【第一章 勇者の帰還】第四話 報告(ユウキ)
(さて、2時間が経過したようだな。これ以上、降りると人に見られる可能性があるな)
ユウキは、浜石岳から降りてきている。途中にある小学校の跡地まで降りてきた。
生命探知で人を避けてきたが、難しくなってきていると感じていた。目的だった廃棄されているペットボトルも確保できた。同時に、アルミ缶やスチール缶も確保出来た。レナート王国に居る鍛冶屋に見せて加工が可能なのか確認したいと思っていた。
(少しだけ時間をずらしてみるか?)
ユウキは、元学校の道路から死角になっている場所で、スキルを発動する。
レナート王国で発動した時と同じように、”天使の声”が聞こえた。
(こちらに戻る時間は指定出来ないようだ。俺が基点になっているのか?)
(検証は後だな・・・。戻らないと、サトシ辺りが問題を起こしているかもしれない)
ユウキは、地球で2時間30分を過ごして、レナート王国の王城の裏にある家の庭にマーキングした場所に転移点を指定する。時間は、2時間以降なら指定できるようだ。
(よし!戻ろう!)
ユウキは、自然とレナートに”戻ろう”と思えた。異世界に召喚されて、帰還してきた地球だったが、自分の居場所はレナート王国にあると考えている。
地球はたしかに故郷で、心残りがある。
しかし、それだけの場所だ。過去はあるが、未来はない。ユウキだけではなく、勇者たちには過去の場所になっている。
魔法陣が現れる。
—
ユウキは、レナート王国に戻ってきた。
魔法陣の光が消えると、周りが見えてくる。
「あれ?セシリア?どうした?」
ユウキは、自分を見つめる。セシリアに気がついた。
「え?あっ・・・。その声は、ユウキ様?」
セシリアは、目の前に現れた人物が誰なのか判断が出来なかった。
雰囲気は、たしかに”ユウキ”だ。自分のことを、”セシリア”と呼んだ声は、大人の声ではないが、”ユウキ”の声だ。今まで、何度も聞いた声で間違いようがない。
しかし、小さくなっている。若返っているのだ。
「あ・・・。あぁそうか、俺は、15歳当時の身長になっているからな。声変わりの後だから、声はそれほど変わっていないようだな」
「え?あっ」
「すまん。セリシア。俺は、ユウキ・シンジョウだ」
ユウキは、アイテムボックスから身分証明になっているカードを取り出して、魔力を流す。
そこには、ユウキのステータスが表示される。
カードを、セシリアに差し出す。セシリアは、カードを受け取って、自分の魔力を流す。カードが偽造されているのか確認するためだ。
「・・・。ユウキ様?」
「そうだ。説明は、後でするが、転移魔法の弊害だと思ってくれ、俺は今15歳当時の身体になっている」
「記憶は?」
「大丈夫だ。セリシアのことも覚えているぞ?なんなら、セシリアがサトシに隠していることを、2-3個、話そうか?」
「え・・・。いえ、大丈夫です。秘密なんてありませんが、大丈夫です。ユウキ様です。間違いありません。でも・・・」
「理由は、話をする時に説明する。それよりも、何か有ったのか?」
「え?なぜ?」
「セシリアが一人で庭に来ていれば、何か有ったと思うほうが自然だと思うぞ?」
「あっ・・・。そうですね。まだ、情報がまとまっていません。皆さまが起きてからの話になると思います」
「わかった。俺も少しだけ休むから、いつもの場所でいいか?」
「はい。皆さまにお伝えします」
「頼む」
ユウキは、もらった家ではなく、王城に用意されている部屋に向かった。
大きな鏡が用意されているので、しっかりと姿を確認するためだ。長距離の転移は、出来ないが短距離での転移はユウキもできる。部屋までの距離だったが、姿を城の人たちに見られるのは避けたいと考えて、転移で部屋に向かった。
(うーん。身長が縮んだ?あと、幼くなった感じだな。声は、大丈夫だな。身分証明に使えるカードを作っておいてよかったな)
ユウキは姿をチェックして、着替えを済ませて、荷物の整理をしていると、ドアがノックされた。
「ユウキ様」
セシリアが侍女を連れて来た。
「みんなが揃ったの?」
「はい。皆さまお待ちです」
ユウキは、セシリアについていく形で”いつも”の会議室に向かった。
「!!」
