【第一章 王都散策】第十四話 おっさん納得する
「バステトさん。紋章の件は、把握出来たのですが、称号は偽装したものですよね?」
”ふにゃ?”
「違うのですか?」
”にゃ!”
「確かに、バステトさんとの繋がりを感じます」
”ふにゃ”
「そうですか、バステトさんも繋がりを感じてくれているのですね」
カリンが二人の会話を不思議そうに見ている。
「まーさん。バステトさん。会話が成立しているように思えるのですが?」
「え?成立していますよ?」
”にゃ!”
バステトも、まーさんの”成立している”を肯定する。カリンは、自分の常識を疑うように頭を左右に振る。
「カリン。ラノベの定番と言えば、使役ですよね?」
「え?まーさん。そっち系の話が好きなのですか?」
「雑食ですよ」
「そう・・・。確かに、”もふもふ”を使役するのは多いとは思いますが、一緒に転移や転生するのは少ないですよ?殆どが、召喚するか、最初に迷い入った森で契約だと思いますよ?」
「カリンも、かなりの数を読んでいるようですね。寝る時に、バステトさんと魔力の交換をしてみたのです、それが契約になったのでしょう」
「え?まーさん。そんなことをしたの?」
「できそうだし、バステトさんも受け入れてくれましたからね」
そう言って、まーさんはステータスカードを手にとって魔力を流し込む。
///称号
/// 聖獣の保護者
まーさんの称号の一つが、変わっている。
///称号
/// 聖獣の契約者
ステータスカードには、偽装した物が表示されている為に、表示は変わっていない。
///称号
/// バステト・ブバスティスの飼い主
ステータスカードの表示を確認したカリンは、微妙な表情でまーさんを睨む。
「まーさん。他に、表現はなかったのですか?」
「ないな」
「えぇ・・・。でも、バステトさんのステータスカードに表示された、紋章の様なものが解ってよかったですね」
「そうだな。俺も、使ってみたが、ロッセルの説明には嘘はないな」
「え?」
まーさんは、自分のステータスカードをカリンに渡した。
「魔力を流してみて、裏の紋章は表示されないよ」
「あっ!それに、ステータスカードの表示は、偽装している物です。隠蔽も無事反映されています」
「うん。カリンも使う?問題はなさそうだよ。辺境伯の紐がついているけど、煩わしくなったら、違うカードを使えばいいよ」
「はい!」
まーさんから、残っていたステータスカードを受け取って魔力を流す。まーさんは気がついていなかったが、ステータスカードには悪魔のような機能がついていた。魔力を流す度に、身体的な特徴を保存しているのだ。本人が許可した人にしか見られない物だが、ロッセルもイーリスも説明をしていなかった機能だ。
「・・・・。え?」
ステータスカードを見ていた、カリンが”素っ頓狂”な声を出す。
「どうした?」
「・・・。なんでも、うん!なんでもないです!」
カリンは、少しだけ大きな声で否定する。
「本当に?」
ステータスカードには、身体の特徴が記載されていた。身長と体重と各種サイズが書かれていた。男女の関係がなく、全てが記載されている。実際には、防具を作る時の採寸の必要性をなくすための機能だが、カリンは自分のサイズを覚えていた。そして、唖然とした・・・。
(誤差が殆どない?違う。これが本当の数値?)
