【第三章 復讐の前に】第十七話 日常

 

侵入者の処理をヒナに託して、ユウキは自宅に戻った。
マイとの約束を果たすために準備をしなければならなかった。

準備は、そんなに難しい事ではなかったが、場所の選定に困っていた。
アインスたちが私有地に入り込む侵入者を防いでくれるようになった。それでも、まだ侵入を行う者は出てくるのだが、以前よりは少なくなっている。家の中には、ウミとソラがいる。

家から浜に繋がる場所も、家の一部なのだが、アインスたちのおかげと、立地から人目がない。

ユウキは、マイの依頼を達成するための準備を、この場所で行うことにした。

まずは、近くにあるベイドリームで材料を買い集めた。
学校に通っている。部活はしていないが、放課後をバイトに充てている。それでも、ユウキは時間を持て余していた。拠点に行けば、何かしらの作業を行うのだが、”あまり頻繁に拠点に顔を出すな”とヒナに言われてしまっている。ユウキが顔を出せば、皆がユウキに頼ってしまう。
同じ理由で、レナートにもあまり顔を出していない。

レナートに残った者たちで、ユウキのスキルである”転移”スキルが付与された道具を作り出した。

利用には、いろいろな制限がある。
一つ目の制限は、スキルが利用可能になる間隔だ。ゲームを嗜むものが”クールタイム”と呼んだことから、クールタイムと呼び続けているが、厳密にはチャージのための時間で、24時間程度が必要になり、地球に行った場合には、36時間のチャージが必要になった。
クールタイムは、道具を増やす事で対応が可能なのだが、二つ目の制限として、道具を作る素材がレア度の高い物が必要になってしまっている。レナートに残ったメンバーでも、多くを揃えるのは難しい。現状では、5組を作るのが精一杯だった。
三つ目の制限は、一方通行になってしまっている。送信と受信という組み合わせで設置しなければならない。制限ではあるが、大きな問題ではないと考えている。道具の大きさが四畳程度の大きさで、スキルの発動時に道具の上に乗っているが転移する。運用で対処を行うことになった。
四つ目の制限は、受信側の設置を行ってから出ないと、送信側の設定ができない事だ。その時に、ユウキが受信側の設置を行って転移で送信側の設置を行う場所に戻らなければならない。手間ではあるが、ある意味でしょうがない制限だと思える。転移は、空間を越えるスキルだが、ユウキの転移は時間も越えているのではないかと思われている。
スキルの解析が終わっていない状況なので、設置には慎重論も出たのだが、それ以上に便利になると、実験的な設置が検討された。

レナートの王城とユウキたちの地球での拠点が結ばれた。
半月の範囲内での実験だったが、事故などの発生もなく、転移がしっかりと行われた。生き物も大丈夫だと判断された。最終的には、7往復の人の転移を行い問題が無いと判断された。

5組ある転移道具の2組は、王城と地球の拠点を結んだ。
残った3組の二つをユウキの家と王城を結ぶ計画が立ち上がった。ユウキが頻繁に何かを送る事はないが、何かあった時に、レナートからユウキの所に素早く駈けつける為だ。
そして、残った一組は、拠点からユウキの家に一方通行だが向かう為に設置する。

ユウキが浜に向かう通路の途中に、場所を確保して作っているのは、転移道具を設置する小屋を作る為だ。
最終的には、スキルでの補強を行うのだが、見た目だけでも小屋にしておこうと考えた。

小屋を設置して、レナートと繋がる転移道具の設置を行う事が、マイから依頼された事だ。

最初は、家の中に設置しようと考えたが、レナートから送られてくる物が安全とは限らないために、ユウキは小屋を建てることにした。家全体の結界を張り続けるよりは、楽にできることや、ウミとソラがユウキの居ない時に、送られてきた物を触って怪我をしない為の配慮だ。アインスたちにも同じ事が言えるが、基本は外で過ごしているアインスたちは安全だと考えた。

