【第三章 復讐の前に】第二十三話 連絡
バイトも再開した。
森下さんからの連絡で、学校の再開を知った。本来なら、教師が連絡をしてくるのが筋だが、どうやら俺には連絡をしたくないようだ。
自主休校を決め込もうかとも考えたが、学校に行くことにした。
学校側の妥協点を知りたいと思ったのも理由だが、別に同級生と仲良くなりたいとも思っていない為に、孤立しても問題だとは思えない。
それに、実習系の授業も再開される。
中止になっていた理由がなくなったという理由だが、中止になっていた理由の説明がない。
夕方のバイトに出かけてから、拠点とレナートに報告を行っておこう。
学校が休みだと思って、俺への依頼を考えている可能性がある。
—
「ユウキ」
転移で拠点に戻ると、ゲートの近くでヒナが何かメモを見ながら作業をしていた。
ヒナに誘われて、そのまま近くにある部屋に入った。
「レイヤは?」
「レイヤ?部屋に居ると思うわよ?呼んでくる?」
「いや、別にいい」
「そう?今日は、どうしたの?」
「学校が再開するから、状況を伝えに来た。何か、依頼があれば聞いておくぞ?」
拠点には、今川さんからも連絡が入るが、俺からも告げておこうと考えていた。
転移で移動するのだから、移動時間を考慮に入れなくてもいい。
「大丈夫・・・。だと、思う」
ヒナは、少しだけ考えてから”大丈夫”だと、言葉を続けた。
これが、サトシやレイヤなら他の人間にも確認をする所だけど、ヒナなら大丈夫だろう。それに、拠点で緊急な用事が出来た時なら、連絡はすぐにできる。
「わかった。週明けから、学校だから、依頼は行えない」
「わかった。レイヤにも伝えておく。レナートには?」
「この後に、行ってくる」
「そう・・・。丁度良かった。頼まれていた物を持っていって欲しい」
作業をしていた物なのだろう。
あの程度なら問題にはならない。拠点からなら、東京への移動も簡単ではないが、俺の家よりは近い。今川さんや協力者に頼めば車を出してもらえる。
それに、メモを確認しながら・・・。と、いうことは、面倒な買い物を依頼されたのか?
「わかった。まとまっているのか?」
「もちろん。5分ほど待ってもらえる?」
「了解」
ヒナが部屋から出て行って、部屋の時計で4分20秒後に戻ってきた時には、レイヤが大きめの箱を抱えていた。
箱の大きさから、かなりの量の物資が入っているのだろう。
ヒナが持ってくるのではなく、レイヤに持たせていることから、重量もあるのだろう。
「それか?」
「そう、各国の調味料の詰め合わせ」
ん?
調味料の”詰め合わせ”?
何度か、マイやイェデアに頼まれて調味料を持っていった。
特に、味噌や醤油は再現が難しい。あと、チョコレート・・・。本や機材ではなく、調味料?アイツら、何を”やる”つもりだ?
「調味料?」
「依頼されたのよ。ユウキ。忘れていない?レナートの建国祭が行われるでしょ?」
建国祭?
サトシが決めた奴か?
「あぁそんなイベントもあったな」
「そうなのよ。それで、サトシが・・・」
やはり発案は、サトシか?
「何か、やったのか?」
「発表があるでしょ?」
サトシとマイとセシリアの婚約発表と、サトシが次期国王になるという奴だな。
俺も出席を依頼されている。
まだ、半年ほど先だと思っていた。
スマホを取り出して確認をするが、やはり半年以上先だ。
文化祭とかと同じレベルではないから、準備に半年程度は必要なのだろう。
国の威信は・・・。別に、気にしなくていいのか?
レナートの場合は、友好国がないから、国内の有力者や国民向けのイベントになるだろう。
それでも、列席者の数は1,000を越える。
「そうだったな。俺にも帰ってこいと・・・。サトシから、催促が来ている」
「帰るの?」
「帰るよ。せっかくの晴れ舞台だからな。父さんや母さんも連れて行く予定だ」
サトシの晴れ舞台を見せたい人たちは多い。
特に、父さんと母さんと弟や妹には見せてあげたい。
「そう・・・。あっ。それで、サトシが、建国祭で、地球の料理を皆に食べてもらいたいとか言い出して・・・」
「アイツ・・・。マイは止めなかったのか?」
「止めようとしたみたいだけど、セシリアが・・・」
セシリアが乗り気になってしまったのなら、誰にも止められない。セシリアが絡んでいるのなら、ヒナとレイヤでは反対が難しい状況になってから依頼をしてきたのだろう。
「わかった。”各国”というのは、皆の郷土料理を出すのか?」
「うーん。とりあえずは、作ってみて、料理人たちに任せるらしいわよ」
「そうか。預かる」
レイヤから箱を受け取る。
かなりの重量がある。調味料と言っているけど、酒も入っているようだ。多国籍料理になってしまうけどいいのか?
