【第六章 ギルド】第四話 王都の途中
街道に出るまでは、急いだ。アゾレムからの追っ手を警戒したが、追っ手どころか、俺たちの後ろからは誰もついてきていない。まだ、商人が揉めているのだろうか?
「リン?」
ミルが不思議そうな表情で俺を確認してくる。
「さて、森に向かおう、誰かが来ているだろう」
「うん」
ミルと二人で、近くの森に向かう。
さすがに、王都に向かう街道だけあって、整備されている。
マガラ渓谷を越えてから、1時間くらい走ると、いろいろな街道からの合流地点が見えてくる。この近くに森がある。この辺りで、お供として王都に向かう者がいるはずだ。
『マスター!』『マスター』
森から出てきたのは、アイルとリデルだ。
アウレイアやヒューマは目立つだろうし、ブロッホくらいしか居ないと思ったから、無難な人選をしてくれた。
「アイルとリデルが一緒に王都に行ってくれるのか?」
アイルとリデルなら、目立たない。
他のメンバーでは、見た目で目立ってしまう。アウレイアがギリギリだけど、フェンリルだから種族がバレてしまうと、問題視される可能性がある。
アイルなら、スコルなので、上位種ではあるが、問題になってもなんとかなりそうだ。実際に、狼を連れている者は存在する。カーバンクルも珍しい種族だけど、ミルと一緒なら大丈夫だろう。っと、いうよりも他の眷属では問題になりやすいだけだ。あと、問題になりそうもないのは、ロルフくらいだけど、ロルフにはマヤと一緒に神殿の拡張をしてもらわないと困る。
『はい。ロルフ様が、来る予定でしたが、ブロッホ殿が反対して・・・』
「そうか、ありがとう。ブロッホとロルフとヒューマが、マヤに付いているのなら安心だな」
今のマヤは、妖精の姿だ。
神殿に居れば安全だと思うが、何があるか解らない。ロルフだけでは、敵性の”何か”が現れた時に対応できるとは思えない。ブロッホが居れば、よほどの相手でも大丈夫だろう。そこにヒューマが加われば、大量の上位種が来ない限りは大丈夫だろう。神殿の中まで逃げ込めれば、マヤは安全だ。
「うん。ぼくも、安心。リデル!」
ミルは、マヤと繋がっている。
距離が離れてしまっているので、意思のやり取りは難しいようだ。繋がりは感じられるというので、もしかしたら、意思の伝達方法が何かあるのかもしれない。意思の疎通は、他にも方法があるから、無事の確認ができる状況になっているだけで、十分な意味を持つ。
『はい。ミトナル様!』
リデルとミルは相性がいい。
ミルの魔法の威力を、リデルが増幅できる。それに、美少女の肩にカーバンクルはすごく似合っている。
『マスター』
「どうした?」
アイルが、俺の足元に寄ってくる。
俺の護衛は、アイルのようだ。俺は、ステータスの面では、確かに”強者”と呼ばれるようにはなったが、実践経験が少ない。実際に、ステータスでは勝っているミルにも勝てない。ブロッホやヒューマには、手も足も出ない。ヴェルデやビアンコにはなんとか勝ち越しているが、なんでもありの戦いをしたら、どうなるか解らない。ラトギやジャッロも同じだ。進化した眷属たちの力は、確かに俺の力を強化した。それに、新しいスキルを得ている。
スキルもステータスも、上手く使えていないのが原因だ。ブロッホやヒューマがいうには、”ステータスに頼りすぎている”らしい。ステータスやスキルを使いこなさなければ意味がない。
今は、威力の強い武器を振り回している状態だ。当たれば、相手に致命的なダメージを与えられるが、当たらなければ意味がない。防御も、身体の硬さに頼っているだけで、弱いところを攻撃されたら、ダメージは避けられない。そして、倒されて、集中攻撃されたら終わりだ。
ゲームのようなHPがあるわけではない。急所を攻撃されて、防ぎきれなければ、”死”がすぐそばにある。
『はい。森の中に、集落ができております』
「集落?魔物?眷属にできそう?」
『いえ、人族・・・。獣人族です』
「獣人?何族かわかる?」
