【第二章 スライム街へ】第十三話 到着
バイバスに入っても、渋滞は解消しなかった。
興津川を越えた場所で、事故が発生している。事故は、一箇所ではなく、蒲原に入った場所と富士川の橋でも事故が発生していた。
そのために、到着予定時間が伸びてしまっている。ナビには、その先でも渋滞している状況が表示されている。
「円香!ダメだ。渋滞が酷い。76号を使うぞ」
上村蒼は、ナビを操作している榑谷円香に宣言する。
「富士富士宮由比線か?狭い場所が多いけど、大丈夫か?」
県道76号は、途中から山道になる。
山の中を突き進む。WRCのドライバーなら、100キロ近い速度で走るだろうけど、上村蒼が運転しているはキャンピングカーだ。多少は、いじっているが、それでもレース仕様車とは比べられない。車幅も、ギリギリだと予測される箇所が多い。
「車幅は大丈夫だ。茜。電波がはいらなくなる可能性がある。大丈夫だとは思うけど、一応、注意をしていてくれ」
上村蒼は、道を知っている。自衛官だったときに何度か通っている。
大丈夫だと言い切る。
山の中に入ると、民家がなくなる。そのために、携帯の電波が届かない場所が存在する。
「はい。了解です」
里見茜は、積み込んだUMPCを確認して、ダウンロード状況から、大丈夫だと判断した。
情報のダウンロードが終われば、天子湖での作業は困らない。最悪は、電波がなくても大丈夫な状態にはなっている。
「ナビの通りなら、10号で上がって、国道52号の身延道が良いだろうけど、渋滞が考えられる」
「富士川身延線を上がって、行くほうが早くないか?」
「わからん。地元の人間なら、10号を使うだろう?都市部から来ている奴らは、身延線だろう?」
山梨側に向かう路線の話をしているのだが、路線名と国道や県道が入り混じった会話だ。
道を知らないものには、何を言っているのか意味不明だろう。
「孔明。”迎え”が、出せないか?」
天子湖に向かう道路は、二本だ。キャンプ場が占拠されているという話なので、実質は富士川沿いから上がっていくしか無い。
「連絡をしてみるが、期待するなよ?」
「子安神社あたりで、道路を封鎖してくれていれば、多少は違うけど・・・。山梨県警は対応をしているのか?」
「わからない。合わせて聞いてみる」
「頼む」
「あっ孔明さん。398号の封鎖状況も確認してください。上稲子長貫線です」
地図を確認していた里見茜が富士山側からのアクセス路線を示した。
山梨県警は、二つの路線の封鎖を行っている。
「わかった」
皆の話を一人だけ聞いていた。柚木千明が、膝の上に乗せている、”猫”を撫でながら不思議そうな表情をして、里見茜に問いかける。
「ねぇ茜」
柚木千明の声に反応して、膝の上の”猫”も顔をあげる。
「ん?なに?」
「蒼さんは、なんとなく解るけど、円香さんも、茜も、道路の名前?路線番号?を聞いて、よく理解できるね?私、聞いていても、一切・・・。解らなかったよ」
「それは・・・」
里見茜が言いよどんでいると、事情を知っている榑谷円香が愉快そうな笑い声と一緒に説明を始めた。
「ハハハ。茜も、最初は覚えられなくて、地図を見ながら確認していたから、路線と国道と県道と俗称を覚えさせた」
「えぇぇよく覚えたね。私、未だに、北街道と南幹線を間違えるよ。覚えているのは、いちごロードだけだよ」
「そうか・・・。わかった。帰ったら、道を覚えよう。警察や消防から連絡がある時は、道路名を言われて、次に町名だから、覚えないと、地図を探す時間がもったいない」
「わかった」
”にゃ”
膝の上に座る猫は、買ったわけではない。立ち寄った、ジャンボエンチョーで里親募集の譲渡会が行われていた。その中に居た一匹に柚木千明が一目惚れしてその場で譲渡契約を結んでしまったのだ。幸いなことに、柚木千明にすぐに慣れて膝の上で丸くなった。必要な物を、買い込んで車に乗せた。補給に時間がかかり、柚木千明の暴走だが、咎める者が居なかったのも問題だ。
そして、連れて帰った”猫”は柚木千明の膝の上で丸くなっている一匹だけではない。キャンピングカーに、ゲージが乗せられている。その中に、二匹が身体を寄せ合っている。
