【第十一章 飛躍】第百十五話

 

誕生祭の2日前の今日、ユーバシャール街に向かった使者たちが帰ってきた。

俺とシロとシュナイダー老や残っていた行政官で使者たちを出迎える。
適時ワイバーン便で連絡は受け取っていたが、皆が無事に帰ってきてくれた事が嬉しい。

「カズトさん!」

一番に駆け寄ってきたのはクリスだ。
公式な場ではないと言ってあるので、2人を除いては問題ない表情をしている。

俺を睨みつけているのは、ルートガーだ。でも、どこか余裕が有るのは、ここ2ヶ月あまりクリスと過ごせたことで、精神的にも安定したのだろう。これからも、睨む程度で俺に突っかかってこなくなればいいなと思う。
もうひとりは、俺の横に立っているシロだが、俺に抱きついているクリスを睨んでいる。
そんな目で見なくても、可愛い妹分だろう?

ミュルダ老が近づいてきて、俺に深々頭を下げる。

「カズト・ツクモ様。使者の役目果たしてまいりました」
「ご苦労」
「はい。ありがたき御言葉。御身の誕生祭に間に合って嬉しく思います」
「そうだな」
「ツクモ様。ユーバシャール街、パレスキャッスル街、パレスケープ街。他、集落や村々、合計47。御身に恭順する事を約束しております」

「ミュルダ老。ありがとう。今日はゆっくり休んでくれ、報告は明日ゆっくりと迎賓館で受ける。他の者も同席してくれ、今日は、俺は参加できないが、シュナイダー老とリヒャルトが簡単な宴会を迎賓館に用意して待っている。楽しんでくれ」

俺の話を聞いてから、ミュルダ老はクリスの頭を小突いてから引き離す。

ヨーンと獣人たちから歓声があがる。
エントとドリュアスは、そのままスーンに報告を行ってから、通常業務に移行すると言っている。

リーリアも、身体を清めてから、ログハウスに戻るという事だ。

エリンは、シロに抱きついている。
「シロお姉ちゃん!」
「エリンちゃん。どうしたの?」
「一緒にお風呂入ろう!」
「え?なんで?」
「なんで?リーリアお姉ちゃんやクリスお姉ちゃんが、そうしたら喜ぶって教えてくれたよ?」
「え?僕?カズト様じゃなくて?」
「うん。エリンね。シロお姉ちゃんが大好きだから、シロお姉ちゃんとお風呂に入りたい。ダメ?」

あっ落ちたな。

「カズト様・・・僕・・・」
「あぁ行ってくるといい。できれば、エリンを洗ってやってくれな」
「はい!」「パパ!行ってきます!」

「あぁ温まってこいよ。シロ、風呂から出たら、エリンも洞窟のお前の部屋で休ませてもいいからな」
「はい!」
「狭かったら、エリンを俺の部屋で寝かせてもいいからな」
「・・・はい。僕も一緒に・・・」
「わかった、わかった、そのときには、ログハウスな」
「はい!」

「リーリア。悪いけど、二人を見てくれな」
「ご主人様、かしこまりました」

一気に騒がしくなるが、これが俺の日常なのかもしれない。

『主様』

魔の森を探索していたカイも一緒に戻ってきている。

『カイ。ありがとう。大丈夫。わかっている。ライ!誰か付けられるか?』
『うーん。大丈夫だよ。どうする?殺す?』
『向こうの狙いがわからないからな。まずは、様子見だな。何か行動に移したら報告してくれるか?』
『わかった』

3人ほど、シロとフラビアとリカルダを見て反応した者がいた。
隊列の中央辺りにいたから、どこかの集落の代表だろうか?

『フラビア』
『はい』
『使者の隊列の中で、お前たちを見て反応した者が居たが心当たりはあるか?』
『男性でしたか?女性でしたか?』
『3人だけど全員男性だ』

リカルダが周りをゆっくりと見回し始めた。

『!!』
『どうした?』
『ツクモ様。枢機卿の1人です』
『そうか、他の二人は?』
『私たちはわかりませんが、聖騎士ではないでしょうか?』
『なぜそう思う?』
『歩き方が聖騎士の訓練で言われた通りなのです』
『そうか、ありがとう。その枢機卿は、穏健派・・・なんて事はないよな?』
『わかりません。数少ない中立を守っていた人です』
『そうか・・・聖騎士の二人もか?』
『だと思います』
『わかった、フラビアとリカルダは暫く表に出ないようにしろ、何かしらのアクションがあると思うから、それまで宿区に居てくれ。もし、何らかの接触があったら教えてくれると助かる』
『かしこまりました』『はい。姫様は?』
『あぁシロは、エリンと一緒に洞窟か、竜区に行ってもらう。あそこなら安全だろう?』
『確かに・・・』『それなら安心できます』

