【第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国】第一話 ヤスの帰還
ヤスはセミトレーラを地下に停めた。
「セバス。コンテナの開け方はわかるよな?」
「はい。旦那様」
「降ろすのも大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。セミトレーラの切り離しもマルス様から覚えるように言われております」
「そうか、トラクターとトレーラを切り離して、工房に移動しておいてくれ。コンテナは降ろして、物資は皆に提供してくれ、方法は・・・。ドーリスは居ないか?サンドラとミーシャとセバスでやってくれ」
工房に持っていくのは改造ではなく、メンテナンスのためだ。本格的な移動を行ったので、トラクターにダメージが出ているのか調べるつもりなのだ。
マルスには、地下に入れる前に指示をして、修復はしないように言ってある。ヤスが気になったのは、接続部分とタイヤへのダメージだ。もし、ダメージが多いようならセミトレーラでの運搬は考える必要が出てきてしまうためだ。
「かしこまりました」
「頼むな。俺は、マルスと話をする。リビングに居るから誰か付けてくれ」
「わかりました」
セバスの合図でメイドの1人が一歩前に出る。ツバキが出ているために、別のメイドがヤスに付くようだ。
「エイトです。旦那様」
ヤスは、ツバキ以外のメイドの区分けがあまり出来ていない。そのために、ヤスの身の回りをする場合には、先に名乗るように言ってある。
「わかった。エイト。まずは、簡単に食べられるものを用意してくれ」
メイドたちは知識の共有ができているので、ヤスの好きな食べ物や飲み物はよく解っている。
それだけではなく、声の調子や言い方で出すメニューを選ぶようにもなってきている。
「かしこまりました。旦那様。何かお飲みになりますか?」
「冷えた果実酒を用意してくれ、なんでもいい」
「りんご酒がドワーフたちから献上されています」
マルスが提供した技術や神殿という特殊な環境で酒造りを行っているドワーフたちは寝る間を惜しんで器具を作成した。素材に関しても、魔の森や神殿の内部に採取に出かけている。
そして、マルスから提供されている技術書はヤスの知識や情報が元になっている。
「りんご酒ならロックで欲しい」
「かしこまりました」
エイトがキッチンに向かった。そこから、地下に作った食料庫兼酒蔵に降りた。新しく作った通路だ。そこから、食材とりんご酒を持って帰ってきた。
ヤスは、リビングのテーブルに座って端末を起動する。
神殿の様子が表示される。
討伐ポイントの収支に問題はない。プラスに傾き始めている。しばらくは、何かを建てたり、上下水道工事をしたり、門を作ったり、土木作業の必要はない。マルスからの報告で、カートもすでに50台ほどが準備されている。それだけではなく、自転車は希望に配ると決めたら皆が希望した。ひとまずは一家に一台で自転車を配った。ヤスが考えなしで作った区画で、生活に不便な部分も出てきてしまっている。
それらを解決するために、定期運行のバスを走らせたのだが、住民はバスよりも自分の力で動かせる自転車を好んだ。
マルスがセバス経由で住民にした約束は”大通りとバスが運行する場所では自転車に乗らない”だけだ。元々神殿から持ち出すのは不可能なので、それだけで十分だと判断した。大通りとバスが運行する道路はわかりやすく一段高くなるように盛り土を施した。
「マルス。何か報告はあるか?」
『マスター。個体名ドーリスと一緒に来る。幼体はどうしますか?』
「話を聞いてからだな。あ!アフネスに会ったときに孤児に関して聞けばよかった・・・。まぁいい。マルス。サンドラとディアスはカート場か?」
『・・・。個体名サンドラはギルドに移動しています。個体名ディアスは自宅に戻っています』
「わかった・・・。でも、もう遅いから、今日は寝るかな?」
『お休みください。物資の分配を勧めておきます』
「わかった。頼むな」
『了』
ヤスが立ち上がって部屋に戻ろうとした所で、エイトが声をかけてきた。
「旦那様。お休みの前に、湯浴みはどういたしましょうか?」