柚木千明の膝の上に乗っていた猫は、名前はまだない。里親募集の時に呼ばれていた”チャイ”が呼び名だ。他の二匹も名前がないのは同じだ。
上村蒼が運転するキャンピングカーは、由比の町に入ってからは順調に進んだ。
「さすが・・・。裏道だな」
桐元孔明の言葉だが、静岡から山梨に向かうには、52号を北進するか、富士川沿いを北進するか、一旦神奈川に抜けてから中央道を使う方法が一般的だ。ギルドの面々が使った道路は、52号と富士川を北進するルートの間にある。目的地が、甲府ではなく、静岡県に近い”天子湖”だから使えた道だ。
キャンピングカーは、蛇の背のような道を進んでいく、県道10号にぶつかって、北上を始めると、車の流れが厚くなる。
途中から、車の流れが少なくなったが、減ったわけではない。車の流量は変わらない。
ナビが示した時間を少しだけオーバーして目的地に近づけた。
天子湖に向かう道路は封鎖されていて、足止めされたが、桐元孔明が呼んでいた者たちが、案内として現れた。身元が判明して通される結果となった。猫を見て少しだけ複雑な表情をしたが、気にしないことにしたようだ。
「孔明。静かだと思わないか?」
天子湖に近づいている。それは、間違いではないのだが、周りが静かすぎる。戦闘は回避されている可能性もあるが、魔物の声も、動物の声も、聞こえない。
「そうだな。蒼。どうおもう?」
魔物と戦っていた経験が長いのは、上村蒼だ。
「魔物が、数十体は、居るのだろう?樹海じゃないからか・・・。雰囲気が伝わってこない」
「そうか・・・。蒼は、気配を辿れるのか?」
「ん?あぁそういうことか?そうだな。俺じゃ勝てないとかは、なんとなく解る」
「スキルか?」
「違う。経験だ。そう言えば、円香はスキル持ちだよな?」
「え!!」「は!!」
女性陣から不思議な声が上がる。
榑谷円香は、スキルをギルドに登録をしていない。そのために、二人はスキルを持っていないと思っていた。
「あぁ”スキル把握”を持っている」
「ん?スキル把握」
「そうだ。使われたスキルが解るだけのスキルだ」
「それなら・・・。円香!」
ハンドルを握っている上村蒼が、自分が持っているスキルを発動する。
「スキル威圧か?」
「ほぉ。鑑定とは違うのだよな?」
「違う。スキルの内容まではわからない」
「そうか、スキル名がわかれば、内容は想像ができるから、もし魔物がスキルを使ったら教えて欲しい」
上村蒼は、榑谷円香が”スキル鑑定”を持っているのではないかと思っていた。この非常事態には、必要なスキルだ。
「わかった」
「あの・・・。円香さん」
「ん?どうした?」
「スキルを持っていたのですね」
「あぁ言っていなかったか?」
「はい。知りませんでした。今、確認しましたが、スキル把握は日本での取得者は居ないことになっています」
「そうだな。ギルドに申請を出していないからな」
「え?」
「義務じゃないだろう?それに、このスキルは使い勝手は悪いが、私のような立場だと便利だ」
「・・・。あっ会議とかで、スキルを使われた時に対応ができる?」
「そうだ。スキル名が解るだけだけど、それでも、抑止力にはなるからな」
「着いたぞ?」
先導していた自衛隊の車両が停まった。
キャンプ場に隣接する駐車場だ。
「なんだ?」「何が起こった!」「どうした?」
キャンプ場の入り口に、バリケードを作っている自衛隊や警官隊。
その周りには、マスコミらしい人だかりが出来ている。野次馬なのか、鈍器を持った者も居る。
バリケードの手前で、鈍器を持った者が空中を叩いて居る。
「孔明?」
「俺に何を言えと?円香?」
「蒼!」
「わからん。何をしているのかさえも・・・。意味不明だ。説明して欲しいのは、俺も同じだ」
バリケードを覆うように、結界が発動してしまっている。結界は、人も魔物も通過が出来ない状況になっている。そのために、バリケードに使用した車に戻ることが出来ない。マスコミもギリギリで撮影を行うために、バリケードの近くに展開して、結界の中に飲み込まれる形になってしまった。
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