【第二十五章 救援】第二百五十二話
「カズトさん。大丈夫でしょうか?」
「正直、わからない。なるようにしかならないと思う」
「そうですよね」
カイの頭を撫でながら、モデストたちが歩いていった方向を見つめる。姿は見えなくなっている。ウミは、5分程度は我慢していたが、我慢の限界だったのか、狩りに出かけている。カイがいれば護衛は大丈夫だと思ったのだろう。モデストの部下も残っているので、大丈夫だとは思っている。それに、草原エルフが何か仕掛けてきても、ウミなら大丈夫だろう。
実際に、魔物の気配は感じない。シロも、最初の頃は周りを警戒していたが、今は俺に寄りかかって居る。
「シロ。寝ていいぞ、何かあれば起こす」
「でも、僕・・・」
「シロは、俺の妻だ。護衛じゃない」
「え・・・。あっ・・・。うん。カズトさん。少しだけ寝ます」
「あぁ」
シロは、俺に寄りかかりながら目を瞑った。
すぐに、かわいい寝息が聞こえ始める。
『カイ』
『はい』
『周りには、魔物は居ないのか?』
『大丈夫です』
『わかった。俺も少しだけ寝るから、何かあったら起こしてくれ』
『はい』
カイが近くに来て、丸くなってくれる。
ウミが周りで狩りをしているのなら大丈夫だろう。カイも何も言わないから、安全なのだろう。監視の類は、ウミが片付けたのだろう。
シロの寝息を聞いていたら、俺も少しだけ眠くなってきた。
——
— モデスト Side
——
マスターたちは大丈夫だろうか?
やはり、残ったほうが良かったかもしれない。
「モデスト殿」
「ステファナ様。こんな形になってしまって、もうしわけありません」
「私は、いいのですが、シロ様と旦那様に・・・」
私の感情は、今回の流れは悪いものではない。草原エルフが、選民意識が低いと言っても、エルフ族は人族を下に見る傾向が強い。
旦那様にどんな暴言を・・・。私やステファナに対する暴言でさえも、旦那様はお怒りになるのに、もし、シロ様に対する暴言や悪意を向けられたら、草原エルフの一族は、この大陸から姿を消す未来しか考えられない。しかし、旦那様はお優しい。後悔はしないだろうが、心の淀みになる可能性は高い。お優しい心に陰を落とすくらいなら、私が代わりに闇を引き受ければいい。
「そうですね。そうならないためにも、交渉を行いましょう」
「はい」
エクトルやムーたちが、一族で”力がある者”とされているのなら、武力だけを考えれば、私と配下の者がいれば制圧は簡単にできそうだ。
カイ様やウミ様では、オーバーキルになってしまう。手加減をお願いしても、よくて二度と戦えない身体になってしまうだろう。
後ろを振り向いて、ムーを見ると諦めの表情を浮かべている。
エクトルとムーだけでも間違いだったのは判明しているのに、十分言い聞かせたはずの案内人が、あの状態では諦めるのもしょうがない。実際、案内人の言葉を聞いた後で、カイ様の怒気を受けて私でさえも表情を固くしてしまった。ウミ様は、恐ろしいほどの殺気を纏っていた。旦那様がお止めにならなければ、案内人だけではなく、里さえも蹂躙してしまっていたかもしれない。
「エクトル。里まで、どのくらいですか?」
「あと、1-2時間だと思います」
「そうですか、少しだけ休憩しましょう。あぁ案内人は、私の視界から外れないでください。間違って殺してしまいそうです。頭が重いと感じているのなら、逃げてみてください。私は、旦那様や奥様の様に優しくは無いです」
ライ様の眷属になっている。フォレスト・ブルー・スパイダーの亜種の糸を使った武器が、今では私のメイン武器になっています。拘束にも使えますし、目を欺くのにも都合がいい武器です。本当の武器を悟らせないために、腰に短剣を下げていますが、エクトルやムーだけでしたら、二本の短剣だけで制圧できます。
案内人が、何か言っていますが、無視です。殺されないだけ良かったと思ってほしいです。エクトルとムーは解っているようで、案内人を宥めに行きますが必要がありません。
「エクトル!ムー!貴方たちが、相手にしなければならないのは誰ですか?まだわからないのですか?」