一回限りなら、東京で購入して、送り届ければいいけど、レナートの食文化を考えれば、向こうの食材で作るようにした方がいいのだろう。
サトシの発案と言いながら、セシリアとマイがブラッシュアップを行っているのだろう。
いい落としどころだ。
—
早速レナートに転移した。
荷物は、レイヤが持ってきた物だけではなかった。既に、ゲートの近くに置かれていた。
確かに、建国際で使うのなら、必要な量が抱えられる程度で終わるはずがない。
食材なら日持ちを考えなければならないが、調味料なら長期保存が可能な物も多い。
「ユウキ!」
煩い奴に見つかってしまった。
「サトシか・・・。マイか、セシリアは?」
「執務室」
「ん?」
「まぁいい。調味料を持ってきた。倉庫に入れてあるから、後で確認してくれ」
「わかった。ユウキ。建国祭には来るよな?」
「あぁ父さんと母さんと弟や妹を連れて来る」
「え?大丈夫なのか?」
「ん?スキルか?」
「そう」
「大丈夫だ。抑える方法がある」
「そうか、ユウキが言うのだから大丈夫だ。マイとセシリアに会っていくか?」
「そのつもりだ。いつもの部屋か?」
「そう・・・。あっ。今日は、国王の執務室。解るよな?」
「あぁ」
サトシが案内をすると言い出すかと思ったが、逃げるように俺から距離を取った。
後ろを振り向いて手を振っていることから、逃げるのは俺からではなく、”執務”からだろう。今の国王に似なくていい所だけ似てしまっている。マイとセシリアの苦労が・・・。本人たちが楽しんでいるのならいいけど、地球に呼んで気分転換でもさせるか?
『ユウキ。いいわよ。入ってきて』
ノックの前に、部屋の中から声がかけられる。
セシリアのスキルだろう。常時発動型ではないので、多分俺が来るのを待っていたのだろう。
「セシリア。久しぶりだな。マイ。調味料を持ってきた。途中でサトシに会って、倉庫に入れてあると伝えておいた。後で、確認を頼む」
「わかった。ありがとう。それで・・・」
「建国祭だろう?空けておくよ」
「ありがとう!宰相には」
「それなら、来て、すぐに戻る」
「ダメ?」
「無理だ。レナートにも人材が居るだろう?」
「そうだけど、サトシの制御ができるのか・・・」
「それは、マイとセシリアの担当だ」
突き放すのがいいだろう。
俺が関わるのは、サトシが戴冠するまで、それ以降は表舞台に出ない。以前から決めていて、話していた内容だ。
「セシリア!無理よ。そうだ。ユウキ!」
「ん?」
「大陸の反対側の共和国を知っている?」
「あぁ俺たちに友好的な奴らが身を寄せた国だろう?それがどうした?」
「建国祭に来たいと連絡をしてきた」
「はぁ?どうやって?それに・・・」
俺の転移は隠しておきたい。
知られても、適当な言い訳は考えられるが・・・。そもそも、大陸の反対側からどうやって来るつもりだ?
「護衛を雇って・・・。とか、言っているけど、敵国を横断しなければならない上に、レナートの国境は・・・」
「それなら、”歓迎する”とだけ返事を出しておけばいいと思うぞ、あとは、セシリアの仕事だ。外交的に問題が無いように体裁を整えれば十分だろう」
「え?いいの?」
「別に”いい”と思うぞ?」
マイもセシリアも意外そうな表情をするが、別に転移が知られても問題にはならない。
煩わしいけど、実害はないだろう。転移を俺たちが独占していると文句を言ってきたら、それこそ、そいつらが独占している事を提供しろと言えばいいだけだ。絶対に頷かないだろう。アドバンテージを失ってまで地球に帰りたいと思う者たちがどれほど居るのか?
地球に戻っても、拠点や俺の家に近づかないような場所に放置すれば終わりだ。
他にも建国祭で問題になりそうな事柄の相談を受けてから、俺は地球に戻った。
レナートに来たついでに、ポーションの材料や、アインスたちの餌を大量に入手した。
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