【第二章 帰還勇者の事情】第二十話 オークション
一部で有名になった、異世界から帰ってきた子どもたちは、日本に集結していると思われていたが—”帰ってきた29名だったが”—14名が消えるように居なくなってしまった。
記者会見をしている会場で、質問を受けている最中に、服と灰を残して消えた。ネットでの配信だけではなく、大手マスコミの前で実際に発生した。
ユウキたちが、森田を通してマスコミ各社に、記者会見を行うと通知してきたのがきっかけだった。
(別段、親しい間柄でもなかったが)”袖にされた”と考えていた大手マスコミにも仁義の意味で、通知は行った。仕切りは、今川と森田が行うことになっていたのだが、追手町に本社を構える大手マスコミが、横槍を入れてきた。
しかし、横槍を全て”否”として、今川が用意する会場での会見となった。
そして、二度目の会見の概要を、各マスコミに配布した。森田や今川の予想通りに進めば、大手マスコミは、概要を読まずに会見に望む。
時間をわざと、昼過ぎにして、生放送をしても問題にはならない時間に設定したのは、ユウキからの発案だ。
実際に、生放送に踏み切ったマスコミは多くは無かった。最大手が昼の番組を差し替えて、生放送を行った。他にも、BSやCSでの生放送を行うと決めたマスコミが存在していた。ユウキが望んだ方向に動いていた。
当日に、マスコミたちの前に座るのは29名の子どもたちだ。皆が顔を晒しているが、ユウキを除いては素顔ではない。
そして、目隠しされたボードが備え付けられている。
定時になり、目隠しされたボードが外されると、マスコミたちは唖然とした。前回と同じように、森下が司会を務める。
第一声は、”合同会社レナートの起業。及び、役員と業務の説明”だった。
前回と同じように”異世界”の話や、ポーションの話だと考えていたマスコミは、盛大に文句を言い始める。しかし、事前に渡している概要では、異世界の話は書かれていない。しっかりと、起業した会社の説明となっている。
大手マスコミも、概要を読まないで来たマスコミを含めて、肩透かしの状態になっている。
概要にかかれている内容以外の質問は、”受け付けない”と宣言されているのだ。またもや、大手マスコミを含めて、煙に巻いた格好になっている。
しかし、大手マスコミがそれでも食い下がったときに、子どもたちに異変が生じた。
生放送中に、14人の子どもたちが忽然と消えたのだ。
質問をした者が、”子供に向けて横柄な口ぶりだったことも影響している”のではと、ネットでは大騒ぎになった。質問をした、大手マスコミが発行している新聞社のサイトが、一時アクセスが不能になるくらいに炎上した。どうやら、森田が燃料を投下していた。
14人が消えたことで、会見は終了となった。
マスコミの目の前で、忽然と消えた14名はどこに行ったのか?
