【第十章 エルフの里】第十九話 大興奮
話がまとまったので、リーゼを呼びに行く、隣の部屋なので、結界を解除して、声をかければ、すぐに部屋に入ってきた。
そこまではよかった。
栗鼠と、猫と、鷲を見て大興奮。
可愛い以外には言葉が離せなくなってしまったのかと思うくらいに大興奮だ。
「リーゼ?リーゼさん?」
「なに、ヤス。今、忙しいのだけど!」
「眷属に会ったことがあるよね?」
「・・・。うーん。栗鼠には会っていない!ヤス!こんなかわいい子を隠していたの?」
「隠していない。会わせたよな?」
あっそうか!
「サンドラたちが居ないからか?」
「・・・。え?」
ここには、ラフネスはいるけど、俺以外にはリーゼを知っている者が居ない。
だから、おもいっきり可愛がれると思っているのか?
「ラフネス」
「・・・。はい」
「眷属と一緒に行けば、問題はかなり軽減されるよな?」
「そうですね。これで襲ってくるような奴らなら・・・」
「わかった。リーゼ。里に向かうぞ、準備は?」
「終わっているよ」
カーバンクルを撫でながら、だらしなく目じりを下げている。
それでも、準備が終わっているのは、話し合いが終われば、すぐに移動を開始すると考えたようだ。
それに、リーゼの荷物は、アイテムボックスに入っている。
俺も必要な物はすでに揃っている。いつでも出られる状態だ。
「ラフネス。案内を頼む。こちらが、すぐに動くとは思っていないだろう?」
ラフネスは、黙って頭を下げるだけだ。
俺としては、物が流れ出せばいいと思ったのだが、その前にゴミ掃除が必要なようだ。
「ヤス。表に居る人たちはどうするの?」
リーゼにも気が付かれてしまう程度の者たちだ。警戒はしても、過剰に反応する必要はない。
問題があるかもしれないが、結界を破るような者たちは出てこないだろう。
「うーん。気にしなくていいよ。それよりも、ラフネス。腹が減った。食事をしてから、出かけよう」
「食事ですか?」
「そうだよ。驚いたことに、驚いているよ。ここは、宿屋だろう?簡単な食事の用意はできるよね?」
「可能ですが・・・」
「大丈夫。襲ってこないよ。ここで、襲っても、彼らが欲しい”物”は手に入らない」
「え?」
ラフネスが驚くが、俺とリーゼが一緒に居るところを襲って来て、どちらかを殺せたとしても意味がない。
FIT は、マルスがガードしている。近づけないのだから、奪えないのは”ゴブリン”でもわかるだろう。そして、俺の側にリーゼが居れば、リーゼだけを攫うのは難しい。だから、お互いに離れたように見える場所で襲ってくる。
「リーゼ」
「うん。ヤスに任せるよ」
リーゼがカーバンクルを肩に載せて、キャスパリーグを抱きかかえながら、軽く答える。
それでこそ、リーゼだ。話が早くて助かる。
ラフネスが、席を外した。
「ねぇヤス」
「ん?」
まだ、眷属を離すつもりはないようだ。
「ぼくの為?」
「違う。違う。ラナからの依頼だからな。依頼は、遂行しないとダメだろう。まだ、大事な用事が終わっていない」
「大事な用事?」
「エルフの里に、荷物を届けるのが俺の仕事だ」
「荷物?」
「あぁ」
俺は、リーゼを指さす。
リーゼを、荷物扱いしたのに、リーゼは笑って、”そうだね”と言って、また笑い出した。何が面白いのか解らないけど、リーゼが納得しているようなので、問題はないだろう。
リーゼと下の階に移動すると、ラフネスが厨房から出てきた。
食事の用意をしてくれていたようだ。
わざと、外から見える位置のテーブルに座った。
俺たちを監視している視線には気が付いていたので、誘導するのには姿を表す方がいい。監視しているのは、全部で5名。同じような場所からなので、集団として動いているのだろう。
「ねぇヤス?」
「解っているけど、まずは食事をしよう。それから、アーティファクトで移動する」
「え?」「は?」
ラフネスも驚いているが、当然だろう。一番、安全な方法だ。
