【第二章 王都脱出】第六話 おっさんいろいろ作る
辺境伯との話を終えたまーさんは、マスターの店で食事をしながら、アルコールを摂取してから、イーリスの屋敷に帰った。
門番に、付け届けをしてから、屋敷に入る。まーさんの部屋は、奥なのだが、イーリスたちにお願いして、まーさんが寝るだけの部屋を、玄関の近くに作ってもらった。遅くに帰ってきたときには、部屋には向かわずに、寝るだけの部屋に入る。
「おっバステトさん。今日は、カリンの相手をしていなくて大丈夫なのですか?」
まーさんが部屋に入ると、ベッドの上で猫が丸くなって寝ていた。まーさんが帰ってきたのに気がついて、身体を起こして”にゃ”とだけ鳴いて、また丸くなった。
「ふぅ・・・。結局、俺は俺だな」
まーさんは、”自分が何もできない”と考えている。”誰も救えていない”と信じている。
カリンが聞けば、”違う”と反論するだろう。まーさんの旧友たちも同じだ。だが、まーさんは自分を認めていない。今も、結局は”日本に居たとき”の知識を使っているだけで、自分でなくても誰でもできると思っている。
”にゃ”
「バステトさん?あぁ朝ですか?」
”にゃぁぁ”
「ありがとうございます。カリンは起きていますか?」
”にゃ!”
不思議と会話が成り立っている。
まーさんは、ベッドから飛び降りるバステトのあとをついていった。行き着いたのは、食堂だ。
「あ!まーさん。おはよう。今日は、早いね。なんか、大量に、食材が届いているらしいけど・・・」
「おはよう。カリンに頼みたいことが有るのですが、今日の予定は?」
「イーリスとの勉強会くらいだよ?」
「そうか、手伝って欲しい事が会ったのだけど・・・」
「いいよ。イーリスには、伝えておくよ」
「あっいや、イーリスにも手伝ってもらいたい」
「わかった。伝えておくよ」
”にゃぁ”
バステトが、まーさんの肩から飛び降りて、カリンが座っている椅子に爪を立てる。
「はい。はい。バステトさんも一緒に行きましょう」
”にゃ!”
カリンは、バステトを抱えあげて自分の膝に座らせる。朝食を食べ終えてから、果実水を飲み干して立ち上がった。
「まーさん。どこに行けばいい?」
「あぁまずは、説明をするから、食堂で待っているよ」
「わかった」
まーさんは、食堂でカリンが戻ってくるのを待つことにした。
持っていた、紙に走り書きをしながら、メイドが持ってきた果実水で喉を潤していた。
「まーさん!」
カリンが、イーリスを連れて戻ってきた。
「イーリス。カリン。悪いな。手伝って欲しい事がある」
「うん」「はい。何なりと、人手が必要なら、屋敷の者に手伝わせます」
「そうだな。まずは、話を聞いてくれ」
まーさんは、辺境伯とした話を、かなり端折って説明した。
「それで、何をしたらいいの?」
カリンの疑問は当然だ。
「あぁカリンは、料理はできるよね。ポテチの材料は知っているよね?」
「え?簡単な物なら・・・・。ポテチ?じゃがいもですよね?え?」
「よかった。実は・・・」
まーさんは、勇者たちが我儘を言い始めていると聞いた話を、カリンに聞かせた。
「・・・」
「まー様。カリン様。それで、勇者様たちが欲している物は、作れるのですか?」
「あぁ”ポテチ”は簡単につくれる。他は、なんとかなる物もある」
「そうなのですか!」
イーリスは純粋に喜んでいるが、カリンは複雑な表情を浮かべている。
「まーさん・・・」
カリンが心配しているのは、まーさんが”ポテチ”を作ったと説明したことだ。彼らが、よほどのバカで無い限り、”ポテチ”を作ったのは、カリンだと考えるのではないかと思ったのだ。ただ、作ったのが知られるだけなら問題はないが、そこから居場所を特定されたり、王宮に連れ戻されたり、面倒を通り越して身の危険を感じるレベルになってしまう。
「大丈夫だ。辺境伯とも、話をしている」
「・・・。わかりました。あ!それで、食材が大量を買い付けたのですね!」
「それもある。醤油と味噌がないから、日本料理の再現は難しいと思う。テリヤキチキンとか食べたかったけど、味醂も無いからな・・・」
「そうですね」
「大豆に似た豆は見つけているから、作ってみるのもいいかもしれないけどな」
