【第四章 スライムとギルド】第十六話 部屋の確認
部屋の前で跪いている私の足下に、クロトとラキシが、やってきて見上げてくる。
スサノとクシナは、私の肩に乗ってくる。
クロトの頭を撫でながら、大丈夫だと伝える。
壁沿いに”わさわさ”動いている樹木が目に入る。意思があるように動いている。
あれ、意思があるよね?
ファンタジー的に言えば、エントかな?
個人的には、可愛いからドリュアスの方が良かったけど、考えない方がいいだろう。なんとなく、私の意思を汲み取っているように思える。
問題ではない。
部屋にまだ入っていないから、幻の可能性がある。幻であって欲しい。
壁一面に蔦が張っている。なぜ?蔦?木がプランターから生えている?
物理的に不可能だよね?
部屋の中央は空いている。
そう、座れるようになっていて、テーブルがあるけど、気のせいだと思う。樹木だよね?プランターから枝が伸びて、椅子やテーブルになっている?
椅子は7脚だ。
私と円香さんと千明と蒼さんと孔明さんと主殿とライが座れる数だ。狙った?それとも偶然?
絨毯の上に広がっているのは芝生だよね?
これも、プランターから生えた?
あと、枝が不自然(自然な部分を見つけるのが難しいけど・・・)に、キャットタワーの様になっているのは、クロトとラキシが欲しがったのかな?
”ニャウ?”
ラキシが可愛く鳴いてから、私のズボンの裾を噛んで、部屋に引っ張っていこうとする。部屋の中を見ろと言っているのが解る。他の3人(主殿を見習って、私も家族と呼ぶことにしようかな?人格があるし、人でもいいよね?)も期待している雰囲気がある。
流石に、体格差があるから無理だろう。絶対に、私が重いわけではない。体重は、平均以下だ。声を大にしていいたい。私の体重は平均以下だ。一部の装甲は並以下しかないのだが・・・。ジュニアがつける物でも足りてしまうくらいだけど、これから成長予定だ。諦めていない。諦めてはいけない。
ラキシの頭を撫でると、クロトが先導するように部屋に入る。
ん?肩への負担が少なくなっている。
スサノとクシナのサイズが小さくなっていない?
「スサノとクシナ。サイズがこう、可愛くなっていない?」
”クォ!”
”クフォ!”
スサノとクシナの鳴き声、初めて聞いた!
小さくなれば、私と一緒に居られる?
なんて可愛い子たちだ。雀よりは、少しだけ大きいサイズだけど、このサイズなら肩に乗せて移動ができる。届け出が必要な”特定動物リスト”にも乗っていなかった。行政への届け出は必要ないようだし、気にしない事にした。スサノとクシナの為に、太陽パネルとバッテリーと紫外線ライトを購入した。魔物になっているから、必要がないか可能性も高いけど、紫外線は聖樹にも必要だと思っている。それに、有っても困らないだろう。
”にゃぁにゃ”
はぁ?
”ニャウニャウ”
ラキシが追い打ちをかける。大丈夫。聞こえているよ。
聖樹への名付け?
絶対に、ダメな感じがするけど・・・。
8個の瞳から注がれる期待が・・・。凄い。期待されている。私には、期待を裏切る事ができない。
アズエかモドンかユグドかイロコか迷う。ユグドがいいのだけど、なんとなくダメな気がする。そうなると、イロコかな?でも、イロコは聖樹というのは・・・。うーん。
やはり・・・。
「君は、ユグド」
やっぱり・・・。
聖樹が光りだした。
進化するのね。
もう驚かない。
期待通りだ!
そう思わないと、心の平穏が保てない。
光が収まると、聖樹は変わらない姿で・・・。
”わさわさ”が収まっている。
想像と違っていた。進化して、動き出すのかと思った。
良かった。
良かった。
目の前に、小学生くらいの4対の綺麗な羽が生えて、緑を貴重とした服を身に着けた、可愛い可愛い可愛い可愛いが暴走している女の子が居ても、何の問題はない。腕や足に蔦が絡むようになっていて、可愛いピンクや白の花が咲いていても、何の問題・・・。
ダメだ。
目を閉じて、もう一度、目を開けたら、女の子が消えているようなことはなかった。
天井を見ると、スサノとクシナが聖樹の枝と戯れている。意味が解らないけど、見たままを表現すると”戯れている”が正しい。
ふぅ・・・。
小さな女の子。多分、ユグドだろうけど、私の手を握ってきている。
小さな手が可愛い。体温があるのか、温かい。
「えぇーと。ユグド?」
「はい!」
あっ。日本語が話せるのね。よかった。よかった。
「日本語がわかるの?」
ユグドが首を傾げる。
すごく可愛い。
”にゃにゃ”
”ニャニャウ”
そうなの?
