【第六章 神殿と辺境伯】第十九話 外門と内門

 

「セバス。門の変更と確認は任せていいか?」

「お任せください」

 セバスがヤスの言葉を聞いて嬉しそうにうなずいた。

 ヤスがマルスに伝えたのは、アフネスからの提案だったのだが、ヤスとしても納得できる話だ。

 神殿とユーラットの間は、アーティファクトだけが行き来して人や馬車は通らない。交通事故が減らせるとヤスは考えた。
 提案の骨子は、上りと下りの時間を分けたいということだ。ヤスはもう二本の道を作るつもりでいるので問題にはならない。
 バスを使った運搬も今後神殿に帰属した者が運転を覚えれば仕事として成り立つ。1台で足りなくなれば、追加すればいいだけだ。それに、神殿の領域内での運行になるためにディアナの補助が受けられるのも大きい。事故が発生しにくい状況を作ることができるのだ。

 アフネスの提案はそれだけではなく3つの門も、人の出入りは一つにしてカードを持っていても門の前の広場で降ろすようにすることだ。
 門も一つだけ人が使って一つはアーティファクト用にしてもう一つはヤス専用の門とするほうが良いと提案された。

 アフネスとしては、ユーラットが素通りされる可能性が高いことが問題になるかもしれないと考えたのだ。
 神殿に行くにはアーティファクトに乗る必要があり、そのアーティファクトはユーラットの裏門から出ている。これで、ユーラットに寄る必要が出てくる。

 アフネスの考えでは道を一本にして、時間で上りと下りを分けたいと考えていた。しかし上りと下りで道を分けるとヤスが説明したことには了承するしかなかった。時間を分けることでユーラットの滞在時間を伸ばすためにも上りと下りを時間で分けたかったのだ。だがヤスは事故を気にして道を分けたかったのだ。

 アフネスに道を分ける説明をして承諾をもらったので前々から進めていた道を一気に作ってしまう指示を出した。

 ツバキがカード作りを眷属に頼んで今後の確認を行いにヤスに近づいてきた。

「マスター」

「どうだ?問題は出ているか?」

「大丈夫です。今後の予定は?」

「うーん。考えていないけど、そうだな・・・」

 ヤスが周りを見ると、眷属たちが移住者たちをさばいている。
 この状態なら20分もあれば終わると考えた。

「ミーシャ!ラナ!」

 列を整理している二人に声をかける。二人はツバキの説明を聞いて最初にカードを作成している。

「ヤス殿?」

「今後の予定を相談したい」

「それなら、私たちではなく、あねさんとした方が・・・」

「ミーシャ!アフネス様は、ユーラットに戻られるのよ?神殿の移住に関しては、私たちで対応出来ないと困るでしょ?」

「あ」

 ラナがミーシャに言い聞かせるような口調だったのだが、自分自身にも言い聞かせるためのセリフだったのだ。

 ミーシャはアフネスを探すのを止めてヤスに向き合う形になる。

「それでヤス殿。今後とは?」

「アーティファクトでの移動は門の前に作ったい広場までになる。門に張られている結界を通過してから、家を選んでもらおうと思っている」

「家を選ぶ?」

「住む場所だな。リーゼとディアスとカスパルはもう選んでいるからそれ以外になるけど問題はないよな?」

「あっあぁ・・・。それで、私たちは何をすればいい?」

「ん?そうだな。アフネス!」

 近くまで来ていたアフネスを呼び寄せて今後の話を聞かせる。

「ヤス。なんだ?移住ならミーシャがまとめ役だぞ?」

「そうなのか?」

 ヤスがミーシャを見ると、ミーシャはうなずくだけにとどめた。そばに居たラナもうなずいているので、内部で決まっていたのだ。デイトリッヒは離れたところで全体が見える位置に居る。神殿の支配領域だと理解していても森から魔物が出てくる可能性を考慮しての配慮だ。

「ツバキ。皆を集めておいてくれ、俺はミーシャとラナとアフネスと・・・。デイトリッヒを中に連れて行く」

「ヤス殿。私は残った方が良いだろう。中には、アフネス様とミーシャとデイトリッヒで頼む」

 ラナが残ると主張して、ミーシャもアフネスもラナが残ってツバキを手伝う方が良いと言っているのでヤスはそれに従う形になった。

「アフネス。カードは発行したよな?」

「ツバキ殿の指示通りに作成したぞ」

「それを、ラナにあずけてくれ」

「わかった」

 アフネスはヤスの指示に従った。神殿の権能を見せてくれるのだろうと判断したのだ。
 ミーシャとデイトリッヒの2人にはカードを持ってもらって外門の扉を開けて中に入った。