枢機卿に、聖騎士は護衛かな?
あれだけ獣人やハーフが居る団体だぞ?穏健派でなければ・・・いや推測で考えるのはやめておこう。
ライの眷属が監視する事が決まっているし、何か目的があるのなら接触を図ってくるのだろう。

うーん。誕生祭はいまさら延期できないからな。
何も起こらなければいいのだけどな。

ダメだろうな。
はぁ面倒事が増えるな。奴らだけでも面倒なのは確実なのに・・・枢機卿が絡んできたら、面倒にならないわけがないよな。奴らの素性だけでもはっきりさせておくかな。

シロはエリンと一緒にいれば大丈夫だろう。
クリスはリーリアと一緒なら大丈夫だろう。

問題はそれ以外がターゲットの時だよな。俺がターゲットならやりやすいのだけだな・・・。俺じゃ無いのだろうな。

失敗したかな・・・俺が全面に出ていれば、ヘイトを稼げたのにな。ナーシャが街中で喋っていた事がどこまで広がっているのかだけど、それに期待するには情報が少なすぎるからな。

まぁいい。
今は、奴らに関しての話を進める事にしよう。

「フラビア。リカルダ。話が聞きたい、ログハウスに来てくれ」
「はい!」「かしこまりました」

「スーンも来てくれ」
「大主様」
「わかっている。わかっているが、スーンに指揮を任せたい」
「かしこまりました」

スーンが今行っているのは、ペネム街にとって重要な事だ。
監視体制の確立だ。行政区。商業区。自由区は、裏路地まで全て監視体制がひけている。これは、ペネム・ダンジョンの権能を使っている。ペネムと話をした所、0階層が作れる事がわかった。地上部分を含めてダンジョン化したのだ。魔素の問題で、まだ行政区と商業区と自由区に限られているが、徐々に範囲を広げている。最終的には、アンクラム、サラトガ、ミュルダを監視体制に置くことができるだろう。

問題なのは、それ以外の場所だ。
ロングケープ区や新たに組み込まれた場所の最低限の監視体制を作る必要が出てきている。特に、最近併呑した所では反対勢力も残っているだろう。反対勢力でまとまってくれればある程度やりようが有るけど、テロリスト化されたり、地下に潜られたりしたら対応が面倒になってしまう。

スーンが現在構築しているのが、俺の認識では”監視カメラ”による監視体制だ。
レベル7遠見とレベル6探索を組み合わせたものを使って、エリア監視を行う物だ、問題になるのが、監視要員の選別だ。

そこで、考えたのが、実験区で心が壊れてしまって、実験体としてあまり使いみちがなくなってしまった者に記憶媒体として役立ってもらう方法だ。
本来人が居ない場所に人が現れた時に、反応するようにしてその部分を記憶で抜き出して再生して確認する。
紙に複写する事で、記憶としてのこしておくようにもしてみた。改良の余地は大量にあるが、監視ができないと始まらないので、まずは第1段階としては、実験体を使った方法にしている。最終的には、使う実験体の数を減らしていきたいと思っている。

もう少しスマートな方法があるのかも知れないが、今はこの方法で監視を強める事にしている。

「大主様。フラビア様とリカルダ様がおこしです」
「入ってもらってくれ」

フラビアとリカルダがラフな格好に着替えて、執務室に入ってきた。
執務室といいながら、ログハウス自体が俺のプライベート空間だと皆知っている。謁見の間に呼ばれない限り、ラフな格好で来るようにしてもらっている。そうじゃないと、本気で正装してから来る。ログハウスに来る場合に、階段を上がる事になっているのだが、そこで汗だくになってしまう場合もあって、正装で来られる方が見苦しい場合が多い。

「ツクモ様」
「早速で悪いけど、これを見て欲しい」

スキル記憶で、監視体実験素体から抜いて、紙に複写した物だ。
全部で40枚ほどある。

場所は、アンクラムから半日位の距離だと思われる。街道から、ブルーフォレストよりに入った場所だ。初めて、コイツらが補足された場所だ。それから、数日かけて場所を移動している。
総勢30名位の集団だ。武器は持っているが、鎧などは着ていない。もしかしたら、収納持ちが居て鎧を隠し持っている可能性もあるが、この画像からでは判断できない。

