【第六章 ギルド】第二十八話 説明
アッシュから、奴隷を引き取る。
俺に、頭を下げてから、アッシュは部屋を出て行った。
オイゲンは、アッシュが奴隷商だと知っている。自分を買った者だから覚えていたのだろう。俺の横には、セバスチャンが立っている。
しかし、オイゲンの視線は、俺と奴隷の少女たちを行ったり来たりしている。
お気に入りは、ハーフエルフなのだろうと思うが、獣人も気になる様子だ。満遍なく見てから、俺に視線を移してから、またハーフエルフに視線を戻す。忙しく、視線を動かすだけではなく、ソファーから立ち上がりかけている。
「オイゲン。座れよ」
「あぁ・・・。リン」
ソファーに座って、俺の名前を呼ぶが、また視線は奴隷の少女たちに注がれている。
どれだけ気に入っているのか解らないが、これでは話が進まない。
「オイゲン!」
「あぁ。すまん。リン。それで、俺が支払わなければならない金額は理解した。それで、金貨50枚を、俺に渡すと言ったが?」
オイゲンも、大概だな。
俺と話をしながら、チラチラと少女たちを見ている。
「そうだ。賠償金の額に比べたら、金貨50枚なんて、大きな金額ではない」
「そうだな」
何かそわそわしている。期待しているのだろう。
「その金貨を元手に商売を始めてもいい」
「ん?でも、リンは俺にやらせたい事があるのだろう?そのために、賠償金を肩代わりしてのだと言っていたよな」
「そうだ。お前が拒否した時の保険だ」
「保険?」
「そうだ。オイゲン。その金貨50枚で、後ろの」「乗った!リン!」
喰い気味ではない。完全に、俺の話の途中で立ち上がって、大声を上げている。
「話を全部、聞けよ」
「おっそうだな。わかった」
視線は、既に少女たちに固定されている。
「ふぅ・・・。オイゲン。この少女たちは、俺の奴隷だ」
「え?俺に?」
「違う。違う。お前も奴隷だ。同僚とは違うな。お前に、この少女たちを、金貨50枚で貸し出す。それで、俺に協力してくれ」
「貸し出す?」
「そうだ。お前は、犯罪奴隷ではないが、奴隷だ。奴隷は、奴隷を持てない。わかるよな?」
渋々頷くが、これは不文律で決められている。
「だから、少女たちは俺が所有する。お前に、やってもらいたい事には、人手が必要だ。奴隷のお前では、人を集めるのも苦労するだろうから、俺が準備した」
「え?」
「お前が、この少女たちが欲しければ、俺から買い取ればいい」
「わかった。金額は?」
「全員で、金貨1万枚だ。まぁ少しだけ安くして、金貨9000枚にしてやる。お前の賠償金と合わせて、金貨1万枚を払えば、お前が主人になる。それまで、触れる事も許さない。俺の奴隷に傷を付けたら、買い取り価格は倍に増えていく。お前たちも、そのつもりでいろ」
絶望に染まるオイゲンの表情だが、少女たちは俺の説明で納得して頷いている。
「あと、オイゲン。少女たちも、自分で自分を買い取る権利を与えている」
「え?それは・・・」
「当然だろう?お前だけに、有利な契約なんてありえない。どうしても、少女たちが欲しければ、お前が誠意を見せながら、少女たちを引き止めなければ、お前の奴隷にならない」
「くっ。それは・・・。でも・・・」
「そうだ。お前が、仮の主人として、少女たちに誠意を見せつつ、しっかりと主人として振舞えば、少女たちはお前から離れない」
「わかった。リン。その話を受けよう」
オイゲンが話を受けてくれるようだ。
断らないとは思っていたけど、こんなに簡単に受けていいのか?何か、罠があると考えないのか?