『犬や狼では、ありません』
「敵対的な雰囲気はある?」
『ありません。何かから逃げているようで、怯えて過ごしています』
「接触は可能か?」
『マスターやミトナル様なら、可能だと思われます』
うーん。
獣人族は、奴隷にされやすい。逃げているのは、もしかしたら、奴隷商や、捕えようとしている者たちが居るのかもしれない。
事情が解らないから、無視してもいいのだけど、何かが引っかかる。
「ミル?」
「ぼくは、リンの判断を尊重するよ。それに、ぼくたちは森を移動するよね?偶然、その集落を見つけてしまうこともあるよね?」
「そうだな」
ミルの言い方には、笑いそうになってしまったが、偶然ならしょうがない。見つけてしまったのなら、事情を聞くくらいは普通だろう。事情を聞いて、助けられるようなら、助けてもいいだろう。なんなら、神殿に招いてもいい。
アイルが先導する形で、森の中を進む。
もちろん、尾行がいないことは確認をしている。
森の中で一泊を考えていた。
集落があるのなら、集落で休めたほうが嬉しい。
魔物もいるようだが、わざわざ倒す必要を感じない。弱いわけではないが、俺たちに襲ってこなければ、無視する。
「リン。いいの?」
「襲ってこなければ、スルーで・・・。意識ある者はいないよね?」
『はい。マスター。範囲内には居ません』
リデルが探索しているのなら、間違いはないだろう。
弱い部類の魔物だったリデルは、周りの状況がしっかりと認識できる。アイルは上位種ではないが、捕食側なので、探索はできるが、リデルほどの精度は出せない。
「ありがとう。無駄に討伐する必要はないよ」
「わかった」
ミルが納得してくれたのか解らないけど、大丈夫だろう。
アイルを先頭にして、森の中を進む。リデルが、時々、ミルの肩から飛び降りて、採取をしては戻ってくる。どうやら、神殿の近くでは見られない植物のようだ。今、神殿の中に、マヤとロルフが作っている”ダンジョン”に植えるようだ。ダンジョン内農場?を作りたいと言っている。
かなりの速度で、3時間ほど森の中を進んだら、大きめの岩に作られた洞窟が見えてきた。
洞窟の周りには、簡易的な柵と畑のような物が作られていた。
『マスター』
アイルが、集落を見てから、俺を見る。ここが、目的地に違いはない。
集落には、人の気配はあるが、外には出ていないようだ。
どういうことだ?
「アイル。ありがとう」
アイルの頭を撫でながら考えてみるが、誰も出てこない理由が考えられない。今まで、監視されている気配は感じなかった。
でも、判明したこともある。”ここ”では、休めそうにない。宿はないだろう。集落には違いはないが、洞窟の中で生活をしている感じだ。
生活をしているのは、畑が作られていて、簡易的な柵があることから、生活を営んでいるのだろうという予測は立てられるが、逃げて隠れ住んでいると考えた方がよさそうだ。森の中に、”村”ができていると、想像したが違っていた。
交渉を行う為の手を打っておこう。
「リデル」
『はい。マスター』
「ブロッホを呼んでくれ」
ブロッホには、マヤのサポートをしてもらっているが、この集落との交渉の結果、次第では、集落の住人を、神殿に運んでもらう必要があるかもしれない。気配を頼りに数えると、2-30人はいるように思える。半数は、子供なのかもしれない。弱っている気配もある。治療が必要になってくる可能性も考慮しなければならない。そうなると、ブロッホ以外の選択肢は存在しない。
『わかりました』
リデルが、仲間に連絡をして、そこから、ブロッホに位置や情報が伝わる。
実際の移動時間は、30分程度だろう。俺とミルが、集落で交渉を始めるくらいの時間はあるだろう。
「ミル。ひとまず、行ってみよう」
「うん」
ミルと手を繋いで、洞窟に近づく、敵意がないことを示すように、武器に手をかけていない。
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