【第六章 ギルド】第五話 力?

 

 洞窟の中から、こちらを伺っている様子が伝わってくる。

「リン。ぼくが行こうか?」

「どうして?」

「うーん。うまく言えないけど、中から伝わってくる雰囲気が、リンを恐れているように思える」

「俺?人畜無害だぞ?」

「ぼくは知っているから大丈夫だけど、すごい力を感じるよ?」

「え?俺が?」

「うん。気が付いていなかった?」

 俺が驚いていると、リデルがミルの肩で頷いている。
 気が付くわけがない。ミルもマヤも眷属たちも、態度が変わらないし、そうだ!

「ナナも、何も言わなかったぞ?」

 え?なに?ミルが盛大な溜息をついた。

「ゴメン。リン。ぼくが勘違いをしていた。確か、リンのお父さんは、ナナさんの仲間だったのよね?」

「そう聞いている。ニノサ。オヤジがチームのリーダをしていたらしい。母さんも、同じチームだったらしい」

「・・・。そうか・・・。あのね。リン。ナナさんは、多分だけど、ぼくよりも強い。ううん。ナッセよりも強い。もっと言えば、ハーコムレイやアルフレッドの護衛よりも強い」

「はぁ?」

「リン。ぼくは、ナナさんに初めて会った時に、怖かった」

「え?」

「ナッセさんが怖かった」

「ん?」

「リン。ぼくは、ブロッホが、リンの眷属だってわかっても、とても、とても怖かった」

「ミトナル様」

 後ろから、声をかけられて、ミルが振り向く。
 ブロッホが近づいてきているのが解っていた。

「ブロッホ。急に呼び出して悪かったな。アイルもお疲れ様」

「マスター。話は、アイルから聞きました。それから、ミトナル様がおっしゃっていた、マスターのお力ですが、抑える方法を学ばれることをお勧めします」

「ん?」

 洞窟の前で話すようなことではないが、洞窟からもこちらを監視している雰囲気があるから、ここで会話を打ち切って中に入ったり、場所を移動したり、話を聞かれないようにするよりも、聞かせていた方がいいかもしれない。

「マスターのお力は、我たちを大きく上回っております。経験の違いで、まだマスターには負けませんが、単純な力比べでは、マスターには敵いません。奥に居るのは、獣人族だと思いますが、彼らは鋭敏な感覚を持っています。それで、マスターのお力を恐れたのだと思います」

「うーん。ブロッホ。抑えるのは、すぐにできるの?」

「マスターでしたら、結界でお体を覆う事で、お力を隠すことはできます。しかし、王都での活動を考えると・・・」

 ブロッホの存在感が増した。
 ミルを見ると顔色が悪くなる。そうか、これが”力”ということか・・・。

「わかった。”力”を抑え込む必要がありそうだな」

「はい」

 そもそも、”力”ってなんだ?
 体力なのか?魔力なのか?よくわからない。俺が飛躍的に増えたのは、魔力だから、魔力を偽装すればいいのか?

 お!数字も偽装できる。

「ん?ぼく?」

 ミルを凝視してしまった。ミルと同じくらいにしてみればわかるか?

「ブロッホ?」

 ブロッホが、驚いた表情で、俺を見ている。

「マスター?今、何をされたのですか?」

「ん?今?あぁ偽装だ。魔力を1/10ほどにしてみた」

 ブロッホが驚愕している。

「どうした?”力”が抑えられたのか?」

「はい。御身から溢れ出ていた波動が急に少なく・・・。ミトナル様と同等になっております。並みのネームドでは戦おうとは思わない程度にはなっています」

「うーん。もう少しだけ、抑えた方がいいようだな」

「え?」「??」

「あぁミルは大丈夫だけど、俺は”弱者”で通した方が、都合がいいだろう?ブロッホやアイルたちが強いだけで・・・。俺は弱いと思われたほうが、戦いやすい」

「ん。リンは、弱いと思われている。素性を明かした時に、間違いなく、皆が誤解する」

「そうだな。”動物使い”を、テイマーの下位互換だと思っているのだろう。実際には・・・」

 ブロッホを見ると、頷いている。
 テイマーは、相性が必要で、それ以上に、屈服させるだけの力が必要になる。動物使いには、必要がない。相性はあるだろうが、テイマーとの違いは意思の疎通ができる場合には、相手を納得させる事で繋がりを持つことができる。
 そして、大きな違いは、テイマーは、魔物側にメリットが生じない。俺が理解している範疇なので、違う可能性もあるが、聞いた範疇では、”動物使い”とは大きく違っている。
 俺は、眷属からの力をまとめる事ができる。眷属も、進化が発生したり、力が増したり、メリットが生じている。お互いにメリットがある。デメリットは、今のところは解っていない。もしかしたら、俺が死んだら・・・。でも、それなら、初代と言われている”動物使い”の眷属が存在している道理はない。

