【第二十七章 玩具】第二百七十八話
馬車がゆっくりとした速度で、行政区に向かっている。
「なぁルート。あれは、なんだ?」
俺が、目の前に座って居るルートガーを睨むが、俺が指さした物を見て、さも初めて見たかのように驚いて見せた。
「私も始めてみました。どっかの誰かに似ていますね。そういえば、ヨーン殿やロータル殿が、仲間を集めて、何かを作っていました。あれがそうだったのですね」
ルートが澄ました表情で語っているのには、嘘があるのは解っている。
解っているが、指摘できない。
指摘したとしても意味がないことが解っている。
俺の石像が立っている場所は、行政区ではない。ヨーンたちの獣人族が居を構える一角で、彼らに所領を認めている場所だ。境界を解りやすくしてしまった為に、強権の発動が出来なくなってしまっている。
境界を解りやすく、色分けした石畳にしている。はっきりと、ギリギリを狙っているのが解る位置だ。
それに、最悪なのは・・・。
俺の横に、シロの石像とカイとウミの石像が作られている。
シロもだけど、カイとウミが石像だけど、特徴を捕えている。知っている者が見れば、確実に”カイとウミ”だと答えるだろう。それだけ精巧に作られている。だからという訳ではいないが、”壊せ”とは言えない。
言えないけど・・・。
ニヤニヤしているルートガーを殴りたい衝動を押さえられなくなりそうだ。
困ったのは、シロが銅像を気に入ってしまったことだ。自分の銅像は嫌な表情を見せたが、俺とカイとウミと一緒なのがシロの琴線に触れたのだろう。嬉しそうに銅像を見ている。
「ツクモ様。住民の敷地内に作られた象よりも、一つご提案があるのですが?」
「あ?」
「はいはい。ツクモ様。話を続けてもいいですか?」
「あぁ提案?」
「はい。現状、私たちは大陸を治めています」
「そうだな」
「ツクモ様の御威光で、自給自足が可能な状況です」
「世辞はいい。それで?何をしたい」
「はい。船。戦船の建造のご許可を頂きたい」
「船?」
「はい。大陸内部は、安定していますし、戦力になる者たちも多数・・・」
チラッとシロを見る。確かに、シロだけではなく、戦力と数えることができる者も多い。
モデストが帰ってきていることから、領内は安定するだろう。
そうか、シロを見たのは、アトフィア教がまた動きを見せ始めているのか?
「そうだな」
反乱が出てきても、コアたちに指示を出して、戦力を増強することもできる。方法はいくらでも考えられる。
「はい。アトフィア教や他の大陸との戦闘では、まずは海上戦になると思います」
ルートの考えは理解できる。
確かに、戦力になりそうな者たちは多い。飛行能力がある”竜族”も居るが、協力を求めるには理由や対価が必要になるだろう。そのために、上陸する為には船が必要になる。
「今のままでは・・・。そうか、ルートは、乗り込ませる前に、海上で始末をつけたいのだな?」
「はい。出来れば、相手方の港を奪えるような船が欲しいとは思いますが・・・」
「いいよ」
「はっ?」
「だから、いいよ。船を作ろう。今の10倍じゃぁ小さいな100倍くらいの船とその周りを護衛する船と、あとは港を制圧するための揚陸艦を作ろう」
「おい」
「忙しくなるな。ルート。全面的に任せるけど、作るのなら、中途半端な大きさはダメだ。見ただけで、逃げ出すくらいの船にしてくれ」
「・・・。おい。俺に任せてって・・・。認可は、お前の仕事だ」
「解っている。計画が出来たら持ってきてくれ、必要な資材やスキルカードの計算も頼む」
「わかった。それから、戦船はなんとなく想像ができるけど、”ようりくかん”はどんな船だ」
「そうか、ルートは船には詳しくないのだな」
「この辺りに住んでいた者で、船に詳しい奴が居たら、連れてきてみろ!」
「わかった。わかった。そんなに怒るなよ。俺が必要だと思う船を説明する。その中から、ルートが選べばいい」
シロも興味がありそうだったので、ルートガーとシロに俺が知る限りの情報を与える。
