【第十三章 ハッキング】第四話 特定作業

   2020/07/22

 津川先生は、俺の話が聞けたので、警備員に連絡をいれるために、部屋から出ていった。

「戸松先生。辞めた奴の連絡まで来るのですか?」

「在籍していた確認と、辞めた理由の確認だな」

「それは、自分から”辞めた”のか、”辞めさせられた”のかですか?」

「それもあるが、北山の場合には、辞めた理由が辞めた理由だからな。バイト先に、言っていない可能性があるだろう?」

「・・・。あっそうか、この学校が、バイトOKなのは、近隣の人たちなら知っている。年齢的に、高校生だと言ってバイトを始めている可能性がある」

「高校を中退していると、理由を書かないと、バイトは出来ないだろう」

「あぁ・・・。そうか、だから、学校に問い合わせが来たのですね」

「津川先生が、愚痴っていたよ。あの件で退学になった奴ら、津川先生が差し伸べた手を払っておきながら、面倒事を持ち込んでいるからな」

「ん?」

「そうか、篠崎は知らなかったのだな。津川先生は、北山だけじゃなくて、退学処分になった奴らを、ギリギリまで粘って、定時制への切り替えを誘っていたのだけど、全員が退学処分を受け入れた」

「へぇ。まぁプライドの塊の様な連中だったから、ダメだったのでしょうね」

「そうだな。それで、北山が初めてじゃなくて、他にも何人か、バイト先で問題を起こして学校に連絡が来た」

「・・・」

「そんなわけだ。それで、ハッキングに関してだが、面白い事が解ったぞ」

「え?」

「篠崎が、電脳倶楽部が狙われていると言っただろう」

「はい」

「皆でログを見直したら、当初はアクセスもない状態だった」

「まぁそうでしょう」

 当初からアクセスがあったら、電脳倶楽部のメンバーを疑ってしまう。

「それでな。パソコン倶楽部のメンバーで最後に処分が決まった奴が学校を辞めた3日後から攻撃が始まっている」

「・・・」

 図式が見えてきたけど、状況証拠だけだ。
 学校としては、状況証拠だけで十分なのかもしれない。

 俺も考えを改めなければならないな。今までの行動や言動や、昨晩のユウキの話と、津川先生の話で、ハッキングを仕掛けてきているのは、北山かと思ったが・・・。そうだよな。奴なら、俺を直接のターゲットにしてくるだろう。会社のウェッブサイトに名前を出している(ユウキの名前ももちろん出している)。北山なら、俺の管理しているサイトにアタックしてくるはずだ。それに、ユウキの事をまだ狙っているようなら、美和さんたちが始めたサイトへの攻撃も考えられる。
 しかし、俺の管理している場所へのアタックは、流しのハッキングだけで、電脳倶楽部が観測しているような集中的な攻撃は見られない。

「なぁ篠崎」

「なんでしょう?」

「お前、早い段階から、北山とか学校の関係者を疑っていたよな?」

「え?あっ・・・。まぁそうですね」

「なぜだ?」

「流れのハッキングでないのは、ログを見れば解ります。ログを見て、すぐに違うと判断しました」

「そうだな」

「それなら、あとは、内部か、元内部の人間が犯人です」

「・・・。しかし・・・。いや、それで?」

「内部の人間には、まずやらないでしょう。外部から侵入する必要性がありません」

「そうだな」

「そうなると、元内部の人間で、電脳倶楽部が専用に近い回線を持っているのを知っているのは、一部の人間です。攻撃対象から、パソコン倶楽部の関係者だと考えました」

「・・・」

「あとは、電脳倶楽部に恨みを持つ人間ですね」

「そうか」

「はい。長々攻撃をしてくるのは、内部か元内部の人間と考えるのが自然です」

 他にも、IPアドレスを知る為の手順がないので、かなりの人間が犯人候補から排除できる。
 電脳倶楽部が出来た当初から攻撃を行っているのだとしたら、考えられるのは、学校を辞めていった奴らだけだろう。

