【第二章 スライム街へ】第二十七話 謎?
透明な壁の中に充満していた煙?が消えた。
その後で、ムクドリ?スズメ?種類までは分からないが、鳥が一斉に飛び立った。
どこに、これほどの鳥がいたのか・・・。
それだけでも不思議なことだが、透明な壁の中にいた魔物たちが・・・。倒されている?
なぜだ?何があった?戦闘音だけではない。”何も”音がしなかった。
「円香!」
隣にいる円香も、俺と同じように、魔物たちがいた場所を見つめている。
「孔明」
「円香。何が見えた!」
「・・・。聞きたいか?」
「俺も聞きたい」
蒼も俺と同じ考えのようだ。
俺には、何も見えなかった。煙の動きから、何かが動いている様子は伝わってきた。だが、中は見えなかった。円香の言葉から、円香には何かが見えていたのだろう。
「蒼。透明な壁を確認する。”何も”見えなかった。見えたのは、お前たちと変わりがない。と、思う」
円香の様子からなにかを隠しているのはわかるが、この態度では話してはくれないだろう。
「わかった」
円香を先頭にして、俺と蒼で透明な壁を確認する。
マスコミたちは、警官と自衛官が抑えている。
「は?」
蒼の言葉は、俺たちの感情を過不足なく表現している。
透明な壁が消えている。
魔物が居ない・・・。とは、言えない。
「孔明。あれ?」
円香が指している方向を見ると、人骨のような物や、カメラや機材がまとめられている。
「ん?あれがどうした?」
「不思議に思わないか?」
「なにが?」
「あの人骨とカメラの残骸だ」
「ん?」
円香が何を言いたいのかわからない。
人骨になるのは早いと思うが、魔物たちが食べたのなら理解ができる。確か、メキシコあたりで似たような事例が報告されている。他の荷物も魔物には必要がないものだ。まとめられていても不思議ではない。
「孔明。円香。カメラのメモリが抜かれている。バッテリも外されている。スマホが見当たらない」
人が関係している?
俺たちの目をごまかして、透明な壁・・・。結界を展開して、鳥を使役?して、魔物を駆逐した?狂っている。何が目的だ!
「蒼。その機材の中に、キャンプ場の備品はあるか?」
「あ!」「ない」
そうか、円香が言っていた”不思議”なことはそれだ。
違和感がある光景だ。戦闘があった。それは、間違いではない。なのに、備品の破壊が最小限に抑えられている。備品を避けている?違うな。備品に考慮した戦いをしている。極力、備品を壊さないように戦ったように思える。
遺体が置かれた場所も、積まれているのではない。まとめられている。骨になってしまってわからなくなったものは、重ねられているが、確実に人だとわかる遺体は重ねられていない。
「蒼。見た感じで構わない。人以外の死体や骨はあるか?」
「ん?調べてみないと、正しいことは言えないけど、見た感じだと、人だけだな。それがなんだ?」
「孔明。蒼。魔物になってしまった動物の話は?」
もちろん、知っている。
魔石に触ってしまったり、魔物を倒してスキルを得たりした動物は、魔物と同等の力を得てしまう。動物を倒しても、スキルは得られない。だが、魔石が身体の中に顕現している。人には、同じように魔石が生まれることはないと言われている。動物にだけ発生する事象だ。
そして、魔物になった動物は、通常の魔物と違って倒されたあとで霧散しない。
「そうか、野良犬が一緒に・・・。ん?円香?」
円香が、何を拾った。
魔石か?確かに、魔物が居たのだから・・・。少なすぎる?確かに、魔物が存在していた。魔物を誰かが倒したのなら、その誰かは魔石とメモリカードとスマホを持ち去った?どうやって?
「おい。円香。それは?」
「魔石・・・。の、ような物だな」
「ん?魔石じゃないのか?」
「あぁ純粋な魔石ではない。だが・・・」
魔石を”電池”代わり・・・。以外の使い道があるのか?魔石にスキルを書き込む実験は各国で行っている。”成功した”と、いう話は聞いていない。
「円香?」
「多分だが、これが”透明な壁”の正体だ」
「え?」「はぁ?魔石が?」
「正確には、この魔石には、スキルが付与されている」
「おいおい」
蒼の軽い言葉だが、同じ感想だ。
スキルの付与。実験は行われている。ただ、魔石への付与は、不可能だと言われている。誰がやったのか知らないが、そいつは世界で唯一の技術を持っていることになる。
魔石の大きさから、ゴブリン程度だろう。それなら・・・。ん?
