【第九章 ユーラット】第二十話 エルフの里

 

”コア:マリア”

”はい。マルス様”

”コア:マリア。貴方の巫女は近くにいますか?”

”最終候補者は、里に戻っております”

”急がなくても良いのですが、神託を降ろしてください”

”かしこまりました”

マルスから、エルフの里に居る者たちに神託を降ろすように依頼が出た。

エルフの里は、アデヴィト帝国とは直接は国境を接していない。
しかし、帝国の複数の属国とは国境を接している。

帝国が、神殿への圧力と同時に、エルフの里に侵攻する可能性は低い。
しかし、マルスは、可能性の一つとして考えていた。

マルスは、ヤスにはマルスとしての考察だと情報を伝えている。神殿に居る者たちには、セバスの考察だと伝えている。

同時に、マリアに神託を降ろさせることで、巫女と巫女を取り巻く状況を整えてしまおうことにした。

エルフの里は、ヤスとリーゼが訪れて、不穏分子を排除したことで、元の状態に戻りつつあった。
引きこもり気質なエルフが、森に引き籠った。

外部に作っていた里は、閉鎖はしていないが、人数を大きく減らした。

神殿に、連行されたのが大きな理由だが、アーティファクトに興味を持ち、外の世界との繋がりを断絶する里との決別を考えた者たちが、里から出て行った。エルフたちは大きく二つに分かれてしまっている。

復活した聖樹に寄り添い森での生活を続ける者。
因習に捕らわれる事を嫌い外に出る者。

外部との接触を断つのはダメだと里に残る者。

復活した聖樹は、巫女の末裔以外からも巫女を探している。

エルフの里は、巫女が選ばれるかもしれないと大騒ぎになった。エルフの里を去った者も、外部で出会ったエルフに聖樹の復活と巫女の話をしている。エルフの村には、里を出て行った者たちの末裔が集まり始めている。

マリアは、村からは巫女を選ばなかった。
適性が低いこともあるが、自分聖樹の蔑ろにしてきた者たちの中から選ぶ気持ちにはならなかった。ラフネスは、血筋で考えれば巫女に相応しいが、本人が辞退した。里には戻ることもあるが、村をまとめる役割を担っている。

「マ、マリア様!」

聖樹の分体が、ラフネスの所に姿を現す。
ヤスから話を聞いているので、驚きはしているが、すぐに切り替えるくらいの経験を持ち合わせていた。

「ラフネス。巫女たちを集めて」

「え?」

「貴女と里長と一緒に、里の神殿に来て」

「はい」

ラフネスの返答は極めて短く事務的な物だ。
巫女たちと聖樹が言っている事から、里から村に来ている者を集めてこいという事なのだろう。

巫女と一緒に来るようにと、ラフネスが呼ばれた。ラフネスは辞退をしているが、巫女候補から外されていない。

ラフネスも、解っている。
聖樹との相性を考えれば・・・。ハイ・エルフの血筋を持つ自分が相応しいことも・・・。
しかし、ラフネスは、ヤスやリーゼと敵対した事実があり、周りが認めても、自分で自分を認められていない。ヤスとリーゼは気にしないと言っているのだが、自分がそれに甘えるのは違うと考えている。

ラフネスは、村で修行勉強をしていた巫女候補の二人の少女を連れて、里に戻る。

「ラフネス様。本日は?」

「マリア様が、皆に話があると言われました」

「「え?」」

二人の少女は、自分が巫女候補だと知らされている。他にも里にも、3人の候補がいる。

巫女候補として、里の周りで魔物との戦闘訓練を行っている。
村では、エルフを取り巻く情勢をしっかりと学んでいる。

気が長いエルフ族だが、聖樹の復活と巫女の選定は、悲願だ。巫女の選定が行われることを一日千秋の思いで待っている。

里にラフネスたちが辿り着いた時には、聖樹からマリアが里に降りてきた。
もちろん、里に作られた神殿の中だ。

中に入ることが許されているのは、里長とラフネスと5人の巫女候補だけだ。

マリアが顕現したことで、皆が跪こうとするが、マリアが制した。

里長が一歩だけ前に出て、深々と頭を下げる。

「マリア様」

”帝国が、元王国の一部に侵略を行います”

「え?」

”彼の地だけではなく、村や里にも侵攻の兆しがある”

「マリア様!」

”彼の地から援軍が来る。里長とラフネスで出迎えろ”

