【第四章 連合軍】第十七話 【連合国】

 

カンウとヒアが王国のダンジョンの攻略を始めている頃・・・。

「ロア!」

バチョウは副官に指名したロアを呼びつけている。
状況の説明を聞く為でもあるが、もっと重要な確認を行うためでもある。

呼ばれたロアは、伝えるべきことが解っている。
バチョウに、軽く頭を下げてから報告を始める。

「バチョウ様。カエデ様とシアから、連合国軍の後方に抜けたと連絡がありました」

把握できている状況を伝える。
実際には、バチョウも状況の確認が出来るのだが、今回の討伐作戦に関しては、副官を育てる意味があり、作戦立案を含めて、ロアたちに任せることにしている。バチョウたちは、責任と作戦が失敗した時の保険である。

「ナツメとキアは?」

バチョウとロアと同じく連合国軍の相手をしている、ナツメとキアは、側面攻撃を行うことになっている。
配置には既についていると連絡が来てから、次の連絡がない。

「まだ連絡がありません」

バチョウとロアは、カプレカ島に攻め込もうとしている連合国の前面に、獣人族を中心にした軍を展開している。
前面には、魔王が召喚した”ゴーレム”が陣取っている。

魔王が召喚したゴーレムは、それぞれに獣人のサポートがついている。命令を伝達するためだ。

作戦は凄く簡単だ。
バチョウが率いる軍が連合国の遠征軍の正面に陣取る。
連合国は内部がまとまっていないのは、周知の事実だ。そのために、補給を行う部隊や部隊間の連携に問題がある。

バチョウとロアが前面を支えている間に、ナツメとキアが側面から連合国の連絡網に圧力をかける。
中央突破が出来れば最良だが、中央の突破ができなくても、連絡網に圧力をかければ、それだけ連合国の連携は悪くなる。連携が崩れたところで、バチョウが全兵力で正面からぶつかる。

「バチョウ様!」

ロアが慌てて、バチョウに報告を上げる。

「どうした?」

バチョウは既に、報告を受ける状態ではなく、戦闘に入る寸前になっている。

「キアから連絡がありました。”5分後に突入”と、いうことです。ロイはじめ前線には伝えました」

この報告は、当然の様にナツメからバチョウに伝わっている。
しかし、軍の規律として、ロアからの報告をバチョウは待っていた。

情報の伝達の速度と正確さで、軍の強さが変ってくる。
正しい情報を、素早く末端まで伝達ができる事が重要だ。

「わかった。作戦では、側面からの攻撃が行われてから10分後に突入だったな」

作戦は事前に、ロアとキアとシアで決めている。
それを、ナツメとカエデとバチョウが承認する形になっている。

バチョウは確認のために、ロアに質問を行う。

「はい。時間は目安です。バチョウ様の判断に任せます。私は、後方に下がります」

もちろん、バチョウも作戦の内容はしっかりと覚えている。

「そうだったな」

「そうだ。バチョウ様に、お願いが・・・」

ロアは、連合国の前線に居る者たち斥候から聞いて知っている。

「解っている。獣人族は、安全にとは約束は出来ないが、確保する」

連合国は、この連合に参加する条件として、神聖国が保持している獣人族の一部を譲り受けている。

「はい。魔王様から、腕や足程度なら回復させるというお言葉を貰っています」

「わかった。安心しろ」

「はい!」

ロアが頭を下げて、前線から後方に下がる。
本当は、狼人族の族長をやっているロアも前線で戦いたい。カプレカ島を守る戦いに参加して、敵を屠りたい。
しかし、魔王からロアたち族長クラスの者たちは、大規模戦闘で前線に出るのを禁じられている。後方で、全体を俯瞰して作戦の遂行を指揮するように言われている。ヒアとミアが、ダンジョンに潜って、戦っているのは、ダンジョンという特殊な状況下でのみ許される事情だ。

魔王からの指示で、ダンジョンを攻略する時には、物量作戦を禁じられている。
ダンジョンは、物量で押しつぶすのは”愚の骨頂”だと言って、最大戦力のパーティー単位での攻略を進めるように命令が出ている。

