【第十章 ワンクリック詐欺】第三話 提案

 

 各部活に配布したパソコンに大量の問題が出てきた。
 学校のパソコンには、Windows10が入っていた。そのままクリーンアップして部活に配布したのだ、使いやすいだろうという配慮だと聞いている。間違いではないが、大きな勘違いが存在している。

 各部に何を行わせたいのかがはっきりとしていない。
 パソコンを配っただけで、何かが変わるわけではない。

 まず、勝手にゲームのインストールをしているパソコンから回収しよう。
 その後で、各部のパソコンを回収する。お試し期間が終了して、問題点を解決してから再度の配布を約束する。

 各部から回収してきたパソコンはひどい状態だ。

 酷い。パーツの抜き取りはないが、ゲームは入っているし、どこから持ってきたかわからないソフトは入っている。ウィルスやマルウェアでは大丈夫なようだけど、実際にはサービスで起動しているので、詳細に調べなければわからない。音楽プレイヤーとの連動をして何がしたいのか?共用のパソコンに自分のアカウント情報を残している者も居る。
 セキュリティ意識が低い。本当に大丈夫か?

 戸松先生を呼び出した。

「先生。各部のパソコンの状況はご存知ですか?」

「報告は受けた」

「どうしますか?生徒会は、パソコンが各部にある前提で仕組みを考えています」

「篠崎。何か、方法があるのだろう?」

「俺に聞きますか?」

「お前がこの一覧を出してきたということは何か解決方法があるのだろう?」

「いくつかの方法は考えられますが、問題はそこじゃないのですよ」

「ん?」

「対策を行うだけなら、それほど難しくは無いです。アカウントを作り直して、使えるアプリを制限して、インストールも出来ないようにして、USBやDVDも付かなくすればいい。なんなら、Windows Server を立てて、AD環境にして制限を強くすれば、ほぼ問題は解決します」

「なら!」

「俺が卒業したらどうします?誰がADの面倒を見ますか?アカウントを再発行しないと意味がないですよ?」

「そうだな。お前に、仕事として受けてもらうのは無理だな」

「可能だとは思いますが、予算が合いませんよ?最低でも、電脳倶楽部が対応できる範囲にしておくほうがいいと思います」

「それで?」

「え?」

「何か、考えているのだろう?」

「えぇまぁ各部に配るパソコンですが、LinuxベースのOSに変更するだけで手間が大きく減ります」

「そうか、簡単にアプリのインストールが不可能になるのか・・・」

「そうですね。自称パソコンの天才だった、北山もコマンドラインでのインストールは出来ませんでしたからね。パッケージ管理を一般ユーザが使えなくしておけば十分でしょう。その上で、遠隔管理ができるようにしておけば、脆弱性のパッチを当てることもできるでしょう。あくまで、電脳倶楽部の連中が善性だという前提条件が必要ですので、縛りを作るか、先生がしっかりと知識を持って、監視しておく必要がありますね」

「監視体制の確立は、教師たちの中からも話題に出ている」

「そうでしょうね。今の電脳倶楽部は大丈夫だとしても、次も大丈夫だという保証はない。それを考えると、学校でのネットワーク監視体制を見直す時かもしれないですよ?」

「そうだな。何かアイディアはあるのですか?」

「サーバを作って監視ソリューションのパッケージを運用するのがベターだと思います」

「それしかないか・・・」

 戸松先生がため息まじりに呟くのも解る。
 仕事が増えるのだ。生徒を監視している部分になるので、生徒に任せられない。

 パソコン倶楽部が健在なら、パソコン倶楽部が生徒用のネットワークを主導して、電脳倶楽部が監視を行う手法が考えられたが、パソコン倶楽部が自壊してしまって、存在しない。なら、先生が代わりを行うしか無い。もう一つの方法は、生徒会が監視を行うのだが、それでは生徒会が責任を負担しすぎる状況になってしまう。将来的には、わからないが、俺が生徒会に関わっている最中は、監視の業務を担当すべきではない。

