【第四章 噂話】第五話 訪問
学校は、いろいろあって休みになっている。マスコミが殺到していて授業にならないというのが主な理由だ。
学校からの通達が、ユウキには遅れた。休校になる当日になって届いた。吉田教諭が、ユウキに連絡をしたことがきっかけだ。
ユウキはクラスから浮いた存在だ。クラスでは、ユウキは”いじめ”られているようだ。本人は、気にしていないのが、余計に周りから憎々しく思えてしまっている。
ユウキは、元々の性格から飄々としていると見られている。そして姿かたちや性格に大きな欠陥があれば良いのだが、顔は平均以上で、身長は低いが低すぎない。体型も、筋肉質というほどではないが、バランスは取れている。成績は、上位に位置している。実習は、教諭たちが苦々しく思えるほどで、ユウキに低い点数を付ければ、他の生徒に点数を与えられない。他の生徒の成績を操作しても、ユウキの成績を平均以下にはできない。
運動は、しっかりとした計測を行えば、オリンピックに出場できる記録くらいなら簡単に出せる。
武術系の授業でも、”いじめ”を主動している男子の呼びかけで、ユウキに襲い掛かっても。簡単に対処されてしまっている。
ユウキは、クラスで孤立しているように見えるが、事情を知らない一部の女子からの支持を得ていた。一部の女子から支持されている事実が、余計に男子からの怨嗟に繋がっている。悪循環の輪が広がっていく・・・。
ユウキがバイク通学の許可を得ていることも、男子からの怨嗟に繋がった。バイクを置いてある場所には、ユウキが自費で監視カメラを設置して、有名なセキュリティ会社と契約を結んでいる。その為に、バイクに細工をしようとして、触ったらサイレンが鳴り響いて、柔道家のような人たちが駆けつける騒ぎになった。
タイミングがよいことに、学校が休みになり、そのまま長期の休みに突入した。
かねてより計画されていた。日本に居るメンバーと一緒に里帰りをして、いろいろな手続きを行う事にした。
まずは、リチャードとロレッタの故郷であるアメリカのアリゾナ州に向かう。
ユウキの転移ではなく、しっかりと手続きを行っての出国だ。復讐が目的ではない。報復すべき相手は、既に対処してある。残党が残っているらしいが、以前のような異なる真実を事実だと捻じ曲げるだけの力は持っていない。
リチャードとロレッタは、手続きを行うために、空港で別れた。
同じように、ドイツでは、フェルテとサンドラとエリクとアリス。オランダでは、マリウスとヴィルマ。スペインではモデスタとイスベル。皆が、一時的に帰国して手続きを行う。
ユウキは、付き合う必要はないのだが、律儀に皆に付き合っている。
そして、フィファーナで死んだ者たちの弔いを行っている。
ユウキが日本を離れてから、半月が経過した。
「!!」
ユウキは、日本からの連絡を、オランダで受けた。
今川や森田からの連絡ではない。
家の警備を依頼している会社からの連絡だ。
長期休暇中に、なかなか動かなかった情勢を動かそうとして、打った手がやっと実を結んだ。
「ユウキ?」
マリウスが、ユウキに話しかけた。
支援者にポーションを渡した帰りだ。
「バイクが盗まれた」
「盗んだのは?」
「まだ特定はされていない。マリウス。ヴィルマ。俺は、日本に帰る」
「わかった。こちらは、当初の予定通りに、動く。問題が発生したら、ユウキを呼び出せばいいよな?」
「大丈夫だ。空港なら”来ている”から待ち合わせ場所にも丁度いいだろう?」
ユウキがついてきた副次的な目的は、ユウキが使っているスマホで、各国で写真を撮影することだ。それも、人が居ないような場所で、転移しても目立たない場所を撮影場所として選んでいる。
写真は、皆と共有している。場所を提供してくれている協力者に筋を通すために、ユウキが足を運んだ。
協力者には、ギアスを結んでもらっている。
そのうえで、ユウキが”転移”を使えることも告げている。皆が、驚いたが納得してくれた。そして、ポーションという対価を必要としなかった。言われたのが、”また来い”が報酬になっている。レナートに残っているメンバーと一緒に訪れることを約束した。
