【第十章 エルフの里】第三十四話 条件

 

姫が取り出した魔道具を俺に見せて、説明した。
マルスが使う結界の範囲が狭い物だと判断した。

「大丈夫だ」

「ありがとうございます」

『マルス。結界の外側に結界を展開できるか?』

『是』

マルスの結界が展開した。
姫が持っていた魔道具も無事に起動をしたようだ。マルスの結界は、色は自在だが、姫の結界は少しだけ色が入っている。曇りガラスのように見える。張られているのが解ってしまうのだ。
強度もそれほど強そうには見えない。エルフ族の攻撃は防げそうにない。これで使い物になるのか?

『マルス。声は通過できるか?』

『是』

『FITに届けられるか?』

『是』

リーゼは、フェンリルを撫でながらフェードアウトしている。フェンリルに指示をだして、リーゼをFITに誘導させた。

『FITをロック』

安全の為にも、ロックする。
ロックと同時に結界も発動する。

『了』

リーゼが、会話から逃げたが、話を聞かせてやる。
逃げられない。俺だけが、話を聞くのは不公平だ。それに、マルスが聞いていれば、違和感があれば指摘をしてくれるはずだ。

俺の準備ができたことを確認して、姫を見ると、まだ魔道具をいじっている。
使い慣れていないのか?発動しているのは、状況を見れば解るのだが、副次効果があるのか?

『マスター。個体名オリビア・ド・ラ・ミナルディ・ラインラント・アデヴィットが使っている魔道具から、位置情報を知らせる通信が出ています。遮断しました』

GPSだと思えばいいのか?

『送信している相手の場所はわかるか?』

受信場所が解れば、対処が考えられるのだけどな?

『否』

そりゃぁ無理だよな。
そもそも、衛星なんて浮かんでいないのだろう。どうやって、位置情報を把握しているのか?

マルスが解析を始めるのだろう。

『魔道具の位置を把握しようとしているのか?』

『是』

そうか、やはり、魔道具で位置が把握できるのだろう。
そういえば、FITの位置も把握できるのだから、何か方法があるのだろう。

『パッシブか?』

『否』

パッシブじゃなかったのは、よかった。
魔道具を発動した時に、盗聴者に位置情報が抜かれることになったのだな。

この姫は、本当に命を狙われているのかもしれない。

「お待たせしました」

魔道具の発動を確認してから、姫は俺を見て頭を下げる。
性格的には問題はなさそうだ。背景だけが問題なのだろう。どう考えても、厄介ごとだ。

「大丈夫だ。それよりも、その魔道具はどうした?」

ひとまず、魔道具に関して聞かなければならない。
オリビアが知っていて使っているのと、知らないで使っているのでは意味合いが違ってくる。マルスの結界を重ねてあるので、外側から襲われても問題は無いのだが、対応を考える上でも情報は多い方がいい。

「この魔道具は、馬車を用意してくれた騎士団が普段から使っている物です」

「そうか・・・。どんな仕組みだ?」

「結界を張って、魔物の侵入を防ぎます」

「それだけか?」

「はい。あっ。あと、張った状態では、声が外に漏れません。外部からの干渉を防ぎます」

「わかった」

知らないと考えるのが無難か?最初の説明とそれほど違っていない。
騎士団?どう考えればいいのか解らない。

「神殿の主様」

「ヤスだ」

「ヤス様」

「それで、オリビア殿下は、神殿への亡命を希望しているのか?」

「はい。王国に身を寄せようと思っておりました。しかし、帝国と懇意にしていた貴族家や商家が、わたくしたちの受け入れを拒否しまして、それなら王家に保護を求めようと・・・」

「王都に向かう最中に襲われたのだな?」

「はい」

『マルス。王都とは方角が違うよな?』

『是』

「わかった。神殿で受け入れよう」

「え?」

「亡命を受け入れると言っている。ただし、いくつかの条件を付けさせてもらう」

「条件ですか?」

「当然だろう?無条件で、受け入れられると思うほうがおかしい。神殿からみたら、敵性国家だぞ?その姫が亡命してくる。俺としては、リスクは最小限におさめたい。俺が言っている意味がわかるよな?」

