【第四章 連合軍】第三話 トップ会談
連合国から提供されたアイテムを使って、会談が実行される運びとなった。
参加国は、神聖国と王国と連合国のトップであるエルプレだ。
今までも、中央の魔王への対応で、三か国は足並みを揃えたことがあった。
しかし、今回は今までよりも大きな脅威に立ち向かう必要がある。
連合国から提供されたのは、意識を別の人間や魔物に乗り移させる道具だ。
そして・・・。
神聖国の教皇が選んだのは、魔物ではなく見目が麗しい男児だ。
王国の国王が選んだのは、自分の子供だ。使い道がなく、殺す一歩手前まで来ていた者だ。
エルプレが選んだのは、捕えていた使い道がないエルフの男だ。
そんな3名が揃って王国で会談を行うことに決まった。
この三か国が動くことは、すぐに帝国の情報部がキャッチしていた。三か国の会談の理由は推測だが、ほぼ間違っていないと思われている。
帝国が、ギルドに情報を流したタイミングで、皇国も情報を握った。情報は、すぐに各国のトップに共有される。三か国は、情報が漏れるのは解っていたが、三か国の会談内容が流れ出さなければ問題がないと考えていた。
帝国は、神聖国からの攻撃を警戒して、ギルドを通して、魔王ルブランに情報を流した。そのあとで、国境に兵を集中する様に指示をだした。帝国は、魔王ルブランの勢力が拡大して支配領域と国境を接しているが、国境を接しているのが神聖国だけとなった。他の場所は、踏破が不可能だと思われている山脈などの自然の脅威に守られている。その為に、帝国は魔王ルブランが安泰の状態が好ましい状況になっている。
神聖国と連合国から使節団が王国に向っている。
視察と銘打っているが、乗っ取られた3名によるトップ会談が行われる。乗っ取られた人物は、既に精神が破壊されている。アイテムを解除すれば、精神が抜けた廃人となる。
各国のトップは、それで問題がないと思っている。
自分たちの安全が保証されている状態で、トップ会談ができる状況が重要だ。アイテムを渡された神聖国と王国は、連合国を信じたわけではない。実際に、奴隷にアイテムを使わせて、実験を繰り返して、問題がないと判断して、連合国からの会談の要請を受け入れた。
会談の場所は、神聖国からの要望を受け入れて、王国で行うことになった。
数回の事前打ち合わせを経て、トップ会談が実現される。
事前打ち合わせで、殆どの事が決定されている。
神聖国が魔王カミドネを攻める。
連合国と王国が、それぞれの国から魔王ルブランを攻める。タイミングを合わせる事で、状況を有利に進める。
王国から皇国に魔王ルブランを”神敵”認定ができないか打診を行う。
”魔王ルブランは人類にとって脅威”というのが、打診の骨子だが、連合国と王国と神聖国にとっての脅威で人類の脅威ではない。帝国は、魔王ルブランに攻め込んで多いに打撃を受けたが、その後の対応から、帝国は”魔王ルブラン”を利用する方向に舵を切った。その結果、国内の不穏分子は一掃された。神聖国の影響を受けていた貴族が粛清され、皇帝の支配基盤が強固になった。領土の一部は切り取られたが、切り取られた事で、国境がシンプルになった。
事前交渉で決められたことを承認するだけのトップ会談だが、トップが直接ではないが、顔を合わせる状況だ。
どうしても、状況は予期せぬ方向に動き出す。各国の事情が絡んで居る。それだけではなく、実際にはダンジョンが支配している国が二つで、一つはトップがダンジョンマスターだ。もう一つの国も、ダンジョンを所有して、ダンジョンからの恵で成り立っている国だ。
「神聖国。貴殿の言い分も解るが、連合国は手一杯だ」
「それは、神聖国も同じだ。帝国への親征は絶対だ」
「それは、貴殿たちの利益にしかならぬ。王国としては、サポートはできるが。サポートへの見返りがなければ、軍部が納得しない」
「それでは、連合国はどうじゃ?」
「こちらから、帝国に侵攻は無理だ。距離もある。魔王ルブランに察知されてしまう。作戦が瓦解しかねない」
