【第七章 暗雲】第七十五話

 

/*** カズト・ツクモ Side ***/

アンクラムの宿をダミーでとった上で、アンクラムから抜け出す。前金で、2日分を渡している。宿の主人が横柄な態度だったので、多少罪悪感は消えたのが救いだ。
後は、領主同士でうまく話をして欲しい。

『あるじ。スーンから連絡が入った。あるじが”蕎麦”と呼んでいた穀物確保したって』
「おっありがとう」
『それでね。眷属が大量に買い付けたら、村長?から村の子供1人でも2人でも構わないから連れて行って欲しいと言われたらしいよ?』
「それで?」
『あるじに確認しますと言って、その日は帰ったらしいけど、次に買い付けの時にはどうするか決めて欲しいみたいだよ』
「わかった。カイ。ウミ。その村まで行けるか?」
『はい』『大丈夫!』

寄道をする事にした。
アンクラムで2~3泊するつもりだったから、問題ないだろう。

村の近くまで行くと、エントとドリュアスが待っていた。
買い付けに行った者たちのようだ。

「大主様。何か不手際がありましたか?」

あっそう考えるよな。

「いや、いや、違う。違う。なんか、口減らしで子供を買って欲しいとか言われたのだろう?」
「・・・はい。自分たちでは判断できなかったので、保留しております」

口減らしなのは間違いないのだろう。
蕎麦があれば、それほど困るような事は無いだろう・・・蕎麦だけじゃ不満・・・って事はないだろう?。

「あっそうだ、それで蕎麦はどのくらい買えた?」
「100キロ程度です」
「随分多いな。それだけあれば、口減らしする必要はないと思うのだけどな・・・村長に話を聞けばわかるかな?」
「はい」

村に入った、身分証の確認などなく、すんなりと入る事ができた。

そのまま、村長の屋敷に案内される。屋敷と言っても、豪華な作りにはなっていない。ムラで1番大きな建物程度なのだろう。中には、村長と思われる人物と、若い衆が数名待っていた。

エントが村長となにやら話している。
一通りの確認作業が終わったのだろう。村長と思われる男性が俺に話しかけてきた。

「ツクモ殿」
「なんでしょうか?」

「リール殿からお聞きしました、貴方様が、彼らの主様なのですね」
「厳密は、違いますが、そう考えていただいて問題ないです」
「そうですか、あっ私は、ショナル村の村長をしております。ミーハンといいます」

「ご丁寧にありがとうございます。カズト・ツクモといいます。それで、子供を買って欲しいと言われたと聞きましたが?」
「え?あっお恥ずかしい話ですが、今までは、アンクラムから小麦を買っていたのですが・・・」
「”蕎麦”を食べないのですか?」
「”蕎麦”?リール殿が買っていかれたものですか?え?食べられるのですか?」
「え?そば茶があったから、てっきり粉にしたりして加工していると思っていました」

村長の話を聞くと、そばの実を焙煎した物を水にひたしておくと、お茶のような物が出て、温めて飲んでいたという話だ。食用ではなく、嗜好品のような感じだ。

嗜好品という認識なら、売れなければ確かに口減らしは必要になってしまうだろうな。

小麦粉は存在するし、村々でも作っているだろうから、石臼は有るのだろう?

「村長。石臼はある?」
「え?ありますが?」
「使っていない物があったら貸して欲しいのだけど?」
「わかりました」

若い奴らに石臼を持ってこさせた。石臼を使って、そば粉を作る。なんとか形にはなったと思う。
そば粉を使って、蕎麦焼きを作る。蕎麦焼きなら、そのまま食べてもいいし、スープに入れても食べられるだろう。

味に関しては、今後の課題だろうけど、口減らしの必要性がなくなれば良いと思っただけだ。
そしてできれば定期的に蕎麦が買える状況になってくれたら嬉しい。

「ツクモ殿。これは?」
「あぁ蕎麦焼きと言って、粉にした蕎麦を、水で固めて焼いたものです。味は・・・まぁこれからって事ですが、腹は膨れますよ?」
「おぉぉ。これを、村でも作ってよろしいのですか?」
「え?あっ気にしなくていいですよ。そのかわり、定期的に、”蕎麦”を売って欲しいのですができますか?」
「あっはい・・・」

良かった。良かった。
でも、村長がまだ思いつめた表情をしている。

「それで、ツクモ殿。子供を買っていただくわけにはいかないのですか?」
「え?口減らしじゃないの?」
「え?」

村長の話をまとめると、口減らしの意味も有ったのだが、村にはスキルカードを得る方法がない現状で子供だけでもなんとかしようと考えていた所に、エントが飲み物にしかならない物を大量に買っていくので、この人ならばと思ったという流れらしい。

