【第六章 ギルド】第二十二話 紹介?

 

貴族の機微が解らないと、足下から崩される可能性がある。
でも、俺が今から貴族を知るのは難しい。いや、不可能だ。神殿の運営は、知識があるロルフが居る。眷属たちは、ブロッホが居れば統率は大丈夫だろう。ロルフも、眷属との調整はできる(はずだ)。しかし、貴族家や教会とのやり取りには俺では知識が不足している。知識だけなら詰め込めばいいのだが、経験が圧倒的に足りていない。

「・・・。ークス。リン=フリークス!」

「・・・。へ?」

「”へ”ではない。貴様、話を聞いていなかったのか?」

「もうしわけない。聞いていません」

「ふぅ・・・。まぁいい。メロナの屋敷の運営に当たって、貴様と連絡を取る方法を確立したい」

「??」

「どうせ、貴様もニノサと同じで、フラフラと出歩くのだろう?」

「え?そんな・・・」

「妹だけじゃなく、私も、貴様を探した。”ふらふら”していないなどと、言わないよな?」

「あっ・・・」

思い当たることが多すぎる。
でも、ニノサと一緒にされると少しだけ・・・。違うな、かなり・・・。不本意だ。あそこまで、”酷い”とは・・・。

「今、ニノサよりは”まし”だと考えたな」

「え?」

「その反応だけで十分だ。ルナ。こいつは、貴族の相手は無理だ」

俺の反応?
そんなに解りやすいか?

周りを見ると、頷いている者が半数以上。残りは苦笑している。事前に打ち合わせでもしていたのか?
ローザスだけが、笑いを堪えている表情で気分が悪い。

表情筋が動くのなら、動かないようなスキルでも開発しようか?出来そうにないけど・・・。

「本当は、すごく、すごく、すごく、嫌ですけど、しょうがありません。お兄様のご提案を受け入れます」

「ルナ。まだ、そんな事を・・・」「お兄様!」

兄妹での喧嘩は止めて欲しい。まだ話が終わらないのか?

改めて、周りを見たら、皆が揃っている。居ないのは、ミルとミアとレオだけだ。

「ふぅ・・・。リン=フリークス」

「ん?」

「貴様。誰か、信頼できる人間は居るか?」

「信頼?」

「そうだ。メロナの屋敷を任せられるような人物だ」

「ナナは、ダメだな。新しい村?か神殿で宿屋をやってもらう・・・。信頼とは違うが、ここのメンバーくらいか?あとは、眷属だからな」

「眷属?」

あれ?
ローザスやハーコムレイには、眷属の話はしていなかった?

ん?
あぁそうか、メロナ側の出入口は二か所だ。ロルフに確認しなければならないが、メロナ側には3箇所の出入口を作ればいいのか?アロイ側には、2か所を追加する形だな。貴族とそれ以外の出入口を用意しなければならないのか?

「ルナ。イリメリ。俺のジョブは?」

二人は、首を横に振る。二人なら、俺の許可が合ってもジョブやステータスの話はしないだろう。

「わかった。ありがとう。ハーコムレイ。ローザス。ここで、スキルを使っていいか?」

「スキル?」

「あぁ俺のジョブに関連するスキルだ」

ローザスは、”是非”と訳の分からないことを言い出したが、ハーコムレイは苦虫を奥歯でかみしめたような表情をしているが、ルナやイリメリが大丈夫だという言葉を信じて、最終的には頷いてくれた。

「召喚”ブロッホ”。召喚”アウレイア”」

眷属の召喚を行う。俺が個体認識をしている者なら呼び出せることが解っている。もちろん、眷属側の許可が必要になるのだが、恥ずかしい状況にならなくてよかった。ブロッホとアウレイアからは、承諾の意思が伝わってきて、魔法陣が俺の両脇に生成される。召喚位置も俺が設定できる。ソファーの両枠に設定した。ブロッホは人型だが、アウレイアはフェンリルだ。ある程度の広さが必要になる。大きい魔法陣と人サイズの魔法陣が光りだして、ブロッホとアウレイアが召喚された。

「初代」「リン=フリークス!これは・・・。どういうことだ?」

先に、反応したのはローザスだ。
初代という言葉に、ハーコムレイの言葉が上書きされてしまったが、ヒューマの言っていた話か?あぁヒューマでもよかったのか・・・。まぁいい。

