【第八章 リップル子爵とアデヴィト帝国】第十七話 関所の村を説明
アフネスは、手に持っていた試算表をヤスに渡した。
「ふぅーん。アフネス。これで、ユーラットはいいのか?」
「問題はない」
「今更ながらの質問だけど、ユーラットのまとめ役は、アフネスなのか?」
「ん?確かに今更な質問だが、私ではない。村長は、しばらく空席になっているが、まとめ役はロブアンだ」
「え?」
「何かおかしいか?」
「いや、なんでも無い。・・・。・・・。・・・。そうだ!忘れていた」
「なんだ。ヤス?」「ヤス殿?」
「カイルとイチカの事は聞いているよな?」
ヤスの問いかけに二人は渋い顔をしたが頷いた。
「ルーサの事も大丈夫だよな?」
「話は聞いている」「・・・」
ダーホスには話が通っているようだ。
アフネスは、状況は知っているのだが、ヤスに話していいのか迷っている。
「カイルとイチカは、神殿で元気にしている。アーティファクトを与えたから、そのうちユーラットに来るはずだ」
「え?アーティファクトを?二人に?」
ダーホスが激しく反応を示すが、アフネスは知っていた情報なので、驚きはしなかった。
「そうだ。カスパルが操作するようなアーティファクトじゃなくて、人は運べないし、荷物も小さい物しか運べない。伝言や手紙程度を運ぶ専用だな」
「・・・。それは、助かる。カスパルに、手紙の受け渡しを頼んでいるが、一日一回ではそろそろ難しくなってしまっている」
「そうなのか?ギルド経由なら・・・。あぁそうか、神殿のギルドはまだそこまで処理能力があると思われていないのだな」
「はい。手紙や伝言が、ユーラットのギルド経由になってしまっているのです」
「すまない」
「ギルドの仕事ですから大丈夫です。でも、カイルとイチカが来てくれるのなら助かります」
「試験運用に合格したら、本格運用に移行するからな」
ダーホスから、ギルドの実情を聞いて、ヤスはカイルとイチカにモンキーを与えたタイミングが良かったと思っている。実際に、タイミングが良かったのだが、神殿が攻略されて、レッチュ領に居たエルフ族やエルフ族と繋がりがあった者たちが移動してしまった事実を、ギルド経由で知った者たちが連絡を取り始めたので当然の成り行きなのだ。
「ヤス。それで、ルーサはどうしている?神殿に向かったのだよな?」
アフネスがしびれを切らしたように、ヤスとダーホスの話に割って入った。
ギルドの受付が持ってきた、飲み物を飲みきって、コップを机に乱暴に置きながら、ヤスを見る。
「そうだった。ルーサには、関所の村を任せる」
「関所の村?」「??」
「ん?サンドラやドーリスから話が来ていないのか?デイトリッヒも、ミーシャも知っている話だぞ?」
サンドラやドーリスは、ヤスの行う”嫌がらせ”の内容は、極秘事項だと思って、ダーホスやアフネスに知らせていなかった。ミーシャやデイトリッヒも同じで、リーゼにさえ言っていなかったのだ。しかし、リーゼはカイルやイチカから断片的に話を聞いているので、ヤスが何かしている程度には知っていた。
「ヤス殿・・・。話を聞きたいが、聞かないほうがいいのか?」
「ヤス。まずは、私が話を聞こう。その後で、ダーホスやロブアンに話せる範囲で説明すればいい」
「わかった。ダーホスもそれでいいか?」
ダーホスが認めたので、アフネスはヤスを連れて、海に向かった。
「アフネス?」
アフネスに連れられてきたが、話をするような場所には見えなかったのだ。
「ヤス。宿屋で話を聞いても良かったのだが、新しく雇った娘は、里からのスパイで、神殿の主との話は聞かせたくなかった」
「スパイ?」
「あぁ里は、神殿を神聖なものと考えすぎていて、攻略したのが”ヤス”だと知られると厄介な状況になってしまうからな。力を付けるまでは、注意してくれ」
「なにができるかわからないが、わかった。でも、リーゼはいいのか?」
「リーゼは、神殿から出ないだろう?地下が楽しいと言っていたぞ」
アフネスが深刻な表情を崩してヤスに近況を聞いた。
ヤスも、しばらくリーゼと会っていないと言いながら、伝え聞いている話をアフネスに聞かせた。
「アフネス。リーゼの話をするために、引っ張ってきたわけじゃないのだろう?」
アフネスは、ヤスの言葉で姿勢を正して、ヤスを正面から見た。
「神殿は何を”やろう”としている?」
「ちょっとした嫌がらせだ」
ニヤリと笑ったヤスだが、表情が渋くなるはずもなく、悪ガキが楽しいイタズラを思いついた程度にしか見えなかった。