「・・・。はい」

いくつかの条件を提示する。相手は、帝国の支配層の人間だ。ある程度の行動は制限しておきたい。

「まずは、神殿には、帝国の圧政で苦しんだ者たちも多い」

姫は、不服がありそうだ。
最初に伝えておく必要があるだろう。

「オリビア。圧政は、民のスタンスに立っての話だ。お前たちが、そんな政治をしていないと言っても無駄なことだ」

もう、殿下も必要ない。亡命してくるのなら、帝国での身分は無くなると認識してもらう必要がある。

「・・・。わかりました」

俺が呼び捨てにした意味を含めて解ったのだろう。

「納得が出来なくても、理解してくれ」

「はい」

「その者たちから、オリビアや騎士や従者が心無い言葉をぶつけられるかもしれないが、甘んじて受けろ。言い訳をしたり、言い返したり、攻撃を行うな。酷い場合には、俺やリーゼに言ってこい。話し合いの場所を作ってやる」

「・・・。わかりました」

「もし、神殿に住まう者たちを傷つけたら、どんな理由があろうと、お前たちを排除する」

「え?」

「当然だろう?」

「・・・。はい」

「次は、お前たちが神殿の住民になるための試練を与えよう」

「??」

「お前たちには、スタンプカードを渡す」

「スタンプカード?」

「そうだ。現物はまだ作っていない。神殿で渡す」

地面に図を書いて説明する。
話しかけるだけではなく、帝国の者だと言って、サインを貰わなければならない。住民の誰でもいいわけではない。名前のリストも必要だろう。全員に貰うのは不可能だろう。最低でも10名くらいにはサインを貰ってほしい所だ。
サインの貰い方は、本人たちに任せよう。

「わかりました。このスタンプカードで、”住民の皆さんと交流しろ”という事ですね」

「そうだ。スタンプサインが集まった時点で、他の住民と同じ扱いにする」

「わかりました」

「辞めたければ、辞めていい。その時には、神殿の別荘区から出る事は許さない」

「別荘区とは?」

「神殿にある隔離区域だ。そこから出る場合には、身元の確認と、身体検査を受けてもらう。広さは、確保出来ているが窮屈な生活になる」

「それは・・・。わかりました」

その後、注意点をいくつかと条件を追加した。
オリビアは全部を了承した。

家もまだ残っている。贅沢を言わなければ、2-3戸を与えてもいいだろう。

「最後に、神殿から、監視と案内として、メイドを派遣する」

「ご配慮いただきまして、ありがとうございます」

セバスに命じておけば、適当な者を割り当ててくれるだろう。
最後の条件を聞いて、姫の表情が明るくなる。

監視と俺が言った意味を正確に理解したようだ。頭はいいようだ。経験不足なのか、それともわざとやっているのか解らないが、話ができるだけでもありがたい。
監視と案内。俺が付けたメイドが一緒なら、神殿に居る者たちも安心するだろう。立ち入りが制限されている場所に入って、トラブルに巻き込まれることも無くなるだろう。メイドの話を無視して、勝手に動いてトラブルを起こせば、その者を排除する。

多分だが、オリビアの中でも”問題が発生しない”とは、考えてはいないだろう。
だから、俺がメイドを付けると言った時に、安堵した。回避できる問題は、回避したいのはお互いに同じだ。

それだけではなく、メイドが一緒なら帝国に恨みがある者も、多少は軟化した態度になる。可能性がある。心を開けとは言わないが、無視する程度には。態度を軟化して欲しい。

「オリビア。乗ってきた馬車は、高価な物か?」

「え?」

「あぁまぁ持っていけるか・・・。またルーサたちの出番だけど、アイツらは顔が極悪だからな・・・。どうするか・・・」

「??」

「すまない。これから、神殿に向かうけど、お前たちの速度に合わせていたら、何日かかっても到着しない。だから、神殿からアーティファクトを呼ぼうと思っているけど、そうなると馬車が問題になると思っただけだ。必要な物が多いなら、荷物を運搬するアーティファクトも呼ぶ必要がある」

「・・・。(そんなに・・・。アーティファクトが?)」

オリビアが何か言っているが、小声で聞こえない。
マルスなら拾っているかもしれないが、マルスが何も言ってきていない。重要なことではない。と、判断しよう。これ以上は、面倒だ。

あと、馬も居たよな。
マルスが見つけていたよな?

馬は、乗せられないから、別で移動かな?

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