ユウキが日程のキャンセルを行って、実際には、オランダからは一人で行動する予定になっていた。
レナートに残っているメンバーの母国を訪ねる予定になっていたのだが、その予定は、ヒナとレイヤに引き継がれる。ユウキたちに遅れる形で、日本を出た、ヒナとレイヤは、オランダでマイルスとヴィルマと合流する。その後、ユウキが辿ったのと逆回りで、皆と合流してから、残留組の母国を回って、協力者に挨拶を行う。ユウキの転移ポイントにはならないが、筋を通す形だ。
「わかった。レイヤとヒナは?」
「明日にも中部国際から出る」
「わかった」
ユウキは、バイクを盗ませるために、海外に出た。
それも、海外に出た証拠を残す形をわざわざ作り出した。
最初は、バイクを盗ませる計画は順調に進んでいた。
学校内でのヘイトも溜まっていたのだが、前田兄妹の件が思っていた以上に、いろいろな所に飛び火した。大きく炎上したのは、報じなかったマスコミ関連と関連した議員だ。偽物ポーションまで出る形となってしまったが、大筋は望んだ方向に動いた。
しかし、学校側が思っていた以上に臆病な対応を行った。長期休暇の前に学校を休校にしてしまった。
ユウキは、作戦の練り直しに入った。
自分たちではなく、第三者にユウキの私物が盗まれる証拠を握らせる必要があった。
「ユウキ。それで、バイクは?」
日本に戻る為の飛行機は確保出来たが、チェックインまでには時間がある。
ヒナとレイヤとは入れ違いになるのだが、マリウスは残るようだ。ヴィルマは、ユウキの代わりに支援者の所に向かっている。タイミングがあえば、ドイツで別れた4人と合流ができるかもしれない。
「移動中だ」
「動かせないよな?」
「あぁエンジンはスタートしない。スキルでロックしている」
「ははは。すごいな。キーではなく、スキルか?」
「ん?もちろん、直結してもスタートしない。いろいろ試したが、ガソリンタンクを結界で覆ってしまうのが楽だった」
「へぇ・・・。今度、やり方を教えろよ」
「ん?マリウスは、結界は使えないよな?」
「俺は使えないけど、ヴィルマが使える」
「あぁ・・・。簡単な・・・。ん???そうか・・・。ヴィルマに、バイクや車の構造を教えるのは、マリウスがやるよな?」
「ちっ。勘のいい奴は嫌われるぞ」
「ははは。そうだよな。結界よりも、構造を認識して、構築を行わなければならない。その為には構造を理解する必要がある。危ない。危ない。ヴィルマに、構造を教えるのは俺には無理だ。騙される所だった」
ユウキの言葉に、マリウスは肩を上げて驚いて見せた。お互いの笑い声が重なった。
時計を見れば、チェックイン時間が迫っている。
「行くな」
「あぁ」
ユウキが拳をマリウスに見せる。
マリウスは、ユウキの拳に自分が作った拳を合わせる。
「頼む」
「頼まれた。ユウキ。俺たちの分も残しておけよ。一人で、全部を片づけようとするなよ?」
「それは、約束ができない」
「俺たちにも、彼女の無念を晴らすチャンスをくれよ」
「・・・。そうだな。でも、大丈夫だ。今回のターゲットは、小物の子分の・・・。その子供だ。片翼には違いないが、そこまで落とせるとは思っていない」
「そうか・・・。俺たちが日本に戻るまで、2か月くらいか?」
「・・・。そうだな」
「無理するなとは言わない。俺たちの分も残しておいてくれ」
「わかった。それから、サトシとマイも来たがっていた」
「そっちは、別口だ。俺には、サトシのお守りは無理だ」
「ははは。わかった。マリウス。頼むな」
「あぁ」
何度目の別れの挨拶を行った。
すぐに会おうと思えば会える。
ここは、死が近かったフィファーナではない。
しかし、それでも別れの挨拶が最後の言葉になってしまう可能性がある。ユウキもマリウスも嫌というほど経験している。大事な関係だからこそ、挨拶もおろそかにできない。そして、会えない時間を大切にするためにも・・・。
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