【第五章 共和国】第四十四話 最適解
透明な扉は突破した。
最下層のボスは討伐した。
奥に進むための扉が開かない。
扉は、鍵がかかっている状況には思えない。
両開きの扉で、隙間があり、閂などが見えない。ダンジョンのギミックで、扉が閉められていると考えるのが妥当だろう。
扉の近くを探していると、後ろに気配を感じた。
「兄ちゃん!」
アルバンの声に驚いて、後ろを振り向くと、先ほど倒したオルトロスが現れた。
まだ臨戦態勢ではない。
時間の問題だろう。
オルトロスが現れたと同時くらいに、調べていた扉が消えて、壁に変わる。やはり、オルトロスと扉は連動しているのだろう。オルトロスが階層主だと考えて大丈夫だ。それなら、なぜ扉が開かない?
いや、今は、扉を考える時ではない。
目の前に現れたオルトロスに対応しなければならない。
「アル!カルラ!」
二人に声を掛けると同時に、オルトロスが咆哮を上げる。
戦闘は回避できないのか?
扉を探す時間にタイムリミットがあるのか?
それとも、ボス戦を繰り返さなければ、扉が開かないのか?
迎撃の準備をする。
どうやら、初手はこちらに優先権があるようだ。オルトロスは、咆哮をあげてから動いていない。
ボス部屋に居れば、初手は譲られるのか?検証はしたくないが、検証した方がよさそうな状況だ。
まずは、倒してから考える。
今の状況では、倒してもまた復活してくるだろう。
「いくぞ!」
「はい!」「うん」
「エイダ。補助を頼む」
『了』
オルトロスは、先ほどと同じか、それ以下の時間で討伐ができた。
初手がとれたのが大きい。不意打ちではないが、不意打ちに近い効果があった。ノックバックを起こしてダウンしたオルトロスを総攻撃した。
大きなダメージは入ったが、倒すまでには至らなかった。
しかし、安全に倒す事ができた。無理をしないで、倒せるのなら、安全に倒したい。
安全なマージンを確保した上で、倒せるので大丈夫だろう。
オルトロスが倒れると、扉が現れる。
扉は、やはり開かない。
「兄ちゃん。扉の隙間が少しだけ広がっていない?」
アルバンに指摘されるまでもなく、俺も広がっていると思っている。最初の隙間は、指が入る程度だ。隙間が広がっているのは目視でも確認ができる。
広がった幅は目測で2-3cm程度。人が通られるようになるのには、50cmだと考えても、25回近くはオルトロスと戦わなければならない。初手で攻撃ができると言っても、必ず安全だとは言い切れない。
何か、扉が開くトリガーが別にあるはずだ。
「マナベ様?」
隙間を見て考え込んでいたら、カルラが近づいてきて、心配そうな声で話しかけてきた。
別に落胆しているわけではない。
「悪い。カルラ。入口から壁を調べてくれ」
ボスを倒して扉が開く仕組みなら、どこかにトリガーがあると思う。
それとももっと単純な仕掛けなのか?
「はい?」
カルラは、少しだけ反対の意見を持っている時の表情をしている。
それとも疑問があるのか?
「疑問に思うのは当然だ。でも、フロアボスを倒し続けるだけが、扉を開ける為の方法だとは思えない」
「それは・・・」
カルラの中でも、何が最適解なのか出ていないのだろう。
まだボス戦も2回目だ。このまま調べないで、状況の推移をみまもるとしたら、ボスを倒し続けるしかない。最適解だとは思えないが、何もヒントがない状況では、ボスを倒しながら部屋を調べるしかない。
「カルラ。もし、フロアボスに連動しているのなら、ボスが次に出現する間隔が、短くてもいいと思える。部屋の探索ができるだけの時間があるのが、解らない」
他にも、扉が出現してくるのは解るが、開いていないのが解らない。
見落としている何かがあるのか?
