【第四章 スライムとギルド】第七話 道中
「あ!」
主殿が、急に困った顔をしました。
「どうしました?」
「茜さん。私たちの家の場所は把握されていますか?」
言っている意味が解らない。解らないけど・・・。
「正確な場所はわかりません。大凡の場所は把握しています」
これで合っているのか不安ですが、他に言いようがありません。主殿の家の位置は、把握していますが、正しいか解りません。
「そうですか・・・。それなら、家への道は解りますか?」
「はい?」
「かなりの坂道です。私は、慣れているので大丈夫ですが・・・」
やっと、主殿が何を心配しているのか解りました。
確かに、あの坂道を上るのは、一苦労です。しかし、大丈夫です。
「それは大丈夫です」
「そうですか?途中で疲れたら言ってください。奥の手を使います」
「奥の手?」
「はい。茜さんならお見せしても大丈夫だと思いますが、あまり褒められた方法では・・・。無いので・・・」
怖いのですが、少しだけ・・・。本当に、少しだけ興味があります。
主殿が”褒められた方法”では”無い”という方法です。
「ありがとうございます。疲れたら、素直に言いますね」
「はい!」
こうして話していると、素直で可愛い女子高校生だとおもえるので不思議です。
それに、魔物を検知するセンサーが反応を示さなかった。円香さんに報告したら、怒られそうですが・・・。来なかったことを、しっかりと後悔して下さい。
主殿と並んで歩きます。
駅を背にして、左側に進むのは、解っています。道順も解っているので大丈夫です。
軽い上り坂になっている道を歩いて、古い歩道橋があるので、歩道橋で旧国道を渡ります。
狭く古い感じの道を歩きます。
主殿と雑談でも・・・。と、考えますが、主殿の周辺には、椋鳥や雀が寄っては離れていきます。凄く不思議な光景です。百舌鳥も居るようです。そういえば、百舌鳥は読みでは二文字なのに、漢字で書くと3文字なのは何故なのでしょう?
関係ないことを考えないと、直視した状況を忘れられません。
主殿の時に、寄ってきた雀が飛び立ったと思ったら、電撃を発して、草むらにいた蛇を撃退しました。
雀が攻勢のスキル?
「主殿?」
我慢できませんでした。聞いて、すっきりした方が良いでしょう。精神的にも・・・。ギルド的にも・・・。
「なんでしょうか?」
「先ほどの雀は?」
「あぁドーンですね。あっドーンというのは、雀たちの名前で種族名みたいな物でして・・・。家で、詳しく説明しますね。あっ!もしかして、ギルドで認識されていますか?動物が魔物化して、眷属にした時に、同種族は”族”扱いになって、一つの名前を共有するみたいなのですよね」
ダメでした。
一切、理解が出来ません。
”にゃにゃ”
”ニャウニャニャ”
「あっ。そうです。そんな感じです」
え?
主殿は、クロトとラキシと会話が成立するようです。会話ができる事もびっくりですが、クロトとラキシの説明もびっくりです。
クロトとラキシの話が本当だとしたら、主殿が言っている”族”は”氏”に近い感じがします。クロトとラキシは鑑定で確認ができるようなので、確認してみると、クロトとラキシが言っている通りになっています。
そもそも、”里見”はどこでスキルが知ったのか疑問があります。結婚して苗字が変わったら?いろいろ不思議です。
私の眷属になって、すぐには”氏”はなかった。無かったはずです。しかし、確認すると確かに”氏”と呼べる物が存在しています。
「それは、認識のタイミングだと思います」
「え?」
「ごめんなさい。声に出ていたので・・・」
恥ずかしいミスです。
頭で考えていた事を口に出していたようです。
「あっ。こちらこそ・・・。それで、”認識のタイミング”とは?」
「”シュレーディンガーの猫”と言えばわかりますか?詳しくは・・・」
もちろん、”シュレーディンガーの猫”は知っています。
そうですか、この手の話は孔明さんに渡して終わりにしましょう。私には、荷が勝ちすぎです。
でも、主殿の説明でなんとなく概要がわかりました。
言語化する能力が私には不足しているようですので、理解した内容は心に留めて、事象だけを円香さんと孔明さんに報告すればいいでしょう。主殿の説明もできるだけ思えておいて、補足で伝えれば大丈夫です。大丈夫だといいな。
ふぅ・・・。
精神的に疲れました。まだ、家についていないのですよ?
