【第一章 スライム生活】第十九話 桐元孔明

 

 久しぶりに連絡が来たと思ったら・・・。

 奴は、どこから自衛隊の秘匿情報を得ている?
 それを脅し文句にして・・・。まぁいい。久しぶりに、会うのも一興だ。たしか、奴はギルドの職員だし、情報交換と言えば問題は無いだろう。

 指示された場所は、市内にあるカラオケ店だ。カラオケ店の近くで、奴にメッセージを送ると、部屋番号が送られてきた。

「おい!」

 部屋では、奴・・・。桐元がマイクを持って熱唱していた。同世代なら誰でも歌える曲だ。

「お!桐元・・・。今は、少佐だったよね。昇進おめでとう」

 マイクを持ったまま名前を呼びやがった。

「榑谷。そんなことを言うために、呼び出したのか?それも、こんな回りくどい言い回しをしやがって!」

 大学の卒業以来、季節の挨拶をする程度だった奴が、急に自衛隊が使う秘匿暗号を使ったメッセージを送ってきた。最新の暗号ではなく、公開キーでの暗号だが、そんな回りくどいことをしてきたのには理由ワケがあるはずだ。
 奴からは、”その理由ワケを知りたかったら”、”呼び出しに応じて欲しい”と返されて、呼び出しに応じることにした。

”オークの進化種を単独で撃破できる人材は、最前線に居るのか?”
”蠱毒に寄って産まれた魔物は進化種でしたか?”

 このメッセージを送ったのが、奴でなければ無視している。

「なんだ。昔みたいに、円香と呼んで欲しいな」

「ふざけるな。俺も、暇じゃない。さっさと要件を言え!」

「そんなに怒ると、血管が切れるよ。まずは、ドアを閉めてよ。歌声が外に聞こえて恥ずかしいよ」

 円香の言っているのは、間違ってはいない。
 ひとまず、部屋に入って、ドアを閉める。

「桐元。来てくれて嬉しいよ。7年。いや、先生の葬式以来だから、5年か・・・・。君は、歳を取ったね」

「俺とお前は、同い年だと思うが?」

「ダメだよ。女性は、17歳から歳を数えない生き物だよ」

「そりゃぁ知らなかったな。俺の知り合いに、魔物は居ないから、目の前に居る円香もどきは魔物が化けているな。殺しても大丈夫だな」

「悪かったよ。自衛官になって、昔、以上に冗談が通じなくなっているのか?」

「・・・。この場所は?」

 円香は、高校卒業時点と変わっていない。
 17は無理でも、20代の前半だと言われても、信じる者は居るだろう。

「カラオケだよ。音が外に漏れないし、飲み物も食べ物も注文できる。バラバラに来ても疑われない。最高の密談場所だと思わないか?」

「・・・。わかった。それで?」

 円香が言った通りに考えれば、カラオケというのはいい選択かもしれない。俺がギルドを訪れるには問題がある。円香が自衛隊に来るのも問題だと言い出す輩が居るだろう。喫茶店では、傍聴の心配がある。カラオケも完全ではないだろうが、それでも”まし”な部類だろう。

「本題だけど、メッセージの通りだよ。私が聞きたいことは・・・。現役の自衛官で、魔物対策の最前線を取り仕切る部隊の隊長さん?」

「正式に、自衛隊に問い合わせをしろ」

「出来ないから、君に聞こうと思っている。ダメかい?渡せるデータは持ってきているけど?」

 円香を見ると、言動はふざけているが、真剣な表情をしている。

「話せることは少ないぞ?」

「大丈夫。それでも、自衛官の意見は参考になるよ」

 円香は、ギルド日本支部の”情報管理課”の主任だったはずだ。それが、参考にしたい情報があるのか?魔物に関しては、自衛隊も独自の情報を持っている。ギルドにない情報もあるかもしれないが、魔物や関連するスキルの情報は、ギルドのほうが多いと思える。

「それで、豚の進化種を単独撃破できるか?ってことだったな」

「そうそう!君は、無理でも君の部下とか、最前線のトリプルとかフォースとかなら可能?」

 トリプルやフォースといい方は、米軍での呼び名だが、今では自衛隊も使っている。取得しているスキルの数だ。

「・・・。無理だ。進化前なら・・・。それでも、単独撃破は無理だな。オークに気配を探知されない位置から狙撃できれば、可能性はあるが、進化種は不可能だ」

「なぜ?」

「進化した種族は、単純な物理攻撃ではダメージを与えられない。正確には、ダメージは通るが、物理攻撃では倒し切るのは不可能だ。銃でも難しいだろう。1,000発をその距離から打ち込めて、且つ逃げ切れるだけの人物だな」

