【第四章 ダンジョン・プログラム】第八話 DEAREST

 

 兄ちゃんは、俺と姉ちゃんに、一緒に行くための条件試練を出してきた。
 俺と姉ちゃんは、一緒に行けるものだと思っていた。姉ちゃんは、兄ちゃんと一緒に居なければならないので、出された条件試練をクリアするために頑張った。

「アル!」

 カルラ姉ちゃんから、指示が出る。
 俺が魔物に一撃を加えろというのだろう。だけど、今、使っている武器は一撃ではなく、相手を弱らせて、手数で勝負を有利にすすめるための武器だ。

「解っている!エイダ!」

 エイダなら、姉ちゃんからの指示も聞いていて、俺と武器に付与魔法を使ってくれる。

「強化します」

 エイダの強化が入って、俺の攻撃が対峙していた40階層付近の魔物に致命傷を与えた。
 魔物が、怯んだ瞬間に姉ちゃんが魔法を使って、倒した。

 エイダが、訓練に参加するようになってから、訓練は安定している。エイダは、兄ちゃんから”魔法”を教えインストールられて居る。

「アル。エイダ。40階層までなら、怪我もなく倒せますね」

「うん!エイダのおかげで、無理しないで戦える!」

 時間を確認した。
 これで、出されてる条件試練はクリアした。あと、何個あるのかわからないけど、頑張る。

 兄ちゃんから出された条件は、きつい。正直に言えば、いつもぎりぎりだ。今回も、40階層のボスを、姉ちゃんは魔法だけ、エイダは補助魔法だけ、俺は普段の武器以外で、5分以内に無傷で討伐しろと言われた。
 1週間ほどこの条件で足踏みをしていた。その前の条件もきつかったが、苦手な状況での討伐は本当に難しかった。
 でも、俺と姉ちゃんの問題点がわかった。改善していけば倒せそうだと思えてきた。

 エイダに補助系がもともと多かったのは、こういう戦い方を想定しているのだろう。
 姉ちゃんが要人を守って、俺が攻撃を担当する。エイダは、姉ちゃんからの指示や俺の指示で両方をサポートする。

 兄ちゃんの条件をクリアすると次の条件が提示される。そのときに、前の条件が何を想定していたのかを教えられる。

「そうね。マナベ様からの次の条件が来ています。これが、最後の条件だと言われました」

「!!」

「それで?」

「マナベ様からの出された条件は・・・・。は?馬鹿なの?」

「姉ちゃん?」

「・・・。エイダ。これは、本当にマナベ様から?」

 姉ちゃんが条件を読んで、エイダに確認している。”素”に戻った表情を直している。

 エイダは、姉ちゃんの問いかけにうなずいただけだ。

「そう・・・。アル。最後の条件は、10階層と20階層と30階層と40階層の全ての魔物を、1時間以上の時間で倒せ、縛りはなし」

「それなら・・・」

 姉ちゃんの言っている条件はすでにクリアしている。また同じ事を行う?確かに、前のときにはエイダは居なかった。でも、エイダが入れば、サポートが増えるから、それほど難しくない。

「アル。勘違いをしないで、以内ではない、以上の時間です。それに、前は、順番に出てきましたが、今度は、全部が一緒に出てきます。それだけではなく・・・」

「え?」

「その後に、30階層までの階層主を除いた魔物、100体を順番に倒せ。時間制限はなし。攻撃魔法は使うな」

「は?」

 全部の階層主と同時に戦闘?
 魔法を使っていいようだが、属性の問題がある。それに、魔法を使うと1時間以内で倒してしまう。以上にはならない。

「エイダ。30階層までの魔物の種類は?」

「37種類です」

「上位種も?」

「はい」

 絶望的な状況だ。でも・・・。

「アル。辞めるのなら、止めていいわよ?」

「やる。兄ちゃんと一緒に行く条件だ!」

「そうね。エイダは?」

「やります」

「そうね。アル。エイダ。今日は、休みましょう。明日は、休日にして、明後日から・・・」

「うん」「はい」

 姉ちゃんは、明日は報告のために地上に出るようだ。
 兄ちゃんに確認してくるといって、部屋を出た。

— カルラノート

 アルノルト・フォン・ライムバッハ。シンイチ・マナベと名乗っている。彼は、”なに”と戦うことを想定しているのだ?
 アルバンには伝えていないが、私は知っている。私たちが行っている条件という名前の試練は、彼が実際に”1人”で行っている。実際には、私たちが行ったものよりも条件がきつくなっている。
 彼が、エイダを連れて訓練が行える部屋に入っていくのを見かけた。気になって、すぐに出てきたエイダに聞くと、彼が行っている訓練を教えてくれた。