「どうしました?」
「え?また、声が出ていましたか?」
主殿は、申し訳なさそうな表情で頷いてくれました。
治さないとダメですね。
「少し先に、休憩できる場所があります。そこで、奥の手を使いますか?」
どうしましょう。
興味があります。
「お願いします」
主殿が嬉しそうな表情で、手を上げます。
どこに居たのでしょうか?アオサギ?
大きめの鳥が飛び立ちます。
うん。後悔しています。
「少しだけ待ってください。迎えが来ます」
「迎えですか?」
「はい!」
主殿の言葉から、10分くらい待つかと思ったのですが、実際には待ったのは2-3分でした。
しかし・・・。
リヤカーを大きい狸が曳いている。やっぱり、ダメだった。よく見ると、狸だけではない。ハクビシンとアライグマ?ダメだ。常識が崩れる。馬車が、あったのは解っている。狸車やハクビシン車やアライグマ車は、存在してはダメです。
それに、上空を見ると、浅間神社に来ていた鳥がいる。他にも、複数の鳥が・・・。
「・・・。主殿。犬は居ないのですか?」
「うーん」
「え?」
「犬は、眷属にはならないのですよね?」
「え?」
「まだ、私たちも検証が終わっていないので、解らないのですが・・・。あっ!そうですよね。ギルドで、検証を行ってくれれば!」
ダメです。ダメです。
絶対に、ダメです。
「茜さん!」
「はい」
諦めます。
「犬や馬など、主人と認めている者がいる動物や、人に恨みを持っている動物が、魔物になった時に、眷属にならずに、人を襲うようなのです。天使湖にも、犬が大量に居たのですが、あのあたりで捨て犬や多頭飼育崩壊を起こした場所とか無いですか?」
はい。
円香さん案件です。調べるのは私だとは思いますが、千明の方が適任かな?
「すぐには解らないので、調べてみます」
「お願いします」
「そうだ。リヤカーを曳いているのが、ギブソン。元は狸なのですが、眷属になって進化しました。巨大化というスキルを持っていて、実際には4-5メートルまで大きくなれます。ハクビシンのノックは、まだ進化は出来ていないのですが、複数のスキルを持っています。アライグマはもちろん」
「ラスカル?」
「はい。アライグマと言えば、ラスカルです!」
主殿も、あのアニメを知っているようです。
世代では、父親世代でも違うだろうとは思いますが、有名なアニメですし、知っているのでしょう。
「ラスカルは、2段階の進化が終了して、スキルは・・・。え?あっ。ごめんなさい。ラスカルのスキルは、2つだと思っていたのですが、最近、2つ増えて4つらしいです」
あぁスキルは簡単には増えないという常識が通用しないようです。
そもそも、スキルは増える物なのでしょうか?
主殿がリヤカーに乗り込みます。
私も、リヤカーに乗ります。複数の座布団があるのは、座っていいのでしょう。立っている状態では危ないのでしょう。ここからは、急な上り坂です。
もうクロトとラキシを出しても大丈夫だと判断して、二匹を出します。
「キャリーケース。預かりましょうか?」
「はい」
リヤカーに置くのかと思ったら、主殿がキャリーケースを触ると、虚空に吸い込まれるようにキャリーケースが消えました。
これが、アイテムボックス?欲しいです。凄く欲しいスキルです。
リヤカーは、スムーズに進みます。
狸とハクビシンとアライグマで大丈夫かと思っていましたが、問題はないようです。
私と主殿の体重が軽いからだと思う事にします。
リヤカーに揺られて10分くらいでしょうか?
主殿が上空に飛んでいるアオサギに合図を送ると、目の前に家が現れます。
確かに、不自然に認識ができない場所があったのですが、その場所が主殿の家の用です。
「やっぱり、不自然でしたか?」
「え?」
「それほど驚いていなかったので、家の位置が解っているのかと思いました」
正直に答えた方がいいでしょう。
「はい。なぜか、認識ができない場所があったので、不自然に思えました」
「ありがとうございます。やはり、スキルを持っている人には解ってしまうのですね」
あっ
また・・・。です。
記憶力を求められているように思えてきます。
「主殿?」
「はい?」
「スマホでメモを作成していいですか?」
「いいですよ?」
不思議そうな表情をしないで欲しい。
主殿の許可も貰ったので、しっかりとメモをして・・・。円香さんのお土産にします。
でも、まだ家に着いただけですよね?
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