大航海時代に作られた船とキールが存在しないジャンク船の説明を行う。戦船ではなく、荷物を運ぶのなら、ジャンク船が優れていると思っている。メリットが多い船だと思う。
「わかった。ジャンク船とかいうのは、物資を運ぶのに使えるのだな?それ以外は、一通り作ってみてから判断する。で、いいか?」
「まかせる」
「それで、お前は?」
馬車が止まった。
目的地に到着した。
モデストが、扉を開けてくれる。俺が先に出て、シロの手を取って馬車から降ろす。
「俺か?今から、カトリナと、大陸に流行らせるための、玩具や遊具の相談だな」
カトリナの事務所の前だ。モデストに命じて、先ぶれが走っている。カトリナからは、モデストが”お待ちしています”と返事を貰っている。もちろん、ルートには伝えていない。
「ルート。エルフ大陸と船を頼むな」
「わかった。あとで、長老の所にも顔を出してくれ」
「わかった。わかった」
馬車は、そのままルートに預ける。保管場所まで持って行ってくれるようだ。
ルートと別れて、カトリナが待っている事務所に入る。
表から入ると騒ぎになるという理由から、裏口から事務所に入っていく、確かに聞こえてくる喧噪は繁盛しているのが窺える。
「ツクモ様!」
裏口を入って、すぐの部屋に通されると、従業員(どこかで見たことがあるから、元奴隷かな?)が、並んで待っている。そして、カトリナが立ち上がって、俺に近づいてきた。まずは、シロに目礼をしてから、俺に声をかける。
「カトリナ。繁盛しているようだな」
ソファーに誘導されながら、カトリナに話しかける。
部屋に入ると、表の喧噪が聞こえなくなっている
「おかげさまで、日々、忙しく過ごしています。ご報告を・・・」
先ぶれを出しているが、カトリナは直近の報告を準備していたようだ。今回の訪問の意味は理解しているが、まずは報告が先だと思っているようだ。報告は、カトリナでなくてもできる。そのために、従業員を連れているのだろう。資料も、従業員が持っている。それだけではなく、従業員の顔が緊張で今にも倒れそうな雰囲気だ。可哀そうになるくらいだ。
別の従業員が、俺の前とシロの前に飲み物を置いて、部屋から出ていく。
「それは、後でいい。今日は、先ぶれでも伝えたけど、別件だ」
明らかに、従業員が”ほっ”としているが、報告は別の機会になるだけで、”受けない”と、言っていない。カトリナが、従業員の緊張が和らいだのを感じたのか苦笑している。俺の言葉から、すぐに報告は受けない。しかし、話が終わったら報告を受ける。カトリナは察したが、従業員にわざわざ忠告はしていない。いい性格をしている。
「わかりました」
カトリナが、従業員を見てから、俺を見る。下げていいのか、判断ができないのだろう。
「カトリナ。俺の話が終わってから、報告書を受け取る。その時に、簡単に説明してくれ」
カトリナはそれで解ったのだろう。従業員に、椅子を持ってくるように伝えている。さっき飲み物を運んできた従業員も一緒に話を聞くように伝えている。やはり、カトリナとの話は楽ができる。俺が望んだことを実行してくれる。
従業員が椅子を運んできて、新しい飲み物と摘まめる食べ物が運ばれてくる。
その間は、カトリナから簡単に近況を聞く。聞いていた話と齟齬がないから、やはり皆が問題だと思っているが、大きく動くつもりはない。予測の範囲内だけど、貧富の差は小さければ小さいで問題になる。大きければ治安などを含めて問題になる。適度に調整を行うか、目を逸らす必要が出て来る。今回は、目を逸らす方向で行いつつ時間を稼ぐ。
チャンスの創成が最終的な目標だ。
努力が報われると思えば、努力を選ぶことができる。しかし、努力が報われないと考えてしまうと・・・。楽な方向に流れてしまう可能性が高い。どこでも、どんな時代でも、大多数の人は”楽”をする為に、努力して頑張る。だから、努力が報われないと感じてしまったら、”楽”な方向に逃げてしまう。
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