【第五章 スライムとダンジョン】第二話 スライムと団体

 

 今日は、学校を休んだ。学校には毎日は通う必要はないのだが、休むと真子が哀しそうな表情で家を訪ねて来る。ギルドだけだけど社会に関わるようになってから授業も面白く感じている。なので真面目に通っている。

 今日の休みは、しっかりと真子にも話をしてあるので安心だ。

 以前からお願いしていた、裏山の取得が終了したと連絡を受けた。申請が通ったようだ。
 行政的な手続きは、ギルドにいる私が担当した。円香さんや茜さんや孔明さんに教えられながらだけど、手続きを行った。次からは、私だけで出来るようになれる(と、思う)。

 裏山は法律的には私たちが所有する場所となったのだが、ライが言うには、私が場所を認識していないから、範囲として私たちの領域として認識ができていない(らしい)。
 よくわからないが、学校に行っている私と、ギルドで仕事を行っている私と、家にいる私の、ある程度の私になって確認をしなければ領域として認識がされない。由比にある家に戻ってから、前のように本体となるスライムを家に残して、新しい家族と領地の確認に向かう。

 土地の権利書に従って、山を確認する。

 国有地になっていた場所も購入してくれたようだ。
 資金は潤沢にある。最初は、入ってくるお金を喜んでいたのだが、段々怖くなって、10億をこえた辺りから確認をしていない。兆までは増えていないらしい。茜さんが教えてくれた。銀行の偉い人が面会を申し込んできたが面倒なので断っている。あまりに何度も行ってくるようなら、メインバンクを変えると伝えたら、連絡は来なくなった。私の家には、辿り着けないようで、ギルド経由で面会を申し込んでくるから厄介だ。他にも、慈善団体を隠れ蓑にしている者たちや、宗教家を名乗るクズや、国の出先機関まで訪ねて来る。
 あまりに多くなったので、円香さんに対応を聞いたら、慈善団体を作って・・・。円香さんは、”偽善団体”と言っていたけど、あながち間違っていない。
 慈善団体を作って、活動を行えばいいと教えてもらった。
 とりあえず作ったのが、裏山を入手する時にも使った団体である。自然動物を保護する慈善団体だ。

 お金を出しているのは私だけど、代表は違う人にやってもらっている。ギルドのメンバーにもお金を出しているのは隠している。
 円香さんと蒼さんの提案で、自然動物を保護する団体は、プロパガンダとして”反ギルド”を謳っている。魔物も自然動物と位置づけて、保護の対象だと宣伝することにした。私の事が世間に知られた時に、ギルドではなく団体が逃げ場所になるようにするためだ。
 あり余るお金を使って、古くから活動している宗教法人を購入した。いきなり代表の入れ替えは出来ないので、徐々に入れ替えを行っている。宗教法人は、昔から日本に存在している”妖怪”と魔物を結びつけて”神の使い”だとして崇めることを教義とした。

 簡単に言えば、”三竦み”の状態を作り出した。

 私から資金が出ているのを知っているのは、ギルドでも私がスライムだと知っている人たちだけだ。二つの団体のトップと一部の理事だけが知っている状況だ。

 ばくだいな資金を使って、マスコミを支配する。
 マスコミだけでは、均衡が保てないと思い慈善団体を作った。そして宗教法人を入手した。ギルドの正義と、慈善団体の正義と、宗教法人の正義が、相反するような状況を作り出した。
 これによって、政治業者やマスコミのたかり先を見つけやすいようにした。

 徐々に””がマスコミにも回り始めている(らしい)。円香さんが教えてくれた。

 慈善団体と宗教法人とギルドのおかげで生活を脅かす影は少なくなっている。

 ギルドや私たちを監視する目も減っている。

 家族たちが警戒していた展開にはならなかった。
 ライが、アニメやマンガから得た知識を家族たちで共有する事で、余計な知識を得た。そして家族の思考がおかしな方向に進んでいた。家族の思惑とは違ったかたちでの着地ができたのが大きな成果だと言える。