「詳しい話は、省略するけど、これが俺の眷属だ」

説明を端折りすぎたか?
アウレイアが、俺の前まで来て、寝そべる。ブロッホは、執事のように俺の横に立っている。

「リン=フリークス。聞きたいことは、山の様にあるが、まずは・・・。その足下で、寝ているのは・・・。神獣フェンリルなのか?」

「へ?神獣?フェンリルだけど・・・」

「主様。横から失礼いたします」

「ん?ブロッホ。どうしたの?」

「はい。アウレイア殿は、進化を重ねて、フェンリル種の頂点である。聖獣フェンリルになっております」

「へぇ。だって」

「だってではない!リン=フリークス!フェンリルだけでも・・・」「ハーコムレイ!落ち着け!」「ローザス。落ち着いてなど居られるか!バランスブレーカー」「だから落ち着け、リン君は、どの派閥にも属していない。そうだろう?それが、軍事的に脅威となったら、なんだ。僕たちの計画に、影響があるのか?」

立ち上がって、怒りを露わにしだしたハーコムレイだが、ローザスの指摘を受けて、落ち着いたのかソファーに座りなおす。

まだ、ハーコムレイは”ぶつぶつ”と、何かを言っている。ルナが、ハーコムレイに何か言っているが、気にしては居られない。

「リン君。僕には、その執事は・・・。人族には見えない、人族ではないよね?人族なら、”召喚”はできない。よね?」

ブロッホが俺を見ているので、うなずく。

「失礼」

「なっ!」「おぉぉぉ!!」「え?」「は?」「リン=フリークス!説明しろ!」

ブロッホが身体の一部を”竜化”した。やっぱり、黒竜はかっこいい。俺にも、翼が生えないかな?レッドブルでも作って飲めばいいのか?それとも、HONDAバイクでも作るか?

復活したハーコムレイが怒鳴っているが、無視するのがいいだろう。

「リン君。うるさいのはいるけど、僕も少しだけ説明をして欲しいかな?」

ブロッホを見ると、自分で説明をしてくれるようだ。

「皆さま。驚かせてしまって申し訳ない」

翼をしまって、手を元に戻す。元?違う。人間の腕に擬態をする。そういえば、服も自分で作っているとか言っていたな。

足下に寝ているアウレイアが、皆の声で頭を上げるが、”なんでもない”と知ると、”ふせ”の形に戻る。可愛いので、頭を撫でてやると嬉しそうに喉を鳴らす。本当に、フェンリルか疑問だが、可愛いので許しておこう。

「皆さま。私は、アゼルに住んでいました。主様から、ブロッホという”名”を頂きました」

「ブロッホ殿。アゼルとは、アゼル霊山か?」

「そう呼ばれています。それから、私は、主様の眷属です。そして、忠実な執事でございます。私に、敬称は不要です」

「ブロッホさん。アゼル霊山から、どのようにして・・・」

「どのように?あぁ・・・。”古の約定”でご理解、頂けますか?」

「そう・・・。わかった。ハーコムレイ。あと、皆にも、この話は、ここまで。私が、”トリーアの名で預かる”ことを宣言する」

ローザスが王家っぽい話をするが、ハーコムレイが少しだけ驚いた表情をしただけで、浮かせていた腰を降ろしたので、本当に、終わりにするのだろう。
俺としては、王家と何か関係があるのなら、教えて欲しいとは思うけど、”藪をつついて蛇を出す”状態になっても困ってしまう。スルーが正しい対応なのだろう。

ブロッホが、俺を見ている。”話せることは話してよい”とだけ伝える。ブロッホなら、本当に隠さなければならないことは、話さないだろう。ローザスと復活したハーコムレイが、ブロッホに質問をしている。

一通りの質問を終えたハーコムレイとローザスは、視線をブロッホから俺に戻した。

「リン君。ハーコムレイが、まだ何か難しく考えているから、僕が率直に質問するね」

「わかった」

「君。貴族や商人の相手ができる?」

「え?貴族?商人?」

「そ!神殿というのは、ここに来て聞いた話だから、僕たちも影響がどこまであるか考えられないけど、アゾレムに対して有効な”いやがらせ”にはなる」

「そうだな」

「でも、そのために、出入口でしっかりとした対応をしなきゃだめだ」

「ん?」

「君の眷属は、聞いた話では、優秀だ。でも、素直だろう。君に忠実なのは当然だけど・・・。それだけだ。それは、いい意味で君の眷属なのだろう。でも、それだけでは、君を守れない。最後には、武力に訴えれば、負けることはないだろうけど・・・」

「あぁ」

「そこで、僕からの提案だ」

にっこりと笑うローザスの表情が気持ち悪い。なぜか、ルナが怒りの表情を浮かべている。

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