【第二章 転生者】第十四話 協力者

 

 和葉から接触してきた。

 ”日本語”で書かれている事から、転生者で間違いはない。しまったな。アドラに、転生者は21名だけか聞いておくべきだったな。
 重久に、否定されても、和葉は、僕が転生者だと認識したのか?何故そう思ったのか聞きたい。魂が呼びあったからとか言われなければ、何かしらの対策が取れるだろう。

 風取り窓から外を見るが、誰の姿も見えない。和葉は、もうどこかに行ってしまったのだろうか?
 こういうときに、探索系のスキルがあると嬉しいのだけどな。

 考えてもしょうがない、明日、和葉が待っていると行っていた場所を見に行くことも考慮してみよう。
 1人なら、声をかけてもいいのかも知れない。もし、複数なら反応を見るべきだろう。時間の指定がない。うっかり忘れたのか、それともいつまでも待つという意思表示なのか?

 マヤに相談するにしても、どうやって打ち明ければいいのかわからない。
 僕が、転生者だって言って信じてくれるのか?無理だろうな。そうしたら、和葉の事は、説明できない。もし、マヤを置いて、一人で、和葉に会いに行こうとしても、絶対についてくると言い出すだろう。
 重久の店に預ける・・・には、理由がないし、向こうも不審に思うだろう。

 考えても、答えが出そうにない。
 マヤは、ベッドで気持ちよさそうに眠っている。狭いベッドの、マヤが寝ている横に身体を滑り込ませる。人肌が心地よい。

 ダメかと思ったけど、寝られそうだ。

 もういいや、明日考えよう。いろいろ考えすぎた。

/*** フェナサリム・ヴァーヴァン(重久真由) ***/

 夢に見た異世界。
 私は、王都で食堂を営む家の長女として育てられた。それに不満は一切ない。恵まれている方だと思う。

 なんとなく、凛くんを感じさせる男の子が居た。私と同じように、パシリカの後で頭痛や身体の痛みで立てない状況になっていた。とっさに、話しかけて触ってしまったが、後から考えたら危険な行為だったかも知れない。
 幸い。ジョブやステータスを見て、真命を見たけど、同級生ではなかった。凛くんじゃなかったのが少し残念に思えた。

 暫く、待っていると、同じように、立てなくなっている女の子を発見した。
 青い髪の毛が印象的な、黒目の美少女だ。いや、雰囲気から、美人だと言ってもいいだろう。私も、こっちの世界に来て、自分の理想な容姿になっているが、あんな美人ではない。私は、かわいい系だと思っている。

 話しかけようと思っていたら、向こうから話しかけてきた。

「だれ?」
「え?」
「ううん。違うのならいい。僕は、凛くんを探す」
「え?凛くん?神崎凛?」
「そう?それで?誰?」

 触ればいいと思ったけど、失礼に当たると、親からも教えられている。
 多分、この娘も同じように教育されているのだろう。

「僕は、鑑定を持っている。調べる事もできる。でも、したくない。僕は、鵜木和葉。多分、僕の事は知らないと思う」
「え?あっ私は、重久。重久真由。鵜木さん・・・は、白い部屋で、篠崎くんを連れて飛び込んだ娘だよね?」
「そう。重久さん。覚えていてくれてありがとう。それで、重久さん。ここに居ると目立つと思うけど?場所を移動する?僕は、ここで凛くんを探す」
「危険だよ?」
「解っている。凛くん以外にも、ゴミやクズが10人居る。奴らが、凛くんに害を及ぼすのなら、僕が奴らを殺す。今なら、ステータスの違いよりも、”殺す”という覚悟がある方が強い」

 ヤンデレ?それとも、なにか理由があるの?