「それよりも、神聖国は魔王カミドネの領域にも兵を出すのだろう?」
「当然だ」
「王国も、魔王カミドネの領域には困っている。なんとかならないのか?」
「大丈夫とは言わないが、神聖国よりは対応が出来ている。それよりも、連合国は魔王ルブランに手痛い反撃を喰らっていなかったか?」
「何を根拠に?偵察部隊が多少の犠牲を払ったが、そのおかげで、魔王ルブランの戦力が理解できた。そういう神聖国は、魔王カミドネに攻め込んで、神職を失ったと聞いたが?」
「それこそ、デマだ。下級職の数名が我の命令を無視して犠牲になったが、少数で体勢への影響は皆無だ」
三か国は、お互いが得た情報を小出しにする事で、会談で優位に立とうするが、同じ程度の情報で潰されてしまっている。
三か国のトップ会談は、事前交渉で決められた部分から、自国のメリットを増やそうと駆け引きを行う。
その都度、話を聞いている配下が、交渉の為に会談から離れて、交渉を始める。正確な情報は、配下が握っていて、トップが握っている情報は、正しいが、正確ではない為だ。
結局、魔王カミドネの領域には、神聖国と王国が兵を差し向ける。魔王ルブランの支配領域で最も重要だと3か国が判断したカプレカ島には、王国が全力で攻め込んで魔王ルブランの動きを封じる。カプレカ島と城塞街を王国が抑えている間に、魔王ルブランのダンジョンに神聖国と連合国が同時に攻め込む事で、魔王ルブランのダンジョンを攻略する。
攻める兵数の総数は、公称80万。
前代未聞の巨大な作戦になる。
神聖国は、この作戦と同時に、帝国に残っている人族主義の貴族を扇動して、内乱を起こさせ、帝国の一部。重要な鉱山を奪う計画がある。
実際に、会談は成功と言ってもいい。
しかし、会談の内容が既に外に漏れてしまっている。
事前交渉の範囲内なら、情報が外に漏れることは無かったのだが、トップ会談の最中に自国のメリットを優先した為に、交渉が行われて、交渉を配下の者たちが緊急で行う。変更に変更が加えられる。それによって、現場は混乱した。
魔王ルブランの配下だけではなく、各国の情報部がトップ会談の内容を手にするのには、労力を使わなかった。
—
目の前に居る物から封蝋がされた状態の親書を受け取る。
王国からの親書なのは、封蝋を見れば解るが、男にとっては、どこからの封蝋だろうが、ほぼ無意味だ。
「それで?」
王国からの親書を乱暴に開封する。
飾る言葉が羅列されている書簡を、投げる。
「はっ。王国からは、”魔王ルブランを神敵”の認定を求められました」
男の前に居る物は、書簡を受け取って、中身を確認する。
かなり要約された内容を答える。
この場に居る二人には、それだけ解れば十分だ。
「拒否だ」
男は、少しだけ考えてから、”拒否”の決定を伝える。
「かしこまりました」
拒否の理由は必要ではない。
”拒否”と決められたことを実行するだけだ。
「魔王ルブランと魔王カミドネ。神聖国と連合国の魔王を相手に生き残れるのか?そういえば、王国には、奴も居たな。今回は、奴が絡んでいるのか?」
男は、勝者がどちらになるのか?
それによって、事体が動くことを期待している。現状は、魔王ルブランの登場で、各国の動きが加速されている状況だが、男が期待する。混沌とした世界にはなっていない。
王国には、ダンジョンの攻略を得意とする男が存在している。
王国に居る男は、単騎でダンジョンを攻略している(ことになっている)王国最強の男で、神聖国や連合国も認める男だ。
「我が主よ。確認をしますか?」
「必要ない」
男は、一言だけ告げてから、自分の思考に沈んでいく。
男の目の前に居る物は、静かに気配を消していく。闇に解けるように、姿が消えていく。
一人になった男が、目を開けた時には、すっかりぬるくなってしまったワインが注がれたグラスだけが残されていた。
男は、テーブルの上に置かれている呼び鈴を鳴らした。
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