【第七章 神殿生活】第二十三話 代表者
イリメリが連れてきた代表者との会合を持つことになった。
アデレード殿下は出席をしない。流石に、隠れ里のようになっていた者たちの前に殿下が出るのは、萎縮してしまう可能性が高い。同じ意味で、ルアリーナも最初の会合には参加しない。
イリメリは、案内をしてきたという立場で、会合には参加をしない。イリメリが口を出してしまえば、決定事項になってしまう事を恐れた。
ギルドは、ナッセが出席する。
他には、フリークス村の責任者として、ナナが出席する。
状況と全体の説明を行うために、セバスチャンが参加する。
俺は、参加しない。
イリメリが参加しないのとは違うけど、俺が反対の意見を出すと、その時点で会合の意味がなくなってしまう。ナナから指摘された。
会合の報告は、ナナから聞くことになっている。
俺は、神殿に新しく作った屋敷で待つことになっている。
予定していた時間を、3時間ほど過ぎてからナナが訪ねてきた。
「リン君」
「遅かったな?何か、問題があったのか?」
「問題と言えば問題ね」
「ん?」
「リン君。設備の順番で、劣っているのは?」
「魔境の廃墟だろう?水回りと簡単な家があるだけだ」
「そうね。次は?」
「フリークス村だけど、あそこは、ダミーの意味も強いからな」
「そうね。それで、神殿の中になるのだけど・・・」
「あぁ」
「リン君。リン君たちが住んでいた村と比べて、どう思う?」
「え?あっ。設備が整いすぎているのか?」
「そうね。明日・・・。違うわね。1時間後には、魔物が襲ってくる可能性が高い場所で、満足に水の確保が出来ない。寝るのも順番。食事も満足に出来ない。そんな状況から、この神殿に連れてこられたら、それはびっくりして事情を飲み込むのに時間が掛かるのは当然だと思わない?」
「そうだな。それで、まとまったのか?」
「えぇ廃墟は、やはり魔物が怖いという意見が多くて、子供も居るから・・・。中は・・・。いろいろな意味で忌避してしまってね」
「遠慮か?」
「遠慮とは違うわね。リン君が、宿に泊まったら無条件で最上級の部屋に通されたらどう思う?」
「わかった。それで?」
「代表者が集まって、話し合って、フリークス村に住むことに決めた」
「そうか・・・。廃墟の住民を集める必要があるな」
「それだけど・・・。リン君」
「ん?」
「奴隷で揃えるつもり?」
「迷っている。ただ、廃墟は、攻められる心配はないと思っている。ただ、内部に繋がる場所だから、裏切られる可能性を減らしたい。そうなると、眷属になるけど・・・。眷属では・・・」
「眷属と奴隷ならどう?」
「え?」
「奴隷だけで揃えるとしたら、王国中の奴隷を仕入れても無理だと思うわよ?それに、奴隷に内通者を潜り込ませる方法もあるわよ?」
「うーん」
「奴隷とリン君の眷属で運営をすれば、裏切られたら、眷属たちが廃墟の転移門を閉じればいいのでは?」
確かにナナの言っていることは正しい。
それでも、一定数以上の奴隷が必要になる。
そうか、セバスチャンのような人物が居れば、眷属に裏方を行わせることができるか?
俺が、廃墟の住民のことを考えていると、ナナがいつの間にか姿を消していた。
大筋の話は納得が出来たから問題には鳴らない。考えすぎていたのか?
ノック音で、現実に引き戻された。
「リン君。少しだけ時間を貰っていい?」
イリメリだ。
この場所を訪れるのは初めてじゃないか?
