【第十四章 侵入】第百四十六話
スーンにはすぐに連絡が付いて、実験区から素体を3体送ってもらう事になった。
方法はいたって簡単。ライの眷属に、スキル眷属化を使わせて、3体の素体を眷属化する。ライが、その眷属をスキル呼子で呼び寄せる。そして、呼び寄せた眷属が持ってきたスキル呼子で素体を呼び寄せる。
レベル6眷属化が3枚とレベル5呼子が3枚とレベル6変体が3枚使う、63万円(=日本円)の作戦だ。
贅沢な使い方だよな。レベル6眷属化じゃなくて、レベル5隷属化でもできるかも知れないけど、実験していなかったから、安全を見ないとな。スーンに、隷属化でも同じ事ができるのか確認させておくことにした。眷属化のスキルカードは枚数が少なくなってきているけど、隷属化は大量に保持できている。
さて、どうしようか。
ヨーゼフにゼーウ街を任せるのは確定事項になるとしても、急激な共和制への移行には反対なんだよな。君主制がいいとは思っていないけど、まずは立憲君主制とかがいいと思うのだけどな。そこから、徐々に君主の権力を弱めていけば、共和制に移行もできるとは思うけど、どう考えても100年仕事だよな。
いいや、俺が考える事でもないか・・・ヨーゼフに考えてもらえばいい。共和制にいきなり移行するもいいだろうし、立憲君主制に移行してもいいだろう。俺の考えを伝えて、ヨーゼフに選択させればいい。どちらに転んでも、俺たちがすぐに困る事体にはならないだろう。
統治をしたいわけじゃなかったのに、状況に流されるって怖いな。
頼られたら嬉しいけど、寄りかかってこられるのは嫌なんだよな。
ファビアンから提出させた、ファビアンたちが持ち出せたゼーウ街の収支表を見ていると、周期的に魔物の素材が入ってきている事になっている。
サラトガ区からの物以外でも入ってくるのなら、そっちから採取していればいいのになんで行わなかったのか?できなくなった理由でもあるのか?
ゼーウ街の地図も頭の中に入ったし、作戦の変更をスーンからルートガーに伝えたから大丈夫だろう。
俺が直接統治しない事になったので、ルートガーも少しは納得してくれるだろう。
「シロ。準備も終わったから、少し街の中を歩くけど来るか?」
「もちろんです。僕は、カズトさんの、その、あの、奥さんです!」
その宣言を、照れながらじゃなくて言えたら合格だと思うのだけどな。
シロにしては頑張ったと思う。
流石に敵地を歩くのに、シロと二人っきりというわけには行かない。
「リーリア。ステファナ。レイニー。一緒に来てくれ、オリヴィエは、カイとウミとライで馬車の護衛と、グレゴールたちの監視を頼む」
それぞれが返事をしてくれる。
『主様。ウミかライだけでもお側に』
『そうだな。ウミ。来てくれるか?』
『もちろん。カイ兄。行ってきます』
『ウミ。頼みましたよ』
レイニーがウミを抱きかかえて移動する事になった。
ハーフとはいえ、猫族にとっては、伝説級のフォレストキャットを抱きかかえる事は、”誉”のことのようだ。ウミも喜んで抱きかかえられている。
シロは俺の後ろを歩いていたが、横を歩かせる。腕を絡めてゼーウ街の散策を行う。要するに、夫婦(予定)での散歩だ。
シロが気持ち悪い位に機嫌がいい。
路面店を見て回って、”可愛い”だとか言ってはしゃいでいる。確かに、普段なら俺とシロの間にはエリンが居る事が多いが、今日は宿で寝ている。今日の夜に救出作戦を行うと説明したら、作戦に参加するから昼間は寝ると言っていた。
「カズトさん。あれは?」
何か見つけてはそう聞かれても、俺がなんでも知っていると思っているのか?