「なん・・・で?」
「重久さんは、知らなくていいと思う。僕の気持ちの問題。それに・・・」
「え?」
「ううん。なんでもない。それで、僕以外は見つかったの?」

 ちょっと気になってしまう。
 私が、鵜木さんを知っていたのは、確かに、凛くんと一緒に飛び込んだ事もあるが、その前から知っていた。多分、彼女も私と同じなのだと思う。私が、凛くんを目で追っていると、必ずといいほど、鵜木さんと目線がぶつかる。
 彼女も、私と同じで、凛くんを目で追っているのだ。

 彼女の問いに素直にこたえる。

「そう?それで、あっ名前教えて、僕は、ミトナル=セラミレラ・アカマース。親しい人は、ミルと呼んでいた」
「あっごめん。私は、フェナサリム・ヴァーヴァン。両親は、フェムと呼んでいる。フェムって呼んで」

 手を差し出す。
 ミルは、手を握ってくれた。そこで、ステータスチェックを行うが、鵜木和葉と出ているので、間違いはない。

「それで、フェムは、どうするの?」
「どうするって、アドラの事?」

 1人の女の子が立ち止まった。

「アドラ?子供の?なんで?だれ?真由?鵜木さん?」

 どうやら、鑑定持ちの誰かだろう。女の子なので、バレても問題は少ない。それに、私の事を、真由と呼ぶのは限られている。

「だれ?」

 ミルが警戒心マックスで話しかける。

「あっごめん。私は、中里。中里沙菜。こっちでは、サリーカ・セトラス。セトラス商隊の隊長の娘です」
「僕は、鵜木和葉。ミトナル=セラミレラ・アカマース。親しい人は、ミルと呼んでいた」
「私は、重久真由。フェナサリム・ヴァーヴァン。フェムと呼んで欲しい」

「ミルと、フェムだね。サリーカと呼んでくれたら嬉しい。私、鑑定持ちで、アドラの名前を聞いて、鑑定しちゃったごめん。私のステータス確認して」

 そう言って、差し出された手を、私とミルが触る。
 たしかに、沙菜だ。これで3人。それに、鑑定持ちが見つかったのは大きい。触らなくても、真命の確認ができる。

「ねぇ、とりあえず、ここに居ても目立つから、私の親がやっている食堂に場所を移さない?」

 私の提案に、二人とも乗ってくれた。

 店はすぐ近くで、二階から、パシリカに向かう列や帰ってきた人たちを見下ろす事ができる。
 あとは、距離の問題で、サリーカが鑑定できれば、二階から見ていればいいし、もし距離的に難しければ、1階から見ていてもいい。店に向かう最中に、サリーカに相談して了承を貰った。鑑定が、どのくらい魔力を使うのかわからないので、実験しながら行う事になった。

 夕方近くになるまで1人も見つける事ができなかった。
 魔力の消費はそれほどでもないようだ。女子も、男子も見つける事ができない。今日はもう来ないのかも知れない。

 そう考えていた。
 二階から、見ていたときに、丁度昼間ぶつかって、ステータスを見た、リン君が宿屋から出て、こっちに向かってきた。リン君が居て、妹?さんの鑑定ができなかったようだ。しょうがないので、1階に降りる事にした。

 一言も喋っていないミルも一緒に降りてきた。

 丁度、注文をする所のようだ。

「あの人、エールじゃなくて、酒精がないものって言っているよ」

 確かに、状況的には黒に近いが・・・。

「あっあの人は、パシリカの時に、後ろに居て、ステータスを確認したけど、違ってたよ」
「そうなの?あっ確かに、違うね」

「おぃフェム。これ持っていってくれ」
「はぁ~い」

 お父さんから注文の品ができた声がかかる。
 おすすめ定食のようだ。

 リン君たちが座るテーブルに持っていく。
 テーブルの上には料金が置かれている。

「やぁフェム。食べに来たよ」
「おっありがとう。覚えていてくれたんだね」
「もちろん。こっちは、妹のマヤ。マヤ。こちらは、フェナサリムさん。ここの看板娘らしい」

 サリーカの方を向いて確認するが、違ったようだ。

「「よろしく」」

 仲良くできるのなら、仲良くしておきたい。

「ねぇリン。すごくきれいな人だね。どこで知り合ったの?」
「ん?何?ゴメン聞いてなかった」
「むぅ~。フェナサリムさんとはどこで知り合ったの?」
「あぁパシリカの時に前に居た人で、昨日この店に来た事を、覚えていて話しかけてくれたんだよ」
「へぇそうなんだぁリン。ああいう人が好きなの?」
「何、嫉妬しているんだ。そんなんじゃないよ」