(初代が作ったの?余計なことを・・・。それも、小数点第二位まで書かなくても・・・。体重が減っているのは、下着や服を除いている?もしかしたら、魔力で測る方法が・・・。誰にでも出来てしまう魔法じゃなければ・・・)
カリンはすごく気にしていたが、胸のサイズは日本人の平均よりも小さい。身長は平均よりも大きい。体重は平均以下。スレンダーな体型をしているのだが、それでも乙女の秘密として内緒にしておきたい数字である。
(バストが・・・。減っている・・・。おしりには肉が付くのに、なんで・・・)
カリンは、ステータスカードをにらみつけるように見ている。
「どうした?何か問題でも?偽装するか?」
「え?あっ。ちが・・・。わないけど、違います」
「そうか、問題がないのならいいよ。これで、仮にも身分証が入手できたけど、問題があるな」
まーさんは、自分のステータスカードを、凝視していた視線をカリンに戻す。
自分のステータスカードとバステトのステータスカードを並べる。
「?」
カリンは、両方を見比べるが、問題があるとは思えない。
「まーさん?」
「問題はないよな?」
「はい?」
「それが問題だ」
「え?」
「最初から気になっていたのだが、俺たちは”何語”を話している?見ているステータスカードは、”何語”で書かれている?」
「・・・?」
「彼らは、初代が残した文章を読めないのだろう?確かに、渡した物は読めていなかった。でも、このステータスカードは”日本語”で書かれている。数字も、俺たちが知っている”アラビア数字”だ」
「あっ・・・。でも、まーさん。ラノベの定番では?」
「転移や転生で、翻訳が組み込まれるってやつだろう?」
「はい」
「それなら、俺が日本語で偽装したステータスが見えるのはおかしくないか?」
カリンは、まーさんが何を気にしているのか理解出来ていない。
「ラノベを読んでいる時には気にもしなかったけど、不思議な感覚だ」
「え?」
「俺は、日本語を話している。ステータスの偽装にも日本語を使った」
「うん」
「なのに、彼らは俺と話しが出来る上に、ステータスの内容が読み取れている。それだけではなく、俺が使った言い回しもしっかりと理解している」
「あっ」
「会話の問題だけなら、よくある設定だと思えるけど、業界用語を使った内容の機微まで理解しているのは、どう考えても都合が良すぎる。その癖、日本語がわからない」
「・・・」
カリンは、まーさんが自分の思考を優先して呟いているだけで、会話で何かを導き出そうとしているとは思えないので、黙って話を聞いていることにした。
「そうか、魔力が影響しているのか?」
カリンは、その後も何かをブツブツ言っているまーさんを見ていたが・・・。
「ねぇまーさん」
「ん?」
「話が通じるのに、何が引っかかっているの?」
「あっ。言葉が通じすぎているのが気になっているだけで、引っかかっているわけじゃないよ」
「通じすぎる?」
「えぇ”ケツモチ”と言われて意味がわかる?」
「え?おしりを持つの?痴漢?」
「違うけど、”そう”考えるのが妥当だよな。”誰の知識”を中心に、言葉が通じるのかを考えていた」
「??」
「例えば、カリンが現代女子高校生にしか通じないような言葉を使ったとして、俺に通じないのは年齢的には当然だと思うけど、ロッセルやイーリスに通じるのか?例えば、日本語を適当に繋げた言葉を、生み出した時に、カリンとバステトさんには通じて、他には誰も通じないのか?とか、考え出すと止まらない」
「・・・」
「それに、五十音を数字にこちらの数字に置き換えて、暗号表を作れば・・・」
「あっ」
「勇者(笑)の連中に読まれてもわからないように工夫が必要だとは思うが・・・」
「それは大丈夫だと思います」
「え?」
「だって、王様や宰相が、わざわざ、無能者だと烙印を押した、私たちが残した文章を読むために、彼らに協力を求めるとは思えないですよ」
「確かに、カリンの言うとおりだな」
二人は、ステータスカードを見ながらいろいろ検証を行った。
ステータスカードが魔力を流すタイミングで表示を変えているのがわかった為に、偽装や隠蔽を行えばステータスカードにも反映するのが解った。これは、今後のことを考えるとありがたい発見だ。
カリンが、とある数字を偽装ができないかと、まーさんに聞こうか悩んだが、断念したのは、どうやっても他人には数字が見えないと判明したからだ。
お腹を引っ込めた状態で魔力を流すと、数値が書き変わったのを確認して、カリンは一安心したのだ。
しかし、まーさんはこの時点で一つの可能性に気がついていたが、あえて口にしなかった。
ステータスカードと同じ仕組みが他にもあり、カリンが隠したがっている数値が見えてしまう魔道具が存在しているのではないかと・・・。
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