【第三十一章 本腰】第三百十二話
雑談だったが、船長から有力な情報を貰った。
船長には悪いとは思ったが、ルートガーを含めて正式に話を聞く場を設けた。
そこで、ルートガーにも情報が伝えられた。
船長が、俺が使っている船室から出た。船長を何時までも拘束していては、船の運航が滞ってしまう。俺たちの安全を考えて、話は俺から質問をして、短時間で終わらせた。雑談を含めると、かなりの時間、船長を拘束してしまう結果になる。それに、ルートガーは雑談が苦手だ。
船長は、問題はないと言っていたが、俺たちの安全の為に、通常業務に戻ってもらった。
今の所、考えられるのは、偶然にしろ、狙ったにしろ、新種や”できそこない”はアトフィア教の策動で産まれたのは間違いなさそうだ。
「おい。まさか」
ルートガーは慌てるが、短慮だと思われているのか?
「ん?アトフィア教に攻め込んだりしない。あの大陸を手に入れるくらいなら、中央大陸を侵略するほうが、実入りが大きい」
「そうか・・・。出来ないとは言わないのだな」
”できる”か”できない”と聞かれたら、”できる”だけど、やる意味がない。
メリットが全くない。
「そうだな。コアを新しく生成して、アトフィア大陸にダンジョンを生成する。作ったダンジョンを足がかりにして攻め込めば・・・。簡単だろう?」
「やめろ」
「やらないよ。あの大陸を攻略しても、俺たちにメリットはないだろう?面倒が増えるだけだ」
あの手の宗教家は、よりどころが無くなればなくなるほどに先鋭化してしまう。自分の思想を”正義”だと信じ始めると面倒な事になるのは、確定事項だ。まだ、アトフィア教の総本山が残されているから、そこに集まって、本来なら協力し合う者同士で、内輪揉めをしてくれている。
外側に大きな敵が現れた時が厄介だ。
俺たちのような、考え方が違うだけなら、アトフィア教の権益を犯していない状況なら、敵意は俺たちにも向くだろうが、俺たちを倒せば、全てが変わると思われるような状況になっていない。
”正義”の証明に使われるようなことがなければ大丈夫だ。
「わかっているのなら・・・。いい。でも・・・」
「あぁアトフィア教の奴らが”何か”を行っているのは間違いないだろう。海上封鎖は出来ないよな?」
やつらを島から出さないことが出来ればいいが、アトフィア大陸は、チアル大陸と違って、桟橋を作ることができるような場所が多数存在している。簡単に言えば、上陸を行うのは難しくない。
「無理だ」
ルートガーも、アトフィア大陸の地形は知っている。
帰って来た事は、想像通りだ。
「まずは、チアル大陸の調査だけど、船長の話と、今までの俺たちの経験から、チアル大陸は大丈夫だと思う」
「お前の考えに同意だ」
苦々しい表情で同意をしている。
そんな表情をしていると、もっと揶揄いたくなってしまう。
「お!ルートと意見が合うとは嬉しい」
「煩い。お前が考えそうなことだ。どうせ、新種の撲滅を考えているのだろう?」
「撲滅とは違うな。自然に、進化体や新種が産まれるのなら、それは自然の摂理だ。しかし・・・」
「そうだな。人為的に産まれてくるのは違う」
そうだ。
自然の摂理の結果ならしょうがない。諦める事もできる。そして、産まれた新種によって、人族が危機に晒されるのなら、納得もできる。滅ぼされないように、対策も考えるし、逆らうだろう。
「そうだ。神に逆らう行為だ。調べる必要がある。ルートガー。他の仕事は、クリスに振って、お前は、この件に専任だと言ったら断るか?」
「・・・。クリスが、俺の代わり?無理だな。お前の相手はさせられない」
やはり、クリスティーネでは難しいか?