「全部、教えてくれ」
「わかった・・・」
ヤスは、カイルとイチカを保護した所から全部を話した。
ルーサが、ユーラットとレッチュヴェルトの間に作った関所の村に居て、村長に任命した事も話した。帝国に抜ける道にも同じ物を作成してあると説明したのだ。
「ふぅ・・・。こんな場所で聞く話ではなかった・・・」
「話は、俺がしたけど、場所はアフネスの指示だからな」
場所は、ユーラットにある海岸だ。
岩場があり誰も近くに居ないのは確認している。近くに人が居ても、波の音で話している内容は聞かれない。
「ヤス。最初に聞きたい」
「ん?」
「ヤスは、リップル子爵家を潰したいのか?」
「どうでもいい。できれば、俺が知らない場所で、カイルやイチカやルーサから見えない場所で幸せになってくれればいい。そうだな。別の大陸とかなら最高だな」
「・・・。帝国に関しては?」
「出方次第だな。ディアスの件があるから、手を取り合うような未来は見えないけど、国民の全員が悪いわけではないだろう?」
「それは・・・。そうだが・・・」
「降りかかる火の粉は払いのけるだけだ」
「わかった。ダーホスとロブアンに話す嫌がらせの内容は任せて欲しい」
「わかった。ルーサの件は?」
「関所の村は隠しようが無いからな。全部話す。それにタイミングがいいと考えたのだろう?」
「そうだな。アフネスの試算した通行税を取るのに丁度いいな」
「ユーラット側はそれでいいが、帝国側はどうする?」
「セバスが、サンドラと辺境伯を乗せて王都に向かっている。もう着いて、嫌がらせの件と合わせて話をしているはずだ。サンドラから聞いたけど、王国の法では、帝国に向かう道は、辺境伯領だという話だから、辺境伯から俺への詫びとしてもらうのなら問題はないと言われたぞ」
「・・・。そうだな。森も、誰の領地でもなかったはずだからな。神殿の領地だと宣言すれば、王国内では文句は出ないな」
「だろう?帝国が文句を言いたければ、神殿の俺が居る場所まで来ればいい。神殿まで来られればだけど・・・。な」
「ハハハ。そうだな。わかった。関所の村は、作った意図は別にして有意義なのは違いない。それに、王都からも告知がでるだろうから、大丈夫だろう」
「そうか、それならよかった。それで、アフネス。通行料だけどな」
「解っている。必要ないと言いたいのだろう?」
「そうだな。そもそも、休憩所のつもりで作った場所だし、あれば使うだろう程度にしか思っていなかったからな」
「わかった。試算の中に入っていたが、通行税は無料にして果実の持ち出しに税を付ける」
「それでいい。持ち出しだから、関所の村から出る場合に課せばいいよな?」
「それでいいのか?ユーラットに持ち込んで売る奴らが出てくるぞ?」
「いいさ。それに、ユーラットに居る人間なら、自分たちで好きなだけ取りにいけるだろう?わざわざ商隊や冒険者から買う必要は無いだろう。あっルーサに伝えて、関所を通る時に、帰りに神殿の領域内で採取した物は、持ち出し時に”税”を課すと説明させる必要があるな。一覧表でも作って渡せばいいよな?」
「そこまでする必要はないと思うけどな?」
「貴族とかが、果物が欲しいから取って来いとか言い出したときの対処だな」
「わかった。ダーホスにでも試算させればいい」
「別に、儲けようとか思っていないから、ギルドやルーサが困らない状態になればいいぞ」
ヤスはアフネスから、石壁の道への要望を聞いた。
今はまだ大丈夫と言われたが、道幅が狭い事や、休憩スペースに小屋を作れないかと要望を伝えられた。
道幅は、馬車が二台すれ違う程度で考えていたが、馬車は道で立ち往生して道を塞いでしまう。すれ違いが難しくなってしまうので、今の三倍程度の広さが好ましいと言われた。ヤスは車がすれ違える幅で考えていたのだが、3車線道路程度の広さをキープするように考えた。
小屋は、監視する者を住まわせておく場所が欲しいらしい。
ヤスは、セバスの眷属たちが居るから監視は必要ないと思っていたのだが、監視しているというポーズも必要だと言われた。承諾して、1人が生活できる小屋を作る約束をした。アフネスに、普通の小屋でユーラットに有るような小屋で十分だと念を3回ほど押された。全部に解ったと伝えたヤスだが、小屋にはトイレと風呂が完備されていた。ヤスとしても、風呂とトイレは譲れない所だったのだ。
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