 いろいろな状況が別々の方向に動いているようで、全部が動きやすいように、調整されている。
 ワイズマンに提供した情報にギルドの収入以上の価値を感じてくれている。時々、本当にワイズマンという人物がいるのかと錯覚してしまうのだが、AIだと教えられている。疑問に思う事はあるが、気にしてもしょうがない。

『主様』

 そうだ。
 今は、新しく購入した裏山の確認をしている最中だった。

 そして、新しく家族になった者たちのお披露目を兼ねている。

 静岡に居ないと思われていた熊を家族に迎えた。
 私の事を、”主様”と呼んでくれている。

 今、熊と言えば、”プー”と考えたが、さすがに問題がありそうだったので、ディックと呼んでいる。

『ディック。範囲は認識できた?』

『はい!ありがとうございます』

『堅いよ。家族だよ?言葉遣いは気にしなくていいよ』

『いえ、そういうわけにはいきません。私たちは、主様に皆さまに救われたのです』

 ディックとの出会いは、よくある話だ。ディックの家族が、魔物と戦っていた。
 既に、ディックの旦那が魔物に殺された所で、カーディナルたちが駆けつけた。ライが、ディックの旦那さんを取り込んだ。その因子を、ディックとディックの子供に与えた。そしてディックと子供たちは魔物に進化した。ディックは私の眷属家族になった。ディックの子供は、ディックの家族のままだ眷属になった。ディックが名前を考えて、与える事に決めた。

 因子となった熊の遺骸は、ディックの中で生きている。
 その感覚はわからないが、ディックが納得しているのなら、それ以上は何もきかない。

『気にしなくていいよ。それよりも・・・』

 ディックには、他の家族とは違う特徴がある。ディック以外の家族は、魔物になっても姿は大きく変わらなかった。動物としての姿は残されている。ディックも”熊”である姿は変わらないが、変異で済まされる状況を逸脱した変化がある。

 ディックの額には、第三の目と言うべき眼が開いた。それだけではなく、見えないインビジブルアームというべきなのか・・・。見えない腕が生えた4本の腕を持つ”熊”は自然界には居ないと思う。額の眼が、動かなければ、そういう種族だと言い切れる可能性もあるのだが、眼が動く。眼球が動くのではない。眼が移動する。ディックの死角をなくすように眼が動くのだ。死角を完全に無くすのは無理だが、頭上からの攻撃を前面に攻撃をしている最中に、インビジブルアームで防ぐ。戦闘力だけなら、家族の中で一番だと言ってもいいだろう。経験やスキルの違いで、カーディナルやアドニスなどの古参の家族には勝てないが、単純な攻撃力ではトップだと思う。移動力も、熊が持つ本来の速度にスキルを重ねている。

『はい。ライ様からいただいた旦那因子は、私の中で生きています』

 ディックに乗って新しい領域を確認している。
 不思議なことに結界で覆うだけでは、私の領域とならない。

 範囲を認識しなければならない。認識することで、魔物の発生が抑えられる。完全になくなることはないのだが、それでも魔物が少なければ、魔物同士で戦う頻度が抑えられる。
 魔物同士は、戦わせないほうがよい。魔物同士が戦う事で、勝ったほうが進化することがある。進化した魔物が増えれば、脅威となる。主を持たない魔物はテリトリーを持つ。テリトリーが被れば戦いになる。戦えば、どちらかが進化する。

 家族たちが見回って、魔物を駆逐している理由だ。
 そして、テリトリーを広げた理由でもある。なぜか不明なのだが、自らが出向いて認識しなければ、テリトリーにならない。人としての枠組みが決まっただけではテリトリーにならない。

『主様?』

『どうした?』

『あそこから・・・』

『洞窟?防空壕?魔物か?』

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