「それは、次のボスに備えて、体力を戻すための時間なのでは?」
たしかに、カルラの考えも納得ができる。
それなら、入口の扉が閉まっている理由にも納得ができる。
「そうかもしれない。でも、俺には、部屋を探索する時間に思える」
「わかりました。壁を調べます」
俺たちは、休息が必要になるほどには疲れていない。
そのうえで、ダメージも軽微だ。次が出現するまでの時間に、探索を行えばいい。何もなければ、ボスを連続で討伐するだけだ。
「頼む。アル。カルラと協力して、壁を調べてくれ」
「うん!兄ちゃんは?」
「俺は、エイダと床を調べる」
エイダと床にサーチを行う。
階層主の部屋は、広いまだ入口近くしかサーチが出来ていない。
それでも、3回目のボス戦が始まってしまう。
ボスは、やっぱりオルトロスだ。
3度目のボス戦を終えて周りを見渡す。
通常なら、入ってきた扉が開かれるのだが、扉が開いた様子はない。
「アル。入ってきた扉は、開くのか?」
気になっていたことを、アルバンに聞いておく、撤退の必要性はないが、撤退が必要になった場合に、何も手がないのでは困ってしまう。
この状態でも、10日程度なら耐えられるとは思うが、寝る時間が必要だ。
寝る時間の確保ができなければ、脱出を考える必要がある。
「うん。開く」
「そうか・・・」
通常の部屋なら、ボスを倒すと、出口が示されるのと同時に入口も開く。
アルバンが扉を開こうとすれば、開くようだ。
3回目の戦いの後も同じ状況になっている。
徐々に扉の隙間は広がっている。外に出なければ、大丈夫なのか?それとも、永続的に広がっていくのか?
4回目/5回目と、続けてオルトロスを倒した。
扉は広がっている。
床にも壁にも仕掛けを見つけることが出来ていない。
これは、カルラの説が正しいか?
ボスの出現時間が徐々に伸びているように思える。やはり、連続でボス戦を行うのが最適解か?
6回目で、出現するボスが変わった。
腕が4本ある熊
フォースアームズベア?初めて対峙するボスだが、カルラが特性を知っていたために、問題なく討伐ができた。
壁や床を、もう一度だけチェックしたが、仕掛けは見当たらない。
担当を入れ替えて、確認しても同じだ。
ボスの撃破が、扉を開ける最適化なのだろう。
4本腕の熊の相手は、予想通りに5回。
次に現れたのは、レッサー・ベヒモス。
対処は解っている魔物が続いているので、俺たちの負担も少ない。
しかし、通常ならこんなにボス戦は連続で行わない。
ボスの強さで扉の開く幅が違うのか、押し込めばエイダだけなら通過できるくらいには広がった。
しかし、エイダが扉の先を見てみると、何もない空間が広がっているだけのようで、扉がしっかりと開ききるまで、扉の先にはいけないような仕組みのようだ。少しだけ考えれば解ることだ。俺が、このボス部屋のデザインをしても、既定の回数をこなさなければ先には進ませない。
10回目からは、レッサー・ファイア・ドラゴン。
初めて対峙したが、レッサーだけあって、動きも単純で、ダメージ蓄積でパターンの変更もなく、倒せた。モーションが大きく予測が簡単だった。
レッサー・ファイア・ドラゴンからは、出現する場所に魔法陣が表示されるようになった。
魔法陣の上に立っていると、レッサー・ドラゴンが出現しないことに、12回目の対峙で解った。
レッサー・ドラゴン種は、属性が変わるが、攻撃パターンの変更はなかった。
これで、疲れた場合には連続ボス戦を途中で休憩を挟むことができる。
救済措置なのか、わからないが利用することにした。
既に、15回目が終了している。
深刻なダメージは負っていないが、精神は疲れ始めている。そこで、15回目が終了した時点で休憩を挟むことにした。
順番に仮眠を取ってから、16回目に挑んだ。
回数にして、25回目の討伐を終えて、魔法陣が表示されていた場所を見ると、鍵が出現した。
そして、大きく広がっている扉の奥に鍵穴が出現した。
鍵穴だけが宙に浮いているような不思議な情景だ。
数日は覚悟していた。面倒なボス部屋のギミックだ。
やっと次の階層に向う事ができそうだ。
制御室に繋がる部屋だと嬉しいのだけど、通常だと地上に戻る方法が提示されるはずだから・・・。
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