【第一章 王都散策】第三話 おっさん偽る

 

 ロッセルは侍女が帰ってくる前に部屋を出た。
 おっさんと女子高校生に”この部屋は自由に使ってください”と言っている。部屋の説明を簡単にした後で、左右にも部屋があり。おっさんと女子高校生の部屋に使って欲しいと告げてから出ていった。

「さて」

 おっさんは、女子高校生の横から正面に移動した。

「俺のことは、まーさんと呼んで欲しい。他にも呼ばれていたが、まーさんが一番しっくりくる」

「わかりました。私は、糸野いとの夕花ゆうかと言います。17歳の高校生です」

「へぇそれが制服だとすると、町田にある駅名にもなっている高校?」

「・・・。そうです」

「なんで、神保町に居たのかは聞かないけど・・・。彼らは同級生?」

「はい。同級生です。私は、今月末で学校を辞めるので・・・。もうすぐ、元同級生になります」

「なにか事情が合ったのだろうけど聞かないよ。聞いても、何も出来ないからね。愚痴なら時間がある時にゆっくりと聞かせてくれ」

「あっ・・・。はい。ありがとうございます」

 おっさんの言葉は冷たいように聞こえるが、興味本位で聞かれるよりは嬉しかった。おっさんの”不器用な優しさ”だと感じだ。

「それで、糸野いとのさんの考えは?」

「え?あっ!ダメな召喚だと思います」

「そうだよな。あと、この国に逗まるのがいいのかだけど・・・。出ていきたいという雰囲気だな」

 おっさんは、糸野いとの夕花ゆうかを見て勇者たちとなにか有るのだろうと推測する。

「はい。違う国に移動して糸野いとの夕花ゆうかの名前も捨てたいと思っています」

「そうか・・・」

 おっさんはいろいろ考えてしまった。17歳の女の子が名前を捨てたいと言った。その事実だけで気持ちが落ち込んでしまった。

「あっ違います。両親も弟も妹もみんな・・・。好きでした。死んでしまったときには私も連れて行ってくれなかったことを恨みましたけど、今はそんなことはありません。だから、だから、大丈夫です」

 糸野いとの夕花ゆうかは必死に弁明する。
 おっさんが落ち込んでしまったのが自分の言い方がきつかったのではないかと思ったのだ。少ない友達だった娘たちにも”話し方がきつい”と言われたことがあった。

「あぁ悪い。勘違いさせた。俺の昔と重ねてしまっただけだ」

「まーさんの昔?」

「昔、昔、あるところに神童と呼ばれた子供が居て」「あっいいです。今度、機会があって、気分がよかったら、ゆっくり聞かせてもらいます」

「そうか?それじゃ中学に入った辺りからの話でいいか?」

「え?」

「だって、糸野いとのさんは、”いいです”と言ったよな?」

「え?はい?」

「悪い大人は、”いいです”というと、肯定したと受け取るからな。俺は、悪い大人じゃないけどな」

「え・・・。えぇぇぇぇぇ」

「おっ召喚されたときよりも驚いているな!」

「だって、だって・・・。え?悪い大人?え?」

「俺を見るな。悪い大人に・・・。見え無いだろう?俺は、悪い大人の代表じゃないから安心しろ。犯罪歴はないからな」

「え?だって・・・。どうもみても・・・」

「どう見ても?」

 丸メガネを少しだけずらして、正面に座る少女を見る。
 だれがどう見ても、○ク○だ。日本の喫茶店でやっていたら、通報されるレベルだ。

「”や”のつく職業の方だと思っていました」

「はぁ?どうみても”カタギ”だろう?」

「普通の人は、”カタギ”なんて言葉は使わないと思います。だから、彼らも最初はまーさんを怖がって指示に従っていたのだと思います」

「そうか?格好が悪いのか?年齢が悪いのか?」

「あっ!まーさん。若返っていません?」

「ん?そうか?」

 おっさんの格好は、神保町辺りを歩いている人には見えない格好をしていた。東京というよそ者ばかりが増える街でも異様な雰囲気を持っていた。顔見知りになった警官なら問題ないが新人やヘルプで来ている警官は必ず”職質”を行うであろう格好をしている。

 足元は雪駄を履いている。水虫というわけではないが楽だからという理由だけで雪駄を選んでいる。上は、作務衣を着用している。膝下くらいまであるダボッとしたズボンを履いて居る。色は、黒にも見える濃紺だ。体型はすらっとしている。作務衣の下には黒のシャツを着ている。腕時計はしていない。その代わり、プラチナとゴールドが捩るようになっているブレスレットをしている。女物だがおっさんにとっては命よりも大事な物だと言ってもいい。
 指輪はしていないが、左耳だけにルビーが入ったピアスをしている。顔には傷はないのだが、髪の毛は短く刈り上げていて全体が白くなっている。無精髭をはやしている状態が職業不詳に拍車をかけている。そして、右足と右手に、大きなキズがあり。それが切られた傷のようにも見える。隠れて見えないが、背中にも刺されたような傷がある。
 顔は整っている方だと言われるが、奥二重の目が”素人”ではないと思わせるようだ。知り合いから”目に優しいから作ったら”と言われたブルーカットの一番色を濃くした”丸メガネ”をしている。視力は良いので伊達メガネなので余計に(以下略)。

