【第五章 共和国】第三話 野営と
「マナベ様」
「カルラ。これからは、”旦那様”と呼んでくれ、共和国では、ライムバッハ家は名乗らない。商家の人間だと振る舞う。マナベ商会の旦那として活動する。お前は、商会の人間として振る舞ってくれ」
「・・・。かしこまりました。旦那様」
共和国に入る前に、確認しなければならないこともあるし、さっさと襲撃者の情報を共有しておくか・・・。
「襲撃者は?」
「尋問をしましたが・・・」
「どうした?」
カルラが、拷問(尋問)して聞き出した情報は、俺たちが考えた想定とは大きく食い違っていた。
「それじゃ、襲撃者たちは、公爵領の村々から逃げ出してきた者たちなのか?」
「はい」
「どこの公爵か聞かないけど・・・」
「旦那様の想像している公爵で間違いないです」
「はぁ・・・。それで?なんで、その公爵とは敵対している領で”賊”なんてやっている」
「それが・・・」
頭が痛くなった。
最初は、公爵領や公爵に関係する貴族だと思われていた者たちを襲っていたのだが、規模が大きくなり、公爵や公爵に関係するものだけでは、逃げ出した者たちを養えなくなった。その時点で、”賊”を解散して各地に散らばればよかったのだが、”賊”で楽に稼げると考えた一部の者たちが、暴走して、一緒に逃げ出した者たちを襲った。
襲って逃げ出してきた者たちが、俺たちを襲った一部だ。
「奴らが根城にしているのは?」
「街道から少しだけ離れた場所にある洞窟のようです」
「どうしたらいいと思う?」
「殲滅は簡単だとは思いますが、旦那様が行う必要はないと考えます」
「そうか?」
「はい。目立ちますし・・・」
「そうだな。クォート!」
「はっ」
「カルラと二人で、近くの町まで、そこで唸っている奴らを連れて行ってくれ」
「かしこまりました」
「カルラ。クリスの手の者が居るのだろう?引き渡せばいいよな?」
「・・・。はい。しかし・・・」
「なんだ?」
「いえ、旦那様のご指示に従います」
「悪いな。クリスとユリウスには、俺のわがままだと伝えてくれ」
「はい。かしこまりました」
カルラが、クォートを連れて、尋問していた者たちを放置している場所に移動した。
これで、後ろから来ている者たちに、野盗たちの討伐を頼むことができる。放置は愚策だ。クリスとユリウスなら、公爵領から来ている奴らを利用するか、何らかの妥協点を見つけてくれるだろう。
「エイダ!」
馬車に残っているエイダを呼び出す。エイダを呼んだはずなのに、アルバンも一緒に着いてきた。正確に言うと、アルバンがエイダを抱えて走ってきた。
「兄ちゃん!」
「アル。今は、エイダに話しをしておきたい」
「うん!」
どうやら、アルバンはエイダと一心同体のつもりのようだ。離すつもりがない。
「はぁ・・・。まぁいいか、エイダ。カルラたちが、賊を引き渡しに行った。多分、半日か1日くらいで戻ってくるとは思うけど、その間はこの場所で野営をする」
『かしこまりました』
「その間に、結界の維持してほしい。処理が追い付かなければ、パスカルに繋いで、ダンジョンに処理の一部を委託してくれ」
『わかりました。結界は、どのような物にしますか?』
「認識阻害は必要ない。物理と魔法攻撃の排除。それから、俺たちと、カルラとクォート以外の排除で頼む」
『認証の処理を、パスカルに任せます』
「わかった。接続の許可を出しておく」
『ありがとうございます。範囲は?』
「そうだな。処理の負担にならない程度で、馬車を覆うくらいで大丈夫だ」
『かしこまりました』
「アル。エイダと一緒に馬車に戻っていてくれ、俺も辺りを見回ったら一眠りする」
「わかった!」
結界の範囲を決めたが、周りに何があるのかは把握しておきたい。
シャープを連れて、100メートル程度の距離を探索した。魔法で探索して、気になった物があれば、確認をした。2時間くらいで辺りの探索が終わった。
「シャープ。俺は、休ませてもらう」
「かしこまりました」
「シャープも適当なタイミングで休んでくれ」
「はい」
