【第三十章 新種】第三百九話

 

新種の話は一旦、棚上げすることにした。新種は気になるが、すぐに動くことができない。情報も不足している。今、動いても無駄になってしまう可能性が高い。
それ以上にやらなければならないことも残っている。

ルートガーからの報告は、大きな問題はなさそうだ。
ドワーフたちが思っていた以上に理性的だったのは、予想とは違ったが、いい誤算だ。

ドワーフたちは、求めていた鉱石を、デ・ゼーウから譲り受ける事で合意した。
必要な分量を確保することを、デ・ゼーウが約束したからだ。

デ・ゼーウは、ダンジョンを公開すると約束して、攻略を行っていた者たちを納得させた。
鉱石以外の資源に関しては、今後の話し合いになるが、鉱石資源に関しては、デ・ゼーウが引き取ることになる。チアル大陸でおこなわれている方法を採用する形にしたようだ。
ダンジョンは、デ・ゼーウが所有するが、近隣の街からのアタックも受け入れる。
税に関してはこれからの話し合いだと言っているのだが、ゼーウ街だけの優遇はしないと言っている。
もともと、自分たちでは攻略ができなかったと、デ・ゼーウが宣言をおこなった事で、中央大陸のごく一部の街では、ダンジョンを共有財産として取り扱うことに決まった。

今後も続くとは思えないが、最初の一歩としては十分だろう。
チアル大陸の様にまとまるのか、それとも元の状態になってしまうのか解らない。

各街の思惑はあるだろうが、有限な資源が、資源の元となるダンジョンを手中にしたことで、緊張状態は緩和されていくだろう。

「おい」

部屋から出ていたルートガーが戻ってきた。
帰り支度をしているのかと思ったら違うようだ。

「ん?」

「デ・ゼーウがお前と話がしたいと言ってきた」

「うーん。面倒だけど・・・。断れないのだろう?」

「そうだな。今回の事も含めて、今後の話をして欲しい」

「ルートが決めてくれていいと思うぞ?」

「ダメだ。お前が”主”だ」

「あぁ・・・。ようするに、チアル大陸との取引ってことか?」

「そうだ」

「わかった。わかった。時間を区切ってくれ」

「わかった」

ルートガーが部屋から出ていく。
今後の取引も、チアル大陸として欲しい素材は存在しない。

正確には、ダンジョンを資源と考えた状態では、俺たちが欲しいと思う素材は存在しない。
ダゾレから採取できる物や討伐ができる魔物は、チアル大陸のダンジョンでも同じ状況に持っていける。

ドアがノックされる。
早かったな。宿屋まで、デ・ゼーウが来ていたのか?

「いいよ」

「ツクモ様。お久しぶりです」

「そんなにかしこまらなくていい。それで?報酬は、ルートガーが説明した以上は必要ない」

「わかっております。今後の話をしたいと思います」

「今後?」

解っていた話だけど、デ・ゼーウの口から説明させないとダメだろう。
ルートガーも壁際に移動して、話を聞く体勢になっている。

俺の横に座れと目線で指示したが、気が付かないフリをしやがった。
絶対に解っていながら無視している。

「はい。チアル大陸との関係です。ダンジョンの攻略は、ツクモ様の功績です」

「それで?報酬を貰ったのだから、依頼を完遂しただけだ」

「わかっています。なので、今後、デ・ゼーウと近隣の街は、チアル大陸との取引で負い目を感じないで居られます」

「そうだな。変に意識されるのも困る。今までと同じで・・・。あぁ取り扱う商品か?」

「はい。端的に言えば・・・。今まで、チアル大陸から、素材を輸入して、加工していましたが・・・」

「気にしなくていい」

「え?」

「買う量が減るのか、なくなるのか、それは解らない。商人たちが考えればいいだけだ」

「え?」

ルートガーも驚いている。
商人を規制するつもりも、優遇するつもりもない。自由経済だ。それが嫌なら、ルートガーがトップに立つしか是正する方法はない。

富める商人がチアル大陸を害する行動をした時に潰せばいい。
俺は、俺たちは、ルールを守るのではなく、ルールを作り変えることができる。それが、大きなアドバンテージになっている。エルフ大陸にも楔を打ち込んでいる。中央大陸の一部だが、楔を打ち込むのに成功している。
この上、経済の規制を行うのは間違っていると考えている。