「あの・・・。まー様。カリン様。”しょうゆ”というのは、赤黒くてしょっぱい調味料ですか?」
「!!」「え?!」
「”ぎょしょう”と似ていますよね?」
「それだ!あるのか?」
「ありますが、王都では難しいと思います。ラインリッヒ辺境伯様の領なら少量ですが、入手は可能だと思います」
「ん?なぜ?」
「一部のドワーフ族とエルフ族が作っているのですが、数も少ないですし、その・・・、人族以外を・・・・」
「あぁそういうことか・・・」
「はい。他にも、”みそ”や”みりん”や”にほんしゅ”や”す”も、ドワーフ族とエルフ族からなら手に入ります」
「え?味醂や日本酒があるの?それなら、米があると思うけど・・・。辺境伯は、米を知らないと言っていた」
「え?”こめ”ですか?聞いたことがありません」
「え?日本酒の材料なのだけど?」
「”にほんしゅ”は、”イネ”という植物が原料ですが?」
「・・・。イーリス。”イネ”を大量に仕入れることはできるか?」
「可能ですが・・・」
「高いのか?」
「いえ、麦よりも安いと思いますが、食べるのですか?家畜の餌ですよ?このあたりでは、家畜も食べないので、ほとんど流通していません。ラインリッヒ領なら買い付けられると思います」
「頼む。ひとまず、60キロ・・・。買い付けてくれ」
「はぁ・・・。まー様からのご要望だと連絡してもよいですか?」
「大丈夫だ。それなら、醤油と味噌と味醂と日本酒と酢も買えるだけ頼んでくれ」
「わかりました」
カリンも嬉しそうにしている。
「さて、日本料理の再現は、調味料が揃ってからやるとして、まずはカリンにはレシピを書き出して欲しい。再現して、イーリスが知らなければ、レシピを登録していく」
「はい!」「わかりました」
「まーさんは?」
「異世界物で定番のおもちゃを再現する。リバーシや将棋や囲碁や麻雀は鉄板だろう。それ以外にも、花札やバックギャモンやチェスやモノポリー。あとは、トランプだな。思い出せるボードゲームは全部作ってみようと思う。それと、ジェンガは大丈夫だと思うから、作ってみようと思っている」
「それなら、私は、トランプで遊びを思いつくだけ書き出しますね」
「あっカリン。そう言えば、彼らはスマホを持っていないのか?」
「え?」
「電波が入らなくても、ゲームの1つや2つは入っているだろう?」
「あっ・・・。荷物・・・!!奴らは、スマホは持っていないと思う」
「そうなのか?」
「はい。私に、荷物をもたせていて、あのとき、私は・・・」
カリンは、魔法陣が出現したときのことを思い出す。
誰が中心だったのかは思い出せないが、彼らはバステト(当時は、大川大地)を虐めていた。カリンは、バステトを助けようと荷物を置いて駆け寄った。そのときに、召喚の魔法陣が出現したのだ。
荷物は、魔法陣からかなり離れた場所に置いてあったために、こちらには転移してきていない。カリンの荷物は、自分で背負っていたので一緒に転移してきている。
「そうか・・・」
「あっまーさん。そうだ、料理だけど、レシピは分量まで書きますか?」
「うーん。必要ないかな。作った実物を持っていけばいいのだよな?」
イーリスを見ると、イーリスが少しだけ訂正した。
現物を持っていくのは当然だとして、書かれたレシピを持っていったほうが良いということだ。
辺境伯が言った話が間違えていると指摘された。
登録を行うときに、”未登録”の場合は、”登録者”の登録を行う必要が出てくる。貴族などは、面倒なので登録を行う物と同時に登録者を示すカードを提示するので、”登録”とだけ通知されるのだと説明された。
「それなら、登録したい物だけを提示して、”登録”と返されたら、既に登録されていて、”登録者”情報を求められたら、”未登録”だということだな」
「まー様のおっしゃるとおりです」
「わかった。辺境伯に、登録のときの注意点として、イーリスが説明してくれ」
「わかりました」
カリンは、イーリスと屋敷のメイドと料理人たちと、料理の再現を行った。まーさんは、蒸留器を作った工房に赴いてボードゲームの再現を時間のゆるす限り説明をした。あと、思いついた便利そうな物を工房に発注した。
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