コイツらの現状の位置は、自由区から少し離れた場所で集団としてSAやPAにも立ち寄った形跡がない。
通常の盗賊では考えられない動きをしているので、フラビアとリカルダに見てもらおうかと思ったのだ。

「ツクモ様・・・粛清部隊の者たちです」
「どういう事だ?」

フラビアとリカルダはひと目見て確信したようだ。

二人からの説明を聞く限り、この大陸に残っている残党のようだ。
正確には、残党では無いのだが、そう表現するのがいいだろう。元々、各集落に潜んでいた連中が集まったのだと二人は予想しているようだ。よく見ると、獣人族もいるようだ。そう言えば、ミュルダ老の息子を殺したのが、白狼族の裏切り者だという話だったな。あれ?黒狼族だったか?まぁいい。裏切り者だったのは間違いないのだからな。

そうか・・・敵対集団で間違いないようだな。
獣人族なら、怪しまれることなく、SAやPAには入られる可能性が高い。元々、集落に属していたものなら、身分証も持っているだろうからな。食料調達もそれほど難しくは無いだろう。内部に入り込んでのテロ工作を行う事も可能だっただろう。

「フラビア、リカルダ。シロやお前たちの身元は割れていると思うか?」
「わかりません。私たち二人は直接関わり合いはありませんでしたが、姫様はいい意味でも悪い意味でも有名でしたので・・・」
「そうだよな・・・コイツらの目的は何だと思う?30人程度では戦闘行為に及んでも玉砕しか見えてこないのだけど?そこまでバカなのか?」

二人は少し考えてから・・・

「ツクモ様。彼らの目的は、要人の誘拐では無いでしょうか?」
「誘拐?」
「はい。誘拐に成功すれば、自分たちの安全と引き換えに何らかの交渉を持ちかけてくる・・・可能性があります」
「それは?」
「総本山への安全な帰還と命の保証。捕らえられている者の解放。勘違いしているようなら、代表の命を要求する可能性があります」
「はぁバカなの?」
「ツクモ様。私たちの正規の手続きを踏んだ者たちでさえ・・・」
「そうか、コイツらは”成功”しないと自分たちがやばいのだな」
「はい」
「成功を決める者も居ないから、とことんまでやりそうだな」
「はい」

タイミングよくスーンが執務室に入ってきた。

「大主様。フラビア殿、リカルダ殿遅くなって申し訳ありません」
「スーン。奴らを捕縛しろ。そのまま、実験区に送って、背後関係と支援している奴らが居るか調べろ」
「はっ」

「ん?他に何かあるのか?」
「いえ、大主様の誕生祭で、良からぬ事を考えている連中の情報が出てきたときにはどう致しましょうか?」
「潰せ」
「かしこまりました」
「できるだけ生きて捕えろ、ただ周りに影響しそうな場合には躊躇しなくていい殺せ」
「はっ」

一礼してスーンが執務室から出ていく。
監視体制の話は、誕生祭の後でもう一度時間を見て行えばいいだろうな。

「フラビアとリカルダ、もしかしたらお前たちに囮になってもらうかも知れない」
「構いません」「わかりました」

「そうだ。二人には、司祭の護衛をやってもらいたい。大丈夫か?」
「え?司祭も来られるのですか?」
「あぁ洒落で招待状を送ったら、是非参加しますと言われてしまったよ。まぁ問題は起こさないと約束したし、面談をしたいという事だからな」
「なんとまぁ・・・ツクモ様らしいですね。わかりました。それなら、囮役としては最高ですね」
「あぁそうだな。もうこっちに向かっていると思うから頼むな」
「はい」「もう少し早く言ってもらえたら心の準備ができたのですが・・・」
「リカルダ。そうしたら、お前逃げる事も考えただろう?」
「そんな事ありません。私は、姫様と違います!」
「わかった。わかった。二人共頼むな」
「「っは!」」

二人は椅子から降りて、片膝を付いて臣下の礼の形を取る。

明後日の誕生祭は、大陸の掃除ができればいいのだけどな。
最低でも半分位の掃除ができたら嬉しいな。

誕生日・・・かぁこっちの世界に来てから、5年(かな?)で大陸を統一か・・・時勢に恵まれたという所だろうな。

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