【第五章 共和国】第十六話 準備

 

 アルバンの武器を作った。
 結局、投げナイフは諦めた。作成は可能だったが、単価があまりにも高くなってしまう。同じ単価なら、違う武器を作ったほうがいい。

 アルバンに、戯れで作った多節棍を見せた所、何が気に入ったのか解らないが。多節棍を主武器に変更すると言い出した。
 武器として考えると取り扱いは難しいが、難しい部分は、プログラム魔法の補助を組み込むことで対処を行った。複雑な動きは、アルバンの訓練が必要になってしまったが、プログラム魔法の補助を得て、アルバンの思い通りに動かすことができた。

 単価で考えると、投げナイフで10本くらいのコストが必要になってしまったが、右手と左手で二つの多節棍を使うことで、アルバンの戦闘力は飛躍的に上がった。見た目はナイフのように作成した。釣り竿のように、ナイフの形状から多節棍に変わっていくような作りだ。

 プログラム魔法もアルバン用に少しだけ工夫した。
 俺が使うのなら、複雑な仕組みだとしても、都度パラメータの入力を行ってもよかったのだが、試しに使わせたところ、考えてしまって、戦闘では使えないと判断した。起動に時間が掛かってしまうのだ。
 パラメータは、”強い”・”普通”・”弱い”の三パターンに絞って、属性は一つの多節棍で二つに絞った。これ以上は、アルバンの対応が難しいと判断した。相性が良い属性を付与するプログラム魔法を作成して、スイッチを触りながら、パラメータで強さを渡すと、多節棍が属性を纏う。

 多節棍の動きは、プログラム魔法は複雑になったが、アルバンの負担を減らす方向にした。
 元々が、多節棍は動きが不規則になるのが、相手を惑わす形になる。なので、プログラム魔法してしまうと、規則性がある動きになってしまうのだが、アルバンが操るのは、先端の部分のみにした。それ以外は、アルバンが操っている先端部分を補助するようなプログラム魔法にした。これが面倒だった。形にはなったが、まだ実践に本格投入できる状況ではない。

「アル。一応、形にはなってきたが、最終調整がまだできていない」

「えぇ兄ちゃん。これで十分だよ。戦えるよ?」

「ダメだ」

 アルバンから、多節棍を取り上げて、最終調整を行う方法を考える。
 実際に、俺が使っても意味がない。俺では、プログラムの中身を理解して、無難な動きをしてしまう。動作確認にはなるが、問題点の洗い出しには向かない。

「そうだ!アル。近くに、発生したばかりのダンジョンがあると言ったよな?」

「え?あっうん。どのくらい前に産まれたのかわからないけど、若いと思うよ?」

 若い?
 ダンジョンの表現方法か?

「俺とアルだけで、潜っても大丈夫か?」

「うん。余裕だと思う。おいらだけだと、状態異常になってしまうと、大変だけど、兄ちゃんが一緒なら、状態異常も怖くない」

「そうか、罠の可能性もあるよな?エイダを連れていくか?」

「うん!それなら、制覇もできると思う!」

「そうか、朝早く出れば、夜明け前にはダンジョンにアタックできるか?」

「うん!」

「それなら、昼くらいまで探索をして、帰ってくる感じで考えてくれ」

「わかった。食事は?」

「一応、持っていこう。武器は、多節棍を主に使ってくれ、予備の短剣も忘れるなよ」

「うん!ありがとう!」

 アルバンと明日の予定を決めて、クォートに伝える。
 予定では、明日にはカルラが戻ってくるのだが、1-2日程度は遅れる可能性が示唆されている。

 ウーレンフートからは先ぶれも来ていないから、急に明日に到着はない。

”エイダ。アルから聞いているだろうけど、明日は俺たちに付き合ってくれ、プログラムの解析とログの確認を頼む”