提示された金額は、本当に?というようなレベルだ。
女の子が、レベル6が5枚(約、50万円)。男の子が、レベル6が3枚(30万円)。幼児と呼ばれる子が、レベル6が1枚(10万円)と言われた。

正直、手持ちだけで、この村の子供全員が買えてしまう可能性がある。

ウーン。どうしようかな?
ウミとカイを見るが、好きにしていいですみたいな雰囲気を出している。エリンは、ウトウトし始めている。

「村長」
「はっはい。俺は、これからも”蕎麦”が欲しい。できれば、安定して作って欲しい」
「あっはぁ・・・・」

村長。そんな”何をこいつは言い出す”みたいな表情をしないで欲しい。

「子供は労働力にはならないのだろうけど、居ないと村として終わってしまう」
「・・・はい」

うん。
決めた。少し強引だけど、まぁいいだろう。スキルカードがなくなったら、チアルに潜ればいいからな。

「わかった。村長。子供、全員買い取ろう」
「え?本当ですか?」

そんなに喜ばない。
後ろで、若い衆・・・多分親なのだろう・・・が少しだけ表情を曇らせる。

「あぁ。村長、ちょっと待て、慌てるな。これから、条件をいう」
「条件ですか?」
「あぁ条件だ。その前に、この村は、獣人族への偏見はあるか?アトフィア教に毒されている者はいるか?」

宗教は自由だと思う。
自由だから、俺は、アトフィア教がきらいだという意思表示をしっかりとする。
全部の教典を読んだわけではないが。救助や浄化という言葉で、獣人族を殺したり、隷属化するのを認める様な宗教は、俺の敵だ!

「いえ、村全体は、コルッカ教です。以前は、アトフィア教信者も居たのですが、村の生活を嫌って、アンクラムに行ってしまいました」
「そうか、それなら丁度いい」
「はぁ・・・?」

俺が出した条件は、蕎麦を定期的に、”獣人族の街”に送る事だ。
買った子どもたちは、この村で生活させて蕎麦の収穫の手伝いさせること。獣人族の街までは、最初はリールが案内役としてついていくが、最終的には、村の人間でやってほしいこと。
子供は、食べなければ成長できないし、仕事もできない。そのために、俺が買った子供を預かってくれる家には、一定額の養育費を払う。子供が無事に育っているのかを監視するために、子供を預かっていない家にも監視費として一定額を支払う。監視している家の者は蕎麦を運ぶ時に、子供の状態を俺に報告する義務を負う事になる。

「この条件が飲めるのなら、子供全員を買い取ろう」

「・・・・え?いいのですか?ツクモ殿?」

若い衆がざわついている。
子供の親は出された条件を噛み締めているようだ。ヒソヒソ声でなにかを話している。

「あぁ」
「でも、それでは・・・何も変わらない・・・のではありませんか?」
「変わるぞ。俺の所に、定期的に”蕎麦”を運ぶ必要があるからな」
「あっ献上せよという事ですか?」
「はぁ?違う、違う、適正な価格で、買い取る。最低でも4~5年は獣人族の街にだけ卸してもらうことにはなるけど!食べたり、加工するのは自由にしてもいい」
「え?でも、それなら・・・」

そこで村長は言葉を切った。実質何も変わらないが、4~5年間で村を立て直せと行っている事に気がついてくれたようだ。
正直、この規模の寒村なら、10や20程度なら数年とは言わずに、半永久的に養えるだけのスキルカードは得ている。違うな、”得られる”というのが適切なのかもしれない。

「そうだな。それだけでは、俺にメリットが少ないな。村長、村の子供で、親や身寄りが居ない者はいるか?」
「え?あっはい。6名ほど居ます」
「年齢と性別は?」
「1番上は、14歳の女です。その下が、13歳の男が二人。11歳の女が1人。10歳の男が1人。6歳の男児になります」

半々か・・・6歳の子が居るのが気になるが、パーティー組ませてダンジョンを潜らせて基準にするのにいいかもしれないな。

「わかった。その子供たちは人質として、エン・・・じゃなかった、リールと一緒に、獣人族の街に移動してもらう。いいな?」
「・・・はい。他のものは?」
「あぁさっき言ったとおり、この村で養育/教育を頼みたい。ダメか?」
「いえ、ダメでは無いのですが、養育といっても、食べる物が少ない村です」
「それは、”蕎麦”を獣人族の街に持ってきた時に買って帰ればいい」
「そんな事が?」
「できる」
「・・・アンクラムでは、私たちは商売ができませんでした。よろしいのですか?」
「ん?問題ないぞ。細かい事は、エン・・・じゃなかった、リールなら知っている。詳しく聞いてみるといい。任せていいよな?」