鑑定で調べて、説明しているが、途中から面倒になって店主に聞くようになった。
少し離れた場所から監視されているのもわかっている。シロ・・・は、気がついていないかも知れないが、ステファナとレイニーは気がついているし、リーリアは武器を触っている。
「3人とも大丈夫だ。敵意はまだ無いようだ、どちらかの陣営の監視だろう。俺たちの事が気になって仕方がないのだろう。シロも楽しんでいるようだし、無用なトラブルはさけよう。時々振り向いて、俺たちが気がついている事を知らせる程度でいいぞ」
3人はそれで納得してくれたようだ。
街の散策で、いろいろと珍しい食材を知れたのは嬉しい誤算だ。
ワサビが存在していた。海からの素材も手に入っているから、寿司が食べられる。酢は作ればいいし、夢が広がる。珍しい花も売られていた。食用になっている物もだけど、ただ単純に飾るための花が売られていたのには正直びっくりした。この街は富裕層が多いのかも知れない。店主が言うには、毎日ではないが数日で花が売り切れる事もあるという事だ。花までは気が回っていなかったな。今度、シュナイダー老かリヒャルトに・・・カトリナ辺りのほうが無難だろうか?聞いてみよう。スーンに聞けば花も仕入れられるかも知れないからな。ヌルに聞いたほうがいいかも知れないな。
昼過ぎまでこうして、散策していたのは、昼寝をするためだ。
身体を疲れさせて、作戦決行の時間まで寝ているためだ。
夜の作戦は、少人数で行う。俺とシロとライとオリヴィエとファビアンだけだ。最初は、シロも置いていく予定だったが、リーリアから”奥様がグレゴールらに捕まり人質になると困ります”と言われてしまっては、連れて行くしか無い。捕まることは無いとは思っているが、万が一を考えるなら、俺と一緒に行動している方が安心できる。
リーリアとステファナとレイニーは、留守番して俺たちのアリバイを作る事になっている。具体的には、偽カズトと偽シロをリーリアが操作する事になっている。エリンとカイとウミが留守番なのは、夜に馬車が襲われた時の対応だ。実際にはノーリたちが居るので襲われそうになっても対処は可能だが、カイとウミがいれば安心できる。
最初、エリンはついてくる予定だったが、作戦的にエリンの火力は必要ないと判断した事や、エリンがカイとウミと一緒に居ると言ってくれたので留守番をお願いする事になった。
部屋に帰ってきて、湯浴みをする。
ステファナとレイニーが手伝うと言ってきたが、シロが今日は大丈夫と言って断っていた。
1人でできるようだし、気にしてもしょうがないだろう。
「カズトさん」
呼ばれて後ろを振り向くと、シロが全裸になっていた。
「シロ。なに?」
「湯浴み致しましょう?」
可愛く疑問系にされても、そんな話になっていないと思いたい。
思考が加速しない。
「ほら」
そう言って、シロが俺を立たせて、服を脱がし始める。
「わかった、わかったから、先に行ってろよ。脱いだら行くからな」
「はい!」
何がそんなに嬉しいのかわからないが上機嫌が止まらない。
昨日と同じ様にシロを熱いお湯に濡らした布で拭いてやる。シロも俺の背中を拭いてくれる。前も拭こうとしたが今日は自分でやる事にして手が届かないところだけを頼んだ。
あれ?やられた!
シロを見るが、当然というような雰囲気を出している。
湯浴みをしている最中に、ステファナかレイニーが部屋に入ったのだろう。脱いだ物を片付けてしまってる。スキル収納に替えの下着くらいは入っているが・・・俺も甘いなと思いながら、全裸でベッドに入る。
慎まやかな物でも全裸の状態で押し付けられたら意識してしまう。
意識してしまった事がわからないように、背中を向けたのが悪かった。そのまま抱きつかれてしまった。
「カズトさん」
「ん?夜の作戦なんだから寝ろよ」
「うん・・・ううん。なんでもない。おやすみなさい」
シロが身体を少しはなす。向きを戻したら、目の前にシロの顔がある。
目を開けて俺を見つめている。
「キスだけだぞ」
「うん!」
シロが抱きついてきて、唇を合わせる。一度だけ深くキスをした
「おやすみなさい」
「あぁおやすみ」
腕に抱きつかれたが、そのまま寝るようだ。
—
陽が陰ってきているようだ。
ガラス窓がないので、実際には、どうなっているのかわからない。寝るときに灯したランプが消えている。3時間位は寝ていたのだろう。
シロが気に入って買った花が吊るされている。
生花をそのまま持って帰られそうになかったので、ドライフラワーにしてみる事を思いついた。数時間で変わるような事は無いのだが、スキルが存在する世界だ。生花を包み込むように結界を発動して、その中にレベル6速度超向上を発動する。
タイミングが難しいが、ドライフラワーになりそうな少し前にスキルを停止する。
これであと数時間もすればドライフラワーになるだろう。
「カ、カズトさん」
シロが起きて、俺が寝ていた場所をパタパタ手で叩いている。俺を探しているのか?
そんな泣きそうな顔しなくても、置いていったりしないぞ?
「わるい。うるさかったか?まだ寝ていていいぞ?」
「だ、大丈夫です。僕、カズトさんに」
「ん?何もしてないと思うぞ?」
明らかにホッとしている。
何かした夢でも見たのか?まぁ突っ込むと可哀想だからそのままにしておこう。抱きまくらになっていた足が少し湿っていたとか言わないほうがいいだろうな。
「シロ。綺麗な身体を見られて俺としては嬉しいけど、起きたのなら、下着くらいつけろよ」
「え?あっ!」
一部布団に隠れるがしっかりと見えてしまっていた。
下着だけではなく、冒険者風の服も揃って置かれていた。リーリア辺りが準備したのだろう。
シロが冒険者風の姿になってから、リーリアを呼び入れる。
「リーリア。ありがとうな」
「ご主人様のサイズは大丈夫なようですが、奥様は少し手直しが必要ですね。申し訳ありません」
「だいじょうぶ・・・じゃないみたいだな。リーリア。手直し頼めるか?」
って、絶対にわざとだろう?