 エイダからは了承の返事がある。アルバンが、エイダに状況を説明している最中だ。

 ダンジョンの位置を地図上に表示している。
 正しい位置は、現地に到着してから微調整する必要はあるが、方向さえわかっていれば、あとはエイダが探せるだろう。

 俺も、サーチを使えば探し出せるだろう。
 慢心は禁物だが、今回に関していえば問題はないだろう。

 翌朝というか、闇夜が少しだけ明るくなりかけた時間に、シャープに起こされた。

「旦那様」

「ん?あぁそんな時間か?まだ、朝にもなっていないよな?」

「はい。アルバン様がすでに準備を完了されています」

「ふぅ・・・。わかった。シャープ。悪いけど、何か暖かい飲み物を頼む」

「かしこまりました。アルバン様の分も用意いたしますか?」

「そうだな。軽く食べられる物も頼む」

「はい」

 ベッドから起き上がって、身支度をして、会議を行う部屋に移動すると、アルバンとエイダが待っていた。

「兄ちゃん。おはよう!」

「アル。まだ、朝じゃなくて、夜だぞ?」

「えぇもう明るくなってきたから、朝だよ!それに、兄ちゃんも起きたから、行こう!」

「わかった。わかった。シャープが朝食を持ってきてくれるから、食べたら行こう」

「・・・。わかった」

「アル。食事は大事だぞ。それに、朝になっていないと、森の中は暗くて危険だぞ?」

「うぅぅ・・・。わかった」

 アルバンの説得には成功したようだ。
 エイダも心なしかほっとした表情をしている。もしかしたら、寝ていないのか?

 遠足前の小学生のように、今日が楽しみで寝られなかったのかもしれない。エイダは寝なくても大丈夫だけど、付き合わされるのは、辛かったのだろう。食事の最中くらいはリフレッシュをさせてあげたい。具体的に何ができるのか解らないけど、アルバンからエイダを引き放つ理由にはなるだろう。

「アル。エイダをメンテナンスする」

「え?あっうん。そうだよね。ダンジョンに入るから、いつものエイダとは、魔法を変えないと危ないね」

「あぁ」

 エイダはパラメータ処理を複雑にしても、プログラムでプログラムを起動するので、混乱して起動が遅くはならない。人とプログラムで比べるときの優位点だ。あと、パラメータを間違えないので、指示をショートカットのように設置ができる。

 普段の御者台に座っている時よりも攻撃性が強いショートカットに編成を変えておく、防御の数を減らす代わりに、回復系のプログラムをショートカットに加える。そのあとで、情報整理のために、リスタートを行う。
 ショートカットの確認を行う。省略できるパラメートのデフォルト値を攻撃よりに設定を変更する。

「エイダ!」

『マイマスター。設定の確認を行います』

「始めてくれ」

 初期値やショートカットやプログラムに矛盾がないか自動チェックを行う。
 バグだしではなく、明らかに実行が不可能な設定を見つけ出すことができる。

 エイダの自動チェックが始まったと同時くらいに、シャープが朝食を持ってきた。

「兄ちゃん?」

「ん?」

「エイダは何を?」

「簡単にいうと、人で考えると・・・。そうだな、寝ている状態と思えばいい」

「え?寝るの?」

「寝る必要はないけど、エイダの中に貯めこまれている情報は、そのままにしておくと古い物から消されてしまう」

「へぇ・・・」

「それで、データの整理をしなければならない。人も同じで、寝るときに記憶が定着する。らしい」

「そうなの?」

「あぁ」

「ふぅーん。それで、エイダは、寝ることで、記憶を整理しているの?」

「そうだな。エイダの場合には、全部の記憶を、コピーしていると思ったほうがいいかな」

「へぇ・・・。どのくらいは、覚えていられるの?」

「そうだな。平常時だと、4-50日は平気だけど、戦闘とか人が多い場所・・・。王都とかだと、30日が限界かな?まぁ10日に一度、寝れば十分だと覚えておけばいい」

「わかった!安全を見るなら、7日に一度、おいらと一緒に寝ればいいよね?」

「そうだな。安全の確保が最優先だから、多少のオーバーなら大丈夫だからな」

「わかった!」

 アルバンが納得したのなら、これ以上の説明は混乱を招くだけだな。
 シャープを見ると、シャープも頷いているから大丈夫だろう。

 食事が終わって、飲み物のお代わりを飲んでいたら、エイダの処理が自動チェックとバックアップが終了した。

「さて、アル。行くか!」

「うん!行こう!ダンジョン。ダンジョン。ダンジョン!」

 なぜか、テンションが爆上がりのアルバンの頭を撫でてから、エイダをアルバンに渡す。
 武器と荷物の確認をして、村から見えない場所をつたって、村の外に出る。

 今日も、俺とアルバンは宿の中に居てもらう。
 そのために、クォートとシャープが残ることになっている。だから出もないが、俺とアルバンが宿の中に居るのだから、馬車も動かさない。俺たちは、徒歩でダンジョンに向かった。

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