 なにこの状況?兄妹って言っているけど?
 それに、なぜか、リンが凛くんと重なってしまう。自分でも不思議と不機嫌になってしまう。

「ねぇ本当に妹?」

 本当なら、座らないほうがいいだろうが、他に客も居ないし、この兄妹の事が気になる。同級生じゃなかったとしても、仲良くなっておいたほうがいいだろう。

「妹だよ。それ以外に見えるの?」
「どう見ても恋人同士にしかみえないよ?」

 妹の方は、嬉しそうだ。
 恋人同士だと思われて、嬉しいという感情が先に出てしまったようだ。

 そうだ、話をそらそう。

「暫くはニグラにいるの?」
「どうかな。パシリカが目的だからな。ちょっと訳ありだし、明後日には、戻る商隊があれば、一緒に行こうと思っているよ」
「そうなんだ。せっかく、マヤちゃんと友達になれると思ったのに・・・」

 友達になっておくのは問題は無いようだ。

「いいよ。友達になろ!」

 瞬間的に手を出してしまった。
 マヤと呼ばれていた、妹さんは、疑いもなく握ってくれた。

真命:マヤ・アルセイド(1)
ジョブ:森魔法師
体力:160
魔力:1200
腕力:80
敏捷性:450
魅力:220
魔法:黄魔法(2)、黒魔法(1)、青魔法(1)

 確かに、同級生では無いようだ。

 それにしてもリアルチートの持ち主なのだろうか?
 チート能力を持つ私たちよりも、魔力が上で、魔法が3つも生えている。

「うん。これからよろしくね」

 友達になるのは間違いでは無いようだ。

 リン君とマヤちゃんが、食事を終えて、宿屋に戻るようだ。
 店が混み合う時間ではないので、今のうちに、ミルとサリーカには、私の考えを説明しておいたほうがいいかも知れない。準備に3~4年かかるとしても、10年も運営していれば、名前は売れるだろう。

「ミル。サリーカ。それで、アドラの件だけど・・・上で少し話さない?」
「わかった」「うん」

/*** ミトナル=セラミレラ・アカマース(鵜木和葉) ***/

 重久さんは、女性陣を集めて、”ギルド”を作ろうと思っていると計画を話してくれた。
 その中で、代表を”凛”くんに頼みたいと話していた。協力を求められたが、考えを保留にさせてもらった。僕の命は、凛くんの物。僕は、凛くんが望むのなら、喜んで死ぬ。万が一、凛くんが僕を求めてくれたら、僕は僕のすべてを凛くんに捧げる。そんな僕が、凛くんが望んでいるかわからない事に協力する事はできない。

 重久さんと中里さんは、凛くんたちが帰った後に、パシリカが行われている場所に移動して、さらに、熱川さんと、静川さんと、韮山さんと、千葉さんと、清水さんを探して連れてきた。女性陣で残っているのは、松田さんだけになる。男性陣は、誰も解っていない。

 そう考えると、重久さんが、凛くんらしき人を見つけられたのは、偶然にしては出来すぎている。運命ということなのだろうか?

 重久さんは、違うと言っていたけど、間違いなく”神崎凛”なのだ。重久さんと、中里さんには言っていなかったけど、僕は”神崎凛”のステータスを知っている。ジョブも間違いない。真命が違うのは、なにか理由方法が有るのだろう。失礼だとは解っていたが、凛くんを鑑定した。妹さんも鑑定して、同級生じゃない事も確認している。

 重久さんたちに、断りを入れて、宿屋に戻った。
 偶然にも、僕の泊まっている宿は、凛くんたちが泊まっている宿だ。部屋の位置は把握している。僕が、1人でパシリカを受けに来たのにも理由があるが、凛くんたちも、兄妹だけで来たようだ、僕と同じような理由なのだろうか?それとも、もっと違う意味が有るのだろうか?

 僕は、1つの”かけ”に出る。重久さんに分けてもらった、羊皮紙に”日本語”でメッセージを書いた。私の名前だけを書いて、凛くんが泊まっている部屋に差し込んだ。明日、1日門で待つつもりだ。私の”かん”が外れていたら、凛くんは現れない。もし、何らかの事情があるのなら、妹さんと一緒に現れるだろう。僕が1人でいる事が解ったら、接触してきてくれるだろう。

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