それに、奴らが欲しいのも、俺の身柄ではなくFITなのだから、動いている所を抑えたいのだろう。短絡的に襲ってくる、盗賊と同じだ。
「アーティファクトで移動した方が安全だ。それに、里に向かう場所まで距離があるのだろう?」
「はい。しかし・・・」
「わかっている。結界を越えられなかったら、近くまで移動できれば十分だ」
「わかりました。アーティファクトで入られるか試してみますか?」
「いいのか?」
ラフネスから意外な提案だ。
FITで結界を越えられたら、状況が楽になると思っていた。まさか、ラフネスから提案してくるとは思っていなかった。近づいたときに、襲われでもしたら、そのまま結界に突っ込むつもりでいた。
「はい。私も、興味があります」
「興味?」
「はい。隠していても、解ってしまう可能性が高いので・・・」
面白い情報が聞けた。
確かに、それなら、エルフたちがリーゼの持つ鍵を欲しがるわけだ。鍵があれば、状況を変えられると考えるのも当然だ。現状を確認しないとわからないが、現状を好転させられるくらいの物なのは間違いない。そして、鍵も厄介な内容だ。
そして、FITがアーティファクトだと考えている者たちなら、結界を越えられるはずだと考える。
今まではっきりと言わなかったのは、ラフネスもエルフの里の秘密を知らされていなかった。俺とリーゼを案内する役になることで、無条件で次世代の長老候補に名前が上がった。それは、ラナやアフネスとの繋がりがあるのも一因だ。
「わかった。最初から、それを教えてもらえたら、別の協力ができたと思うぞ?」
「はい。私も、同じことを、長老に言いました。そうしたら、現在のような自体になってしまっています」
ラフネスが自嘲気味に呟くが、何も言えない。ラフネスが吹っ切れたようになっている理由も、長老から聞かされた内容が原因なのだろう。それだけではなく、里に縛りつけるように”長老候補”などに祀り上げられてしまっている。
「ねぇヤス。そろそろ、移動しない。ぼく、気持ち悪い」
俺は、そうでもないけど、リーゼには纏わりつくような視線が気持ち悪いのだろう。
俺は、賞品ではなく障害で、リーゼは賞品だからな。余計に気持ち悪いのだろう。
「そうだな。ラフネスは、どうする?アーティファクトに乗るか?」
「よろしいのですか?」
「道案内も欲しい」
「わかりました」
さすがに、FITの周りには人が居なかった。遠くから見ている者はいるが気にしてもしょうがない。
リーゼは、当然のように助手席に座る。今回は、ラフネスが居るので、リーゼがラフネスを後部座席に誘導していた。どうやら、道案内は助手席に座る者だと思っていたらしく、先にラフネスを後部座席に座らせて、助手席を死守した形になる。
FITが動き出すと、最初は驚いていたラフネスだが、徐々に慣れてきたのか、しっかりとナビを行ってくれた。
眷属たちは、リーゼが抱えている。ガルーダだけは、大きさから後部座席に座っている。最初は、ラフネスがひきつった顔をしていたが、慣れてくれたようだ。
速度が出せるが、追跡者たちがついてこられないと二度手間になるので、速度を調整している。途中で、止まってガルーダをFITから出して空を飛ばした。たんなる示威行動だ。意味は、追跡者たちがしっかりとついてきているのか確認するためだ。時間稼ぎの意味しかない。
俺たちが向かっている場所は解っているのだろうから、ラフネスがいうにはいくつかの場所があるらしいが、中に入ったあとに馬車が使えるのは1か所だけだ。追跡者たちも、俺たちの向かう方向を確認して、人数が減った。数名は、先回りをしている者たちに伝える為だろう。先を急いだようだ。
森が見えてきた。
結界が近いのだろう。襲撃者たちはまだ見えない。
「ヤス様。この先です」
「どの辺り?」
『マスター。ナビを行いますか?』
「え?」
「頼む」
『了』
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