「え・・・。あっそうですね」

「まぁいい。どうせ、こっちの服に着替えるからな」

「え?」

「目立つだろう?それに、勇者(笑)たちはどうせ派手な格好をしたり、制服のまま式典に出たり、ブーなんとかいう豚と似たような格好を好むだろう?制服姿だと同列に扱われる可能性があるぞ?面倒な未来しか想像出来ないぞ」

「そうですね。彼らなら派手にしたがるでしょう」

「そうだろうな。それで、今後の方針だけど、糸野いとのさんはどうする?冒険者になるとか、貴族の養子になって権力を握るとか、定番はあるだろう?」

「まーさんは?」

「俺か?そうだな。まずは情報収集だな。戻れないようだから、大川大地とスローライフを目指してみるかな」

 懐に居る大川大地が小さく鳴き声を上げる。人の言葉が解っているようだ。

「情報?ロッセルさんに聞いたよね?」

「そうだな。権力中枢に近い人間の話は聞ける。それに、一番小さい派閥の人間というのも都合がいい。でも、それでも権力に近いところに居る人間だ。そんな人間から得る情報だけを信じて行動に移すのは怖い」

「へぇ・・・」

「どうした?」

「いや、○○ザでもしっかり考えるのですね」

「だから、俺はカタギだ。それに、最近では○ク○の方がインテリだぞ?普通に六大学を卒業したり、大学院に行ったり、大企業に就職した歴を持っているからな」

「え?そうなの?」

「当然だろう?まぁその話は置いておいて、糸野いとのさんはどうする?」

 横道にそれそうになる話をもとに戻しておっさんは質問を繰り返した。

「うーん。奴らと一緒に居るのは嫌なので、城は出たいと思います。それからは、まーさんが言う通り情報を聞いてからですね。私にできることを探さないと・・・」

 糸野いとの夕花ゆうかは消えそうな声で宣言した。

「方針はわかった。知識のすり合わせだけど、糸野いとのさんは”隠蔽”を持っている?」

「はい。まーさんは、”偽装”ですか?」

「大人の嗜みだ」

「え?」

「いや、忘れてくれ」

 少しだけ照れながらおっさんは顔をそむける。耳が赤くなっているのを見て糸野いとの夕花ゆうかは好ましい人だと考えるようになる。

「それで?」

「そうだな。偽装だ。なぜわかる?」

「名前が、”まーさん”になっているし、ジョブが”遊び人”って完全に馬鹿にしていますよね?他にも、なんですか・・・そのスキルは?馬鹿にしていますよね?それを見てツッコミをいれない方がおかしいですよ。それに服?の中に隠れている子にも偽装が使えるのですね」

「ほぉ・・・」

 おっさんは、糸野いとの夕花ゆうかの観察力を評価した。
 勇者(笑)の連中のように観察していない奴らよりも人材になりえると判断した。

「まーさん。私の名前とかステータスとか偽装できますか?」

「そうだね。ちょっとまってね」

 おっさんは、偽装を実行しようと大川大地のスキルをいじったときのようには出来なかった。鑑定ができるから可能というわけではないようだ。

「出来ませんか?」

「大川大地に出来たからできると思うけどな?」

「触っていないとダメとか?」

 糸野いとの夕花ゆうかが手を差し出す。
 おっさんは少しだけためらったが、糸野いとの夕花ゆうかの手を握った。柔らかいが傷がついている手を握ってから大川大地に行ったのと同じことを実行した。

「できそうだな。どうする?隠蔽の上からでもできそうだぞ?」

「そうですね・・・」

 おっさんは、糸野いとの夕花ゆうかの希望通りに偽装を行った。途中で、文字の指示が出来たので、握手している手を変更したがそれ以外は問題なく偽装出来た。糸野いとの夕花ゆうかは満足そうに自分の確認を行っている。よほど嬉しかったのだろう。

「こんなところかな。彼らを呼ぶぞ?」

「はい?」

「扉の外に居るから、中に入ってもらうだけだけどな」

 糸野いとの夕花ゆうかは、まーさんの言葉を聞いて、扉を睨むように見るが、気配がするわけではない。
 まーさんが、扉の前に居ると言った理由をしりたいとおもったのだ。

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