クロトとラキシが教えてくれた。
ユグドには意思疎通のスキルが備わっているから、相手に意思が、言葉が伝わる(らしい)。
「それは、私以外でも大丈夫なの?」
”にゃ!”
大丈夫なようだ。
その能力、私も欲しい。
そうだ。
ユグドは、私の眷属だから、私にも・・・。これは、嬉しい。海外からの・・・。ダメだ。円香さんに知られたら、海外から来るVIPの相手をさせられてしまう。
「ユグドは、聖樹から産まれたの?」
「うん!お姉ちゃんに仕えるため。クロトやラキシやクシナやスサノのお世話をして欲しいとお願いされた」
いろいろ突っ込みたいけど、突っ込んだら負けかな?
多分、お姉ちゃんは、私の事だろう。
聖樹を植える時に、確かにクロトやラキシやクシナやスサノが過ごしやすいようになってくれるように”祈った”。そして、さっき、エントよりは、ドリュアスの方が良くて、アニメで出てくるような可愛い妖精を思い浮かべた。そして、妹が欲しいと願った。
うん。私が原因だな。
それなら、ユグドを可愛がらないと・・・。その前に、いろいろ聞かないと・・・。報告書に追加は・・・。いいかな。もう。今日の打ち合わせは、家でやればいいかな?
この部屋を見せた方が、いろいろ説明が楽に思える。
それに、ギルドはクリアとは思えない。
無理だと思うけど、聞いてみよう。
「ユグドは、何ができるの?」
首を傾げる。
質問の意味が解らないようだ。
そうだよね。”何ができるのか”と聞かれても困るよね。
「例えば、この部屋に結界を作って、外に音が漏れないようにできる?」
「うん!」
「結界の範囲を、部屋の壁から5cmだけ内側とかできる?」
「できるよ?」
「電波って解る?結界の内側から外側に電波が流れないようにできる?」
「うーん。お姉ちゃんが持っているスマホが外に繋がらないようにはできるよ?」
おぉぉ!
優秀な子だ。流石、私の妹!
「あと、ユグドは羽を消せる?蔦も消して、私と同じような格好になれる?」
「うん!でも、本体からあんまり離れられない」
「そう?どのくらい?」
「うーん。解らないけど、お姉ちゃんの知識で言えば、1,500キロくらい?」
うん。問題はない。
「そうか、例えば、ユグドの本体の一部を持っていけば、そこに移動ができる?」
ファンタジーもので読んだことがある能力だ。
これがあれば、ユグドの分体を私が持ち歩けば、ユグドをいつでも呼び出せる。それに、主殿の所に預けることもできる。
「できるよ!お姉ちゃんたちと一緒に移動することができるよ」
ん?
「それは、私とクロトとラキシとクシナとスサノが、ユグドと一緒に移動するの?」
「うん」
便利!
完全に人間を辞めることになるが、気にしたら負けだ。
これは、報告書には書かない。ユグドたちにも、私以外には内緒にしておくようにお願いする。主殿には・・・。まぁ知られても困らないかな。
ユグドからの聞き取りは、順調に進んだ。
私の新しいスキルも判明した。
移動系のスキル以外は、極々普通?のスキルだった。私にも移動系や結界軽のスキルが・・・。と、期待したが、クロトがいうには、ユグドの固有スキルだと言われてしまった。
まだ人を半分・・・。いや、7割くらい辞めた程度で終わってくれている。
保有するスキルの数も、主殿を除けば世界チャンピオンかもしれない。嬉しくない事実だが、気にしないようにしている。黙っていれば解らないだろう。
戦闘系のスキルが無いのが救いだ。主殿のように使い方次第では戦闘でも有効なスキルは多いけど、所謂”魔法”だと思われるようなスキルが”少ない”のが救いだ。戦闘スキルを持っていると、自衛隊に組み込まれてしまう可能性が高い。
多分だけど・・・。
持っているスキルを公開したら、国とギルドが取り合う未来が見える。
その前に、報告書の段階で・・・。考えない方がいいだろう。なるようにしかならない。
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