袖の長さも、裾の長さも、肩幅もぴったりなのに、胸だけブカブカになっている。
シロが何かリーリアに言っている、そして言い返された。服を脱いで、リーリアに渡している。なぜか、ズボンも脱いで渡しているウエスト部分が合わなかった様だ。
そして、下着姿のままベッドに入り込んで、俺を見ている。何を期待されているのかわからない。
リーリアからヒントの念話が届く
『ご主人様。奥様を抱きしめていてください』
『はぁ?』
『寒いと思いますので、ベッドに入られたのですよ?』
チラチラ俺を見ていたのはそういう事だな。
シロの後ろに周って、布団ごとシロを抱きしめる。
リーリアの手直しは、10分位で終わった。
なぜそんな事をしたのかも少しだけわかった。リーリアたちから見たら、俺とシロはスキンシップが足りないのだ。こんな小細工までしてくれたのだ、リーリアたちのためにもしっかりとスキンシップを楽しむ事にしよう。シロが安定してくれるので、俺としても動きやすくなって嬉しい。
手直しされた服をリーリアがシロに着せている。
夕ご飯を食べてから、抜け出す準備を始めて、待ち合わせ場所まで移動するのに丁度いい時間くらいだろう。
「リーリア。ルチに食事ができるか聞いてきてくれるか?」
「かしこまりました」
リーリアが部屋から出ていく
『ライ』
『なぁに?』
『スーンに連絡して、偽カズトと偽シロを送ってもらってくれ。後、3素体の準備もしておくように伝えてくれ』
『わかった』
リーリアが戻ってきたようだ。
「ご主人様。いつでも大丈夫という事です。こちらに持ってくる事も出来るようです」
「そうか、それなら、リーリアには悪いけど、こっちに持ってきてもらえるか?」
「かしこまりました」
「それから、オリヴィエも来るように伝えてくれ」
「はい。承りました」
作戦は至って簡単。
ライが先に窓から出る。下でキングサイズになる。俺とシロとオリヴィエがダイブする。
抜け出した後はリーリアが上手く偽カズトと偽シロを操作すればいい。
盛っているようなら、そのまま好きにやらせればいい。声が出ているようなら、グレゴールも上でやっていると思って俺たちが抜け出したとは思わないだろう。
「ご主人様。お食事をお持ちいたしました」
「わかった。シロ!頼む」
「はい」
シロがドアを開ける。
ルチが見ている事を考慮して、偽カズトと偽シロを隠す。
スーンの奴服くらい着せてよこせばいいのに全裸のままだ。それに、偽カズトと偽シロも俺たちにそっくりに作り直している。身体の細部のサイズは違うがそれでも見分けがつかないようになっている。それが全裸で布団の中で盛っている。あまり、人に見せたくない光景だ。
人間は知恵と理性がなくなると動物以下になるという証左だ。
結界と防壁で今は声が漏れないようにしているが、リーリアだけになったら解除するように言ってある。
操作権限もリーリアに与えてあるので、何か有っても大丈夫だろう。
リーリアがドアを閉めた事を確認して
「シロ、ライ、オリヴィエ。行くぞ」
外はすでに暗くなっている。真っ暗と言うわけではない。街灯が有るわけではないが、月明かりで十分明るさがある。明るい場所ばかりではない、闇に閉ざされた場所も存在する。
ライがそこに飛び込んで、念話で俺たちに大丈夫と伝えてくる。先にオリヴィエが確認のために飛び降りた。次に、俺がシロを抱えて飛び降りる。シロをお姫様を抱きかかえるようにして飛び降りた。悲鳴をあげたいのだろうが、しっかりと我慢できていた。地面におろすときに、軽く頭を撫でてやった。
待ち合わせ場所までは、10分位だろう。
闇の中を移動した。夜遅くなっても、人が全く居なくなっている状況ではないが、昼間に比べると圧倒的に少ない状況だ。俺もシロもオリヴィエも十分目立つ容姿をしている自覚はある。冒険者風の服装にはしているが、それでも目立ってしまう。そのために、なるべく人目につかない場所を移動する事にした。
待ち合わせ場所にはすでにファビアンが待っていた。
ルチが潜り込めると言ってきた場所ではなく、ファビアンがスラム街の連中を使って調べたり工作して、領主の館の地下に繋がる通路を完成させた場所だ。
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