 絶句した。
 常軌を逸している。

 最後の試練だと言われた物を、彼は魔物の数を10倍にして、全てを上位種や変異種に設定して戦った。私たちは、体力の2割が奪われたら、強制終了するようになっているが、エイダが言うには、彼が行っている訓練は9割の体力が奪われても止まらない。彼が死ぬ寸前まで戦闘が続けられる。”死”が目の前に迫っている。実際に、死ぬ可能性だって低くない。それなのに、彼はそんな訓練を繰り返し行っている。魔物の種類を複数にしたり、指揮個体が居る状態にしたり、本来なら軍が出て対処する個体を単独撃破する訓練を行っている。

 彼の事情は説明された。
 ユリウス・ホルトハウス・フォン・アーベントロート皇太孫様と、クリスティーネ・フォン・フォイルゲン様の御学友で、異質な存在。
 聖女エヴァンジェリーナ・スカットーラ様の想い人。

 家督を、弟君であるカール様に譲られた。
 正確ではない。アルノルト・フォン・ライムバッハは、気が狂って死んだことになっている。話を聞いたときに、何を言っているのか理解できなかった。ライムバッハ家は、辺境伯だ。王家を除けば、一番といえるほどの領地を持っている。その当主の座を簡単に弟に譲った。

 1ヶ月近く一緒に居るが未だに理解できない。

 クリスティーネ様への報告を行うためにギルドに向かう許可を貰おうとしたら。いくつかのお願いを頼まれた。
 特に難しかったが、宝石を指定した大きさと形に研磨して欲しいとお願いされたことだ。ご自分でも出来るらしいのだが、全部を同じカットにしたいらしく、ご自分では自身が無かったようだ。

 宝石の原石を渡された。正直に言えば、これだけで、王都の一等地に建つ屋敷が買える。
 ダイヤモンドdiamond/エメラルドemerald/アクアマリンaquamarine/ルビーruby/ユークレースeuclase/サファイアsapphire/トパーズtopazを渡された。初めて聞く原石もあった。彼から渡されて、ギルドに持っていって指示を出した。加工に日数が必要になると言われて、彼に伝えると、彼が指示した方法がオイルに漬けるなどの処理が必要になるので、わかっていたようだ。

 加工が終わった宝石を彼にわたすと、嬉しそうにしていた。

 聖女エヴァンジェリーナ・スカットーラ様の誕生日にプレゼントを贈ろうとしていたようだ。
 婚約しているわけでも無いのに、宝石のプレゼントは重いのでは?と思ったが、彼が加工を見て、意見が欲しいと言われた。

 常識が無いのかと何度も言いかけたか・・・。
 彼は、ミスリルを使った腕輪を作ろうとしていた。腕輪なら、”彼女”の誕生日プレゼントにするのなら大丈夫だ。しかし、ミスリルはやりすぎだ。そして、宝石を付けようとしている。彼にそれを指摘すると、笑いながら”とんでもないこと”を言い出した。

「大丈夫。宝石は、見えないようにするし、ミスリルだとわからなくする」

 意味がわからない。
 見える場所に付けるのは、魔石を一つだけだ。自身の魔力を込めた物を作っていた。

 なんのために、宝石を揃いのカットにしたのか?
 せっかくのミスリルなのに、なぜ”シルバー”に偽装するのか?
 聖女エヴァンジェリーナ・スカットーラ様が受け取らないとは、思わないのか?

 彼からの返事は、”大丈夫”だけだ。

 加工を見ていると、本当にミスリルを使って腕輪にして、宝石は内側に配置して、その上からミスリルをコーティングしている。そして、薄く伸ばしたシルバーをミスリルに融合させている。技術はすごいのは認めるが、無駄遣いに思える。魔石も表ではなく裏側に配置している。そして、宝石を埋め込んだ場所に、なにか書き込むように印を付けている。シンプルな記号だが、なにか意味があるのだろう。

 後日、聖女エヴァンジェリーナ・スカットーラ様から、彼に丁寧なお礼の文が届けられた。

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