【第六章 ギルド】第九話 ギルド(仮)本部では

 

 リンがマガラ神殿で、マヤとミトナルが起きるのを待っている頃。
 王都では、いろいろな事が発生していた。

 王都の一等地に立つ店舗のような建物の中にある。一つの部屋で、女性だけ8人が集まって会議をしている。

「ルナ。それで?リン君たちはまだ見つからないの?」

 王国に初めてできる組織の方向性を決める会議をしていた。先ほどまで、次期国王であるローザス王子とハーコムレイ次期辺境伯とギルドが正式に認められた場合に、ギルド長に内定しているナッセ・ブラウンと人材面のサポートを行うアッシュ・グローズが参加していた。
 それだけでも、ギルドという仕組みを王国が興味を示しているのか解る。会議には、参加はしていなかったが、教会関係者である枢機卿の一人でもあるリンザー・コンラートが最初だけ顔を出した。

 会議は無事に終わって、今は設立メンバーである8人だけが残って、会議を行っている。

「商隊経由で調べたけど、情報が錯綜しているわね」

 8人の中では、リン・フリークスは、神崎凛だという認識で一致している。
 本人が隠しているので、追及はしないと約束している。リンが危険に晒されていると聞いて、ミトナルが、何も言わずに後を追った辺りから、確信に変わった。そして、ギルドの話にも協力的なことなどから、確実だと考えていた。
 日本に居た頃の、神崎凛を知っている者たちは、リンが慎重になっている理由も解っている。解っているからこそ、リンが自分から言わない限りは、神崎凛だと言わないことに決めた。幸いな事に、凛とリンで呼び名が変わっていない。そのために、混乱はしないで済むと考えていた。

「サリーカ。どういうこと?」

 サリーカは、自分が属している商隊の情報収集能力を使って、リン・フリークスの情報を集めた。
 しかし、集められる情報は、”フリークス”は、フリークスでも、ニノサ・フリークスの情報だけだ。騎士団に属していた過去や、貴族への推挙を断り、姫君を攫って逃げた極悪人だとか、陛下に忠節を誓い。陛下からの命で、姫君を逃がした。その先で、姫君を静かに暮らしている。姫君も、自らの騎士であるニノサを頼りにしていた。宰相からの執拗な求婚を煩わしく思い、恋仲であったニノサ・フリークスと駆け落ちした。
 いろいろな話が集まったが、リン・フリークスやマヤ・フリークスの情報は、何も集まらなかった。

「関係しそうな所は、リン君の産まれた村。あとは、アロイにある三月マーチラビットという宿屋の店主くらい」

「その宿屋は?」

「ナナさんという人が切り盛りしているけど、パシリカに来る時に、リン君とマヤちゃんが立ち寄った宿屋。ナナさんは、リン君のご両親とも面識があるみたい」

「へぇ何か知っている可能性があるのね」

「それが解らないのよね」

「え?」

「リン君とマヤちゃんは、村に帰る途中で、マガラ渓谷に落ちたと言われている」

「うん」

「でもね。リン君とミトナルを、アゾレムの領都で見たという商人が居たり、村で見たという商人が居たり、森の中で魔物に囲まれていたのを助けられたという商人がいたり、様々な情報がある」

「え?でも、おかしくない?」

「ん?フェム?なにが?」

「商人が、いろいろな所に居るのは解るけど、リン君が移動するには、距離がありすぎない?どれか、一つなら、マガラ渓谷から急いだと思えるけど・・・」

 この世界には、明確な地図は存在しない。
 町から町。町から村。村から村。それぞれの移動に掛かる時間で、大凡の位置関係を把握している。
 商隊は、それらの相対地図を頼りに、移動を行っている。森を突っ切れば早いとか、現実的ではない移動手段は省かれる傾向にある。そのために、サリーカは、位置関係を誤解していた。そんなサリーカの地図を見ながら議論をしている8名は、リンの噂がおかしな事になっていると考えた。