「チアル大陸から素材を買わなくなるのなら、商人たちは、開いた荷台に何かを詰めるだろう?」

「・・・。はい」

俺が何を言いたいのか解ったのだろう。
加工品でもチアル大陸の方が、一歩も二歩も進んでいる。チアル大陸の隅々まで加工品が行きわたっていない現状だから、商人は危ない橋を渡って中央大陸に持ってこようとは思わない。リターンよりもリスクの方が大きいと判断をしている。
それは、中央大陸で求められるのが、資源であり、加工品ではないからだ。

これが、資源は必要ないと中央大陸が言い出したら、商人は開いた荷台に高く売れる加工品を詰め込むだろう。

「それが、違う素材なのか、もしかしたらチアル大陸で加工された物なのか、俺には解らない。しかし、チアル大陸は、チアル大陸で回せるだけの余力がある」

チアル大陸にしかない素材も多く存在している。

それに、チアル大陸は、いまだに人口が増えている。
素材を加工する場所だけではなく、加工品も充足しているとは思えない。

「わかりました。チアル大陸では、税をかけないのですか?」

「俺の統治下では、間税はかけない」

「え?」

「ルート。今まで、税をかけたか?」

「いえ、禁忌な物のチェックは行っていますが、チアル大陸内と同じ扱いにしています」

「デ・ゼーウ。ルートガーの説明通りだ。中央大陸に持ち出しても、戦略品でない限りは、禁止しない」

「戦略品?」

「ルート。戦略品に指定した物は?」

「娯楽品とツクモ様が開発した武装だ」

「・・・。いいのか?」

「ん?何が?」

「希少金属をデ・ゼーウが輸入して、ドワーフに武器を作らせることができてしまうぞ?」

「構わない。その希少金属が、チアル大陸の戦略品でなければ、問題はない」

「ドワーフたちが武器を作っても?」

「チアル大陸にもドワーフは居る。鉱石を扱える獣人族も数多く存在する。チアル大陸を越える物が簡単に作れると思うのなら試してみるといい」

「くっ」

「カズト!」

「なんだ?ルートガー。お前には許可を出していない」

「解っている。しかし・・・」

「しかし?なんだ?何か言いたいのか?そんな壁際で?その権利があると思っているのか?」

ルートガーが俺を睨んでくるが、土俵に上がらなければ、会話に加わる権利はない。
解っていながら壁際を選んだのは、ルートガーだ。悔しかったら、土俵に上がるしかない。

ルートガーを睨み返せば、挑発に乗ってくるかと思ったのだが・・・。

「ツクモ様。ルートガー殿。ゼーウ街としての覚悟が足りませんでした。申し訳ない」

デ・ゼーウの方が、ルートガーよりも大人だった。

「それで?どうする?ゼーウ街が間税をかけるのなら、商人は他の街に流れるだけだぞ?」

「はい。ゼーウ街は、商人には自由に商売をしてもらいます。ダンジョン産の・・・。ダゾレ・ダンジョンから出た物は、持ち出し禁止にします」

まぁ妥当な所だろう。
他の街がどう判断するのか解らないが、ゼーウ街以外で、持ち出しを禁止しなかったら、職人はゼーウ街に集まるだろう。
商人と資材や素材の奪い合う心配がなくなるだけでも、職人にはありがたいだろう。

「それだけでは弱いな」

「そうですね。ゼーウ街の・・・。元スラムを整備して、職人街にします。最初の・・・。チアル大陸からの職人には、2年は税を免除します」

「わかった。ルート。手配を頼めるか」

「わかった。希望者を募る。誰も居なくても文句を言うなよ」

「それは、個々が考える事だ。俺は、強制も強要も好きじゃない」

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