【第四章 スライムとギルド】第十七話 看破

 

素晴らしいスキルが芽生えていた。
どうやら、ユグドではなく、クシナかスサノのまたは両方からの恩恵の様です。

スキル名は「隠蔽」と「偽装」です。もう一つは、あまり使わない気がします。アクティブスキルなのですが・・・。該当しそうな状況にはならないと・・・。思う。と、いいな。
使い方は、なんとなく理解が出来ます。でも、”偽装”に関しては、秘密にしておく必要がありそうです。実験で確認をした所、電子データには使えませんが、紙になっている情報の書き換えが出来てしまいました。書き換えは、私の筆跡になるのであまり使いどころはなさそうです。しかし、押した判子が消せてしまいました。このスキルは問題になりやすい。ギルドでは、電子データが基本なので、問題にはならないとは思いますが、日本ではいまだに”紙”のデータを信用する人は多くいます。上級国民様には電子データを信頼していない人たちが一定数居ます。特に、役所とか、官僚とか、役所とか、官僚とか・・・。あの人たちは、本当に前例にないことを嫌がります。
”隠蔽”は言葉通りです。スキルを隠す事が出来ます。私が取得したスキルの多くは未発見のスキルです。隠しておく必要があります。面倒ごとは避けたいです。同じように、クロトとラキシとクシナとスサノとユグドのスキルの多くは隠します。隠せてしまいました。スキルの適用範囲は、眷属までの様です。残念です。千明とアトスのスキルは隠せません。二人には、うまく立ち回ってもらいましょう。
ギルドに知られてしまっているスキルは残して、他のスキルを”隠蔽”しておきます。”隠蔽”の隠蔽は出来ないので、”偽装”で”隠蔽”を偽装しておきます。既に知られているスキルに偽装しておけば、知られても問題は無いでしょう。

主殿から預かっている”鑑定”で自分を見ても、問題になりそうなスキルはない状況です。
これで、まだ”人”として生活が出来ます。攻撃系のスキルが無いのが救いに思う時が来るとは思いませんでした。

明りをつけていませんが、明るい状況です。
電気代が浮いたと喜びましょう。

「お姉ちゃん?」

「ん?部屋が明るいと思っただけだよ?」

「そう?皆が快適に過ごせる状況を維持するのも、私の仕事だよね?」

「そうね?」

ユグドは嬉しそうに微笑んでから、何かのスキルを発動しました。
部屋の温度が、下がった気がします。

”ニャウ!”

ラキシが苦情を伝えたら、今度は室温が上がった気がします。
ユグドが調整を行って、室温と湿度が納得できる状態になったようです。体感的には、20度くらいかな?肌寒くはないので、丁度いいのかもしれない。エアコンも必要が無くなってしまいました。風が欲しければ、風が発生しますし、水が欲しければ・・・。どうやら、ユグドの本体を奥プランターの中に魔石を大量に入れたのが原因だったようです。全ての属性が使える聖樹が産まれてしまったのです。
過ぎたことなので、もう忘れましょう。

そうです。もう過ぎたことです。
ユグドがいろいろできるので、私は楽になったと思うことにします。

”にゃ!”

クロトが私の足を可愛い手でテシテシしてくる。

「お姉ちゃん。時間は大丈夫?ギルドに行くのだよね?」

ユグドの指摘で、時計を探すが、腕時計は普段からしていない。
この部屋には時計はない。でも、出勤の時間が近い。はずだ。

「みんなは待っていて!」

皆から了承の返事が帰ってくる。
連れて行っても良かったのだけど、どうせ戻ってくるし、その時にインパクトが大きい方が私の苦労がわかるだろう。

部屋に戻って着替えます。
ギルドには服装の規定はありません。受付に出るのなら、制服があるのですが、現状受付は開店休業中です。千明が形だけですが、受付に座る事はあるのですが、それだけです。

今度は、わかりません。
主殿の情報が炸裂したら、ギルドに人が集まる可能性があります。
私としては、今の雰囲気が好きなので、受付を作るのなら、別の場所に設置してバイトでも雇って欲しいと思います。それに、主殿が訪ねて来る事を考えれば、受付は別の場所にしたほうがいいでしょう。