「いいよ?なに?」
部屋に入ってきて、入口で立ち止まって要件を伝えるようだ。ドアは開けたままにしているのは、イリメリらしい配慮なのだろう。
「祖父が、村長が、リン君にお礼を伝えたいらしいの?無視してもいいけど・・・。会ってくれたら嬉しい」
「いいよ。フリークス村?」
「今は、神殿のギルドで、ナッセさんと話をしている。どうやら、昔馴染みらしくて・・・」
「へぇ・・・」
そういえば、瞳の祖父は、韮山と知り合いだと言っていたな。仕事を一緒にしたとか・・・。
イリメリに案内を任せて、神殿に向かった。
「リン君」
「なに?」
「この世界・・・。ううん。なんでもない」
やはり、イリメリも気が付いている。
偶然とは考えられない。
しかし、そうなると・・・。
イレギュラーが割り込んでいる。
オイゲンの母親は、確かに山崎の所で働いている。しかし、直接的な繋がりがあるとは思えない。
カルーネやフレットやアルマールも同じだ。
もしかしたら、俺が知らない繋がりがあるかもしれない。そもそも、クラスのことは俺にはよくわからない。繋がりも希薄だった。
イリメリやフェナサリムの方が詳しいだろう。
イリメリの案内で、イリメリの祖父である代表者に面談した。
「君が、リン=フリークスか?」
「そうです」
頭を下げるのはおかしいので、名前を名乗りながら手を差し出す。
初老の男性は、嬉しそうに俺の手を握って名乗りを上げる。
ナッセが何か驚いているが、気にしてもしょうがないだろう。
本当に、お礼が言いたかっただけのようだ。
「リン=フリークス。君は、アゾレムや宰相と戦うのか?」
正直に言えば、苦手な人だ。
経験豊富な顔立ちで、まっすぐに俺を見て来る。観察されているような気分になってしまっている。
実際に、俺を計っているのだろう。
質問は、絶対に聞かれるだろうと思っていた内容だ。
答えも考えてある。下手にごまかしても信頼は得られない。
だから、正直に答えると決めていた。
「わかりません」
「どういう意味だ?」
「私は、戦いを望んでいません。ただ、私たちの計画が実行されたら、宰相は解りませんが、アゾレムやアゾレム一派は確実に、俺たちを攻めてきます。その時には、唯々諾々として奴らの要求を受け入れるつもりはありません」
自分たちからは攻めない。
アゾレムを攻める理由がないからだ。気に入らないからという理由で紛争に持ち込めば、奴らとやっている事が変わらない。だから、俺から、俺たちから、奴らを攻めることはしない。
「それは、私たちにも、武器を取れと言っているのか?」
「いえ、戦いは、私や私の眷属が行います。住民の皆さんの安全を保証します。とは、言えませんが、武器を取って戦って欲しいとも思っていません。それに・・・」
「それに?」
「私は、アゾレムかアゾレムの関係者か宰相の関係者に、父と母を・・・。やつらを殺せるチャンスがあるのなら、私は復讐の機会を逃すつもりはありません。実際に、私と妹のマヤはマガラ渓谷に落されました。復讐を考えるのには、十分な出来事だと思います」
「ははは。そうだな。リン=フリークス」
背筋が自然と伸びてしまう。
名前を呼ばれただけなのに・・・。
「はい」
「私たちは、ナナ殿とガルドバ殿の下で、戦闘訓練を受けたい。許可を頂けるか?」
許可?
俺が?
「え?戦闘訓練?」
「そうだ。有事の時には、私たちの住むべき場所を守る許可を頂きたい」
嬉しく思える。
”住む場所”だと言ってくれた。神殿に帰属意識を持ってくれるとは思えないが、村には帰属してくれるのだろう。
「もちろんです」
「それから・・・。有事の時には、戦闘に参加しない者を神殿内部に逃げ込む許可を頂きたい。子供が無事だとわかれば、先頭に参加する者たちも、安心ができる」
ナッセを見ると頷いていることから、もともと、子供や戦闘に参加が出来ない者たちを、神殿の中で匿う話になっていたのかもしれない。
そのうえで、ナッセが責任を持って、子供たちを育てる約束をしているのだろう。
「もちろんです」
代表者からの申し出は、俺たちにとってはメリットしかない。
細かい条件は、ナナに任せて大筋で話を決めれば十分だと言われてしまった。
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