「円香。魔石に、スキルが付与されているのだよな?」
「あぁ分析は、ラボに送る必要があるが、間違いない」
「なぁその魔石が一つで、あれだけ大きな透明な壁。結界が張れると思うか?」
「!!」「無理だろうな」
そうだ。
違和感の正体。それは、魔石が一つしか見つからないことだ。
あれだけの規模で、発動していた結界が一斉に解除された。それだけなら、術者が居たと思うのだが、中には魔物が溢れていた。スキルの発動は、同時にはできない。ダブル以上のスキルホルダーの中では有名な話だ。俺も、トリプルだが同時には使えない。結界がスキルだとして、結界を維持しながら戦闘ができるだろうか?
難しい・・・。違うな、不可能だろう。そうなると、魔石にスキルを付与して、同時に使うことができれば、戦略の幅が格段に広がる。
円香も蒼も、その可能性に気がついたのだろう。
そして、ここで魔物を殲滅した奴は、すでに魔石にスキルを付与する技術を・・・。方法を、確立している。
「孔明。マスコミを抑えるのは、警官に任せるとして、この遺体や遺品はどうする?今なら、魔物に関係するとして、ギルドが優先権を主張できる・・・。はずだよな?」
「止めておこう。マスコミとの交渉は、面倒だ。どうせ、メモリやスマホがないから得られる情報は、ないだろう。警察に任せよう」
円香の漢らしい決断を、承諾する。
実際に、マスコミをいつまでも抑えられているとは思えない。それに、俺たちは”魔物”に関しての考察を行う必要がある。
「孔明。蒼!」
「どうした?」
「すまん。遅かった」
「ん?」
円香が見ている方向を見る。
言っていることがわかった。これから向かおうと思っていた山小屋にマスコミが殺到していた。
確かに、”絵”になるのは山小屋だろう。
こちらと同じなら、大した情報は得られないだろう。
「戻るか?」
蒼の提案ではないが、俺たちが出張るような状況ではない。
それに、円香が見つけた、”スキルが付与された魔石”だけでも大事だ。
そして・・・。
「なぁ円香?」
「なんだ?」
「ファントムは、本当に人か?」
「どういう意味だ?」
地面を指差す。
円香は、地面を見るがわからないようだ。遺体がまとめられていたことも、遺品がまとめられていたことも、魔物が一体も見つけられないことも、魔石が落ちていないことも、素材が落ちていないことも、全てが不思議な状況だが、俺には、それ以上に不気味なことがある。
「孔明?」
「すまん。円香。俺たちは・・・。蒼の部隊で、樹海に入ったときに・・・」
「なんだ?」
「まずは、足跡を探す。魔物の足跡は特徴的でわかりやすい。動物の足跡とは違う。二足歩行の特有の跡が残る」
「そうか・・・」「ん?孔明。なんだ?」
円香は、気がついたようだ。
地面を見ている。特に、水が合ったのだろう。ぬかるんでいる場所はわかりやすい。
「蒼。現場を離れて感が鈍ったか?」
「ん?足跡は・・・。あぁぁぁ!魔物の足跡しかない。正確には、足跡が消えている場所もあるが、戦闘が行われたのなら、足跡が残る。でも、人の足跡。靴を履いている者の足跡がない?ないよな?」
確かに、不思議な状況だ。
魔物同士で戦った?それも違うように思える。特に、円香が見ている場所・・・。ぬかるんでいる場所は、はっきりと足跡が残っている。ゴブリン種が3体。同じ方向に移動している。そして、倒されている。足跡からの判断だが、間違っていないだろう。
スキルで攻撃した?
ぬかるみに居たのが、ゴブリンの上位種や変異種でなかったとして・・・。それでも異常なことだ。一撃で倒している?ゴブリンがバランスを崩した様子は、足跡からは確認ができない。いきなり倒せるだけの強力なスキルを使った?
円香が、千明嬢を呼び寄せて、できる限りの足跡を撮影させている。
あとで解析を行うのだろう。
ファントムか・・・。
本当に、存在していると思えてくる。それなら、偶然・・・。なのか?でも、それなら?わからないことだらけだな。
天子湖から魔物が消えれば、問題は解決すると思っていたが、気持ちが悪い疑問が残った。
表面上は平穏を取り戻した。
そう・・・。平穏だ。
でも・・・。
天子湖に吹いている風は、魔物が現れる前と何も変わっていない。
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