「はい。俺が在学中は手伝いますので、その間にマニュアルを作って下さい」

「篠崎が作ってくれるのではないのか?」

「工数が足りません。予算を付けて下さい。それか、電脳倶楽部を手伝わなくて済むのならマニュアルだけなら作りますが?」

「あぁ・・・。そうだな。電脳倶楽部を頼む」

「わかりました。先生、教師たちの許可をお願いします」

「それがあったか・・・。でも、今回は大丈夫だろう。提案書は任せていいよな?」

「はい。大丈夫です。ほぼ出来ています」

「はぁ・・・。わかった、明日、持ってきてくれ」

「はい。それと・・・」

「なんだ?まだあるのか?」

「これからが、提案の狙いです」

「どういうことだ?」

「先生。生徒から提出させたメールアドレスは何に使っています?」

「ん?連絡網だな」

「あのメールにはいつも思うのですが、CCにメールの羅列をしていますよね?あれ、辞めません?」

「ん?」

「あと、生徒に属性を付けましょう。俺なら、電子科1組で、生徒会のメンバーで、電脳倶楽部のメンバーです」

「そうだな。そういうことか、教師用に、CRMを立ち上げようと言うのだな」

「そうです。教師がCRMを使えば俺が感じていた不満を解消できると思ったのです」

「不満?」

「先程、話をした、連絡メールもそうですが・・・」

 戸松先生も解っていたのだろう。俺の不満は納得してくれた。
 特に、連絡網に関しては、エラーで帰ってくる場合もあるのだと話していた。その都度、生徒に連絡をして新しいメールアドレスを聞かなければならない。ある程度は、生徒に任せればいい。メールも、CRMから送れば、俺が使っているメールアドレスが皆にバレる心配もない。
 そして、メールアドレスが流出するのを防げる。細かいことだが、セキュリティ意識を持ってくれないと困る。
 提出する書類や宿題を電子データで送付するのがメールというのが嫌だ。CRMでフォーマットをダウンロードして、記入して提出できる方が嬉しい。先生方のスケジュールもわかりにくい。学校行事のスケジュールが煩雑で科ごとに問い合わせをしなければならない。使える会議室の情報がないから、先生を見つけて聞かなければならない。これらの事は、CRMで解決するとは言わないが、煩雑になっている手続きが整理されるだけでも、利便性が変わってくる。

「わかった。メリットとデメリットは書かれているのだな?」

「もちろんです。あぁ構築は、電脳倶楽部が担当しますよ」

「そうだな。お前ならできるだろうけど、電脳倶楽部の実績にするのだな」

「はい。お願い出来ますか?」

「わかった。それだけか?」

「提案に関しては、以上です」

「篠崎。今、”提案に関しては”と言ったか?」

「はい。いいました。戸松先生に報告と対処の相談です」

「・・・。またか?それを知っているのは?」

「俺と十倉さんだけです。十倉さんには、俺が戸松先生に相談するまで誰にも言わないで貰っています」

「また、俺が”貧乏くじ”か?」

「どうでしょう。今回は、”貧乏くじ”ではないと思いますよ。感謝されるかは微妙ですけどね」

「それを、”貧乏くじ”というのだけどな・・・。篠崎。それで、俺に何をやらせたい?」

 用意していたノートパソコンを起動して、戸松先生に見せた。

「これは?」

 戸松先生の疑問は当然だ。
 表示が崩れたサイトが表示されているだけだ。

「とある部が使っていたパソコンのホームに指定されていた物です。ネットに繋がっていれば、いろいろ表示が綺麗になりますが、それはいいですよね?」

「問題ない。篠崎。これがホームだったのか?」

「そうです」

「どこのバカだ?」

「これと同じ状況になっていたパソコンは3台です」

「はぁ?どういう事だ?」

「誰かがリンクを回したと考えるのが妥当ですね」

「直せないのか?」

「もちろん、直せますよ。中途半端な知識で、管理者権限で起動したりしていたようですが、勝手に入ったサービスを削除する方法は解らなかったようです」

「・・・。それで?どこの部だ!」

「野球とサッカーとバスケです」

「誰が・・・。そうか、それで、CRMなのだな」

「はい」

 さて、バカの炙り出しを行う方法を戸松先生と相談しなければならないな。
 面倒だけど、やる必要があるだろう。

 ワンクリック詐欺に引っかかるだけならまだしも、身代金サイトに引っかかるとは・・・。最悪だな。金を払っていなければ良いのだけど・・・。

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