丸投げしてさっさと話を終わらせたいのだが・・・。終わりそうにないな。

「はい。大主様。それで、その・・・申し訳ありません」
「ん?何を謝る?」
「勝手に名前を・・・その・・・」
「あぁ気にするな。気づいてやれなくて悪かったな。これからは、リールを名乗れ。あとで、ライにも言っておくから安心しろ」
「はっ!」
「それから、一緒に居るドリュアスも名乗りができないと不便だろう?ルアーを名乗れ」
「よろしいのですか?」
「あぁ」

リールとルアーがこれからこの村との連絡係になる。

「村長。悪いな。6名の・・・孤児になるのか?リールとルアーに面通しを頼みたい。それから、子供の代金の計算も頼むな1年間子供を養育する費用も出せるのなら出してくれ、現物が良ければ、現物を運ばせる」
「え?」
「スキルカードで払ってもいいけど、カードだけ有っても腹は膨れないだろう?主食は、麦でいいよな?」
「え?あっはい」

村長。話の展開についてこられているか?

「リールとルアーを、しばらく村に滞在させます。彼らから詳細を聞いて欲しい」
「あっはい」
「そうだ、村長。大事な事を聞き忘れた。それで、買って欲しい子供の人数は?成人前だけだからな」

恐る恐るという感じで、若い衆の中から手が挙がる。

「あのぉ・・・子供に隷属のスキルを使われるのですか?」
「ん?裏切るのか?」
「いえ・・・違います。前に来られた人買いがそうしていたので・・・」
「ウーン。使っても、使わなくても、結果は変わらないからな」
「え?」
「だって、親の誰かが、子供可愛さに逃したら、俺は、蕎麦の買い取りを辞めるだけだからな。困るのは、俺ではなく、この村だろう?」
「あっ・・・」

奥に居た女性が手を挙げる。
挙手制にしたつもりは無かったのだが、手をあげて発言してくれている。わかりやすくていいな。

「子供がなにかやりたい事が有った場合にはどうしたら」

そんなの知らんよ・・・って思うけど、そうか、俺の所有物になるから、親が勝手に決めたりしたら問題になるのか・・・面倒だな。

こういう時は、必殺丸投げ!

「そうだな。その時には、獣人族の街までこさせろ。リールやルアーと一緒でもいいし、家族で来てもいい、獣人族の街で話を聞く、俺が居ない時は俺の代理が話を聞く事になる」

他にもいろいろ有るだろう。
この場で答えるのは面倒だな。

「リール。レベル6のスキルカード何枚持ってきている?」
「レベル6は、20枚です。レベル5なら、300枚ほど持ってきています」

500万相当か・・・。手付には十分だろう。
リールとルアーには、俺たちの手持ちを少し渡しておけばいいだろう。村を出れば眷属達で守られるだろうし、眷属がスキルカードを少しは持っているのだろう。

「村長。手付として、レベル7相当で5枚分置いておく足りなかったら言ってくれ」
「え?ツクモ様。それは・・・」
「子供の代金だ。考えがまとまっていない家族も居るだろう。考えがまとまるまで待ってやる義理はないからな。あっそうだ。子供は、俺の所有物になるのだから丁重に扱うようにしろよ。養育を拒否するような親が居たら、村長が責任もって処理しろ。いいな!?」
「はい。かしこまりました」

いつの間にか、村長の俺の呼び名が、”殿”から”様”に変わっている。
子供を持つ親がいろいろ話し合っているが、もう俺にできる事はない。

「リール。ルアー。後任せる。何かあったら、スーンに相談してくれ。スーンには、俺から話しておくようにする」
「はい」「かしこまりました」

二人が綺麗にお辞儀をする。

そう言えば、蕎麦って連作障害とかあるのかな?
まぁなったらなったで考えればいいよな。

さて、盛大な寄道になったけど、ミュルダに急ごう。

『大主様』
『スーンか?』
『はい。リールとルアーより連絡がありました。子供の受け入れはどういたしましょうか?』
『ミュルダ老と話しをして孤児院を作ってくれ』
『かしこまりました』
『どうせ、商業区や自由区には孤児が居るだろう?全員集めてしまえ!最終的には、ペネム・ダンジョンの階層1つを孤児たちに解放する』
『はっ身の回りの世話はどういたしましょうか?エントかドリュアスを付けますか?』
『それもいいけど、こういう時こそ宗教だろう?ミュルダ老に話をして、コルッカ教で人が出せないか聞いてくれ』
『かしこまりました。大主様は、運営費の提供を行うだけという事でよろしいですか?』
『そうだな。そうしてくれ、後・・・居住区にも、親を人族に殺された孤児が居るよな?問題がないのなら一緒にしたい』
『わかりました。居住区の代表たちと話をいたします』
『あぁ頼む。強制はするなよ?』
『はい。解っております』
『あっスーン。この村以外にも近隣に村があるのか調べてくれ、状況と合わせてな。特に、アンクラム周辺やサラトガ周辺だな』
『はい。かしこまりました』

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