皆の視線が、ユウキに集中する。
ユウキは、セシリアを見る。セシリアが皆に説明してくれていると思ったからだ。セシリアは、いたずらが成功した子供のような表情をして、いつものポジションに座った。ユウキは、勇者たちとセシリアだけかと思っていた。
「陛下!?それに将軍も・・・。暇なのですか?」
「ユウキで間違いはないな。その言い方は、間違いなくユウキだが・・・。ユウキ。おぬし・・・。可愛くなったな」
陛下の言葉がきっかけになって、皆がユウキを見て笑い出した。
「ユウキ!なんで・・・・。縮んでいる?」
皆の視線が、サトシに集中する。さすがは空気を読まない天才だけある。ユウキが説明を始める前に直球で自分が気になる部分を聞いた。
「あぁ時空転移の副作用だ。召喚された時の年齢に戻った。あっ記憶やステータスは大丈夫だ」
「スキルは?」
「ん?あぁ大丈夫だ」
マイが、二人の会話が微妙に噛み合っていないように感じた。
「ユウキ。サトシは、スキルも記憶と同じで消えていないよな?の、意味で聞いていて、ユウキの答えは、”地球でもスキルは使えた”でしょ?」
「ん?」「あぁ」
マイは、隣に座っているサトシを見る。セシリアもマイが説明した内容ですぐに解った。
「サトシ。ユウキは、地球に戻って帰ってきた」
「あぁ」
「時空転移のスキルは、最後の最後で入手している」
「そうだな」
「ユウキが帰ってきた時点で、スキルが消えていないことは当然のように認識できる」
「あっ」「・・・」
「それだけではなく、ユウキは”大丈夫だ”と答えた。これは、地球でもスキルの発動が出来たという意味だと思う」
マイが、ユウキを見て同意を求めている。
ユウキも、サトシの質問を誤解していたので、うなずくに留めた。
「それで、ユウキ。なんで、その姿に?説明はしてくれるのよね?」
今度は、ヒナがユウキに質問をした。
「あぁ・・・。そうだな。まずは、時空転移のスキルについて、解ったことを説明するよ・・・」
そこから、ユウキは、時空転移のスキルを説明した。地球で行った検証の説明と結果を説明した。
セシリアだけではなく、国王も、将軍も、ユウキの説明を黙って聞いていた。
「これが、解ったことで、まだ検証しなければならないことは残っているとは思うが、実用には問題にはならない。問題はないと判断できる」
ユウキが説明を終えたとばかりに、椅子に座って、前に置かれている飲み物を口にする。
「ユウキ。貴殿が持ち帰ったという物質を見せてもらいたい」
「わかりました」
ユウキは、ペットボトルとアルミ缶とスチール缶を取り出して、質問をした将軍の前に置いた。
「これか?」
「はい」
将軍は、ペットボトルを持ち上げて軽さに驚いた。アルミ缶の見た目は、鉄と同じなのに軽さや柔らかさに驚いている。スチール缶は、ある程度の硬さもあるので、またびっくりをしている。それだけではなく、缶の表面にかかれている色鮮やかな絵を見て驚愕している。
「ユウキ。これは、儂から鍛冶職に廻していいか?」
「将軍。お願いします。ペットボトルは、ポーションを入れようと思っています」
「そうだな。これなら、取り出すのも移送も楽にできそうだ」
将軍が、軍で使えそうな話に先に食いついてしまったが、国王は別に気になっていることがある。
「ユウキ。それで、その姿は固定されたのか?」
「そうですね。うまく言えませんが、15歳になっていると思ってください。時空転移は、まだわからないことが多いです。未来には行けないことや、自分が存在している時間にはいけないことだけは解っています。なので、セシリアが地球に転移しても8歳になることはないと思います」
「わかった。異常はないのだな」
「はい。しかし、あとで・・・」
ユウキは、鑑定を得意としている数名の診察を受けることにした。
それで問題がなければ、勇者たちの帰還が行われることに決まった。
「(サトシ様とマイ様も、私と同じ年齢に?それは・・・)」
セシリアだけが違う場所に食いついていた。
声に出したつもりではなかったのだが、隣に居たユウキにはしっかりと聞こえていた。
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