ヒューマノイドなので、睡眠は必要ない。夜目も利くので、見張りとしては最高なのだが、メイド姿の女性が一人で見張りをしているのはシュールに見えてしまう。それなら、誰も見張りが居ない状況の方が見栄えがいい。理由は、それだけではないが、シャープにも早々に引っ込んでもらう。どうせ、異常な物が近づいたら、ユニコーンとバイコーンの警戒網に引っかかるし、賊を倒した手際から、二頭で見張りをしていれば、この辺りで確認されている魔物や獣なら対応は可能だ。結界もあるし、安心して寝られる。
惰眠を貪るように寝てしまった。
「旦那様」
「ん?シャープか?」
「はい。朝のご用意ができています」
「あぁありがとう」
馬車から降りると、そこに・・・。
「なぁアル。俺の目がおかしいのか?」
「兄ちゃん。おいらは、きっと幻覚のスキルを使われたと・・・」
エイダとシャープは、何事もないように振る舞っているが、明らかに異物が馬車の横に積み上がっている。
「なぁアル。俺たちが見ているのは、幻なのか?」
「兄ちゃん。諦めて確認しよう」
そうだな。現実逃避をしていても意味がない。
「シャープ!」
「はい。旦那様」
「馬車の横に積み上がっている、魔物や獣はなんだ?襲ってきたのか?」
「いえ・・・。ユニコーンとバイコーンが競って・・・」
よく見ると、魔物や獣には、何かで刺したような後がある。魔法を使わずに、身体能力だけで倒してきたのか?
「二頭は、”なんで”こんなことをしたのだ?」
「はい。旦那様がお休みになっているときに、狼の遠吠えが聞こえて、旦那様の睡眠を邪魔されると考えて、討伐しました」
「ん?狼?それだけではないよな?」
「すでに、解体処理を行って保管庫に入れてあります。肉は、食用になりませんでしたので、焼却処分にしました」
「そうか・・・。狼以外の物は?」
「狼を討伐したことで、血の匂いに誘われて、やってきた魔物たちです。その魔物たちに追われるように、猪や鹿なども現れました」
よくわからないが、ユニコーンとバイコーンが、俺たちのために討伐してきたようだ。
結果はともかく、指示されないことでも、俺たちのことを考えて行動を開始したのは嬉しい。
「シャープ。エイダ」
「はい」『はい』
「これから、野営するときに、二頭には結界を攻撃されたときにだけ反撃するようにさせてくれ」
「かしこまりました」『わかりました』
今後の対応は、クォートが帰ってきてから考えればいい。
「アル」
「えぇ・・・。解体するの?」
「そうだな。どうせ、カルラとクォートが帰ってくるまで暇だからな。食料も手に入るし、交易品も手に入るし、丁度いいだろう?」
「わかった」
俺とアルバンで魔物を解体して、シャープに食肉の加工を頼んだ。
川遊びなどの休憩を挟みながら、山と積まれていた、魔物と獣を解体していった。
夕方になって、日が傾き始めた時間になって、カルラとクォートが戻ってきた。
二人は、それほど疲労はしていなかったが、俺とアルバンの疲労がマックスな状態だった。
ここで夜を明かして、翌日に報告を聞きながら、国境を目指すことに決まった。
その前に、カルラとクォートには、昨晩のユニコーンとバイコーンの活躍をシャープから説明させた。次からの対応を説明して、皆が納得した所で、俺とアルバンは先に休むことになった。
「旦那様。朝のご用意ができています」
「ありがとう。荷物の整理は終わった?」
魔物の素材や加工した食肉は、クォートとシャープで整理してもらった。数が多いこともあり、売るものでも小出しにしたほうが良いだろうとカルラが判断した。そこで、箱詰めして、馬車内に置いておくものと、隠しておくものに分けることに決まった。
仕分けを、行ってもらっていた。
「終了しております。隠しておくものは、馬車の格納ボックスに入れてあります」
「わかった」
「旦那様」
馬車から降りると、カルラが俺の所に来て跪く。
「報告は、出発してからでいいよな?」
「はい。緊急の事案はありません」
「ありがとう。食事して、身綺麗にしたら出発しよう」
皆(アルバンを除く)の返事が綺麗に揃う。ユニコーンとバイコーンの鳴き声までも揃っているのは出来すぎだと思う。
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