俺としては、最後のピースとなる茂手木が、条件付きだけど仲間に迎えられた。これで、成功の可能性が上がった。
セバスチャンが羊皮紙を持ってきた。
今の内容が書かれている。スキルで縛らない契約だ。
オイゲンは、セバスチャンから羊皮紙を受け取り、契約書であると宣言されてから、内容の説明を受けた。
もちろん、質問をしないでサインをしていた。
軽率な行動で、現状になっていると思うと、オイゲンで大丈夫なのか考える必要があるが・・・。
他に手はない。ベストでない可能性はあるが、ベターだと思いたい。
セバスチャンが契約書を俺に手渡してきた。
内容は解っているので、サインをして返す。
セバスチャンは、契約書を持って部屋から出る。
5分ほど経過してから、アッシュが部屋に戻ってきた。
「リン様。契約書の通りで、問題はありませんか?」
契約書は、アッシュに預ける。
「アッシュ。頼む」
「かしこまりました」
まずは、オイゲンを俺の借金奴隷として登録する。
そして、少女たちをオイゲンの前で、俺の奴隷として登録する。奴隷としての制限は、通常の制限に合わせて、俺以外には”素肌を触らせてはならない”という制限を付ける。この制限を破った場合には、『触った者と話ができない』と『俺に報告をする』の条件を付与した。
少女たちは、この条件を受け入れて、俺の奴隷となった。
「それでは、今日から俺の奴隷だ。仕事は、そこのオイゲンと話し合って決めて欲しい」
「ご主人様」
「どうした?」
「仕事とおっしゃっていますが、私たちは、何をしたらいいのでしょうか?」
ハーフエルフの少女が、俺に質問をしてきた。
当然の疑問だ。ハーフエルフの少女が代表で訪ねてきた感じだ。全員が同じように思っていたようだ。
「今から移動する。移動した場所で説明する。最初は、ギルドと呼ばれる、最近できた組織だ。ギルドで、準備を整えたら王都を出る。最終的には・・・」
「最終的には?」
「マガラ渓谷が目的地だ」
「え?マガラ渓谷?メロナでも、アロイでもなく?」
「そうだ、まずは、メロナに移動する。道中で、いろいろ説明をする」
「わかりました」
ハーフエルフの少女に続いて、獣人の少女たちも、頭を下げる。
俺の事は、”ご主人様”呼びで、オイゲンは、オイゲン様としたようだ。主人ではないが、上位者だという理由だ。
「アッシュ。いろいろ世話になった」
「いえ、私も・・・。いえ、辞めておきます」
「そうだな。それから・・・。これを渡しておく」
魔石を詰め込んだ袋を取り出して、アッシュに渡す。
「これは?」
「これからも、奴隷市で、子供の奴隷が出るだろう?」
「・・・。はい」
「全て、買い取れ!足りなければ、追加で魔石を渡す。魔石が値崩れしたら、それも教えてくれ、数を用意する」
「わかりました。子供だけでよろしいのですか?」
「アッシュに任せる。生活に困窮した家族でも、アッシュが善性だと判断したら買ってくれ、あと・・・。いや、アッシュに全部任せる。どれだけでも、構わない。買えるだけ、買ってくれ!」
「わかりました。戦闘に使える奴隷は?」
「必要ない。弱い者や、誰かが手を差し出さなければ命の灯火が消えてしまうような者だ!怪我や病気でも構わない」
アッシュが、綺麗に立ってから、深々と頭を下げる。
「買えた奴隷は、わかるだろう?」
「はい。メロナの事は、聞いております。セバスチャンに連絡をして届けます」
「頼む」
アッシュに案内されて、奴隷商を出る。
オイゲンだけではなく、少女たちも眩しそうにしている。
俺たちを見ると、俺とセバスチャンが少女たちを連れて、奴隷となったオイゲンを買ったように見えるだろう。少女たちは、湯あみをして綺麗な服を来ているが、オイゲンはみすぼらしい姿だ。
そういえば、アッシュの奴。
オイゲンが奴隷になる時に、真名を見たはずだ。今度は、真名が読めたことなど、気にしないとばかりに、奴隷契約を行っていた。俺のスキルを何か解ったのかもしれないが・・・。気にしてもしょうがない。
それに、あまり信頼はできないが、ニノサやサビニの関係者なら、ナナと同程度の信用はできるだろう。
俺の秘密を知っても、吹聴しない程度はしてくれるだろう。ハーコムレイやローザスには報告が上がるだろうが・・・。
まぁ気が付かなかった俺が悪いのだし、それにオイゲンに奴隷契約を行うには、俺のスキルで真名を変えなければ、話が進まない。簡易的な契約で、俺のスキルや今日の取引は口外しないとしているから、大丈夫だ。と、思いたい。
俺とセバスチャンを先頭に、少女たちが続いて、最後にオイゲンが少女たちの後ろ姿を見ながらついて来ている。
ギルドの入口が見えてきた。
さて、次の修羅場は・・・。オイゲンをスケープゴートにすればいいだろう。
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