 デメリットは解らないが、俺の力は眷属を強化する。同時に、眷属のスキルの一部を取り込める。
 スキルは増えているが、一つだけだ。”具現化”だ。どっかの漫画にあった、”念”のようだけど、本質は違う。眷属の能力を再現する力だ。

「ねぇ。リン。ぼくの魔力も隠ぺいできる?」

「・・・。どうだろう。やってみる?」

 俺が、手をだすと、ミルが抱きついてきた。久しぶりに抱きしめるミルの体温が・・・。

「ミル。抱きつかなくても・・・」

「ううん。ほら、ミスがあるとダメだし、キスしたい所だけど、今日はマヤもいないから、我慢する」

 なにが我慢なのか、解らないけど、偽装はできそうだ。

「どうする?」

「リン。数値は大きくは・・・」

「無理だな」

 大きくは変更が”確定”しない。数値としては、変更はできるが、戻ってしまう。

「それなら、ぼくの最初の数値にして」

 最初の数値?白い部屋で見せられた数値か?

>>体力:240
>>魔力:320
>>腕力:180
>>敏捷:190
>>魅力:100

「最初の数値は、白い部屋で見た奴?」

「うん」

「わかった」

 変わった数値を見ると、ミルはかなりのレベルが上がっているのだろう。
 数値を元に戻す。偽装は、元の数値がわかるようになっている。

「ミル。これでどう?」

「ありがとう!」

 ミルが、予想以上に嬉しそうな声を上げる。

「どうしたの?」

「ぼくの、最初の数値を覚えていてくれたのが嬉しい」

「あぁ・・・」

 ミルが喜んだ理由はわかったけど、数値くらいなら覚えている。そんなに、前の話でもないし、難しいことでもないだろう。

「リン?」

「なんでもない。それよりも、ブロッホ。どうだ?これなら、問題はないよな?」

 ミルの数値を偽装した時に、俺の数値もいじってある。ミルと同じか、少しだけ低い数字になるようにした。魅力は、変えていない。カリスマはあったほうが嬉しい。いや、嘘です。魅力の数値はいじれなかった。

 それから、敏捷を極限まで小さい数字にしても、動きが阻害された感じはしなかったので、数字の表示や外に放たれる圧力?だけが変わったのだろうと推測した。

 ブロッホは、俺とミルを見比べて、大きく息を吐き出した。

「はい。問題はなくなりました。それにしても・・・」

「どうした?」

「恐ろしいです」

「ん?どういうこと?」

「マスターとミトナル様の力は、我たちと同等です。我たちは、力の波動を感じ取って、優劣を決めるような愚かなことはしません」

「え?うん?それで?」

「しかし、意識がない魔物は、力の波動だけを頼りに、戦いを挑みます」

「へぇ」

「竜族でも、幼い時や、あまり鍛錬を行わない者は、力の波動がすべてだと考えています」

「そうなの?意外だな」

「はい。愚か・・・。なのです。その者たちが、マスターやミトナル様に遭遇してしまえば・・・」

「まぁ最初は、話を聞くし、襲われても返り討ちにする。それに、簡単に遭遇しないだろう?」

「はい。痛い目に会うくらいなら、我らも歓迎なのですが、マスターとミトナル様と敵対したと知られたら、それにマスターたちの一撃を軽く考えて、受けたら・・・。マスターの波動が弱いことから、初見ではかならず、やられてしまうでしょう」

 ブロッホが言いたい事はわかるが、俺たちが強者だとわかるのも面倒な事だし、弱者だと勘違いされるのも面倒なことに繋がりそうだ。
 王都では、弱者として振舞えばいいから、問題はないと思いたい。

 どっちに転ばせても、面倒なことが来るなら、簡単に解決できる方に転ばせておいた方がいいだろう。

 ブロッホの話から、俺だけではなく、ミルも手加減を覚えた方がいいかもしれない。

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