 30mほど先に内門がある。外門と内門に分かれている状態で門が二重になっているのがわかる。内門の扉は開けられている状態だ。

「ヤス。門に入れてしまったが?いいのか?」

「例えば、荷物の中に紛れ込んだ人が居た場合を想定して欲しい」

「あぁだからこそ門の中に入れてしまうのは問題ではないのか?」

 アフネスの疑問や懸念は当然のことだ。
 だが、ヤスはニヤリと笑うだけで説明はしてくれないようだ。

「ヤス殿?」

「すまん。デイトリッヒ。外門の扉を閉じてくれ」

「あぁ」

 デイトリッヒはアフネスとミーシャを見てから外門を閉じた。

「え?」「あっ」

 デイトリッヒが外門を閉じた瞬間に内門の扉が閉じた。

「ヤス!」「ヤス殿?」

「外門と内門の間にカードを持たない人が居た場合に扉が閉まる仕組みになっている」

「それなら、外門を閉じなければ?」

「やってみればわかるよ。デイトリッヒ。外門を開けてみてくれ」

「わかった」

 デイトリッヒが外門を開けると内門も開いた。

「ヤス?」

「アフネス。荷物の中に紛れ込んだ人という設定だけど、今は歩いて内門を越えてみてくれ」

「わかった」

 当然、アフネスは内門の前で壁にぶつかる。
 アフネスもなんとなくわかっていたのか、内門の扉の位置で手を前に出して壁の存在を確認する。

「ヤス。そうか、内門はどうやっても通過出来ないようになっているのだな」

「カードがないと無理だ。馬車での通過を考えての処置だったが・・・。カスパルが運ぶ荷台に紛れ込んだ場合に発見できるようになるだろう」

 デイトリッヒが手を上げている。ヤスに聞きたいことがあるようだ。

「何?」

「ヤス殿。外門の意味がないのでは?」

「外門の位置にも結界が張られている。その結界は武器や魔法での攻撃を防ぐ目的で、内門の結界は許可しない者の侵入を防ぐ結界になっている」

「許可?」

「カードを持っている必要がある。カードには魔力が登録されていて結界では魔力と持ち主の突合が行われている」

「そうなのか?」

「試しに、ミーシャとデイトリッヒでカードを交換して内門に通過してみてくれ。あっアフネスがやったみたいに手で触るだけにしてくれ、拘束を目的とした魔法が使われるからな」

「わかった」「・・・。ミーシャは触る必要はない。俺が触る」

 そう言うと、デイトリッヒはミーシャとカードを交換して、内門の壁を触る。
 勢いはそれほどではなかったので、強めの静電気が流れる程度の攻撃魔法だったのだが、アフネスにもミーシャにもわかるくらいにデイトリッヒが勢いよく手を引いた。

「デイトリッヒ!」

 ミーシャが駆け寄るが、デイトリッヒは大丈夫だとミーシャを制する。

「ヤス殿。これは?」

 カードをお互いに交換してデイトリッヒが近づいてきてヤスに質問をする。

「他人のカードを使って入ろうとする者への対応だな」

「なぜ雷属性の攻撃を?」

「単なる間違いで火の魔法や水の魔法を使うよりは良いだろうと思っただけで他意はない」

「ヤス。それなら、カードを持っていない者を攻撃しなかったのは?」

「カードを持っていない者は隠れているだろう?」

「そうだな」

「荷物の中だけで魔法を当てるのが難しいし、間違いである可能性があるが、他人のカードを持っている者は悪意がある場合が多いだろう?」

 アフネスとミーシャは考えてからうなずく。納得したようだ。
 実際二人はデイトリッヒから感触を聞いてもっと強い攻撃でも良いと思ったのだが結局は突破出来ないのなら同じだと考えた。ヤスが追加で結界に攻撃を加えたら、内門と外門の間に居る人間全員に拘束するための魔法が発動すると説明を聞いて納得したのだ。ヤスが意図して説明しなかったのは、内門への攻撃を加えると落とし穴が開いて地下に幽閉されてしまう状態になるのだ。
 試しに攻撃しようとしたデイトリッヒをヤスが止めたので罠が発動しなかった。

 内門と外門の説明を終えて、アフネスがラナからカードを受け取った。
 外門を閉じても内門が閉じないことを3人が確認した。

「ヤス。外門を閉じないとどうなる?」

「うーん。今は何も起こらないし不都合はない。運用時点での対応を考えていて、一組一組で扉を閉めようと思っている」

「そうか、門番の仕事というわけだな」

 ヤスがアフネスの言葉を肯定しながら内門から中に入る。
 デイトリッヒが続いて、ミーシャとアフネスも続いた。

「え?」「なんで?」「・・・」

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