エクトルは、流石に解ったようです。
案内人が暴発すればするほど、交渉が楽になります。武器もスキルカードも取り上げていません。攻撃を仕掛けてきても問題はありません。
「はっ」
エクトルはすぐに戻ってきて、ステファナの後ろに控えます。
今、守らなければならないのは、私でも案内人でもなく、ステファナなのです。旦那様も奥様も、それを望まれています。
ムーたちはまだ理解が足りないようです。
「エクトル」
エクトルに目で知らせます。
これでわからなければ、ムーたちも”その程度の者たち”で、従者には必要はありません。ルートガー殿に押し付け・・・。いや、ルートガー殿の諜報部門に推薦するのがいいでしょう。彼も、独自の情報網を持っているようですが、まだまだ旦那様には及びません。人員が足りていないのでしょう。能力を十全に発揮するためには、手足がしっかりとしていなければならないのです。クリスティーネ殿の従者をお使いになっているようですが、私から見ると従者の者たちを、うまく使われているとは思えません。旦那様のように、”できる”とは思いませんが、他人を使う様にしなければ、自分で自分の首をしめてしまいます。
エクトルは、私の意思を汲み取れたようで、ムーたちの所に移動して話をしています。
話に納得ができないのでしょう。ムーたちはエクトルに何か言い返しています。いい加減に、自分たちの立場を認識してほしいものです。
「エクトル。もういいです。ステファナ様もいいですよね?」
「はい。そうですね。切り捨てましょう。旦那様も、エクトル殿がいれば問題はないとお考えでしょう。ムー殿たちを連れて帰っても、ルートガー殿の配下の配下にしか使えないでしょう。戦闘力も期待が出来ません」
「なっ」
聞こえていたようです。いえ、呆れてステファナ様が聞こえるように言ったのでしょう。ムーたちが私たちを睨みます。
慌てて、エクトルが間に入って、ムーたちを宥めていますが、本当に無意味です。
ステファナ様が、”切り捨てる”と言っているのなら、切り捨てても問題は無いのでしょう。
「さて、ムー殿。貴方たちは、立場が解っていないようです」
「・・・」
「貴方たちは、旦那様や奥様を狙って攻撃をしました。それだけでも、度し難く、我慢するのが難しい状況なのに、カイ様やウミ様を狙った案内人を庇うという愚行に出ました。そして、最後のチャンスとして、ご自分たちの立場を理解されて、ステファナ様の休憩中の安全を確保に尽力すれば、まだ救いがありました。しかし、貴方たちは不貞腐れて、立ち上がろうともしません。それだけではありません。エクトルが、説明してお願いしたのに、態度を改めません。私たちは、貴方たちを完全に捕虜として扱うことに決めました。よって、案内人を含めて拘束させていただきます」
手を上げると、控えていた配下が一斉に飛び出して、ムーたちと案内人を抵抗するまもなく拘束した。
面倒になりましたが、これで旦那様と奥様が甘く見られる状況はなくなった。
万が一のときには、私の首を差し出せばいい。
「モデスト様。終わりました」
「ご苦労さま。誰か、旦那様にご報告に走ってください」
「かしこまりました」
配下の一人が、隊列から離れます。
旦那様と奥様にご報告は必要でしょう。ご連絡があるかもしれませんが、旦那様のご様子から考えると、こうなると予測していたかもしれません。
その証拠に・・・。
”にゃぁ”
「ウミ様」
やはり・・・。
ウミ様が、スネーク種を咥えて、ステファナ様の所に移動します。どうやら、私たちの隊列を狙っていたようです。殺しては居ないようですが、ムーたちの様子を見ると、知っている魔物のようです。
”にゃ!”
旦那様がいればわかるのですが、しょうがありません。
捉えていただいたスネーク種を預かります。ウミ様は、ステファナ様の所に言って、頭をなでてもらっています。
さて、尋問する内容が増えてしまいましたが、致し方ない。旦那様と奥様のためです。
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