ギルドには、まだ誰も来ていないようです。
先に、送れる情報だけでも・・・。

辞めておきました。
絶対に、面倒なことになるのは解っています。

ギルドのネットワークは、監視・・・。盗聴が疑われます。
どこの組織とは言いませんが、可能性は高いと思っています。

さて、ギルドに出勤といっても、玄関から出て、50歩も歩けばギルドの正面です。裏口なら半分以下で到着します。
玄関を出てみると、雨が降り出しています。濡れたくないので、正面玄関に向かいます。屋根伝いに移動できます。10歩ほど歩数は増えますが、誤差の範疇です。

正面玄関が空いています。
確認した時には、誰も出勤していなかったのですが・・・。

「おはようございます」

「おはよう。早いな」

「孔明さんも、早いですね。何か、問題でも?」

「違う。そうだ!スライムの所に行ってきたのだろう?報告を聞きたい。出来る範囲で構わないから教えてくれないか?」

「孔明さん。スライムではありません。主殿です。本名もお聞きしましたが、主殿と呼称してください。お願いします。私は、まだ死にたくありません」

「ん?死にたくない?どういう事だ?」

「それは、皆が揃ってから・・・。あぁ千明と蒼さんが来ました。円香さんが来たら、報告をします。あと少しだと思うので、待っていてください」

「わかった。それにしても、茜嬢。雰囲気が変わったな」

「え?」

雰囲気?

「なんというか・・・。うーん。よくわからないから、雰囲気という言葉を使ったが、強者とは違うけど、変った」

「そうですか?自分では解らないです」

蒼さんと千明がギルドに到着しました。
同時では無いのですが、同時になってしまったようです。千明が、お茶の準備を始めるので、少しだけ待ってもらいました。

「皆。揃っているのか?」

円香さんの登場です。
役者が揃ったのですが、最初に、円香さんと蒼さんから、主殿がギルドに齎した情報の検証結果の報告を聞きます。

先に報告を聞くことにしました。千明も一緒に聞くように言われてお茶はなしになりました。冷蔵庫から、ペットボトルを取り出して好きに飲むことにしました。
私の報告は、時間が必要です。絶対に必要です。円香さんに力説して認めてもらいました。もう一つの理由もありますが、それは別で考えましょう。円香さんに丸投げ出来れば・・・。

「魔石を持って、スキルを使うと、回数が増えた」

今まで、使い道が少なかった魔石に使い道が産まれた瞬間でした。
また、鑑定の魔石も一部だけ情報を解禁した。結果、各国からの問い合わせが増えているようです。本部に、魔石を送って解析とレシピ化が可能なのか調べることになりました。鑑定石の件は、私たちの手が離れることになりました。よかったです。負担が減るのはいい事です。どうせ、すぐに増えます。倍では住まないくらいに増えます。
ひとまずは、ここまではギルドとして情報を公開することに決まりました。
登録者は日本支部ですが、発見者は匿名の人物となりました。煩わしさを避けるために、匿名の登録はよくあります。主殿も同じように匿名での登録になりました。銀行口座も、私たちが用意した口座になりました。

「茜。報告を頼む」

「円香さん。この場所は、クリアですか?」

円香さんは、首を横に振ります。
やはり、盗聴が行われているのでしょう。

「気分転換も必要でしょう。私の部屋に来ませんか?」

「え?」

「入口近くの部屋の模様替えをしました。皆に見て欲しいです」

「茜。何を言っている?模様替え?そんな時間があったのか?」

「そうですね。昨日はいろいろ大変でした。気分を変えたくなるくらいに大変でした」

私は、持っていたメモ帳に”私の部屋ならクリアです”と書いて円香さんに見せる。

「いいのか?」

「はい。報告書も部屋に置いて来てしまったので、都合がいいです」

円香さんが頷いてくれた。
千明は、何を言っているのかわからないのか”きょとん”としていますが、問題は無いでしょう。

「あっ!千明。アトスも連れてきて!ラキシとクロトが会いたがっていた」

「え?あっ。うん。わかった。先に出ますね」

千明が立ち上がって、ギルドを出ていくと、私も立ち上がって、円香さんにメモを見せます。
メモには”主は孔明さん”と書きました。

私が新しく得たスキルの一つ”看破”が事実として・・・。報告の前にやらなければならない事が増えてしまった。

憂鬱だな。
こう考えると、主殿の所は、心臓には良くないけど、楽しかったな。

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