「確かに不思議ね。リン君で間違いはないの?」

「それが不明確なの。ただ、ミトナルの目撃情報は、間違いはないと思う。三月マーチラビットに入っていった所や、森に居た所を見られている」

「でも、そうなると、マヤちゃんが居ないのが不思議よね?マヤちゃんが、リン君から離れるとは思えない」

 不確かな情報からの想像だ。
 答えに辿り着けるはずがない。

 8名の全員が、リンの心配をしているのは、間違いではない。しかし、心配の度合いが違う。8名の半数の5名は、マガラ渓谷の探索をするために、すぐにでも王都と飛び出したいと思っている。他の3名は、同じように心配はしているが、無事なら王都に戻ってくると考えていて、探しに行って、自分たちが、マガラ渓谷に飲み込まれるほうが問題だろうと考えている。そして、飛び出していきたいと思っている5名も、残りの3名の言葉が正しいと認めている。
 自分たちがやらなければならないのは、ギルドの設立と制度設計。そして、自分たちのレベルアップだ。

 レベルアップは必須だと考えている。

「リン君は、ミトナルに任せるとして、私たちは私たちの事を考えましょう」

 イリメリが、皆をまとめるように話題を変える。実際には、イリメリが飛び出したい気持ちになっているのだが、リンから託された物も多い現状では、ギルドを放置して王都から離れられない。

 ギルドは、本格稼働に向けて順調に進んでいる。

 それに平行して、ミヤナック辺境伯家による、宰相派閥の追い込みも行われている。裏で、ギルドのメンバーが動いているのは、ローザス一派でも一部の者にしか知らされていない。
 リンからもたらされた情報は、宰相派閥の動きを牽制するのには十分な効力を発揮した。
 ダメージを与えるには至っていない。宰相たちは、下級貴族の何人かをスケープゴートにして逃げ切る方法を模索している。王国の病巣は、まだ根深い。

 宰相派閥とローザス(現王家)派閥の暗躍は、教会を巻き込んだ派閥闘争に発展した。

「フェム。大丈夫なの?」

「どうだろう?それよりも、カルーネとアルマールの店は、ギルド内に作る?」

「うーん。ギルドの横にしようかと思っている」「私も」

「そうね。ギルドとは別にしておいた方がいいかもね」

「そういえば、タシアナ。寮を作るよね?」

「うん。もう、手配してある。今週末には入寮できる」

「了解。ルナはどうする?」

「もちろん。入寮するよ」

「え?いいの?」

「うん。反対されたけど・・・。押し切った。それよりも、フレットの方が、難しいよね?聖女さま?」

「もう。私は大丈夫。役目は無くなったよ。ステータスが、どう見ても聖女じゃないからね」

「ははは。ずるいな。リン君に偽装してもらった結果でしょ?」

(パン!パン)

 クラスに居た時と同じように、イリメリが手を叩く。
 姦しかった雰囲気が、手の音で元に戻る。

「はい。はい。タシアナ。寮は任せる。ナッセさんと話し合って決めて」

「了解。皆の部屋は?」

「任せる。いいわよね?」

 皆が頷く、別にこだわっているわけではない部屋があれば文句を言わない。

「リン君とミトナルの部屋は?」

「確保しておきましょう」

「わかった」

「ルナは、引き続き、宰相派閥の動向のチェック。もしかしたら、茂手木くんの足取りが掴めるかも」

「了解」

「フェムは、ギルドの受付と内装をお願い。サリーカとカルーネとアルマールは、フェムを手伝って」

 4人が了承の返事を上げる。

「フレットは、教会からのアプローチをお願い。茂手木くんが、このゲームのジョーカーになってくると思うの・・・」

「わかった。奴らの動向は?」

「私が・・・。と、立候補したいけど、力不足だから、私は、王都周辺の聞き込みをしてこようと思う」

 皆が了承の返事を上げる。
 これで、今日の会議は終わりだ。

「次は、リン君かミトナルが帰ってきたら、臨時会議を行うけど、何もなければ3日後に集まろう」

 皆が頷く、連絡方法はいくつか用意されている。
 3日後に、情報を持ち寄ることで、無駄を減らそうとしている。

「予定では、5日後に、討伐部隊が近隣の森で間引きを行う。それには参加しようと思っている。皆、準備をお願い。負担が掛かるけど、アルマールとカルーネは無茶にならない範囲で対応をお願い」

「「了解」」

 この後は、個別に相談したことを各自で相談する時間となる。
 飲み物やお菓子を持ち寄って、情報交換を行って、三々五々に部屋から出て行った。

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