ロアとキアとシアが考えた作戦は単純だ。

戦闘力に秀でたバチョウが率いる部隊が連合国の前面に布陣する。
側面攻撃が開始されるまで、バチョウは殻に籠ったように陣を動かさない。

次に戦闘力が高いカエデとシアが連合国の後方を遮断する動きを取る。しかし、実際には後方に逃げてきた者たちは、ある程度の数は逃がすことになっている。
そのために、後方に配置している者たちは、近隣の掃除盗賊や野盗狩りを行っている。逃げてきた連合国を無事に逃がす為だ。

ナツメとキアの機動力に優れた者たちで構成された部隊は、連合国軍の中央に攻め込む。
ナツメとキアの部隊が攻撃を開始してから、連合国の動きを確認してバチョウが部隊を率いて、連合国の軍に突撃を開始する。

作戦の前半部分は、なんの心配もしていない。
問題になるとしたら、後半部分だが、ロアもキアもシアも心配はしていない。
慢心ではなく、魔王から過保護と言われるくらいの武器や防具を渡されている。そして、新しいスキルも渡された。

後半の戦いに備えて、ロアとキアとシアが、前半の戦いが始まったと同時に、動き出す。

「ロイ。指揮は任せる。バチョウ様が戦っているのだから、負け戦にはならないだろう。だが、状況が不利だと思ったら、戦線を縮小して後方に下がるように指示を出せ」

「わかりました。族長」

ロイの目の前には、魔王に最初に救われたファーストの狼人族が揃っている。
皆が、魔王の為なら命を賭すことに疑問を感じていない。魔王が気まぐれでも助けなければ、自分たちは死んでいたと考えている。事実としては、正しいだろう。しかし、魔王はロイだけでなく、一人の死者も出すなと厳命している。
そして、魔王は今回の連合軍の戦いもダンジョンに引き込んで戦うことを最初に提案している。
配下の者たちに大反対されて、出撃の許可を出した。
その時の条件が、一人の死者も出すな。怪我はしょうがないが、全員が生きて帰って来られる作戦でなければ許可しないと言い切った。そのためには、ダンジョンの力をフルに使うことに、許可を出している。しかし、配下からはダンジョンの力は、最小限に抑えた作戦案が提出された。魔王は、セバスに助言を求めて、説明を聞いたうえで、苦笑をしながら作戦を承認した。

『バチョウ。そっちの様子は?』

『楽勝だな。慢心するつもりはないが、俺だけでも、軍の殲滅が可能だ』

『そうか・・・。だが認められない』

『わかっている。それにしても、ロアたちの作戦が見事に嵌ったな』

『そうだな』

『それで?カエデ。4人は?』

『うまく潜り込んだ』

『それは重畳』

バチョウは、ナツメと通話をしながら、逃げようとする連合国の後背を攻めている。

『ナツメ。もう十分な数が逃げているよな?』

『大丈夫だ・・・。と、思う。カエデからも、前半の成功が告げられました』

『それなら、戦場に残っている者は、切り捨てていいよな?』

『ほどほどにして下さい。あっ、できるようなら、殺さないでください。魔王様の供物にします』

『解っている。ロアとキアとシアに与えた武器や防具やスキルの補填が必要なのだろう?』

『そうです。もう十分な強さを持っていて、連合国くらいなら・・・』

『魔王様にもお考えがあるのだろう』

『そうですね。バチョウ。お願いします。私たちは下がります』

『どのくらいだ?』

『5分ほど頂けますか?』

『わかった。10分後に、俺が単騎で連合国に突っ込んでスキルを全開で使う』

『わかりました。そちらの皆さんも私たちが回収して、カプレカ島に引き揚げます。いいですよね?』

『頼む。あっロイとキイだけ残してくれ、後始末を頼みたい』

『はい。はい。二人には私から伝えておきます。後始末なら、他にも何人か残しておきます』

『頼む』

15分後
バチョウは、戦場で・・・。一人、戦場になっていた場所に立っていた。

周りには、連合国からやってきた者たちが、苦しんでいる。片腕がない者。両足が切断された者。これから、死んだ方がましだと思えるような状況になると解っていたら、ここで死ねた方がよかったと考える者たちだ。

バチョウからの連絡を受けて、ひきつった表情で狼人と猫人の獣人が近づいてきた。

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