【第一章 王都散策】第十六話 女子高校生魔法を使う

 

 まーさんが、王都を散策している時間に、カリンはイーリスに頼んで”生活魔法”が書かれている本を貸してもらった。あと、勇者たちに対抗するためという理由をまーさんに考えてもらって、各種魔法の本を用意してもらった。同時に、勇者たちが持っていない魔法を知るために、聖魔法と闇魔法が書かれた本も用意してもらった。

「まーさん。生活魔法が使えるようになったよ」

「そうか、今度、教えてくれ」

「わかった」

 軽い感じで話をしているが、よほど”魔法特性”が高い人物でも”使える”ようになるのに、1-2ヶ月程度は必要になる。そのために、スキルを持っている者でも、冒険者以外では”火種”が使える程度にしか訓練を行っていない。

(やっぱり。まーさんの予想が当たっていそう)

 カリンは、最初に詠唱を行って魔法を発動していたが、まーさんが”詠唱は補助”だと思うと言ったのをきっかけに、詠唱を工夫してみた。言葉のニュアンスが違っても、魔法が発動する。完全に、無詠唱には出来なかったが、”火種”で火種が発動できた。

(あとは、火種を飛ばせば、ファイアボールになる。でも、私は”火”のスキルは持っていない。まーさんの予想通りだけど・・・)

 ドアがノックされた。

「はい!?」

「カリン様。イーリスです」

「あっちょっとまって、開けます」

「はい」

 カリンがドアを開けると、本を大量に持ったイーリスが立っていた。

「カリン様。お約束していた、本が集まりました」

「ありがとう。でも、本って高くないの?」

「初代様が、草木から紙を作る方法を残してくれていまして、一気に値段が下がりました。模写のスキルを使えば、すぐに複製が可能です」

「へぇ・・・。全属性の本が集まったの?」

「はい。それと、錬成に関する本もお持ちしました」

「ありがとう。それで、イーリスに確認したいのだけど、時間は大丈夫?」

「大丈夫です」

 イーリスを部屋に招き入れて、ソファーに座ってもらった。カリンは、イーリスの正面に座って、まーさんが考えた話をぶつける。

「早速だけど、スキルにない魔法を使うことは出来るの?」

「え?」

 カリンは、いきなり本題に入る。
 そして、目の前で火種を大きくして飛ばした。正確には投げたのだが、モーションがなく手首だけの動作では考えられない速度が出ている。部屋に展開している結界にぶつかって霧散するまで、火種はファイアボールと同じ現象だと認識できる。
 カリンは、本物のファイアボールを見たことが無かったので、火の魔法が書かれた本を読んで確認したのだ。炎の大きさも、本に書かれているのと同じ様な大きさに鳴るように調整した。

「・・・」

「イーリス?」

「カリン様。最初に、お伺いしますが、カリン様は”火”のスキルは無いのですね?」

「無いです。今のファイアボールもどきは、生活魔法の”火種”を大きくした物を飛ばしただけです」

「え?だって・・・。ふぅ・・・。カリン様。私たちには出来ません。しかし、初代様と勇者様たちには、スキルに関係がない魔法が使えたと記述されています」

「ありがとうございます。それで、いろいろ納得できました」

「え?」

「まーさんが、詠唱が必要ないと言っていたことや、魔法は”多分”自由に使えるだろうと言っていました」

「・・・」

「過程と結果で、私たちは過程を知っています。全てではありませんが、魔法がない世界で”科学”が発展していたので、”なぜ火が燃えるのか”や”雷の原理”を知っています」

「それを教えてもらうことは・・・」

「教えても理解出来る保証が無いですし、私たちにメリットが一切ありません。渡した、本に記述されていますので、それを読み解いてください」

「・・・。わかりました」

 カリンは、イーリスに教えてもいいと思ったが、まーさんから止められた。イーリスから対価を払うと言ってきた時のみ教えるように言われているのだ。それに、勇者(笑)たちに”イメージ”や”過程”が大事だと知られるのも良くないと言われている。