入学して、問題らしい問題が発生していないのが気持ち悪いと感じながら、ユウキは学校とバイトをこなしながら、小屋の建築を行っていた。

小屋が完成したのは、初夏を感じる頃だ。
転移道具の設置を行うために、レナートと拠点を行き来する必要がある。

ユウキは、設置にそれほど拘ってはいない。マイとヒナとサトシが、設置を切望していた。ユウキも、”あれば便利”くらいには考えていた。

転移道具の設置を終わらせたユウキは、マイに報告するために、レナートに戻った。

「ユウキ!」

後ろから、大きな声で話しかけられたユウキは、振り向く。

「なんだ?それにしても、久しぶりだな」

「そうだな。いつも行き違いになっていたからな。今日はどうした?」

サトシが嬉しそうな表情で、ユウキに駆け寄る。
実際には、1か月くらい前に話をしたのだが、以前は一緒に居るのが当たり前だったので、少しでも離れていると、”久しぶり”という感覚が強く出てしまう。

「マイに報告だ」

「お!転移ゲートが出来たのだな?」

「転移ゲート?」

「しっくりくる名称がないから、俺が考えた!」

「はい。はい。それじゃ、転移ゲートで決定なのだな?」

「そうだ!」

サトシが、転移道具の設置時に拘ったのが、名称がない事だ。
スキルを付与した道具は、召喚者たちは”魔道具”と呼んでいたが、フィファーナでは、そのまま”道具”と呼んでいた。スキルの付与で、呼び名が変わらない。転移道具という呼び名がサトシには許せなかったらしく、文句を言っていた。
ユウキもマイも他の者たちも、名称に文句があるのなら、”自分で考えろ”と突き放したので、サトシはレナートの大臣たちを巻き込んで名称を考え始めた。盛大に、大臣たちだけではなく国王を交えて会議を行った。

それで出てきた名称が”転移ゲート”だ。
門ではないのに、ゲートと呼ぶのに抵抗感があるユウキだったが、ここで名称に文句を付けても面倒になるだけと、名称を受け入れた。

「それで、マイは?」

「この時間だと、セシリアと一緒だと思う」

「ん?セシリア?あぁ王妃教育か?」

「そう」

ユウキの目には、サトシこそ国王になるための教育を行う必要があると思っているのだが、それをセシリアとマイが否定した。
特に反対したのが、現国王の妃だ。セシリアの母になるのだが、マイがサトシとの婚姻に戸惑っていた時に、後押しをした人物だ。その現在の王妃が、サトシには国王の為の教育は必要ないと明言した。

国王の言葉は、全てが正しく、態度やマナーなど国王には必要ないということだ。
それで、国難に襲われても、それは国王の選択だというのだ。

国王がどんな事をしても、王妃がサポートをすれば問題にはならないと譲らなかった。

「・・・。終わるまで待つか・・・」

「それなら!俺と、模擬戦でもどうだ?腕が鈍ったら大変だ。確認をしてやる」

ユウキは、少しだけ考えてから、サトシの提案を受け入れた。
スキル無しの刃引きした武器で行うことになった。

「そうだな」

マイとセシリアの王妃教育が終わるまで、たっぷりと3時間。
ユウキはサトシの相手をしていた。

ユウキも修練を行っていた。鈍ったつもりは無かったのだが、実践を行っていた時よりも確実に動きが悪くなっていた。

「ユウキ。鈍ったな」

「確かに・・・。ふぅ・・・。少し・・・。スキルを使うぞ」

「いいぞ!」

「辞めなさい!ユウキ!サトシ!」

マイが、訓練場に入って来て、怒鳴った。
二人は、発動の途中までのスキルを強制終了して、力を解放する。

「二人が、スキルを使ったら、刃引きした武器でも、訓練場が壊れるでしょ!特に、サトシ!手加減が出来ないのに!」

ユウキは、冷静になって、マイに謝罪した。
家に帰ってからも、アインスたちと訓練をすることを決意した。

夏休みの2週間前になって、やっと問題が発生した。

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