当日に来ていたマスコミ全員に向けて、消えた14名の氏名を伝えた。出身の国を合わせる形だ。海外でも、大きく報道された。消えた瞬間の場面は、いろいろな方向から撮影されていた。今川が撮影していた、後ろからの映像も”自然な形”で流出した。皆が、消えたトリックを暴き出そうと、躍起になったが、誰も明確な説明ができなかった。
そんな問題だらけの、合同会社レナートの起業説明会が終わって、2週間が経過した。
その間、マスコミからの取材の申し込みは一切に受けていない。海外からの申込みも同じだ。
さらに、2週間後に、ユウキたちが作った会社が、一つの発表を行った。合同会社レナートのウェッブサイトに書かれた小さな小さな宣伝だ。
”ポーションのオークション”を始めると宣言された。
この情報は、静かに、だが確実に広がっていった。ユウキたちが帰還したときの会見で使ってみせたポーションをオークションにかけると言っている。マスコミはもちろん医療関係者も注視している。注視はしているが、誰もが自分でカードを引く気にはならないでいた。
静かに始まった、オークションの1回目は加熱しないで終了した。
「ユウキ。どこが落札した?」
「佐川さん。気になるのですか?」
「あれほどの物だからな」
「そうですか?」
「そうだ!それで?」
「初級は、記者を名乗る人物と、米軍です。米軍は、すでに引き渡しが終了しています」
「ほぉ・・・」
「中級の一つは別の記者と、ユーチューバーです」
「記者?文句を言うために買うには、少々高い買い物だと思うのだけどな?」
落札された金額は、初級は40万。中級は、250万だ。佐川の想像とは、一桁違うが、それでも十分に高価な買い物だ。
「えぇ私もそう考えて、馬込さんに聞いたら、一人は、政権よりの記事を書いている者で、鞄持ちだという話です。もう一人は、政権にも顔は聞きますが、財界と政界を繋ぐパイプのようです」
「それは、それは・・・。それで釣れたのかね?」
「ダメですね。でも、馬込さんの予想では、財界に情報が流れれば、数回で釣れるはずだとおっしゃっていました」
「そうか、それで、次のオークションには何を出す?」
「”毒消し”のポーションとかどうでしょうか?」
「毒消しかぁ・・・」
「ダメですか?」
「ダメではないが、毒消しは難しいぞ?」
「え?」
「ユウキ。少し、考えれば・・・。そうか、感覚が、異世界の基準になっているぞ」
「あっ。日本では、毒を受ける行為自体が存在しないのか・・・。でも、蛇とか・・・蜂とか・・・、は、金持ちには意味がないのか・・・」
「そうじゃ。アルコールくらいだろうが、あとは放射線を受けているとか、毒消しを必要とする者は少ない。それに、狙った者が釣れるような代物ではないな」
「そうですか・・・。そうですよね・・・。またポーションでもいいとは思いますが・・・」
「そうだ。儂も、ラノベを読んで勉強してきたのだが、ユウキは、力のポーションとか、素早さのポーションとかは無いのか?」
「え?ありますが、効果が、30分も続かないですよ?それも、本来の力から10%/20%/40%を伸ばすだけですよ?」
佐川は、立ち上がって、ユウキに近寄って、肩を揺する。
「それは、数は?力と速度だけか?視力や聴力の強化は?」
「え?佐川さん落ち着いてください」
「落ち着いていられるか!ユウキ。なぜ、そんなに不思議そうな顔をする!成分次第では、ドーピングではない薬剤なのだぞ!」
「そうですけど、売れますか?30分程度ですよ?」
「確実に売れる。速度で、40%アップなら、100mのタイムなら2-3秒は削れるだろう、絶対に飛びつく!」
「そうですけど、訓練は必要ですよ。ポーションを使うよりも、日々の・・・。あぁそうか、強化のスキルがなければ、ポーションを使うしか無いのか・・・」
「ユウキ?」
「佐川さん。ステータス関連のポーションですが・・・。俺では、ありませんが、仲間で錬金のスキルの訓練で作った物が大量にあります」
「そうか!儂たちに回してくれるか?」
「えぇいいですよ。誰かに届けさせます。他の研究所向けにも必要ですか?」
「あれば嬉しい。次のオークションまでに、ポーションと同じように成分表を用意しよう」
「わかりました。お願いします」
ユウキは、レナートに戻って力と速度と頑強のポーションをそれぞれ20本を持って帰ってきた。それを、佐川に説明と一緒に渡した。今回は、20%アップの中級ポーションだ。ポーションを受け取った佐川は、喜々として研究施設に連絡をして、解析に取り掛かる。
その頃、ポーションを受け取ったユーチューバーが、もともと傷があった足にポーションを使ってみると宣伝して動画を撮影した。足の傷を大きく削り取ってから、ポーションで治す動画だ。綺麗になった傷や綺麗に修復していく傷。そして、ショッキングな内容を相まって、またたく間に2,000万回を超える再生数を稼ぎ出した。ユーチューバーの動画が火付けになった。ものすごい数の問い合わせが来たが、ユウキたちは全てを無視した。
そして、2回目のオークションが開催されると予告をした。
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