 そして、本日の本題に入る。

「イーリス。私たちの言葉がわかるのですよね?」

「え?」

「会話が成り立っているの、話せると思っています」

「はぁ」

「これを聞いてください」

 カリンは、スマホを取り出して、録音しておいた”自分の声”を再生した。

「え?」

「イーリス。今は、この道具ではなく、聞こえてきた音に対してだけ教えて下さい。何を言っているのかわかりましたか?」

「いえ、まったくわかりませんでした。でも、カリン様の声だと言うのは判断出来ました」

「ありがとうございます。次は、これです」

 まーさんから預かった魔道具を、カリンが取り出す。

「え?これは・・・」

「ご存知ですよね。声を保存する魔道具です。まーさんが、もらってきました」

「・・・」

「入手方法は、置いておくとして・・・」

 カリンが魔道具を操作すると、声が再生される。直接、魔道具で録音した声だ。

「カリン様?」

「何を話しているのかわかりましたか?」

「はい。意味はわかりませんが、”ふじさんろくおうむなく”と話しています」

「そうですか、それでは”これ”は?」

 カリンは、別に用意していた、魔道具を取り出して、同じように再生した。

「カリン様の声だとは思いますが、内容は全くわかりません」

 今度は、スマホに録音したカリンの声を、魔道具に保存したのだ。
 まーさんの仮設が立証された。カリンも、この結果には満足しているのだが、イーリスだけが何をされているのか見当がつかなかった。

 それから、イーリスに”一般的”な魔法をカリンは教えてもらった。
 本にも乗っている内容になるのだが、実際に”詠唱”を教えてもらいながらだと習得が早くなる。

「カリン様。本当に、スキルは無いのですよね?」

「無いですね。錬成は、明日にでも、鍛冶屋に見学に行きたいです」

「はい。手配してあります」

「ありがとうございます」

「でも、本当に見せるだけで、教えるようなことは出来ません」

「大丈夫です。きっかけが欲しいので、問題はありません。それに、本もありますから、読んでおきます」

「(読んで習得が出来るのなら、錬成が不遇スキルの扱いにならないと思うのですけど・・・)カリン様。明日も、今日と同じくらいの時間で大丈夫ですか?」

「おねがいします」

 イーリスは、部屋から出ていった。
 滞在時間は、3時間にも及んだ。カリンに魔法を教える傍ら、初代が残した文章をカリンが音読していた。イーリスは、意味を聞きながらメモを取る作業もしていたのだ。まーさんは、日本語を教える対価に”金貨”を要求した。イーリスではなく、研究員に教えている。それも、飲み屋に連れ出して個室を借りて教えている。

 カリンは、本を読んで、試せそうな魔法を試していく、結果から過程を想像して短縮名を唱える。失敗することもあるが、過程をしっかりと意識すれば魔法が発動する。それだけのことがなぜ出来ないのかと思ったが、物理的な知識がないと難しい。
 元同級生たちのことを考えたが、彼らが自分と同じことが出来るとは思えなかった。ラノベ設定を知っているとも思えない。それだけではなく、彼らは”優等生”なのだ。先生から言われた通りに”記憶”しているだけだ。親から言われた通りに”過ごしている”だけの中身が空っぽの人もどきなのだ。

 カリンは、それだけではなく、イーリスやロッセルから、勇者(笑)が実行している訓練の内容を聞いている。
 この世界の学校で教えるような内容を教えている。スキルに依存した教え方で、詠唱が基本にある。正しく詠唱することで魔法が発動すると教えているのだ。

— その頃の王城

「ブーリエ閣下。なぜ、勇者様を別々の貴族が教育しているのですか!」

「ラインリッヒ辺境伯。貴殿には関係がない。宰相である儂と陛下が相談して決めたことだ!」

「しかし、勇者様たちは、パーティーでの運用が基本。初代様も、パーティーで魔王を打倒しています」

「ラインリッヒ。余が認めたことだ。それに、宮廷魔道士から、ジョブが変更する可能性があると報告が上がってきておる」

「え?私は、聞いておりません」

「ラインリッヒ辺境伯は、勇者様の召喚に反対されていたので、ご興味がないと思っておりました」

「ブーリエ閣下!?私は・・・。いえ、陛下、御前を騒がしてもうしわけございません。頭を冷やすために、領地に戻り、謹慎いたします」

「わかった。ご子息は、王都で預かろう」

「ありがたき、お言葉。準備がありますので、10日後を目処に出立致します。私のお役目は」

「ブーリエが行う」

「わかりました。優秀な宰相閣下なら私も安心できます」

 ライリッヒ辺境伯は、会議室に居る人間たちに頭を下げて、会議室から出ていく。
 嘲笑の言葉が後ろから投げつけられるが、辺境伯は自分の目論見がうまく行っていることを認識して、口元が緩むのを意識して抑えていた。

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