖くない。真子にも、新しい眷属が着くだろう。そうしたら・・・。

「話は変わるがいいか?」

「なんでしょうか?」

円香も頷いている。

「貴子嬢。俺と円香が買い物に出た時に、上空から俺たちを護衛していたよな?」

「・・・。はい。カーディナルたちが、心配して着いて行きました」

「あぁ別についてきたことを怒っているわけでも、ダメだと言っているわけではない」

「え?」

「貴子嬢。感覚が鈍っているのかもしれないけど、富士宮は、富士山に近くて、富士川があっても、鷹や鷲が頻繁に飛翔している場所ではない」

「あっ」

「スズメや椋鳥の集団の方が、まだ目立たない」

「そうですね。ダーク・・・。あっ。蝙蝠もダメですよね?」

「そうだな。夕方以降なら蝙蝠の方がいいだろう。途中で切り替えるとか出来れば、尾行も解らないだろう」

「あっ!そうですね。ありがとうございます。それと、考えていることなのですが・・・。静岡は、地下が少ないので考えていなかったのですが、東京は地下が多いのですよね?」

「・・・。そうだな。え?東京?」

「はい。日本ギルドは、東京にあるのですよね?」

「そうだ」

「それなら、東京までの追跡と東京での追跡も考えないと・・・」

ブツブツと何かを考え出した。
日本ギルドの連中を追い詰めるつもりなのだろう。

「貴子嬢。その役割は、俺たちに譲って欲しい。ダメか?」

「え?」

「俺と円香と蒼で、日本ギルドの連中を締め上げる。搾り取れるだけ搾り取り、奴らがやった事を・・・。白日の下にさらす」

「・・・。わかりました」

「貴子嬢に、感謝を、そして、日本ギルドの連中の情報は、確実にギルド内で共有する」

「・・・。あっ!はい。わかりました。円香さん。私、高校を出ていませんが、ギルドの職員になれるのですか?」

「大丈夫だ。ギルドの職員に、学歴は関係がない。日本ギルドは、大卒とか言っているが・・・」

「そうなのですよ。良かったです。書類で必要になる物はありますか?」

「あぁ血の登録が必要だが・・・。あとは、住民票は、マイナンバーがあればいいか?この辺りの処理は、茜に聞いて欲しい」

「あっ!大丈夫ですよ。スライムですが、血は出せます。指紋もありますよ?あっ先に、血液が本当に、血液か調べた方がいいかも・・・」

「わかった。孔明。頼めるか?」

「ん?教授を頼るか?」

「そうだな。彼も出来れば、ギルドに招きたい。話をしたら乗ってこないか?」

「・・・。乗ってくる。違うな。何を投げうってでもやってくるだろう」

「そうだろう?貴子に確認したい」

「なんでしょうか?」

「今、話をしている清水教授は、簡単に言えば、マッドサイエンティストだ」

「はぁ」

「それも、魔物が大好きな変態だ」

「・・・」

「魔石を使った実験を繰り返して、ラットや魚が魔物になる事象も発見している。残念ながら、再試験に失敗している。教授以外では、魔物になったことが確認できなかった。そして、魔石が取れなかった」

「あぁ・・・」

円香が、手を上げて貴子嬢の説明を遮る。やはり、何か条件があるのだろう。それを、貴子嬢は知っている。
教授と合わせるのは危険な気がするが、教授が自分の興味以上に他で話をする可能性は低い。日本ギルドの連中だけではなく、権威という物を嫌っている。貴子嬢が齎した情報を少しだけ流して他にもあると言えば、自衛隊の研究室を辞めて、静岡に引っ越してくるだろう。
危険な感じはするが、手元に置いておいた方が安全な気がする。

医師免許もあるから、貴子嬢の偽装や真子の為にも必要な人材だ。

「貴子が、良ければ、教授に健康診断を依頼したい。真子と茜も一緒に頼むべきだろう」

「円香さん。その教授さんは、どこかのお医者さんなのですか?」

「清水教授は、自衛隊に属しているが、変わり者だ。医師免許と獣医師の免許を持っている」

「え?それなら、カーディナルとかアドニスとか・・・。調べてもらえますか?」

「喜んで、健康診断をすると思うぞ?」

清水教授なら、魔物になってしまっている動物がいて、眷属になっていると聞いたら、喜んで来るだろう。

「そうなのですか?」

「あぁ」

「病院はどうなりますか?」

「教授のご実家が使えればいいのだが・・・」

清水教授の実家は、清水にある。
病院は廃業しているはずだ。

「円香。教授の実家は、廃業していると思うぞ?」

「そうか・・・」

「廃業からの復活は難しいのですか?」

「ん?」

「お金の問題だけなら、私が貰う予定のお金で病院を作れませんか?ギルド専用の病院とか・・・。ダメですか?」

「ダメではないが、いいのか?」

「はい。お金が有っても、使うところがないです。数百万になれば十分だと思っていたので・・・」

それは、そうだろう。
調べても、魔石の値段しか出てこない。それも、ゴブリンの魔石程度の大きさでの値段だ。貴子嬢の金銭感覚がおかしいわけではない。世間とのずれが激しかっただけだ。

ギルドの陣容を揃えないと・・・。

「わかった。廃業した病院を買い取って、教授に任せよう。あと、研究所も作ったほうがいいかもしれない」

「円香。研究所は、まだ早いと思うぞ?」

「教授が人を連れて来るだろう?あの部署は、どうせ、日本ギルドから疎まれているのだろう?」

「あぁ教授の為人を考えれば、日本ギルドの連中の手を取るとは思えない」

「あの・・・。その教授は、どんな人なのですか?マッドサイエンティストなのは、話から解りますが・・・。信念とか、ある人なのですか?」

「ははは。そうだった。あの人の信念は、『面白い事を好きなだけ行うこと。気になることを解明すること。そして、解った事はオープンにしてこそ意味がある』と言い切る人だが、解ったことを公開するのには慎重だ。世間に及ぼす影響を考える。バランスはしっかりと取れる人だ。変わり者だけどな」

「そうなのですか?奥さんやご家族は?」

「いない。よな?」

円香が、俺を見てきたので、頷いておいた。

「奥さんと娘さんが居た」

「居た?」

「貴子嬢のご両親と同じだ」

「あっ・・・」

「だから、ギルドを嫌って、自衛隊の研究施設に入った」

「そう・・・」

「古い体勢のギルドは、円香が一掃した。だから、改めて教授を誘える」

貴子嬢が、何かを考えている様子があるが、病院を作るのは、大事だが、確かに、真子や茜嬢のことを考えれば、情報が秘匿できる病院は必要だ。
それに、研究施設としての意味を持たせれば、ギルドが保持する意味合いが強い。

「わかりました。病院と研究施設を作りましょう。場所は、私の別邸の近くがいいのですが、大丈夫ですか?守るのに、近い方が楽なので、いろいろな場所に施設があると、抜けや漏れが怖いので・・・。申し訳ないのですが・・・」

楽しくなりそうだ。
あとは、ネットに強い奴が来たら、陣容が揃う。

手足になる者たちが必要だが、自衛隊でまともな奴らに声を掛けるのはいいけど、それ以外にも人が必要だ。

円香はどうするつもりなのか?

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