「はっ」「はい」

”5人の巫女は、アリア。カリア。サリア。タリア。ナリアと名乗ることを許す。氏族を興せ。氏としての呼称を許す。巫女は氏族以外からも選ぶ。特権だと考えるな”

5人は、震えながら跪いて頭を深々と下げる。
マリアから注がれる光が形となる。

5色のチャームがついたイヤリングになった。
5人はそれぞれの色を持つイヤリングを装着する。

今度は、5人が巫女として活動を行う事になる。

”里長”

「はい」

”里長は、巫女の氏族以外から選ぶように、世襲は許さない”

「はっ」

里長の座は、今までは世襲に近い形になっていたのを、マリアはやらない様に伝える。
全ては、マルスの考えに沿っている。

ラフネスは黙って話を聞いている。
聞いているだけだが、エルフの里と村が上手く回り始めているのは実感している。

エルフは、長命種だ。
その為に、物事を長期的に考える”フリ”をしている。しかし、それでは、太刀打ちできない存在がいることを知った。

「ルーサ。悪いな」

「大将。気にしないでくれ」

「エルフの里が侵攻対象になるとは考えていなかった」

「大将。そう言っても、セバス殿が情報分析をしたで、わずかだが可能性があるのだろう?」

「あぁ今までの帝国のやり方を分析した結果らしい」

「そうか・・・。でも、この戦力を送れば、大丈夫だろう」

「そうだな。10万は無理でも、1-2万程度なら、撃退ができるだろう」

「でも、いいのか?」

「ん?あぁエルフたちか?」

「そっちもだけど・・・」

ルーサの視線の先には、嬉しそうに準備をしているカイルとイチカ。それに、子供たちが居る。
ヤスは、マルスからの助言を受ける形で、カイルとイチカをエルフの里に送り込むことにした。

アーティファクトの運転技術を加味すれば、負けることはないだろう。
ルーサは、エルフの村に戦力を置いたら神殿に帰ってくる。

エルフの里で、戦力を率いるのは、ディアス・アラニスだ。
イワンの工房で作られた2級品の武器を大量に持たせている。

そこに、矯正が終わったエルフたちを一緒に届ける。
全員が、神殿の共有奴隷になっている。塹壕を作り、陣地を作り、戦場を特定させることで、アーティファクトの運用が有利に進められる。

「イチカ!カイル!」

「はい!」「なに?」

「カイル。”なに?”ではなくて、しっかりと返事をしろ」

「あっ!”はい”ヤス様」

「ははは。イチカ。気にしなくていい。カイルもイチカも無理は絶対にするな。お前たちの役割は解っているな?」

「「はい!」」

ヤスが、罰として科した命令だ。

ヤスが二人に命じたのは、ルーサの手助けを行うこと。
子供たちをエルフの里に届けて、向こうでエルフ族に渡すイワン製の武器の訓練を行うこと。
そして、帝国の侵攻が始まった場合に、全員で戻ってくること。

この3点だ。
イチカとカイルと子供たちは、戦闘には参加しない。
巻き込まれることも考えられるので、アーティファクトを使った戦闘は許可をだしている。しかし、逃げるように言っている。怪我も許さない。戦闘行為に及ぶのなら完封して来いと命令している。

「ルーサ。頼む。無理はしなくていい。エルフの里も大事だけど、お前たちの命と比べられるものではない。いいか、必ず帰ってこい。これは命令だ。死んだら許さない」

「大将!死んだら、許さないもないと思うぞ?」

「そう思うか?俺なら、神殿の力を使って、ルーサをアンデッドで蘇らせる。そのまま、使役して使いつぶしてやる」

「ひでぇ」

「嫌なら、死ぬな。帰ってこい」

「わかった」

ヤスとルーサのやり取りを聞いて、イチカとカイルと子供たちは笑い声をあげる。
エルフたちは、表情を硬くしている。ヤスの言葉が冗談ではないことを知っている。

ルーサもカイルもイチカも冗談だとは思っていない。
思っていないが、死ぬつもりはない。生きて帰ってきて、ヤスに褒めてもらうことしか考えていない。

ルーサが運搬するトラックに押し込まれる形になるエルフたち。
イチカとカイルは、モンキーで移動を行う。子供たちは、ランドルフが運転するバスにディアス・アラニスと一緒に乗り込む。

西門から皆が出て行った。

バスが西門を出てからも、ヤスは暫くの間、見送っていた。

横には、リーゼが立って、同じ方向を見ていた。

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