「それで、篠崎。今後はどうする?」

「なんとなく、ハッキングをしている奴の素性が見えてきました。強固にガードしていれば、ハッキングは失敗し続けるでしょうが、気分が良くないのも事実です」

「あぁ」

「まずは、電脳倶楽部が見つけた、攻撃が始まった頃のログを調べます。何を欲しがっているのかわかれば、罠を張れます」

「罠?」

「はい。欲しがっているデータを盗ませます」

「え?」

「ハニーポットを置きます。毒が入った蜜を攻撃者に舐めてもらいます」

「そんな事ができるのか?」

「わかりませんが、やってみる価値はあると思います。情報を盗み出した事で、攻撃が止まってくれれば嬉しいですからね。それでダメなら・・・」

「ダメなら?」

「外向けのIPアドレスを変える申請をします」

「そうか・・・。でも・・・」

「それに攻撃が収まらなければ、IPアドレスの漏れた経路を考えればいいだけですからね」

「ん?」

「俺が手配して、戸松先生が承認して、ルータの設定を変更すれば、内部からがいぶに繋げない限りはIPアドレスが解ってしまう可能性は低いです」

「おい」

「そこまでは必要ないとは思います」

「わかった。まずは、ログの解析だな」

「はい。手配お願いします。量が多いと思いますので、DVDやBDに焼きて下さい」

「持ってきている」

 戸松先生が、64GBのメモリーカードを取り出す。
 メモリーカードはあまり好きでは無いが、データの受け渡しだけなので、問題は無いだろう。メモリーカードを受け取って、中身を確認する。

 生ログが大量に入っている。
 コピーを自分のパソコンに作成して、メモリーカードを戸松先生に返す。

 戸松先生とは、他に電脳倶楽部が調べた情報を共有してもらった。

 家に帰って、ログの解析を行う。
 面白い物を拾い上げる事が出来た。

 ユウキの案件だ。

 解析が終わって、ログから情報を拾い上げているところで、ユウキが帰ってきた。タイミングがいい。

「ただいま!」

「ちょうどよかった」

 リビングでユウキを出迎えた。やはり、小腹がすいたと言うので、ホットケーキを焼きながら、質問を投げつける。
 早速、ユウキを頼りたい。

「ユウキ。マリとエリって子がいたよな?」

「うん。二人がどうしたの?」

「あぁ二人は問題じゃない。あの二人に、いいよっていたパソコン倶楽部の奴を知らないか?」

「うーん。すぐには名前が出てこない。二人に聞いて良いのなら、聞くよ」

「頼めるか?」

「うん。いいよ」

 ユウキは、スマホを取り出して、二人にメッセージを送ってくれた。

 ホットケーキを食べながら、今日の出来事を聞いていると、マリ嬢から返事が帰ってきた。

 どうやら、当たっていたようだ。
 ログの始まりで、マリ嬢やエリ嬢の名前や名字で、サイトにアクセスしていた。メールアドレスの形式にしていた物もあった。執拗に、同じ様なアクセスを繰り返している。80番ポートや443番ポートへのアクセスで、404になってしまっているのにも関わらず、関連しそうな名前でのアクセスを繰り返している。

 接続のIPを見ると、市内のプロバイダーからのアクセスのようだ。しっぽを捕まえた。
 ハッキングが始まるのは、そのアクセスから二日後だ。最初は、二人の名前や標準的に使われる名前でのアクセスだ。3日後には、俺や戸松先生や津川先生や電脳倶楽部の面々の名前に変わっている。

 ユウキには、先に寝てもらった。
 今日は、ログの整理を進めたい。やっと捕まえた尻尾だ。うまく本体までたどり着く方法を考えたい。

 これだけ、連続でハッキングを行っているのは、俺たちがハッキングを仕掛けられていると気がついていないと思われているのだろう。それを利用して、ハニーポッドに誘えないか?
 もうツール云々ではなく、騙し合いになってきてしまっている。

 うまく騙せるかわからないが、やって見る価値はあるだろう。
 どんな罠がいいのか、いくつかの方法を考えて草案とする。放課後に、戸松先生と電脳倶楽部の面々と話し合いをすればいいだろう。実際に、手を動かしてもらうのは電脳倶楽部の面々になる。

 不本意だけど、ハッキングが成功したと思わせてハニーポットに誘導する方法を考えたほうが良いだろう。
 ハッキングを一度成功したと思わせないと、今後も継続して攻撃をしてくる。