「え?」

「スキルを絡めた攻撃でないとダメージが与えられない」

「それは・・・」

「最新情報だ。ギルドにも、米軍から情報が入ると思う」

「わかった。蠱毒は?」

「蠱毒だけど、正直に言えば、”わからない”が答えだ」

「わからない?蠱毒で生き残った魔物は鑑定をしたのだろう?」

「そうだな。スキル鑑定を発動した。発動したが、”見えなかった”と報告が来ている」

「スキルが見えたのに?」

「なぜ、円香が、スキルのことを知っているのかは聞かないが・・・。答えは、”そうだ”だ」

「そうか・・・」

「どうした、心配事か?」

「心配・・・。そうだな。心配には違いはないが・・・。孔明。解っていると思うが」

「あぁ他言はしないと約束しよう」

「ありがとう。でも、他言しても、きっと信じてもらえない可能性が高い。いいか、孔明。私が、今から言うのは、間違いなく事実だけだ。予測も含まれるが、かなり確度が高い予測だ」

 円香の真剣な表情に、俺は頷いて了承を伝える。ギルドには、未来予測に近い機械学習のプログラムがあるらしい。それを使ったのだろう。

 円香は資料を取り出して話し始めた。何度、途中で殴って止めようかと思ったか・・・。
 話を聞き終わったあとで、聞かなければよかったと後悔した。

「円香。お前・・・」

「信じられないだろう?」

「お前の話でなければ、与太話として、酒の肴にする所だ」

「そうだな」

「それで、お前は、その情報をどうするつもりだ?」

「墓場まで持っていくには大きすぎる。公表するには、重すぎる」

「どれか一つなら・・・。でも、ダメだな」

「なぁ孔明。重いのはどれだと思う?」

「おれは、魔石を大量に持っている可能性だな」

「そうだよな・・・。この情報は絶対に秘匿だな。アイテムボックスやオークの進化種は、公表しても・・・。問題にはなるが、いずれ誰かが達成する可能性が高い情報だ」

 円香の考察は、俺も同じだ。
 大量の魔石を持っている。円香たちが使うコード名(センスの是非は別にして)ファントムが、スキルで魔石を作り出せるので無かったら、ファントムが居る場所に大量の魔物が発生していることになる。10や20ではないだろう。魔石のドロップ率は、2-3%だ。上村たちが最前線で戦っている時でも、1体の魔物を見つけるのに、1時間は必要だ。それから、魔石を得るのだ。一日、戦い続けて、1個の魔石が得られたら大成功だろう。

「円香。素晴らしい爆弾をありがとう」

「いや。いや。そう言ってもらえると、私も嬉しいよ。孔明。所で・・・」

「なんだ?」

「君は、錬金というスキルを知っているか?」

「錬金?」

「あぁそれと、魔物化というスキルだ」

「両方とも知らない。錬金は、あの等価交換とかの錬金術か?」

「わからないから、聞いたのだが?」

「そうだな。自衛隊では認識していないスキルだ。それもファントムか?」

「錬金は、ファントムだな」

「?そうなると、魔物化は別の人物なのか?」

「そちらは、もう少しだけ時間が必要だが、人定ができる」

「お前・・・。まぁいい。警察用語は他で使うなよ?目立つぞ」

「オヤジ殿の教育が行き届いていたからな」

「そうか、魔物化か・・・。ファントムが実は、魔物だったって落ちは無いのか?」

「え?」

「検索履歴に身元が不明なのも、そこまで隠さなければならないことがあるってことだろう?」

「うむ」

「魔石が手元に大量にあって、値段を調べたら売りに来るのが当然の流れだよな。来ていないのか?」

「少なくても、ギルドでは該当しそうな人物はいない。そもそも、窓口は開店休業中だぞ?」

「そうだったな。近々、上の方から連絡が行くと思うが」「あぁぁ聞こえない。聞こえない。狩場の解放なんて必要ない!」

「円香。諦めろ。国際的な流れでは、解放が規定路線だ」

「くっ。解ってはいるが、早すぎないか?」

「そうだな。でも、実際には一日の参加者も10人以下になるはずだ。国籍確認と、出国禁止が付帯される。マイナンバーが必須だ。それに、親や親族までの思想チェックが入る。思想チェックは、公にはしない」

「え?マイカードの提出を求めるのか?思想チェックか・・・。私も、蒼もダメだな」

「当然だな」

「ふぅ・・・。よかったよ。それが先に聞けて、ギルドもマイナンバーに対応すれば良いのだな」

「それは、ギルドの判断に任せるが、ギルドカードとの紐付けができていると、こちら側としても助かる。他国でもやっているから大丈夫だろう?」

「あぁオプションになる可能性もあるが・・・」

 この瞬間に、爽やかな映像が流れていた画面に、時間を告げる表示がされた。

「孔明。一曲、歌うか?」

「遠慮する。俺は、先に出る」

 財布から、1万を取り出してテーブルに置いた。円香は、何も言わずに1万円札を受け取った。

「孔明のくせに、カッコつけやがって」

 円香が何か言っているが、片手を上げて部屋を出た。情報料としては安いが、円香が納得してくれただけでよかった。

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