「そうだね。汗を流すか・・・。風呂の準備を頼む」
「かしこまりました」
ヤスは、ダメだと解っていながら、りんご酒を煽ってから風呂に向かう。
すでに準備が終わっているところを見ると、エイトは準備が終わってからヤスを声をかけたのだろう。
ヤスは、風呂で疲れを洗い流してからベッドに入った。すぐにベッドからはヤスの寝息が聞こえてきた。
—
「ドーリス様。このまま神殿まで行けますが、どうしましょうか?」
ツバキは、後ろで寝息を立て始めている子どもたちを見る。
「そうね。門では起こさなければならないわよね?」
「もうしわけありませんが、審査は受けてもらいます」
「それなら、どこかで停めてもらって、朝になったら審査を受けさせたほうがいいかな」
「わかりました。ユーラットの駐車スペースに停めます。ドーリス様はどうされますか?」
「ん?」
「ユーラットの中でお休みになりますか?後ろのスペースでお休みになりますか?」
「子どもたちが起きた時に私が居たほうがいいだろうから、アーティファクトの中で休ませてもらいます」
「かしこまりました。毛布が後ろに積んであります。寒くはないと思いますが、使ってください」
「ありがとう。ツバキは?」
「私は大丈夫です」
ドーリスも身体は大丈夫なのだが、心が疲弊していた。
毛布を持って、後ろの開いているスペースに丸まった。1分もしないでドーリスから寝息が聞こえ始める。
ツバキは、皆が寝たのを確認してから、外に出る。
『マルス様。幼体の確保及びドーリスの救助が完了しました』
『マスターには、幼体を付けていた連中が居たのは秘密にします』
『かしこまりました。始末はどうしますか?』
マルスとは違う声が割り込んできた。
『”7名の生命反応の消失を確認。4名の確保に成功。逃亡者0名”』
セバスの眷属からの報告をマルスがツバキにも流す。
ヤスもドーリスも気がついていなかったのだが、孤児たちを付けていた者が居たのだ。どこから付けてきたのかはマルスにもわからないが孤児たちを狙っていたのは間違いない。ヤスの到着がもう少しだけ遅かったら孤児たちは殺されていたか、攫われていただろう。
レッチュ領の商隊が居る時には襲わなくて、子どもたちだけになってから襲うつもりで居たのだろう。数日間は見逃していたのは、指示を出していた者が別にいるのか、万全を期した結果なのだろう。
『マルス様。すぐに戻った方がいいですか?』
『大丈夫です。そのまま結界を維持して戻ってきなさい』
『かしこまりました。探索の必要はありませんか?』
『すでに、個体名栗鼠が眷属を放っています』
『わかりました。バスの周辺を警戒します』
『お願いします』
—
『セバス様。追跡者の痕跡はありません』
『わかりました。関所付近まで足を伸ばしてください』
『かしこまりました』
『捕縛した者たちは、至急神殿に運んでください。旦那様が眠られている最中に尋問を行いましょう』
『はっ』
「マルス様。関所に門を設置できませんか?」
『マスターに進言しましょう』
「マルス様。サンドラにも話を聞いたほうがいいかと思います」
『そうですね。今後の展開を考慮する必要があります。個体名サンドラ。個体名ディアス。個体名ドーリスに話を聞きましょう』
「わかりました。場所はどういたしましょうか?」
『最深部につれてきてください。3名なら資格があります』
「わかりました」
マルスは、セバスにドーリスが戻ってきたら伝言を預けるように伝えた。
タイミングは3人に任せたようだ。
『確保した4名の尋問を始めます。準備をお願いします』
「かしこまりました」
気絶した4人を連れてセバスの眷属が神殿に戻ってきた。
始末した者たちは、関所近くの眷属の栄養になってもらった。武器や防具の装備品は全部を持ってきているのだがそれほど良いものは持っていない。
4人は、これから尋問という名前の拷問を受ける。
孤児を狙っていたのだが、ヤスが保護を公言した段階で、マルスだけでなくセバスや眷属たちは全員が襲撃者たちを”敵”として認識している。
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