ルートガーの代わりができる者が居ないと、ルートガーを俺の代わりに出来ない。
「嫉妬か?」
「違う。能力は大丈夫だとしても、気質の問題だ」
気質と言われると納得するしかない。
俺のやることにストップをかけられるのは、ルートガーか長老衆かシロだな。確かに、クリスだと遠慮してしまう可能性が高い。
「そうか・・・。お前が両方を担当するのは、俺が許さない」
「それなら、新種というか、アトフィア教への探りなら、ノービスに依頼を出せばいい」
ノービスの連中は、遊ばせているわけじゃないけど・・・。
「ノービスか・・・。ロックハンドの開拓を頼んでいるからな・・・」
「今は、ロックハンドよりも、新種だろう?奴らも事情を説明すれば、わかると思うぞ?それに、ノービスの連中が動けば、ギルドも動かせるだろう?」
「ルートがノービスを管理して、動かすか?」
「そうだな。お前が前面に出ると、物事が大きくなりすぎる。ノービスとのやり取りは、クリスと従者に任せたいがいいか?」
「采配は、ルートに任せる」
「わかった。それで、調べる内容は、最初の船の行方か?」
「船の行方は、追えないだろう?追えたらいいが・・・。最初は、チアル大陸に、アトフィア教が手配した船が上陸した可能性があるのか調べることか?」
「それは、難しいぞ?」
「難しい。あぁそうだな。それなら、どうする?」
「アトフィア教の上陸や同行は、商人の方が情報を持っているだろう?」
「リヒャルトか?」
「そうだな。メリエーラなら、何か情報を持っているかもしれない」
「うーん。メリエーラが情報を持っていれば、交渉してくるだろう?特に、アトフィア教の動きなら、高く売れる」
「・・・。そうだな。リヒャルトに、アトフィア教の同行を聞いてから、クリスと一緒にノービスの連中に話をする。お前の指示だと言っていいよな?」
「あぁ解っている内容は、オープンにしていい。船の件は、未確認としっかり伝えろよ」
「いいのか?情報が、独り歩きを始めるぞ?」
「構わない。どうせ、アトフィア教とかと対峙している。今更、火種が増えても同じだろう?」
「まぁそうだな。シロ様はいいのか?」
「シロ?フラビアとリカルダにも、俺から説明をする」
「わかった。他に、説明が必要な者は?」
「そうだな。長老衆には、ルートから頼めるか?」
「わかった」
「商人筋は、リヒャルトに任せるとして、ギルドにはノービスから報告させればいいか?独自の情報があるだろう」
「神殿は?」
「フラビアかリカルダに任せる」
「わかった。メリエーラ殿との交渉は任せていいか?」
「そうだな。ルートとクリスだと、飲み込まれる可能性があるな」
「あぁ長老衆でも、メリエーラ殿だけは別格だ。他には、吸血族か?」
「ん?必要ない。俺から伝える」
「わかった。行政区にも流していいか?」
「必要があれば流してくれていい。匙加減は、ルートに一任する。表の情報は、お前が担当で、裏は俺が担当でいいよな?」
「・・・。わかった」
ルートガーと、新種とアトフィア教の関わりを調べる内容を話し合っていたら、船がチアル大陸の領域内に到着したと、船員から伝えられた。
接岸までは、時間はあるが、準備を始めて欲しいと言われた。
決めなければならないことも決まった。
忙しさは変らないだろうが、俺ができることは少なくなってしまいそうだ。
ルートガーとクリスが協力して、チアル大陸の脅威に立ち向かう。
君臨するには必要なステップなのだろう。
表と裏で分かれて、俺が裏を担当する意味もルートガーも解っているのだろう。
情報の伝達を行ったら、新種対策に本腰を入れる必要が有りそうだ。
まずは、”蟲毒”を発生させる方法を考えなければ、アトフィア教は、狙って行ったのか?それとも、船の中で偶然”蟲毒”のようになって、利用方法を考えたのか?その辺りからだな。野良の魔物を捕えるのは、チアル大陸では難しい状況だから、ダンジョンの魔物でやってみるか?コアの制御を離れた魔物が用意できるのか?それとも、アトフィア教は、方法を確立しているのか?
解らないことだらけだが、前よりは項目が整理されている。
可能性を潰すくらいの確認はできるだろう。”蟲毒”の実現は難しいとは思う。しかし、何が発生するのか、確認はしておきたい。
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